【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第172話 区画整理事業②

「そ、それでは僭越ながら……」

 

 グレッグ区長は反対側のソファに座り、私もアルバンの隣に腰掛ける。

 

「実はですな……お二人に、我が東区の区画整理事業の助力をお願いできないかと考えておりまして……」

 

「区画整理事業……?」

 

「はい。先の反乱において、東区は王都の中で最も被害を受けた地域となりました。そして未だに復興が遅れている有り様です」

 

 ……それは知っている。

 半スラムという実情を持った東区は、特に火災の被害を最も大きく受けた地区だった。

 だから復興作業が遅延しているのも仕方のないこととは思うけれど――

 

「そこで東区全体を大幅に再整備し、人々が安全で快適にすめる町にしていくという案を進めているのところなのですが……」

 

 グレッグ区長はハンカチを取り出し、額の汗を拭う。

 そして「やれやれ」といった風に首を振り、

 

「その区画整理事業が、東区の有権者たち――ああいえ、住民たちから反発を受けてしまっておりましてな……。お二人には事業の広告塔となって、彼らを説得してほしいのです」

 

 やや申し訳なさそうに言った。

 

 ――なるほど、そういうことね。

 区画整理、土地の再開発ともなると、大なり小なり住んでいる住民から反発を受けることは必須。

 

 だからアルバンと私に、それを抑え込んでほしい、と。

〝救国の英雄〟の言うことなら、住民たちも聞いてくれるという算段なのでしょう。

 

 もっと穿った見方をするなら、その区画整理事業を成功させて国王や高位貴族たちに取り入りたい……そんなところかしら。

 

 それ自体は、別になんらおかしいことでも悪いことでもない。

 でも……。

 

「勿論、ご協力頂いた分の謝礼は存分にさせて頂きますので、どうか一つ……!」

 

「ふーん……。レティシア、どう思う?」

 

 アルバンは私に尋ねてくる。

 私は口元に手を当て、

 

「……その区画整理事業の内容について、少し詳しくお聞かせ頂けませんこと?」

 

「ええ、まず手始めに――不法滞在者たちのスラムを根こそぎ潰します」

 

「…………は?」

 

「市民権すらない不法滞在者を一掃した次は、地下水道の埋め立てですな。新しい下水を整備するのに、古い水路は邪魔ですから――」

 

「お、お待ちになって!」

 

 慌てて、私は彼の話を遮る。

 

「い、幾らなんでもスラムを潰すだなんて……! それに地下水道にだって子供たちが……!」

 

「ああ、あのコソ泥(・・・)たちのことですかな?」

 

 グレッグ区長は深くため息を吐き、

 

「近頃、余所の区長から苦情が来るようになったのですよ。地下水道に住み着いたあのガキ共が、他区の治安を著しく乱していると。全く、ネズミのように忌々しい奴らだ」

 

 チッと舌打ちする。

 しかしすぐに「おお!」と思い付いたように手を叩き、

 

「そうだ、丁度いい機会です! 地下水道ごと奴らも埋めてしまいましょう! そうすれば工事と駆除が両方できて、一石二鳥ですな! ハッハッハ!」

 

 そんなことを口走る。

 それを聞かされて――私はいよいよ、嫌悪感を隠し切れなくなってくる。

 

「……あの子たちを、孤児院で保護するということはできないのでしょうか?」

 

「孤児院で? いやいや、なにを世迷い事を。孤児院は、有権者たる正当な王都民の子供のためにある場所ですぞ?」

 

「……」

 

「それになにより、子供というのは投資対象としては無価値でしてなぁ。区長をやっていると常々思いますが、子供などというのはお荷物なのです。ましてスリを働いて大人に害を及ぼすなど……奴らには生きる権利すら勿体ない」

 

 もう――もう聞いていられない。

 

 ――考えないのか?

 あの子たちが、どうしてコソ泥になんてなったのか。

 あの子たちが、どんな想いで日々糊口を凌いでいるのか。

 

 そしてなにより――あの憐れな子供たちを守るために、一人の少女が必死に戦い続けていることを。

 

 わかっている。

 私はきっと、セラたちに感情移入し過ぎている。

 本来であれば、貴族である私が不法滞在者である子供たちに肩入れなどしてはならない。

 

 でも――私はかつて、ベルトーリ領で見たのだ。

 貧困に喘ぎ、路頭に迷った子供たちの……その最期を。

 だから――

 

 私は――ギリッと歯軋りを鳴らす。

 そして怒りの言葉が口を衝こうとした――その直前、

 

「レティシア」

 

 ――アルバンが、私の名を呼んだ。

 

「なぁレティシア、このお誘いは〝NO〟ってことでいいか?」

 

「え…………あ…………うん……」

 

「じゃ、決まりだ。アンタの依頼は受けない。わかったらさっさと帰れ」

 

 アルバンは片手をヒラヒラと動かし、グレッグ区長を帰らせようとする。

 

「へ……? い、いや、どうかそんなことを仰らずに……!」

 

「――聞こえなかったのか(・・・・・・・・・)?」

 

 それは、一瞬だった。

 アルバンは素早く立ち上がってテーブルの上に足を乗せ、身を乗り出して一気にグレッグ区長の胸ぐらを掴み上げる。

 

「は――はひぃ……!?」

 

「お前は妻の機嫌を損ねた。そりゃつまり、俺を心底怒らせたのと同義だ」

 

 ――途方もない憤怒と殺意。

 隣にいる私ですらも、ビリビリと全身の毛が逆立つのを感じる。

 

 改めて――(アルバン)の恐ろしさを見せつけられているかのよう。

 

「もう一度だけ言う。さっさと俺たち夫婦の前から失せろ。さもなきゃ……」

 

「ふ、ふひえええぇぇぇッ!? も、ももも申し訳ありませんでしたあああああぁぁぁッッッ!!!」

 

 グレッグ区長は顔を真っ青にし、滝のように脂汗を流す。

 そして脱兎の如く、応接室から逃げ出していった。

 

「……さてと」

 

 グレッグ区長がいなくなった後、アルバンはクルリと私の方へ振り向く。

 

「ちょっとはスッキリしてもらえたかな、我が麗しの妻よ(マイ・フェア・レディ)?」

 




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