【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第175話 憎まれ役を演じよう

 

「ったく……剣に臭いが移ったらどうしてくれんだよ、この魚介類」

 

 ヒュンッ、と剣を振るって青い血を払う。

 ()っせーなーとボヤきながら。

 

 いやマジで、魚介類って嫌いなんだよな。

 生臭いから。

 食いモンはやっぱ肉に限るよ、肉に。

 

 魚なんて、レティシアに「ちゃんと食べて」って言われなきゃ口に入れてもやらん。

 ホント嫌い。

 

 そんなことを思いながら、俺はセラたちに近付いていく。

 

「よ~、クソガキ共。元気そうだな」

 

「ア、アンタは、あの時の……!」

 

「誰も喰われてないか? ひぃ、ふぅ、みぃ……あれ、全部で何人いたっけ?」

 

「――六人よ。セラを含めて、全部で六人」

 

 微妙に呆れた様子で、俺の背後から顔を出す女性。

 我が妻、レティシアだ。

 

 彼女はセラたちを見るや、今度は聖母のように優しい表情を作る。

 

「ちゃんと皆無事みたいね。よかったわ」

 

「「「! 貴族のお姉ちゃん!」」」

 

 レティシアを見た途端、セラ以外の子供たちは我先にと彼女の元に駆け寄っていく。

 レティシアも膝を曲げて腰を落とし、子供たちをぎゅっと抱擁。

 むぅ、我が妻に抱擁されるなんて贅沢な奴らめ。

 

 ――グレッグ区長の演説を聞いた俺たち夫婦は、すぐにセラたちを探し出すべく行動を開始。

 

 すぐに地下水道の出入り口へと向かったのだが……複数ある出入り口は全て居住区から離れた場所にあり、加えて老朽化で一部が崩落していて通行できなくなっているという有様。

 

 オマケに内部に入ったら入ったで迷宮のように入り組んでおり、ここを探し出すのにも一苦労だった。

 

 正直に言って、グレッグ区長がさっさと埋め立てて新しい地下水道を整備しようとした理由もわからんでもない。

 

 おかげでだいぶ時間を食っちまったが――なんか逆にナイスタイミングだったらしい。

 

 俺は真っ二つに両断された半魚人を見て、

 

「……で、この生臭(なまぐさ)は一体なんだ?」

 

 セラたちに尋ねる。

 何故、こんな場所にモンスターがいるのかと。

 

 幾ら老朽化した地下水道の中とはいえ、ここは腐っても王都の中。

 モンスターの居場所などあろうはずもない。

 万々が一にでもモンスターが入り込んだりすれば、すぐに衛兵に駆除される。

 

 勿論、地下水道は王都の外とも繋がってはいるから、そこから入り込んだ可能性はなくもないが――

 

 セラも不可解そうな顔で半魚人を見下ろし、

 

「……わからない。アタシも、こんな化物を見るのは初めてだ」

 

「そうか。ま、いずれにしても丁度いい」

 

 ここが安全じゃないってのは、コイツらもよくわかっただろうからな。

 俺はセラへと視線を流し、

 

「すぐに地下水道を出るぞ。ここはもうすぐ埋め立てられる」

 

「……は?」

 

「グレッグ区長が区画整理事業を進めるんだと。手始めにこの地下水道を潰すって言ってたんだよ。だから、このままじゃ――」

 

「い……嫌だ!」

 

 突然――セラは声を荒げる。

 

「ここがなくなったら……アタシたちにもう居場所なんてない! (ここ)を捨てるなんて嫌だ!」

 

「……ふーん、そんじゃあこの臭くてジメジメした地下水道と心中するのが、お前の望みか?」

 

 あーあ、面倒くせぇな。

 これだからクソガキってのは。

 

 呆れた目でセラを見下ろす俺。

 そんな俺たちを見て、レティシアが腰を上げる。

 

「セラ、お願い聞いて――!」

 

「待ったレティシア。ここは俺に言わせろ」

 

 レティシアが割って入ろうとするのを制止し、俺はセラの前でしゃがみ込む。

 

 (レティシア)は優し過ぎるからな。

 こういう場面では、俺が言わなきゃダメだろう。

 

 憎まれ役である、この俺が。

 この――〝悪役(アルバン・オードラン)〟が。

 

「……おい、いいかクソガキ。よく聞けよ? 俺はぶっちゃけ、お前があんまり好きじゃない。レティシアの手は煩わせるわ、人様の財布を盗もうとするわ、挙句貴重な短剣術を窃盗(スリ)に使う……恥知らずなお前がな」

 

「ッ……」

 

「だが――たった一つだけ、お前を尊敬(・・)している部分もある」

 

「え……?」

 

「仲間のガキ共を世話していたこと――自分が守りたいと思う人のために、剣を振るっていたことだ」

 

 俺は右手に持つ剣を僅かに浮かし、肩の上でポンポンと弄ぶ。

 

「俺の剣は(レティシア)のためにある。(レティシア)を守るために、(レティシア)の幸せのために、俺は剣を振るってる。〝誰かのために〟って点だけは、俺もお前も一緒だ。だから敬意を表する」

 

「誰かの……ために……」

 

「だが――誰かを守る(・・)と決めたなら、お前には義務が生まれる」

 

 セラと目線の高さを合わせ、隻眼で彼女の両目を見つめる。

 本来であれば気高い魂が宿るではずだったであろう、その幼い瞳を。

 

「誰もお前に言ってくれないだろうから、代わりに俺が言ってやる。守ると決めた奴らがいるなら、自分がくたばるその瞬間まで責任を持って守り通せ。そいつらの幸福を最期まで見届けろ。それがお前の義務であり、やらなきゃならんことだ」

 

 俺はスッと立ち上がり、他の子供たちを一瞥する。

 これまでセラを信じて付いてきたであろう、五人の子供たちを。

 

「いいかセラ、お前には駄々をこねる暇なんてないし、その資格もない。お前はアイツらを守ると決めたんだろ?」

 

「……うん」

 

「だったらその責務を果たせ。お前は、それができる奴だろう」

 

 そこまで言って――「はぁ」と俺は深く息を吐いた。

 

 あーあ、面倒くさ……。

 なんか、らしくもないことを言っちまった気がするわ……。

 ――と思って。

 

「……オードラン領に孤児院を建てる。精々、そこを第二の故郷にするんだな」

 

「! 孤児院って……!」

 

 俺の言葉を聞いて、驚いた様子で目を見開くセラ。

 他の子供たちもパチッと顔を見合わせた後、一斉にレティシアの方を見て――

 

「「「ほ……本当なの、貴族のお姉ちゃん……!?」」」

 

「ええ、本当よ。皆で私たちの領地にいらっしゃい」

 

「「「や――やったぁっ!!!」」」

 

 レティシアの答えを聞くや否や、喜んで飛び跳ね回るガキ共。

 

 ったく、コイツらわかってんのかね。

 孤児院建てるのも維持するのも、半端ないお金かかるんだからな?

 マジで感謝してほしい。

 

 いっそ俺には感謝しなくてもいいが、レティシアの優しさには感謝しろ。

 心の底から感謝して、妻を崇め奉れ。

 彼女がいなきゃ、絶対に孤児院なんて建てなかったんだからな。

 本当にレティシア・イズ・女神。

 

 もうマジで、孤児院にレティシアの女神像とか建てちゃおうかな……?

 あ、我ながらナイスアイデア……。

 

 なんて思っていると――

 

「………………父さんも……」

 

 ――ポツリと、セラが口を開く。

 

「あん?」

 

「もし父さんが生きてたら……同じことを、言ったのかな……?」

 

「……さぁな。そりゃ自分で考えろ」

 

 短くそう答え、俺はセラに背を向ける。

 そして「それより――」と話題を変え、

 

「そろそろ移動するぞ。この魚介類が一匹しかいないとは限らん。面倒くさいことになる前に――」

 

 群れで行動するモンスターの種類は数多い。

 モタモタしてたら、コイツの仲間がやって来るかも……なんて思った、まさにその矢先である。

 

『ウぅ~……うゥ~……!』

 

『ウぅウ~!』

 

 ――通路の奥からペタペタと歩いてくる個体。

 ザバッと下水の中から現れる個体。

 

 まるで仲間の死を嗅ぎ付けたかのように、ソイツらはどんどんと集まってきて――あっという間に十体以上の群れになった。

 

 あーあ、やっぱりこうなるのかよ。

 面倒くさ。

 

『ウうゥぅ~~~~ッ!!!』

 

 勢いよく襲い掛かってくる魚介類共。

 俺は「チッ」と舌打ちし、剣を構え直そうとする。

 

 幸いにも群れは一方向にまとまっている。

 一掃するのなんざ、なんの苦もない。

 

 でもやだなぁ、生臭(なまぐさ)の返り血なんて浴びたら最悪なんだが――

 ――なんて思った、その刹那。

 

 

『――〔アブソリュート・ゼロ〕』

 

 

 俺の背後で――レティシアが魔法を発動する。

 

 練り込まれる膨大な魔力。

 両手の掌の中で圧縮形成された、絶対零度の魔弾。

 

 ソレが――魚介類の群れ目掛けて放たれる。

 真っ直ぐに飛翔した魔弾は、群れの中央で炸裂し――瞬きをする合間よりも早く、全ての個体を氷漬け(・・・)にした。

 

 ――凄まじい威力。

 魚介類の群れは、周囲一帯ごと完璧に凍り付く。

 まるで〝氷の彫刻〟に変えられたみたいに。

 

 お陰で生臭(なまぐさ)の臭いも消え、ちょっと快適。

 ……今度は寒くなったけど。

 

 レティシアはシュパッと長い髪を払い、

 

「これで、嫌な臭いごと面倒(・・)を一掃できたわね」

 

 ちょっとだけ自慢気に、最高にかっこよく&最高に可愛く、そんなことを言った。




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