【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第190話 生理的嫌悪②

 

《レティシア・バロウ(オードラン)視点(Side)

 

 バチンッ――! という甲高い音が図書館の中に響き渡る。

 ジャックはよろけて後退りし、茫然とする。

 

「あ……――」

 

「わっ、私にっ、触らないで……ッ!」

 

 酷い息切れと動悸。

 まだ鳥肌が収まらない。

 生理的嫌悪感のあまり僅かに手が震え、額に冷や汗が滲む。

 

 ――気持ち悪い(・・・・・)

 他者に対して、これほど拒絶反応が出たのは初めてかもしれない。

 嫌悪と恐怖がない交ぜになって、吐き気すら覚える。

 

 私は今すぐこの場から逃げようとすら思ったが――

 

「…………ウフ……ウフフフぅ……」

 

 死んだ魚のようなジャックの瞳が、ギョロリと私へ向く。

 

「う……嬉しいなぁ……。こんな僕なんかを、本気でぶってくれるなんて……! すっごく、気持ちいいよぉ……!」

 

 頬を赤く腫らした顔は、さっきにも増してより一層恍惚に染まり上がる。

 ぶたれたというのに、心から喜んでいるかのように。

 

 同時に――ジャックの瞳に宿る、ドス黒い殺意(・・)

 

 背筋が凍る。

 本能的に、私は理解する。

 ジャック・ムルシエラゴという人物は、断じて正気ではないと。

 

 ハッキリと命の危機を感じる

 彼は、私を殺す気だ。

 

 四の五の言っていられない。

 このままでは殺される。

 抗わなければ――。

 

「――ッ!」

 

 私は体内で魔力を練り、魔法を発動しようとする。

 

 しかし――その刹那――

 

 

 

「――おぉ~っとぉ~!」

 

 

 

 そんな声と共に、私たちのすぐ傍で何者か(・・・)がズダーンッと盛大に転ぶ。

 同時に大量の本が宙を舞い、バサバサと床へ落下した。

 

「い、いやはや~、ちょっと本を持ってき過ぎたかもしれませんね~。失敗失敗~」

 

 そう言ってムクリと起き上がるのは、(つば)の広い三角帽子を頭に被った小柄な少女。

 幼げな顔には大きな丸眼鏡をかけており、長く伸びた金髪をルーズサイドテールにして肩から垂らしている。

 

 さらに身体のすぐ傍には、彼女の背丈より大きな魔法用の杖がフワフワと浮いている。

 如何にも魔法使いといった格好の少女だ。

 

 ――顔にも出で立ちにも見覚えはない。

 ジャックと同じ一年生で間違いないと思う。

 彼女は私たちの方を見ると、

 

「お、おやおや~? 喧嘩ですか~? いけませんね~、図書館は喧嘩する場所ではありませんよ~」

 

 なんともおっとりとした喋り方で、私たちに注意を促す。

 その姿を見たジャックは、恍惚とした表情から徐々にがっかり(・・・・)とした表情へと変化していき――

 

「……邪魔が入っちゃった……鬱だ……死のう……」

 

 フラフラと身体を揺らしながら、どこかへと去っていってしまった。

 

 な……なんだったのかしら……。

 とりあえず、危機は去った……のだと思うけれど……。

 

「大丈夫ですか~? お若いんですから~危ない人には近付かない方がいいですね~」

 

 丸眼鏡の少女は私の方に近付いてくると、なんとも気の抜けた朗らかな笑顔を見せてくれる。

 

 ――もしかしたら、助けてくれたのかしら……?

 

「え、えっと……ありがとう……? 助けてくれて……?」

 

「なんのことか~さっぱりわかりませんね~。でも~若い子に感謝されると~嬉しくなっちゃいますね~」

 

「……? 若いって、あなた一年生よね? あなたの方が若いはずじゃ……」

 

「へ? あっ、そ、そうでした~! 私の方がナウでヤングなバカウケちゃんなのでした~! うっかりです~」

 

「……???」

 

 フワフワとした話し方をしつつも、慌てて訂正する丸眼鏡の少女。

 

 まあ、細かいことはいいでしょう。

 彼女が私を助けてくれたことは事実なのだから、しっかりお礼は言わないと。

 

 私は改めてしゃなりとお辞儀し、

 

「コホン……危ないところをお助け頂き、本当にありがとう。改めてお礼申し上げますわ。あなたのお名前をお伺いしても?」

 

「私は~エレーナ・ブラヴァーツカヤといいますね~。よろしくお願いしますね~、レティシア・オードランさん~」

 

「あら、私のことをご存知ですのね」

 

「勿論~。あなたと旦那さんは~有名人ですから~。お知り合いになれて光栄です~」

 

 エレーナと名乗った丸眼鏡の少女は、そう言って懐に手を伸ばす。

 そしてなにやら取り出すと、

 

「お近付きの印に~どうぞお受け取りください~」

 

 私の手を取り、(てのひら)の上に置く。

 それは――小さな装飾の付いた首飾りだった。

 

 装飾の部分には青い水晶のようなモノが付いており、とても綺麗。

 見ていると、なんだか心が落ち着く気がする……。

 

「これは……」

 

「私特製の〝タリスマン〟ですね~。お守りのようなモノだと思ってください~」

 

「え……で、でも悪いわよ。私たち出会ったばかりだし――」

 

「いえいえ~お気になさらず~! ささ、どうぞどうぞ~。身に着けてみてください~」

 

「は、はぁ……」

 

 なんだか押し付けられているような気もするけれど……まあ悪意はないようですし……。

 

 それに〝タリスマン〟から微弱な魔力は感じるけれど、人に害を成すような魔法は込められていなさそう。

 エレーナの善意を無下にするのも、気が引けるものね……。

 

 問題はないでしょう――と判断した私は、〝タリスマン〟を首に着ける。

 やはりと言うべきか、なにも起こらない。

 

「んん~お似合いですね~。このまましばらく着けておくといいですよ~。霊験あらたか~無病息災~さらには金運アップまで~、ご利益たくさんですよ~」

 

「そ、そうなのね……」

 

 ……なんでしょう、そう言われると逆に怪しく感じてきてしまうのだけれど……。

 

 なんて思う私を余所に、エレーナは床に散らばった本の下へと戻っていく。

 そして本を積み重ねて両手に抱えると、

 

「ではでは~、ご挨拶もほどほどに~これで失礼しますね~。またお会いしましょう~レティシアさん~」

 

 そう言い残し、私の前から去っていった。

 

 

 直後――私はふと思った。

 そういえば……彼女も、いつの間に図書館の中にいたのだろう――と。

 




レティシアがドン引きするレベルって中々だと思うの(◔⊖◔)

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