【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第203話 コルシカ VS ジャック②

 

 ――コルシカとジャックは、人気(ひとけ)の少ない校舎裏までやって来ていた。

 

 一口に校舎裏と言っても、王立学園にはそう呼んで差し支えない場所が複数ある。

 中には生徒たちの憩いの場になっていたり、内緒話をする場になっていたり等、比較的人が訪れるような所もあるが――コルシカたちがやって来たのは、生徒たちも滅多に近付かないような場所だった。

 

 薄暗く、静かで、お世辞にも広い空間とは言えない。

 さらに空がどんよりと曇り、ポツポツと小雨が降り始めてきたことで、薄暗さに拍車がかかっている。

 

 見る人が見れば、どこか不気味ささえ感じさせるような空間。

 だがコルシカの目には、そんな周囲の雰囲気など映ってはいなかった。

 彼女の瞳に映るのは――自らの正面に佇むジャックの姿のみ。

 

「お覚悟はいいですか、ジャックさん! 私の勇猛果敢なアイドルっぷり、とくとその目に焼き付かせて差し上げましょうッ!」

 

 コルシカはジャックへ向け、得物である斧槍(ハルバード)の切っ先を突き付ける。

 

「私が勝った暁には、ライブの最前列で思う存分魔力発光棒(サイリウム)を振って頂きますからねッ!」

 

「……鬱だ」

 

 ジャックは俯いたままポツリと呟き、右手に得物を持つ。

 しかし彼の手に握られた武器は、コルシカと比べてあまりにも小さい。

 柄は両手で握れないほど短く、その先端に付いている刃は僅か3~4センチ程度の長さしかない。

 分類上はナイフになるのであろうが、どちらかと言えば〝医療用刃物(メス)〟に近い代物だった。

 少なくともコルシカにとって、それは戦闘で有効そうな武器には見えない。

 

 しかし彼女は「油断は禁物!」とすぐに意識を切り替える。

 相手に対して敬意を払わず、舐めてかかるような真似をするのは、アイドルとしてのプライドに反するからだ。

 

 そう……一対一(・・・)で戦うからには、誠意が必要。侮蔑の眼差しを向けるなど、以ての外。

 コルシカはそう思っていた。

 だが――そう思っていても、彼女はジャックという人物が、どこか不気味で仕方なかった。

 

 この戦いは、速攻で終わらせるに限る――。

 そう判断したコルシカは、

 

「行きますよ! それでは聞いてくださいッ! 『KISHIDAN午前六時――ッ!」

 

 スゥッと息を吸い、歌い始めようとする。

 同時に〔魔声帯(セイレーネス)〕である彼女の喉が魔力を帯び、無制限の魔力生成を始めようとしたが――

 

 

 

「……〝■■の落とし子〟」

 

 

 

 ジャックが、なにか(・・・)を呼ぶ。

 けれどその発音は、コルシカの耳では聞き取れなかった。

 

「……アイツの喉を……潰せ(・・)

 

 ジャックは命じる。

 

 その刹那――〝目に見えないなにか〟が、彼女の喉を殴り潰した(・・・・・)

 

 

 

 ▲ ▲ ▲

 

 

 

「――退()け! 退()けッ!!!」

 

 ローエンは生徒たちをかき分け、学園内の廊下を全速力で駆け抜ける。

 顔に憤怒と焦燥の色を浮かべながら。

 

 ――〝コルシカとジャックが、校舎裏で戦っている〟。

 その情報がローエン――及びFクラスメンバーの一部に届けられたのは、コルシカたちの決闘(・・)が始まってから約三十分が過ぎた頃。

 既に空模様は、パラパラとした小雨が本降りへと変わっていた。

 

 本当に偶然のことだった。

 たまたまコルシカたちのいた校舎裏の近くを通った生徒の一人が、彼女たちの戦いを目撃したのである。

 普段は滅多に人が近付かない場所なのだが、その日はたった一人だけ、傘を差しながら通りがかったのだ。

 

 一応、学園内では生徒間による私闘は禁止とされている。

 もしやるとなれば、学園の許可を取って教員立ち会いの下『決闘場』などで行われるのが常。

 だからコルシカとジャックの行いは、ちょっとした校則違反になるのだが――二人の戦いを見た生徒にとって、そんなのはどうでもよかった。

 

 その悲惨さ(・・・)を目の当たりにした生徒は、大慌てでローエンを呼びに行った。

 ローエンがコルシカと同じ〝職業騎士〟の出身であり、彼女と仲のいい先輩後輩の関係であるというのは、学園内では既によく知られていたから。

 

 報せを受けたローエンは、それが焦眉(しょうび)(きゅう)を要する事態であるとすぐに察知。

 そうして戦斧を手に走り――ようやく、彼はコルシカとジャックのいるであろう校舎裏まで辿り着く。

 

「コルシカッ! 無事――ッ!」

 

 曲がり角を曲がり、校舎裏に飛び込んだローエンの目に飛び込んできた光景。

 

 

 それは――血まみれになって地面に倒れる、コルシカの姿だった。

 

 

 全身痣だらけで、見るからに骨折している箇所も複数ある。

 さらには小さな刃物で何度も何度も何度も斬り付けられたらしく、小さな切創が全身に無数に見受けられる。

 

 だが一番酷い怪我を負っていたのは――〝喉〟。

 

 明らかに喉仏が潰れており、口から真っ赤な血を吐き出し続けている。

 全身の傷口からの出血も酷く、それが雨水によって流され、彼女の周囲一帯の地面を薄っすらと朱色に染めていた。

 

 そして――そんなコルシカのすぐ傍に佇む、ジャックの姿。

 

 それは誰の目から見てもハッキリとわかるほど、一方的な蹂躙(・・・・・・)が行われた後の光景であった。

 

「コ……コルシカッ!!!」

 

 慌ててローエンはコルシカに駆け寄り、彼女を抱き寄せる。

 当然、近くにいたジャックのことなど無視して。

 

「コルシカッ! しっかりしろ、コルシカッ!」

 

「……」

 

 返事はない。

 抱きかかえられてもぐったりとしたままで、まるで屍のよう。

 

 けれど――僅かに呼吸している。

 胸部がほんの少しだけ上下し、血のあぶくを吐き続けながら、懸命に空気を体内に送り込もうとしている。

 

 意識はないようだが、まだ死んではいない――。

 それがわかった瞬間、ローエンは胸を撫でおろす。

 

 しかし――それも束の間だった。

 

「……鬱だ」

 

 ローエンの背後で、ポツリとジャックが呟く。

 

「なにも面白くない……なんの達成感もない……。ああ……神様(・・)……早く僕を生まれ変わらせてください……」

 

「――おい、貴様」

 

 ローエンは静かにコルシカの身体を地面へ下ろし、自分が来ていた上着を脱いで、彼女の身体にかける。

 そして戦斧を手に、ゆっくりと立ち上がる。

 

「何故――コルシカをこんな目に遭わせた?」

 

 ローエンにはハッキリとわかっていた。

 ここで行われたのは決闘(・・)などではない、と。

 彼女は文字通り、ただ痛めつけられたのだ、と。

 リンチなどという言葉が可愛く思えるほど、一方的に、残虐に、執拗なまでに。

 

 きっとある瞬間から、抵抗すらできなくなっていたであろう。

 それでも――執拗に嬲られ続けたのだ。

 

 コルシカの身体中の傷を見れば、よくわかる。

 わかるからこそ――ローエンには堪え難かった。

 

「何故……? あれ、なんでだっけ……もう思い出せないや……。ああでも……一つだけ思い出せた……」

 

 ジャックは虚ろな瞳のまま、コルシカを見下ろす。

 

「僕……そいつの()……嫌いなんだよね……。耳障り(・・・)だから……」

 

 ――その答えを聞いた瞬間、ローエンは戦斧の柄を目一杯握り締める。

 そして猛然と、ジャックへ斬りかかった。

 

 




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