【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第206話 ムルシエラゴ家からの手紙

 

《レティシア・バロウ(オードラン)視点(Side)

 

「……アルバンたちは大丈夫かしら」

 

 個別棟の中で椅子に座り、私は呟く。

 するとシャノアが、膝の上に置いた私の手をそっと触れてくれる。

 

「だ、大丈夫ですよレティシア夫人! オードラン男爵が行ってくださるなら、喧嘩なんてすぐに収まるはずです!」

 

 作ったような笑顔を見せ、励ますように言ってくれるシャノア。

 彼女はアルバンから「俺が帰ってくるまで(レティシア)の傍にいろ」と言われてしまったので、こうして一緒に個別棟の中に留まってくれている。

 

 ――コルシカさんとジャックの私闘が行われ、その場へ向かったローエン……。

 彼らを止めるためにアルバンが個別棟を発ってから、だいたい二十分程度が経過したかしら。

 

 未だ外では、雨がザァザァと音を立てて降りしきっている。

 この感じだと、帰ってくる頃にはアルバンはずぶ濡れになっているでしょう。

 彼が風邪でもひかないように、温めたタオルでも用意しておかなくちゃ。

 

 ……。

 …………。

 

 コルシカさんは、無事かしら。

 いいえ、それ以上にローエンやアルバンが早まった真似をしないか心配。

 ローエンにとってコルシカさんは大事な後輩だし、アルバンにとってジャックは不俱戴天の仇だもの。

 シャノアからの話を聞いた限り、どうやら先生たちも既に向かっているというから、最悪の事態にはならない……と思うのだけれど……。

 

 ……これ以上、人が死ぬのなんて見たくないもの。

 ましてや、王立学園の中で。

 

 なんて私が思っていると、

 

 ――〝コン、コン〟

 

 と個別棟の玄関ドアが外からノックされる。

 

「あ、オードラン男爵が戻ってこられたのでしょうか? はーい、今開けますー!」

 

 私の代わりに、シャノアがドアの方まで向かってくれる。

 そしてガチャリとドアを開けると――そこにあったのは、アルバンの姿ではなかった。

 

「失礼します。レティシア・オードラン様宛てにお手紙が届いております」

 

 ドアの向こうに立っていたのは、いつも王立学園の生徒に荷物を届けてくれる使用人(メッセンジャー)の男性だった。

 彼はチラッと視線を動かし、室内に私がいるのを確認すると、防水処理が施された鞄の中から一通の手紙を取り出す。

 それをシャノアに渡して「レティシア様のお渡しください」と言い、足早に去って行った。

 手紙を受け取った彼女は私の下へ戻ってくると、

 

「レティシア夫人にお手紙らしいです。え、えっと……送り主は――ムルシエラゴ家当主、ドンカーヴォルケ・ムルシエラゴ様と」

 

「――! ありがとう、すぐに見せて」

 

 手紙を受け取ってくれたシャノアに軽く礼を言った私は、すかさず宛名を確認。

 手紙が納められた封筒には封蝋(シーリングワックス)で閉じられており、その印璽(いんじ)は確かにムルシエラゴ家のモノ。

 そして差出人のサインとして、〝ドンカーヴォルケ・ムルシエラゴ〟の名もあった。

 

 ――ドンカーヴォルケ・ムルシエラゴ辺境伯は、私がジャックのことについて手紙で尋ねた人物。

 ジャックの精神は不安定なのに、どうして一人で学園に送ったのかと。

 しかし手紙を送って以降、中々返事がなかったのだが……ようやく返ってきたようだ。

 

 私は封を破り、中から折りたたまれた手紙を取り出す。

 そして広げて全文を読むと――

 

「――――な……なんですって……!?」

 

 そこには驚くべきことが記されていた。

 信じ難いことが書かれてあった。

 

 驚愕を禁じ得ない私を見て、シャノアが不思議そうに小首を傾げる。

 

「レティシア夫人……? あ、あの、一体なにが書かれてあったんですか? 差し障りなければお聞きしても――」

 

 

 

「…………〝ジャック・ムルシエラゴの死体が見つかった〟……って」

 

 

 

「――え?」

 

「私からの手紙を受けて、ドンカーヴォルケ辺境伯は王都に使者を送ったそうなのだけど……その使者が行方不明になって……。それでムルシエラゴ家の兵士たちが、改めてジャック・ムルシエラゴが王都へ向かうために使った道中(ルート)を捜索した結果――隠すように遺棄された〝死体〟が見つかったって」

 

 届いた手紙には、そんなことが書かれてあった。

 そしてこの手紙が私に届くのと同じくして、ファウスト学園長へも隠密に情報が届くはずだと。

 

 同時に、ジャックの死を隠蔽しようとする何者か――いや〝組織〟があるはず、という旨も記されてあった。

 

 おそらくこの手紙は、ドンカーヴォルケ辺境伯の直筆なのだろう。

 書かれた文字と文章から、言い様のない怒りと悲しみが汲み取れる。

 そして間違いなく、ムルシエラゴ家が大混乱に陥っているであろうことも。

 

 でも――これでハッキリした。

 

「あ、あの……し、しし死体が見つかったって……だってジャック・ムルシエラゴは、この学園に――ッ!」

 

 困惑し、怯えたような表情を見せるシャノア。

 そんな彼女に対し、

 

「〝偽物〟――ということよ」

 

 私は、確信を持って言い切った。

 

「この学園に入学してきたのは……いいえ、コルシカさんを痛めつけ、ローエンとアルバンが向かった先にいるのは――本物のジャック・ムルシエラゴではないわ」

 

 合点がいった。

 ようやく納得できた。

 

 私に接触してきたあの(・・)ジャックは、ジャック・ムルシエラゴ本人ではない。

 ジャックを殺し、その名を名乗る何者かが入れ替わった姿。

 ――つまり、〝偽物〟だ。

 だからあれほどまでに情緒不安定だったのだ。

 

 ……私は本物のジャック・ムルシエラゴの顔を知らない。

 辺境伯というのは他国との国境沿いを守っているという立場上、基本的に領地から出ない。

 言ってしまえば彼らは王都からずっと離れた地域の〝地方軍閥の長〟であり、〝前線総指揮官〟でもあるから。

 だから王都住まいの貴族たちとは、親密な関係とはなり難い。

 それが領主ではなく令息ともなれば、尚更に。

 それ故に〝名前は知っているけど顔は知らない〟という事態が往々にして発生する。

 

 私はジャックの顔を知らなかった。

 いいや、私だけではなく、きっとこの学園に属する者は誰一人知らなかったのだ。

 きっと本物のジャック・ムルシエラゴは、あまり自分の領地から出ない性分だったのだと思う。

 だから学園内に知り合いがおらず、親であるドンカーヴォルケにも情報が行き渡らなかった。

〝偽物〟が入れ替わるのには、あまりに都合がいい相手だったのだろう。

 

 そして、もう一つわかったことがある。

 偽物のジャックを陰で支援する、なんらかの〝組織〟があるということ。

 

 ……これは私の直感に過ぎない。

 けれど、もしその感が正しいのなら――偽ジャックの背後にいるのは〝薔薇教団〟だ。

 グレッグ区長の時と同じく、彼らが裏で糸を引いている。

 

 ……彼らの真の狙いがなんなのかは、まだわからない。

 けれど私の直感が囁いてくる。

 ――危険(・・)だと。

 

「……こうしてはいられないわ。アルバンやローエンに、このことを伝えなくちゃ」

 

「そ、そうですね……! それじゃあすぐに、オードラン男爵たちの下へ――」

 

 ――〝コン〟

 

 シャノアが言いかけた、その時だった。

 私の斜め後ろ――私の背後で、なにか(・・・)が窓ガラスに当たったような小さな音が鳴る。

 その音は確かに私の耳に入ってはきたが、最初はただの物音だと思って気にも留めなかった。

 

 けれど――シャノアの言葉が途切れ――彼女の視線が、ゆっくりと私の背後へと流れていく。

 そしてすぐに、シャノアの表情が引き攣り始めた。

 

「あ……ああ……!」

 

「シャ、シャノア?」

 

「ま、窓……窓に……!」

 

 シャノアの顔が恐怖に染まる。

 ――釣られるように、私もゆっくりと背後へと振り向く。

 

 すると――私の目に映ったモノは――

 

 

 

 

 

「……僕を生み直してよ、ママ(・・)

 

 

 

 

 




やっちゃいなよ!そんな偽物なんか!ƪ(˘⌣˘)┐

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