【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第213話 兄弟①

 

《ユーリ・スコティッシュ視点(Side)

 

 ……どれほど歩いただろうか。

 気味の悪い洞窟の中を一歩一歩進み、レティシア夫人の影を探す。

 

 オードラン男爵の姿は、とうの昔に見えなくなった。

 彼が斬り殺したモンスターの死骸がまるでカーペットのように地面に敷き詰められているので、後を追おうと思えばできる。

 

 だが、それでは意味がない。

 オードラン男爵と同じ道を辿ったのでは、なんのためにここへ来たのかわからない。

 彼よりも先にレティシア夫人を見つけねばならないのだから、彼が探していないルートを見て回る必要がある。

 未だレティシア夫人がどこにいるか不明なのだし、手分けして捜索するという意味でも。

 

 幸いと言うべきか、オードラン男爵がモンスターを片っ端から斬殺していってくれたため、私が奴らに襲われることはなかった。

 ……モンスター共は彼に気を取られて、私など眼中に入っていないだけなのかもしれないが。

 

 ともかく私は、入り組んだ洞窟の中を敢えてオードラン男爵とは違う道を進んでいるのだが――

 

「…………」

 

 ……本音は違う。

 私は、オードラン男爵を見ていられなかっただけだ。

 

 彼は――恐ろしい(・・・・)。あまりにも。

 傍で彼が戦っている光景を見ているだけで、恐怖のあまり全身から血の気が引く。

 あの覇気に当てられただけで、唇が震えてカチカチと奥歯が鳴る。

 

 私は、あの〝化物(バケモノ)〟の傍にいられなかったのだ。怖くて、怖くて。

 

 そしてもう一つ理由がある。

 私は……自分が恥ずかしかった。

 

 私は自分より凄い人間なんて、昔のお兄様(・・・・・)以外はいないと思っていた。

 けれど違う。私は世界を知らな過ぎただけだ。私は所詮、井の中の蛙だったのだ。

 

 ――惨めだった。

 なにも知らず意気揚々とオードラン男爵に挑もうとし、その剣技を目の当たりにしただけで震え上がってしまった自分が、惨めで仕方なかった。

 なにも知らずオードラン男爵へ勝負を挑もうしていたことが、恥ずかしくてどうしようもなかった。

 

 文字通り格が違う。次元が違う。

 彼は人間であれど、私と同じ存在などではない。

 お兄様が敗れたのは当然だったのだ。

 お兄様が彼を〝(キング)〟と崇めたのは必然だったのだ。

 

 だが私は認めなかった。認められなかった。

 なにかの間違いか、偶然か、でなければお兄様が堕ちた(・・・)だけなのだと、そう自分に言い聞かせていた。

 

 ……勝負になんてならない。

 私とオードラン男爵では剣士としての――いや、生き物としての格が違う。

 彼が百獣の王たる者だとすれば、私は虫ケラだ。

 踏み潰されるのを待つだけの、ちっぽけで惨めで哀れな存在だ。

 

 理解してしまった。骨の髄まで理解させられてしまった。

 彼は生まれながらの覇者だと。

 覇者となるべくして生まれた、本物の暴君なのだと。

 

 そんなことすらわからず、わかろうとせず、彼に挑もうとしてた自分の姿は、なんと愚かだったことか。

 オードラン男爵の傍にいると、その現実をまざまざと見せつけられている気分だった。

 

 ……私は後悔し始めていた。

 ここへ来たことを。

 

 しかし同時に、ここでオードラン男爵の()を目の当たりにしたことで、一つの疑問を抱く。

 

 ――イヴァンお兄様は、どうしてオードラン男爵の傍に立っていられるのだろう?

 お兄様は、何故未だに心が折れていないのだろう?

 

 私は――こんなにも心がへし折られてしまったというのに――と。

 

「……イヴァンお兄様」

 

 ポツリ、とお兄様の名を呼ぶ。

 そうして力なく洞窟の中を歩いていると――なにやら開けた空間へと辿り着く。

 

「……ここは?」

 

 周囲を見渡すが、人影はない。

 ここにはレティシア夫人はいないようだ。

 そう思い、私は道を引き返そうとしたが――

 

 

『……ユーリ・スコティッシュ』

 

 

 ――誰か(・・)が、私の名を呼んだ。

 

「え――?」

 

 振り返る。

 けれどやはり、どこにも人の姿はない。

 

『そうだ……ユーリ・スコティッシュ……。お前も……殺すつもり(・・・・・)だった……』

 

 ――ドサッ、と天井からなにかが落ちてくる。

 それは落下した直後はピクリとも動かなかったが……数秒後、突然立ち上がる。

 そう、立ち上がったのだ。

 ――――人間の足(・・・・)が。

 

 より正確に言えば、人の下半身。

 真っ二つに両断されて胴体より上が消失し、腹部より下だけの片割れ(・・・)となった人間の肉体が、独りでに動いて直立している。

 

「なっ……!」

 

『僕が……〝(キング)〟となる……。〝(キング)〟となって……ママ(・・)を手に入れるんだ……』

 

 脳の奥に直接響くような、不気味な声。

 次の瞬間、その下半身は切断面から緑色の肉塊を噴出させる。

 

『マ、ママは……聖母サマ、は………………〝母体〟ハ、オレ(・・)のモノだ』

 

 ――途中から、明確に声が変わった。

 まるで喋っている途中、なにか(・・・)に乗っ取られたかのように。

 声はオドオドとした少年のモノから、低音の枯れた老人を彷彿させるゾッとした声質になる。

 

 そして溢れ出るように湧く肉塊は、徐々に形を成していき――

 腕や頭が生え――

 それは――名状しがたき――

 

「な……なん、だ……お前は……!?」

 

 私の前に姿を現した存在。

 頭足類(タコ)を思わせる触手の生えた頭部、

 ギョロリと開いた六つの目、

 水かきと鉤爪を備えた巨腕、

 ヌメヌメとした体液で覆われた、どこか不定形で不完全さを思わせる緑色の巨躯。

 

 生き物(モンスター)と呼ぶには、あまりにも冒涜的な形――。

 それを見た私は――酷く精神を揺さぶられた。

 

 恐怖で手足が震える。

 今にも腰を抜かしそうで、正気を保てなくなりそうな自分がいる。

 

 私は碌に身動きすら取れず、その名状しがたい怪物を視界に収めることしかできなかった。

 

『〝母体〟ハ、オ前ナンカニ、渡サナイ……!』

 

 怪物は私へ襲い掛かってくる。

 鉤爪の付いた腕を振り被り、叩き潰そうとしてくる。

 だが恐ろしさのあまり足が竦み、回避もままならない。

 

 紛うことなき〝死〟が直前に迫る。

 私はもうダメだと、両目を瞑る。

 

 

 けれど――その時だった。

 

 

 

 

 

「――なにをしている、我が誇らしき弟(ユーリ・スコティッシュ)よ」

 

 

 




弟より優れた兄は、存在しまぁす!(大声)

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