【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第214話 兄弟②

 

《イヴァン・スコティッシュ視点(Side)

 

 ――細剣(レイピア)を振るい、蛇腹のようにうねる水の刃を滑らせる。

 

 鞭が如き水流の斬撃は音速へと達し、我が弟へと襲い掛かる怪物(モンスター)の腕を、衝撃波と共に斬り飛ばした。

 

『――ウ゛ぅッ!?』

 

 醜い身体をのけ反らせ、ユーリから離れる怪物(モンスター)

 ……間一髪、といった所かな。

 

「イ――イヴァンお兄様……!?」

 

「手間をかけさせるなよ、ユーリ。お前はそんな不出来な弟ではないだろう」

 

 僕は〔アクア・ウィップ〕を展開したまま、ユーリへと歩み寄る。

 そして腰を抜かし、地面に尻餅を突いていた弟に手を差し伸べた。

 

「立てるか?」

 

「は、はい……」

 

 僕の手を取り、ユーリは立ち上がる。

 同時に、まるで夢幻(ゆめまぼろし)でも見ているかのような目をしながら僕の方を見つめてくる。

 

「お、お兄様、どうしてここへ……」

 

「エレーナ女史が教えてくれたのだ。お前がなにやら危険な場所に飛び込んだ、とな」

 

 ――彼女には感謝せねばなるまい。

 レティシア嬢がジャック・ムルシエラゴに攫われたこと、そしてオードラン男爵やユーリが後を追ったことを迅速に伝えてくれたのだから。

 僕は一足早く到着したが、もうすぐ学園の教員たちやFクラスのメンバーもここへ到着するだろう。

 

 ともかくエレーナ女史のお陰で、僕は弟の窮地に間に合ったワケだ。

 

「さて……」

 

 僕はヒュンッと細剣(レイピア)を振るい、怪物(モンスター)の方を向く。

 

「よくも弟を傷物にしようとしてくれたな。代償は高くつくぞ、醜い怪物め」

 

『……ナンダ……オ前……?』

 

 怪物(モンスター)は警戒するように、六つの目でギョロリと僕を見てくる。

 

『人間ノ癖ニ……ナンデ……コノ姿ヲ……恐レナイ……? ナンデ……精神(サタニティ)ガ……汚染サレナイ……?』

 

「……? なにを言っている?」

 

『人間ナンテ……カ弱イ〝虫ケラ〟ノ……ハズナノニ……』

 

 困惑した様子の怪物(モンスター)

 ああ……どうやら自らの醜悪な姿に、僕が恐れをなすとでも思っているらしい。

 

「……何故、だと? 下らぬ質問だ」

 

 僕はフッと鼻で笑い、

 

「お前など少しも恐ろしくはない。僕は――お前よりもずっとずっと恐ろしい〝(キング)〟に、仕えているのだからな」

 

 ――そう答えてやった。

 

 ああ、そうさ。

 彼の方が何百倍も、何千倍も恐ろしい。

 僕はそんな男に仕えているんだ。

 

 正真正銘の〝化物(バケモノ)〟であり、暴君の中の暴君としてこの世に生まれ落ちた――アルバン・オードラン男爵に。

 

 彼が放つ根源的な恐怖と比べれば……コイツの方がずっとちっぽけな虫ケラだ。

 むしろ醜い分、さらに輪をかけて矮小に見えるな。

 

「貴様程度に気が触れるようでは、オードラン男爵の部下は務まらん。部を弁えるべきだな――下郎(・・)

 

『オ…………オオオオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ!!!』

 

 僕の言葉がよほど癪に障ったのか、激しい怒号をかき鳴らす怪物(モンスター)

 やれやれ、外見だけではなく声まで醜いとはな。

 

 ――いいだろう。

 貴族たる者の一人として、この怪物(モンスター)に〝優雅さ〟とはなんたるかを教えてやるとしよう。

 

「――ユーリ」

 

「! は、はい、お兄様!」

 

やる(・・)ぞ。お前が成長した姿――この兄に見せてみよ」

 

 

 

 ▲ ▲ ▲

 

 

 

《レティシア・バロウ(オードラン)視点(Side)

 

「――〝大いなる神〟……? 聖母様、ですって……?」

 

 ――わからない。

 ラーシュの言っていることが理解できない。

 

 私が聖母様?

 私が、彼を〝大いなる神〟として生み直す?

 

 ……なにを、言っているの?

 

『ママはね……選ばれた(・・・・)んだ……。この世界の(ことわり)から外れた女性だから……聖母様に……。おめでとう……』

 

 ラーシュの声は嬉しそうに、僅かに笑うように語る。

 

『〝大いなる神〟が生まれれば……この世界には永劫の平和がもたらされる……。神様がこの世を支配して……皆生まれ変われるんだ……』

 

「……」

 

『この鬱な世界に……安らぎ(・・・)がもたらされるんだよ……? 素晴らしいよね……』

 

「私が、その神を生む〝母体〟になるというの?」

 

『そうだよママ……。そうすればママは……世界に安寧をもたらした……慈愛の聖母様になれるんだ……』

 

「――――フ、フフ」

 

『……?』

 

 ――思わず、笑いが漏れる。

 こんな状況でも笑えるなんて、自分でもどうかしていると思うけれど。

 

 ラーシュの言っていることは、私には何一つ理解できない。

 理解なんてしたくもない。

 

 でも思ってしまったのだ。

 もしこの場に(アルバン)がいたら――こう(・・)言うんじゃないかしら、って。

 

「世界平和……確かに素晴らしい響きね。でもあなたの言うそれ(・・)は、私には不釣り合いな言葉だわ」

 

『……どうして?』

 

「だって私は――レティシア・オードランは、〝悪役〟だから」

 

 私は額から脂汗を流し、込み上げる吐き気を抑えながら、それでも不敵に笑って見せる。

 

「私は〝悪女〟と〝大悪党〟の悪役夫婦、その片割れだもの。悪役以外が作った平和なんて……悪役令嬢(レティシア)には似合わないでしょう?」

 

 ああ――そうだ、彼ならきっとそう言う。

 そう言ってくれる。

 

 俺たちにはそんなの似合わないだろう、って。

 そんなモノは――クソ食らえだ(・・・・・・)、って。

 

「ラーシュ、あなたの言う神がなんなのかは知らないけれど……私はその〝母体〟になるのも、あなたのママになるのも、お断りよ」

 

『……』

 

「それに――あなたは、やってはならないことをした」

 

 私がそう言った、直後――

 

 

  ズ――――ン……ッ!

 

 

 ……という地鳴りのような音と揺れが、私たちの会話に割り込んでくる。

 その地鳴りは徐々に大きくなり、揺れはみるみる内に激しくなっていく。

 

 これは――〝破壊〟の音。

 己が行く手を拒む全てを踏み潰し、蹂躙する、暴力の体現音。

 一直線に、なにか(・・・)が、向かってきている。

 そんな音だ。

 

 ――来た。

 来てくれた。

 来てくれたんだ、私を迎えに。

 

 嬉しさのあまり、私はニィッと悪役らしく口の端を吊り上げ――

 

「さあ、来るわよラーシュ。あなたの世界平和を阻まんとする――最凶にして最高の暴君が……!」

 

 嬉しくて、泣きそうで、それでも私はラーシュへと向かって叫んだ。

 

 ――遂に壁の一部が大爆発し、外側から破られる。

 強力無比な攻撃魔法によって、全てを吹き飛ばすように。

 そして――

 

 

 

「……迎えにきたぞ、我が愛しき妻よ(レティシア)

 

 

 




結局アルバンが一番怖い^ω^)

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