【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第235話 水面下

 

 アル王子がエステルを妻に迎えるかどうかで、両者が激しい攻防を繰り広げていたのと同じ頃――。

 ヴァルランド王国の王都に、アル王子やコピルとは別のとあるネワール王国の人間が訪れていた。

 

「つまり……リッチャ殿は、そのアル・マッラ王子とかいう子供が邪魔(・・)なワケだ」

 

 とある豪邸の地下。厳重な防音設備が整えられた一室で、複数の護衛に守られた二人の男が秘密の会談をしていた。

 

 一人はつばのない帽子(ダカ・トピ)を被った褐色肌の男で、名前はリッチャ・マッラ。

 もう一人は恰幅のいい髭面強面の男で、名前はノワール・ゲッツ。

 どちらも中年~中高年くらいの年齢で、如何にも悪人といった風貌の持ち主だ。

 

「左様。アル王子は、ネワール王国の時期国王の器にあらず。国王の座は、このリッチャ・マッラにこそ相応しい」

 

「ククク、それで可愛い甥っ子を殺すために、わざわざ俺を訪ねたと。とんだ畜生ですなぁ」

 

 ノワールは葉巻を吹かしながら、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる。

 そんなノワールを、リッチャはギロリと睨んだ。

 

「畜生なものか。アル王子はネワール王国で女の権利を強め、社会進出を図ろうなどと画策としている。これは我が国の伝統を壊そうとしているのと同義。伝統を重んじぬ非国民のアル王子の方が、よほど畜生だ」

 

「ほほぉ、ネワール王国という国はよほど根強い家父長制があると見える」

 

「然り。(まつりごと)も経済も男が支配するモノ。女などは家庭に入り、口を閉ざして家長の言いなりになっているべきだ」

 

 不快さを隠そうともせず言い捨てるリッチャ。

 リッチャはアル王子の父親であるヤークシャ・マッラの弟であり、アル王子の叔父でもあった。

 彼は伝統的なネワール王国の家父長制を重んじており「女は男にへりくだり、男のやることに口出しをすべきではない」という考えを強く持っていた。

 アル王子とは、完全に真逆の思想の持ち主だったのだ。

 

 故にリッチャにとって、その伝統を破壊しようとするアル王子は目障りこの上ない存在だったのである。

 

 だからなんとしてでもアル王子の国王就任を阻止すべく、アル王子がヴァルランド王国を訪れたタイミングで秘密裏に自身も入国していた。

 そしてアル王子の暗殺をノワールに依頼しようとしていたのだ。

 

「ま、なんでもいいでしょう。ともかく、要人の始末にこのノワール・ゲッツを頼ったのは正解ですな」

 

 ノワールはほくそ笑む。

 このノワール・ゲッツという男は、ヴァルランド王国の裏社会にて絶大な権力を持つ〝陰の首領(ドン)〟だった。

 

 表向きは豪商として全うな商いをしているように振舞っているが、その裏では密輸・人身売買・薬物・殺人などあらゆる非合法の悪事に手を染め、アンダーグラウンドの世界を牛耳っている正真正銘の悪党。

 特に貧民街(スラム)において酷く恐れられ、ノワールの言うことを聞かなければ家族から友人に至るまで根こそぎ皆殺しに合うとまで囁かれているほど。

 

 彼が手広く悪事をやっているのは多くの人間にとって周知の事実であるが、一部の貴族たちを多額の賄賂で買収して後ろ盾としており、我が物顔で悪事を続けている。

 そんな悪名高い人物故に、〝殺し〟の依頼を受けるなど日常茶飯事であった。

 リッチャはノワールを見て、

 

「……頼めますかな? アル・マッラ王子の暗殺」

 

「勿論です。大船に乗ったつもりで任せてくださればよい。ただし、相応の額は用意して頂きますぞ」

 

「金など幾らでも払おう。アル王子さえ始末すれば、ネワール王国の全てはこのリッチャ・マッラのモノとなるのだから」

 

「それは重畳! では後はこちらで――」

 

「……失敬、ノワール様」

 

 ノワールがアル王子暗殺の依頼を快諾しようとした矢先、彼の傍に佇んでいた片眼鏡(モノクル)をかけた若い執事の男が彼の言葉を遮る。

 

「ん? なんだアンブローズ」

 

「差し出がましいことを申し上げますが……アル・マッラ王子の暗殺は、少々慎重になられた方がよろしいかと」

 

 そうノワールに進言する執事は、アンブローズ・ガルシア。

 黒髪に端正な顔立ちに小綺麗なスーツ姿の人物で、ノワールとは対照的にどこか優し気な笑みを浮かべているのが特徴的。

 しかしその顔立ちとは裏腹に裏社会に精通しており、数々の功績(・・)を上げたことでノワールの右腕とまで称されるようになった執事兼参謀である。

 ノワールもアンブローズのことは有能な部下として認めており、常に自分の傍に置くようにしているほど。

 

 そんなアンブローズは言葉を続け、

 

「私が掴んでおります情報によれば、なにやらアル王子はアルベール国王との会談の後に王立学園へ入ったとのこと。もしかすると、彼はどこかの貴族の子息と繋がりを持つことになるやも――」

 

「――おいアンブローズ、手前(テメェ)ビビッてんのか?」

 

 アンブローズが話していると、ノワールの護衛をしていた別の男が話に割り込んでくる。

 彼の名はビギー・サンチェス。

 スキンヘッドの頭と鍛えられたマッチョな肉体、そして全身に描かれた刺青(タトゥー)が特徴。

 ノワールに負けず劣らずの強面であり、短気で気性が荒く、その暴力性で裏社会をのし上がった生粋のアウトローだ。

 

 ビギーもアンブローズ同様にノワールの片腕として認められているが、ビジネスライクな考え方を好むアンブローズとは異なり暴力による問題解決を好むため、両者は互いに相容れない犬猿の仲。

 特にビギーはアンブローズのことを「ナヨナヨした男らしくない奴」と罵って露骨に嫌っていた。

 

「チッ、ガキ一匹なんぞに怖気づきやがってよ。護衛が百や二百いるならともかく、たった一人しかお供がいねーんじゃ殺すのなんざ朝飯前だろうが」

 

「……ビギー、あなたは相変わらず知能が足りませんねぇ。人間として生を受けたなら、少しは猿から進化してみては如何?」

 

「なんだとコラァッ!」

 

「おいやめろ、お前ら」

 

 険悪な雰囲気になった二人を、ノワールが止める。

 そしてノワールはアンブローズの方を見ると、

 

「アンブローズ、お前は頭が切れるし言いたいこともわかるが……少し臆病風に吹かれすぎてやしないか?」

 

「申し訳ありません、近頃知人に不幸があったもので……。少々用心深くなりすぎていたやもしれません。まあ、そっちは当人の性格に問題があったのですが」

 

 片眼鏡をクイッと動かし、軽く謝罪するアンブローズ。

 そんな彼をノワールはしばし無言で見つめ、考えるような仕草を取った後、

 

「ビギー、お前この仕事(シノギ)やってみるか?」

 

「えっ、いいのか……!?」

 

「ああ、上手くやったら分け前は弾んでやる」

 

 その言葉を聞いたビギーは歓喜の表情を浮かべ、「ギャハハハ!」と笑い声を上げる。

 

「流石は親父、話がわかるじゃねーか! そうと決まったらすぐに行ってくるぜ! 臆病者のアンブローズは、精々指を咥えて見てるんだなぁ!」

 

 アンブローズに対してそう言い放ったビギーは、威勢よく部屋から出ていく。

 その後ろ姿を見送ったリッチャは少々不安そうに、

 

「……彼は、大丈夫なのか?」

 

 ノワールに対して尋ねる。

 ノワールは新しい葉巻に火と付けながら、

 

「ビギーは頭は悪いが、荒事(・・)には慣れていますからな。この俺も何度も頼ったことがある」

 

 あくまで冷静に、そう答えて見せる。

 

「アイツが上手くやれば、二~三日以内に鞄に押し込められたアル王子の死体がリッチャ殿の下へ届けられるでしょう。その時が楽しみですなぁ、ガハハハハ!」

 

 なにも心配いらないとばかりに、豪快に笑い飛ばすノワール。

 そんな彼の姿を、執事であるアンブローズは微笑を口元に浮かべたまま無言で見つめていた。

 

 




週一での投稿ができればなどと申しておりましたが、書籍化作業や他にも諸々の理由でリアルが忙しくて普通に無理でした……。
申し訳ありません……(´×ω×`)

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