【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第243話 嵐の前の

 

「本っっっっっ当に申し訳ありませんでした……! このコピル・バタライ、一生涯の不覚……!」

 

 俺たちの目の前で、コピルはとめどなく冷や汗を流しながら深々と頭を下げる。

 それも地面に両膝を突いて。

 

 誰に対してって?

 そりゃ俺やレティシアの知らぬ間に、なんか事件を解決してたエステルに対して。

 

「エステル殿がいなければ、今頃アル王子は……それどころかネワール王国も……! 本当になんとお礼を申し上げたらいいのか……!」

 

「フフン、そうでしょうそうでしょう。私ってばグッジョブですわよねぇ! もぉっと褒めてもよろしくてよ、オーッホッホッホ!」

 

 なんか急速にゲッソリしていくのが目に見えてわかるコピルとは対照的に、口元に手を当てて高笑いを上げるエステル。

 

 ――ついさっき知らされたことだが、なんと舞踏会場の外でアル王子が誘拐未遂に遭っていたらしい。

 で、それをエステルが防いで、犯人をボコボコに叩きのめしたんだと。

 

 主犯の男も可哀想に。

 あのエステルのバカ力(・・・)でぶん殴られたら、顔の形なんて原型も留めないだろうよ。

 いや別に同情の気持ちなんざ一ミリも湧かないが。

 

 仲間の誘拐犯たち共々取っ捕まったし、もう一生牢屋の中から出られないだろうけど、それ以前に病棟のベッドからしばらく動けまい。

 

 俺だってエステルの怪力にはぶん殴られたくねーもの。

 お~お、くわばらくわばら……。

 

「おめおめと主を連れ去られたとあっては、このコピル・バタライ、末代までの恥……。もうアル王子の護衛に相応しくありませぬ……」

 

「ちょっと、別にあなたは悪くなくってよ」

 

 酷く落ち込んだ表情のコピルに対し、エステルはちょっと面白くなさそうに言う。

 

「私を外に連れ出して二人っきりになりたいなんてお抜かしになりやがったのは、アル王子の方ですもの」

 

「い、いや、しかし……」

 

「あなたは主人の命令に従っただけ。その主人といい部下といい、なにを感傷的《おセンチ》になっているのやら……」

 

 どこからともなく扇子を取り出したエステルはそれを片手でバッと広げ、同時にもう片方の腕を掲げてマッスルポーズを繰り出す。

 

「ご覧なさい、この華麗なる上腕二頭筋! 今はただ、この私の〝(おパワー)〟を崇め奉ればいいのですわ!」

 

 如何にもお上品なお嬢様オーラを出しながら扇子で顔を仰ぎつつ、グッと腕に力を入れて見せるエステル。

 

 いやホント、そのほっそい腕の一体どこに嘘みたいなバカ力が宿ってんだよマジで。

 

「さあ、筋肉は全てを解決するとご理解できたなら、復唱! 〝(おパワー)〟ッ!」

 

「お、おパワー……!」

 

「よろしくてよ、よろしくてよ! オーッホッホッホ!」

 

 ビシッとポーズを切り替えるエステルに合わせて、同じようにマッスルポーズを取るコピル。

 ……そんなとこまでソイツに合わせなくていいんだぞ、コピルよ。

 

「……フフっ」

 

 そんなエステルたちの様子を俺の隣で見ていたレティシアが、クスッと笑みを浮かべる。

 

「優しいのね、エステル」

 

「はいぃ?」

 

「あなた今、気を遣ってワザとやってるでしょ?」

 

「!」

 

〝ギクッ〟という音が形を成したように、突然身体の動きがぎこちなくなるエステル。

 

 ああ、なるほど?

 自らの主人であり、国の王子という要人を攫われかけるという大失態を犯したコピルを、エステルなりに励まそうとしてたのか。

 

 そりゃそうだ。

 今回の一件がネワール王国に報告されれば、コピルは護衛の任を解かれるどころか最悪死罪となる可能性すらある。

 色んな意味で、責任感の強いコピルが落ち込むなって方が無理があるだろう。

 

 だからアホみたいなこと言ってたんだな。

 いや、アホみたいなこと言ってるのはいつものことかもしれんが。

 

 でもまあ確かに、こう見えて案外と気配りができる奴ではあるよな、エステルは。

 

「――あ~ら。事件の後にしては、なんだか賑やかね♪」

 

 俺たちがそんな会話をしていた時だった。

 どこからともなく、アルベール国王が俺たちの前にふらりと現れる。

 

 彼の姿を見たレティシアは、我先にと歩み寄っていく。

 

「アルベール国王、アル王子のご様子は……」

 

「大丈夫よ。かなり落ち着いてるし、今は超厳重に警護を付けた一室の中で待機してもらってる」

 

 ちょっと打撲の怪我はあったけど~、とチラリとエステルの方へ流し目を送るアルベール国王。

 それに対し、エステルは実に気まずそうに目を背ける。

 

 なんでもコイツ、アル王子を助けるために馬車の客室(キャビン)にドロップキックをぶちかましたらしい。

 たぶんその時に客室(キャビン)の中を転げまわって打撲を負ったんだろう。

 ホントなにやってくれてんだろうな。

 

「ま、とにかくお見事よエステルちゃん。お陰様で一番厄介なパターンの国際問題は回避できたわぁん♥」

 

 パチパチパチ、と軽い拍手を送るアルベール国王。

 しかしレティシアの表情は晴れないまま。

 

「あの、アルベール国王……とても不躾なお願いとは存じておりますが、どうか今回の件のことは――」

 

「わかってるわ、内々に処理する。ネワール王国には報告しない。アタシだって、国家間の関係に亀裂を入れるのは嫌だもの」

 

「! ありがとうございます!」

 

「ま、遅かれ早かれ向こうにも情報は伝わっちゃうと思うけど。でも上手いこと手を回しておくわ」

 

 そこまで喋ったアルベール国王は「さて」と間を置き――今度は俺と目を合わせる。

 

「アルバンちゃん、ちょっといいかしら(・・・・・)河岸(かし)を変えましょ」

 

 彼は「(ツラ)を貸せ」と暗に言って、俺の返事を聞くでもなくこちらに背を向けて歩き出す。

 

 え、俺になんか用?

 レティシアに、じゃなくて?

 

 ……ま、いいか。

 

「アルバン……」

 

「気にするなレティシア。どうせ他愛もない話を聞くだけだ」

 

 微妙に不安そうな顔をする妻を宥め、俺はアルベール国王の後に付いていく。

 

 そしてしばし歩き、人気のない場所までやって来ると、彼は立ち止まる。

 ここまで来ればレティシアたちに会話を聞かれることもないだろう。

 

「で、俺に話ってなんです? レティシア(・・・・・)に聞かせられない話――とか?」

 

「あら、察しがよくて助かるわ。まあ女の子には聞かせ難い話よ」

 

 アルベール国王は壁にもたれかかり、腕を組んで話し始める。

 

「……アル王子を狙った連中だけどね、雇い主が割れたわ」

 

「え? もう(・・)っすか?」

 

「簡単よ。捕まえた四人それぞれに〝他の三人より先に洗いざらい自供してくれたら、お前だけは無罪にしてやる〟って言ったの」

 

 囚人のジレンマってヤツよ、と微笑混じりに言うアルベール国王。

 彼は話を続け、

 

「そしたら面白いことにね、全員が仲間を捨ててあっさり自供してくれたわ。仲間意識なんて皆無だったみたい」

 

「はぁ。それはなんとまぁ」

 

「裏も取れたし、アイツらはこっそり始末(・・)するつもり」

 

「いいんですか? 裁判だのなんだのやらなくて」

 

「そんなことしたら、ネワール王国の王子がヴァルランド王国内で誘拐未遂に遭いましたって宣伝するようなものじゃない」

 

「それは、まぁ……」

 

「都合が悪いことは、存在そのものを抹消するに限る――。アルバンちゃんだって、面倒事は嫌いでしょ?」

 

 アルベール国王はクスッと可愛らしく笑って見せる。

 

 ……ああ、こりゃレティシアに聞かせられないワケだわ。

 

 アルベール国王の言わんとしてることは理解できるが、それって要するに「アル王子誘拐未遂事件それ自体がウチの国に都合が悪いから、なにもなかった(・・・・・・・)ことにする」って言ってるのと同じだからな。

 

 ましてや誘拐犯を騙して、用済みになったらすぐに始末するとか。

 まさに国家の闇って感じ。

 いったいどっちが〝悪〟なんだか。

 

「で、結局アル王子を狙った主犯ってのは誰だったんです?」

 

「主犯は二人。一人はヴァルランド王国裏世界の大物ノワール・ゲッツ。もう一人は……アル王子の叔父であるリッチャ・マッラ」

 

「――!」

 

 アル王子の……叔父だって?

 なら親族から命を狙われたってことになるのか?

 

 俺は一瞬驚いたが、すぐに落ち着きを取り戻す。

 と同時に、シラケる気持ちで胸がいっぱいになった。

 

 その手の話は、貴族の世界じゃよく聞く類のモノだからだ。

 なんならイヴァンやマティアスの時も、似たような話を聞いたな。

 

「……もしかして、跡取り問題ってヤツですか?」

 

「ええ。現国王であるヤークシャ・マッラ……その息子であるアル王子が属する革新派閥と、弟であるリッチャ・マッラの保守派閥は対立しててね。次期国王はアル王子で決まってはいるんだけど、リッチャはそれを認めていないってワケ」

 

「くだらな。どこの国でもそういう権力争いはあるモンなんだな……はぁ」

 

「あら、アルバンちゃんは権力闘争ってお嫌い?」

 

「好きな奴なんています?」

 

「さあ、世の中にはいるかもよ~? ウフフ♥」

 

 ……(だる)っ。

 まさかこの人、自分がそうだとでも言うつもりか……?

 権力争いそれ自体が楽しいと……?

 

 怖いわ。怖いを通り越してキモいわ。

 いや、キモいは流石に失礼か……。

 

「リッチャはアル王子がヴァルランド王国を訪れている内に、手を打とうと思ったみたいね。それでわざわざこの国までやって来て、ノワールに声をかけた」

 

「んで、失敗したと」

 

「ノワールは幾つかの貴族と癒着してて、アタシも中々手を出せずにいたんだけど……これで大義名分ができちゃったわ~」

 

 ヘラヘラと言うアルベール国王。

 しかしその目つきは、一瞬たりとも鋭さを失わない。

 

「――リッチャが国外へ逃亡する前に、全部カタ(・・)を付けちゃおうと思ってるの。手伝って頂戴な、アルバンちゃん」

 

「……面倒くさいんですけど」

 

「手伝ってくれたら、あなたの愛する奥さんに可愛いドレスでもプレゼントしちゃおうかな~?」

 

「すみません、手伝います。手伝わせてください」

 

「そうそう、それでいいのよ~♥ アルバンちゃんがいれば百人力だわ~♪」

 

 満足そうにパンッと両手を合わせ、満面の笑みを向けてくるアルベール国王。

 

 うぅ……やっぱり体よく利用されてるよな……。

 我ながら、(レティシア)のこととなるとつい手の平を返してしまうのが情けない……。

 

 でも見たいって、レティシアの可愛いドレス姿……!

 国王がプレゼントするなら、そりゃもう凄い一着になるはず……!

 

 なら背に腹は代えられぬ……!

 レティシアのドレス姿に釣られるなら、それも本望……!

 

 やれやれ、面倒くさいけど……ひと仕事やりますか。

 

「いつでも動ける準備をしておいて頂戴な。騎士の頭数が揃い次第――ノワールの(ねぐら)に突入するわよ」

 




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