【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第244話 責任のなすり付け合い

 

 エステルがアル王子を救出してから、およそ二時間後。

 

「――これはどういうことだッ! ノワール殿ッ!!!」

 

 ノワールの豪邸の地下室に、リッチャの怒鳴り声が木霊する。

 

 ――ほんのついさっきの話だった。

 リッチャとノワールの下に、「ビギーたちが王国の騎士に連行された」という報せが届いたのは。

 それはつまり、アル王子の暗殺に失敗したことを意味していた。

 

 それを聞いた途端リッチャは怫然し、仕事(・・)を依頼したノワールへ怒りの矛先を向ける。

 

「二~三日以内にアル王子の死体が届くと、自信満々に言ったはずだぞ!?」

 

「そ、それは上手くいった場合の話で……」

 

「いや、アル王子を仕留め損ねただけならまだいい! あのビギーとかいう者たちが捕まったとあっては、我らが関与しているのが発覚するのも時間の問題ではないかッ!」

 

 今この状況は、リッチャにとって由々しき事態だった。

 

 自分の関与がヴァルランド王国にバレるのは大した問題ではないが、万が一にも本国であるネワール王国へ情報が伝わったりすれば死活問題となる。

 

 自分の兄でありアル王子の父でもあるヤークシャ・マッラ国王は病床に伏しているとはいえ、まだ存命。

 

 暗殺未遂――国の未来を任せると決めた息子が殺されそうになったとその耳に入れば、如何に実の弟と言えどヤークシャはリッチャを許さないだろう。

 

 王族からの追放どころか、謀反人として公衆の面前で首を刎ねられるのは間違いない。

 

 国外逃亡という選択肢もなくはないが、次期国王の座を狙うプライドの高いリッチャにとって、それは最悪にして最後の選択肢。

 

 それを選ぶということはネワール王国の王になることを諦め、己が権力闘争に負けたと世間に知らしめることに他ならない――。

 リッチャには、絶対に認められなかった。

 

 だからこそヴァルランド王国へ入国する際に裏世界の住人を調べ上げ、多額の支払金を用意した上でノワールを尋ねたのだ。

 

「どう責任を取るおつもりか!? 答えよノワール・ゲッツ!」

 

「せ、責任だと!? 何故俺が責任なぞ取る必要がある!? あのビギーの役立たずが失敗したのが悪いのだろうが! 俺が責任を取る必要などない!」

 

「な、なんだと……!? ふざけるな! それが一介の組織の長が言うセリフかッ!?」

 

「黙れこの田舎者風情がッ! 金があるから親切にしてやっていれば、いい気になりやがってッ!」

 

 両者の空気は最悪にして一触即発。

 その場にはリッチャの護衛やノワールの護衛数名が居合わせていたが、恐ろしくてとてもとても口出しなどできない状況だった。

 

 ――しかし、

 

『……失礼します、ノワール様』

 

 コンコンッというノック音と共に、ドアの向こうから聞こえる声が両者の間に割って入る。

 

『アンブローズでございます。少々お耳に入れたいことがございまして』

 

「後にしろ! 今取り込み中だッ!」

 

『申し訳ございません。ですがそのお取込みは無意味(・・・)なモノかと』

 

「あぁ……!?」

 

 ガチャリ、という音を立てて、ノワールの許可を待つこともなくドアは開かれる。

 

 そして片眼鏡(モノクル)をかけた優男風の執事アンブローズ・ガルシアが、微笑を浮かべながら姿を現した。

 

「おい! なに勝手に――ッ!」

 

「あの猿人間がしでかした失態ですが……無事尻拭い(・・・)をして参りました」

 

「「…………は?」」

 

 ノワールとリッチャの声が見事に重なる。

 怒りで顔を真っ赤にしていた二人の表情は呆気に取られてポカンとし、目を丸くしてアンブローズを見る。

 

「リッチャ様がご所望の〝アル・マッラ王子の首〟ですが……この通りご用意してございます」

 

 アンブローズが立ち位置をずらすように、身体を退ける。

 すると、彼の背後に隠されていた一人の少年の姿が露わとなる。

 

 両手を縛られ、口には猿轡を噛ませられ、細い首にはリード付きの首輪をはめられて、まるで奴隷のようにアンブローズに身を引かれる――恐怖で怯え切った表情の美少年。

 

 アル・マッラ王子――。

 つい二時間前に、確かにエステルが助けたはずのアル王子の身柄が、間違いなくそこにはあった。

 

 

 

 ▲ ▲ ▲

 

 

 

《レティシア・バロウ(オードラン)視点(Side)

 

「それでエステル、アル王子に嫁ぐ決心は固まったかしら?」

 

「……あなたはどうあっても、私とあのガキンチョをくっ付けたいんですのね……」

 

 エステルは呆れ顔をして言う。

 そんな彼女の顔が面白くて、私は失礼だとわかりながらクスッと笑ってしまった。

 

 ――私とエステルは今、救出されたアル王子を尋ねるために王城までやって来ている。

 

 アルベール国王には許可を貰ったし、アル王子もまだ不安を感じているだろうと思って。

 アルバンはなにかアルベール国王とお話があるみたいだから、今は別行動中。

 コピルさんも少し遅れて王城(ここ)へやって来る予定。

 

 ちなみにエステルの着ていたドレスはボロボロになってしまっていたから、彼女は普段着に着替えて髪型もいつも通りに戻している。

 

 あの紅いドレスはよく似合っていたし、個人的にはもったいないと思ったりもするけれど。

 

 でも裾が破けてボロボロになってしまっていたし、仕方ないわよね。

 

「でもエステルだってアル王子のことを悪しからず思っているからこそ、身体を張って彼を助けたのでしょう?」

 

「わ、私は別に……! 目の前で子供(ガキ)が連れ攫われたら、誰だって同じことをしますでしょうが!?」

 

「フフっ、そうかもね」

 

 彼女、やっぱりまだ抵抗感があるみたい。

 でもアル王子との距離が縮まってきているのは、間違いないのでしょう。

 

 なんにせよ、アル王子の一途な想いが実ってくれるのは――

 

 そんなことを思っている内に、私とエステルはアル王子が匿われている王城の一室の前まで到着。

 ドアの前には、全身に鎧を纏った警護の騎士が二人佇んでいる。

 

「警護ご苦労様ですわ、騎士の方々。アル王子がこの部屋にいらっしゃられると伺ったのですけれど――」

 

 私は二人の騎士に話しかける。

 しかし――彼らは真っ直ぐ前を向いたまま微動だにせず、私と目を合わせない。

 というよりも、微動だにしない。

 

「……? あの、失礼?」

 

「「…………」」

 

「ちょっと、淑女を無視するとはいい度胸してるじゃ――!」

 

 痺れを切らしたエステルが、片方の騎士の肩を掴む。

 

 すると――その直後。

 騎士はグラリと体勢を崩し――その場に倒れた。

 

 まるで辛うじて直立姿勢を維持していた肉体が、そのバランスを失ったかのように。

 

 続けて、もう片方の騎士も同じように床へと倒れる。

 

「「――――ッ!!!」」

 

 驚いて両目を見開く私とエステル。

 

 私たちはすぐに気付いた。

 床へ倒れた騎士たちの瞳に――生気がないと。

 この二人は――もう死んでいると。

 

 きっと私たちがここを訪れるより前に、彼らは立ったまま絶命していたのであろう。

 

 明らかに〝何者かがここを襲撃したのだ〟ということが、私とエステルには瞬時に理解できた。

 

「ア…………アル王子ッ!!!」

 

 即座に目の色を変えて臨戦態勢へと入ったエステルは、二人が守っていた部屋のドアを蹴り破る。

 

 そして勢いよく中へと踏み込むと――そこには片眼鏡(モノクル)をかけた、執事風の出で立ちをした男の姿があった。

 




褐色肌の美少年が首輪に繋がれて片眼鏡の優男風執事にリードを引かれるのは、別に作者の趣味ではありません。
本当です。信じてください( ´∵`)

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