【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第252話 お前、なにを知ってる?

 

「さて……それではまずは、小手調べ(・・・・)と参りましょう」

 

 アンブローズはどこか楽し気に俺のことを見つめてくる。

 

 すると奴の影が再び蠢き、影の中から三つの物体がズルリと這い出してきた。

 その三つの物体は最初こそドロドロとした不定形だったが、すぐに同じ形の〝怪物(モンスター)〟へと変態する。

 

 大きな一対の羽を生やした、気色の悪い生命体。

 図体はヒグマのように大きく、その外観はまるで鳥や昆虫、そして爬虫類など複数の種を無理やり組み合わせたかのようにグロテスク。

 

 だが如何とも名状しがたい姿は、カラスにも似ず、モグラにも似ず、ハゲタカにも似ず、アリにも似ない。

 一つ明確に言えるのは、まるで腐乱死体みたいな悪臭を放っているということだけだ。

 

「我が眷属――〝ビヤーキー〟たちよ、あの男を食い散らかしてしまいなさい」

 

『『『ギイイイィィィッ!』』』

 

 まるで黒板を爪で引っ掻くような金切り声を上げながら、一斉に飛び掛かってくる怪物(モンスター)共。

 

 俺は面倒くせぇなぁと思いながら僅かに剣を揺らし、

 

「きっしょ」

 

 地面を蹴り、こちらから飛び込んで――剣を振るう。

 刹那――三体の怪物(モンスター)共は、一瞬で惨殺死体へと変わり果てた。

 

 俺の放った斬撃は気色の悪い身体を三枚どころか五枚におろし、文字通りバラバラの肉塊へと変えてやった。

 

 吐瀉物にも似た緑色の鮮血がビチャッと地面にぶちまけられ、さっきよりさらに悪臭を臭わせる。

 

 う~わ、きったな。

 服に返り血とか付いてないよな?

 

 ああよかった、服は汚れてないっぽい。

 こんなくっせぇ臭いを浴びて妻の元に戻るなんて、まっぴらごめんだからな。

 

「――! ほう……」

 

 俺が怪物(モンスター)共をバラバラに斬り裂いた光景を見たアンブローズは、少し驚いた顔をする。

 

「いやはや……我が風の眷属(・・・・)三体を、こうも容易く瞬殺ですか。それも返り血すら浴びずに。常人であれば、抵抗もできずに貪り食われるというのに」

 

「こんなくっせぇ虫けらの血なんて浴びてられるか。次は手前(テメェ)だ、クソ野郎」

 

 コイツ、暇潰しでもしてるつもりか?

 眷属だかなんだか知らないが、付き合ってられん。

 

 さっさとぶっ殺すなりなんなりして、エステルとアル王子を助け出そう。

 

 そんで俺は何事もなかったように(レティシア)の下に帰って、(レティシア)に褒めてもらう。

 あとは一緒にベッドにくるまって愛を囁きながら(レティシア)を抱きしめて、「レティシアも今日はお疲れ様」って目一杯甘えさせてあげるんだ。

 

 レティシアは気丈なしっかり者だから、甘えていいんだぞって言わなきゃ甘えてくれないからな。

 

 そんな健気な妻を愛して甘やかして癒してあげるのが夫の役目であって、俺の大事な大事な一日の最後のルーティン。

 

 その貴重な時間を……こんなゴミクズ風情に、一秒だって邪魔されてたまるか。

 

 俺は苛立ちと殺気を隠そうともせず、ズカズカとアンブローズへ距離を詰めていく。

 

「ククク、これは想像以上の力だ。ですが、面白くありませんねぇ――こんな時まで()の心配ですか?」

 

 ――その一言が奴の口から出て、俺はピタリと足を止める。

 

「……あ?」

 

「顔に書いてありますよ、可愛い妻のことで頭がいっぱいだと。やはりレティシア夫人も攫っておけばよかったでしょうか」

 

 そう言って右腕を上げ、片眼鏡(モノクル)を動かすアンブローズ。

 

 俺は一気にアンブローズ目掛けて間合いを詰め――その右腕を斬り飛ばした。

 

「――おや」

 

 放り投げられたかのように軽々と宙を舞うアンブローズの片腕。

 

 殺意と激情に身を委ね、少しの躊躇いも迷いもなく振り抜かれた剣の前には、奴の腕など紙切れも同然。

 

 刎ねられた腕の切断面から、真っ赤な血飛沫が噴き出る。

 しかしアンブローズは痛がる素振りを見せず、それどころかややおどけるように肩を竦めた。

 

「クク、冗談ですよ」

 

(レティシア)の名を口にするな」

 

「やはり聞いた通り、あなたは妻のこととなると目の色が変わるのですね。ええ、ええ、あなたのその目(・・・)が見たかった」

 

 噴水のように噴き出ていた血飛沫が、ピタリと止まる。

 同時に斬り落とした右腕の切断面からウネウネとなにかが生えてきて、それは瞬く間に触手の体を成した。

 

 そんな光景を見て――俺は剣に憤怒の覇気を込める。

 ドロドロと煮え滾る、マグマのような覇気を。

 

 コイツはここで殺さなきゃダメだと、そう確信して。

 

「ほ、お……これは凄まじい」

 

 アンブローズもそんな俺を見て、初めて少しだけ表情を引き攣らせる。

 

「なるほど……それがこの世界の物語を攪拌(かくはん)した、〝主人公殺し〟の力ですか」

 

「……………………なに?」

 

 ――〝主人公殺し〟。

 その一言を奴の口から聞いた刹那、俺は我が耳を疑った。

 なにかの聞き間違いかと、本気で思った。

 

 しかし、アンブローズは話を続ける。

 

「本来この世界の中心であり、この物語の出発点であり、この星の基点ですらあった、レオニール・ハイラントという(ことわり)を抹殺せしめし凶変の力……。彼女(・・)が執着するのも無理からぬことだ」

 

「――おい、待て」

 

 堪らず、俺は言葉が口をついて出る。

 

「お前……なにを言ってる? いや――なにを知ってる(・・・・)?」

 

「なにを? そうですねぇ……なにもかも(・・・・・)、でしょうか」

 

 アンブローズは触手と化した右腕を蠢かせながら、俺へと突き付けてくる。

 

「我ら『薔薇色の黄昏(ローゼン・トワイライト)』に知らぬモノなし――。さあ共に踊りましょう、この〝黄衣の夜〟の下で」

 




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