【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第257話 悪い夢から覚めても――

 

《アル・マッラ王子視点(Side)

 

 ――もしかしたら、余は悪い夢(・・・)を見ているのかもしれない。

 

 現実とは思えない。

 なにもかもが。

 

 この国に来てからというもの、信じられないことばかり起きている。

 

 悪漢に攫われ――

 執事のような男に捕まり――

 挙句は、怪物のような巨漢に襲われかけて――。

 

 余はもしかしたら違う国ではなく、違う世界へ来てしまったのではないか……?

 そんな風に思えてしまうほど、なにもかも現実味がなかった。

 

 

 けれど余にとって、一番現実と思えないのは――〝エステル殿と出会えたこと〟。

 

 

 ……本当はさっきだって、怖くて怖くて仕方なかった。

 異形と化した巨漢を目の前にした時、足も手も唇も、全身が恐怖で震えていた。

 

 余は無力だ。余は弱虫だ。

 所詮、余はなにもできない〝ただの子供〟にすぎないのだ。

 なにもできない余が、異形と化した巨漢を相手になにかできるワケもない。

 

 だけど――それでも――余の身体は、自然とエステル殿の前に立った。

 

 余はエステル殿を守ること以外、なにも考えられなかった。

 

 余はここで死ぬんだと思った。

 本気で、心から死を覚悟した。

 死ぬのは、とてもとても怖かった。

 

 でも、逃げなかった。

 逃げてはならないと思った。

 逃げるなんてできなかった。

 

 自分が死ぬより――大事な女性が殺されてしまう方が、ずっとずっと怖かったから。

 

 余が無力な子供だったとしても――愛する女性を守りたいと思う気持ちだけは、誰にも負けないと思ったから。

 

 けれど、そんな悪夢も終わりを迎えようとしているのかもしれない。

 

「う――うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?!?」

 

 余とエステル殿は、頭上にできた切れ目に向かって吸い込まれていく。

 まるで夢から覚めるみたいに。

 

 悪夢の終わり――。

 それは安堵を覚えると同時に、余は「嫌だ」と思った。

 

 だってこの夢から覚めてしまったら――エステル殿も消えてしまうではないか――。

 

 そんなの、嫌だ。

 愛する女性と、離れたくない。

 

 余はギュッとエステル殿の身体に抱き着く。

 

 エステル殿――。

 

 エステル殿――!

 

 

 

 ▲ ▲ ▲

 

 

 

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?!?」

 

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?!?」

 

 斬り裂いた影の中から、エステルとアル王子の二人が一緒に飛び出してくる。

 それも元気いっぱいの悲鳴を奏でながら。

 

 ああ、ちゃんと生きてたみたいだな。

 よかったよかった、これならレティシアに怒られずに済みそうだ。

 

「――よう。無事だったみたいだな、お前ら」

 

 ガチッと抱き合ったまま地面に着地した二人に対し、俺は微笑と共に言葉をかける。

 

 どうにか上手くいったな。

 アンブローズの奴が自分のことを「風を司る神々のなんちゃら~」って言ってやがったから、風属性と相性が悪い〝土属性〟の魔力を刃に宿してみたら大当たりだった。

 

 アイツの膨大な魔力相手に通用するか、そもそも影を斬り裂いてエステルたちを救い出せるか、ぶっちゃけ未知数だったけど……思ったほど大したことなかったな、〝外なる神〟なんて。

 

 俺に助けだされた二人は、まるで天変地異でも目撃したみたいに目をパチクリさせて俺の方を見てきた。

 

「あ、あら……? オードラン男爵……?」

 

「ん~、大丈夫かエステル? なんか頭からめっちゃ流血してるけど」

 

 なんかヤケにボロボロになって、オマケに額から思いっきり流血した跡があるエステルの姿。

 あっちもあっちで、影の中でなにかと戦わされてたっぽい。

 

 でも――我がFクラスが誇る〝怪力お嬢様〟を甘く見たな。

 素手での殴り合いなら俺だって相手したくないエステルを、そんな簡単に潰せるワケないだろって。

 

「っていうか……せっかく急いで助けてやったってのに、見せ付けてくれるじゃねーか」

 

「「へ?」」

 

 俺がちょっと煽るように言うと、ようやくエステルとアル王子は互いがまるで恋人同士(・・・・)みたいに抱き合っていることに気付いたらしい。

 

 直後にハッとした二人は、慌てて距離を離した。

 

「ちっ、違いますわ! これは、その、たまたまと言うか……!」

 

「余、余も、そういうつもりでエステル殿と抱き着いていたワケでは……!」

 

 あ~あ~、顔を真っ赤にしちゃって。

 後でレティシアに教えたろ。

 きっと喜んで聴いてくれるぞ~。

 

 ――ま、それは後のお楽しみとして、

 

「さーて」

 

 俺は剣を握り直して、改めてアンブローズの方を見つめてやる。

 

「後はお前をぶっ殺すだけだな」

 

「…………」

 

「ちゃんと生きたまま二人を助けだしてやったけど、なんか負け惜しみはあるか?」

 

「……いや、はや……これはこれは……」

 

 アンブローズは、ただただ驚いたような顔をして見せる。

 度肝を抜かれた、というか。

 なんともカミサマらしくない表情だな。

 

「ク、クク……驚かされましたよ、予想以上です。まさか私の〝影〟を斬るなんて、そんな無茶苦茶な真似をする人間がいるとは……」

 

 アンブローズはまるで口から出す言葉が見つからないかのように、ややしどろもどろなりながら言う。

 

「なるほど、なるほど……あの女(・・・)が気に入るワケだ」

 

「おいおい……もっと悔しそうな言葉を吐いてくれよ」

 

 俺はタンッと地面を蹴り――アンブローズへ肉薄。

 そして剣に土属性の魔力を込め、思い切り振り被る。

 

「でないと、殺し甲斐がないからさ」

 

 冷たく言い捨てると同時に、俺はアンブローズの胴体を一刀両断した。

 

 宙へと飛ぶアンブローズの上半身。

 だが――

 

「実に、納得致しました」

 

 斬り捨てた直後、二つに分かたれたアンブローズの身体が消失(・・)し始める。

 

 まるで塵のようにサラサラと崩れ、風に流されて――そこにあったはずの奴の身体は、あっという間に消えてなくなってしまった。

 

『お付き合い頂きありがとうございました。あなたがどれだけ異常(・・)なのか、よくわかりましたよ』

 

「おい、煽るだけ煽って逃げるつもりかよ」

 

『ええ。あなたが何故〝主人公殺し〟足り得たのか、見定めることができましたので』

 

 もはやどこにもアンブローズの姿は見えない。

 だが僅かに吹く風の中に気配が混じり、『フフッ』という耳障りな笑い声が聞こえてきた。

 

『いずれまたお会いしましょう。いずれまた――〝薔薇色の黄昏時〟に』

 




ショタのカッコいいところを見て興奮するのか……
それともショタのかわいそうなところを見て興奮するのか……
きっとこれはコロ〇ロを読んで育った派とボ〇ボンを読んで育った派で意見がわかれ、血で血を洗う派閥抗争に発展するであろう……(ノ ○ Д ○)ノ Σ(゜д゜lll)

たぶん次話~次々話くらいで第2部・第3章完結となると思います!

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