【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第270話 五百年前の真実

 

「〝転生者〟……だって……ッ!?」

 

 それは突然に――あまりにも突然に打ち明けられた言葉だった。

 

 その言葉を聞いて、俺の心臓がドクンと跳ねる。

 全身が強張り、五臓六腑が凍り付くような感覚。

 頭の中がほとんど真っ白になる。

 

 たった一言、たった三文字の言葉。

 それを聞いただけで直前に自分がなにを思い、なにを考えていたのかすら、忘却の彼方へと消え失せてしまう。

 それほどまでに、俺にとっては衝撃足り得た。

 

 だってそれ(・・)は――エルザ亡き今、もはや自分(アルバン・オードラン)以外にこの世界には存在しないと、そう思い込んでいたモノだから。

 

「信じられない、という顔をしているね」

 

「……!」

 

「無理もない。というより、思っていた通りの反応だ」

 

 驚きと困惑を隠せない俺とは対照的に、ルイス第一王子は相も変わらず落ち着いた口調で言う。

 まさに当人の言う通り、俺の反応など見越していたと言わんばかりに。

 

「僕が〝転生者〟だと打ち明けて驚かなかったのは、これまでたった一人だけ。そこにいる出来のいい弟だけだからね」

 

 そう言ってルイス第一王子はアルベール国王の方へと視線を流す。

 アルベール国王は腕組みしたままなにも言わず、黙って俺たちの会話を見守り続ける。

 

 俺は絶句して、ルイス第一王子に返す言葉すら見つけられなかった。

 思っても、思ってもみなかったからだ。

 まさか――まさかその言葉を、自分以外の誰か(・・・・・・・)から聞かされる日がくるだなんて――

 

「さて、どうだろう? キミにここから先の話を信じる気はあるかい、オードラン男爵?」

 

「い、いや……その……」

 

「まあいい。僕は噓偽りなく話すから、信じるかどうかはキミが決めるといい」

 

 あくまで淡々とした語り口で言葉を紡いでいくルイス第一王子。

 そんな彼の様子を見ていて、俺はふと違和感を覚える。

 

 ん――? あれ――?

 この感じ……もしかしてルイス第一王子、俺も〝転生者〟であることに気付いていないのか……?

 

 いや……むしろそれが当然か。

 俺だって自分以外に〝転生者〟がいるだなんて、今この瞬間まで露ほども考えたことがないもんな……。

 ましてや目の前にいる人間が自分と同じかもしれないだなんて、気付きようもないだろう。

 

 どうする――?

 こっちも同じように打ち明けてみるべきか……?

 いや、もう少し様子を見てからにすべきか――

 

 極力表情に出さないようにしつつ、俺はそんな風に内心で考えを巡らせていたのだが、

 

「僕は一言で言って、〝過去からやって来た人間〟なんだ」

 

 そんなルイス第一王子の一言を聞いて、こちらの思考は更新されるかのように再度途切れる。

 

「過去……?」

 

「前世の記憶を持ったままこの時代に生まれ直した、生まれ変わり(・・・・・・)……とでも言ったらいいかな。再誕者なんて呼んでもいいかもしれないね」

 

 過去――生まれ変わり――再誕者――だって……?

 

 なんだそれ、俺とは違うぞ。

 俺は別の世界からの〝転生者〟だ。

 

 俺はこの世界がファンタジー小説の世界だと知っていて、自分が本来破滅するはずの悪役キャラであることを知っている、言わば異世界の人間――そういう意味での〝転生者〟。

 だから俺はこの世界の過去なんて知らない。

 

 ならつまり――ルイス第一王子は、俺とは異なる転生を遂げた人間だっていうのか……?

 

「前世で僕は、今からおよそ五百年前の時代に生きていた。――オードラン男爵、キミは第一次ゼネバトス会戦を知っているかな?」

 

「い、いや、えぇ~っと……」

 

 え、なんだっけそれ……?

 歴史なんて全然興味ないし、俺……。

 

 答えに窮していると、とアルベール国王が「ハァ」とため息を吐いて呆れ気味な目線を俺へと向けてくる。

 

「アルバンちゃん、あなた〝自分には賢妻(レティシア)がいるから勉学は彼女に頼ればいい〟とでも思って、普段からお勉強サボってそうよね」

 

「ふぐっ……!?」

 

「流石にもうちょっと座学を身に着けた方がいいとは思うわ~。まあ人間なんて学がありゃいいってモンでもないけど」

 

 アルベール国王はそう言いつつ執務室の中を歩き、窓際へと向かう。

 

「――五百年前、現在のヴァルランド王国領域を完全に統治下とした王家は、ヴァルランド王国の建国を正式に宣言。だけどそれを認めない周辺諸国はヴァルランド王国へ宣戦布告し、天下分け目の大戦争が勃発――それが第一次ゼネバトス会戦よ」

 

 窓から城下を眺め、そう語るアルベール国王。

 

 ああ……そういえば、そんな話を授業で聞いたような気も……?

 いつだったかは忘れたけど、パウラ先生が問題を出してイヴァンの奴が間違えて、その後レティシアが正解してたんだっけな。

 

 記憶が正しければ、確かその時になんとかって人名も――

 

「その戦争の最中、ヴァルランド王国軍を率いていたのが当時の国王〝ドウエル・ヴァルランド〟。その人こそが――」

 

「――僕(・)、なのさ」

 

 アルベール国王の説明に対し、ルイス第一王子が言葉を繋げる。

 それを聞いて、思わず俺は「え?」とルイス第一王子の方へと視線を向け直した。

 

 

「改めて自己紹介をしよう。僕の本当の名前、つまり転生前の名はルイスではなく――ドウエル。〝ドウエル・ヴァルランド〟。五百年前の第一次ゼネバトス会戦を経験し、ヴァルランド王国をこの地に築いた建国の王(・・・・)……それが僕なんだ」

 

 

 車椅子の上で、ルイス第一王子は微笑を口元に浮かべて言う。

 

 ヴァルランド王国――建国の王――。

 その響きを聞いて、流石の俺も唖然としてしまう。

 

 俺たちが生活する場所・文化・歴史……そしてファンタジー小説世界の舞台であるこの国を五百年も前に創った張本人が、目の前にいる――。

 

 俺自身も〝転生者〟であるというのに、それはとてもじゃないがすんなり受け入れられるような話ではなかった。

 

「……――」

 

 なんと返したらいいか、俺は言葉を失ってしまう。

 だが少なくとも、俺を見るルイス第一王子の目(・)は嘘を言っているとは思えない。

 

「イメージと違う、かい?」

 

 俺が返答に詰まっていると、今度は苦笑気味になってルイス第一王子が言う。

 

「え?」

 

「五百年経ったこの時代では、ドウエル・ヴァルランドは偉人(・・)として語り継がれているだろう。僕が知る限り、ドウエルといえば〝戦争の達人〟〝大戦争を戦い抜いた猛将〟というイメージを国民に持たれている。――知略溢れ、不屈の精神を持つ、獅子の如き勇猛果敢な武人だと」

 

 ああ……そういえば、なんとなくそんなイメージもある……かも……?

 いつかの授業の時も、イヴァンの奴が珍しく素直に「名君にして戦争の達人」だと褒めてたっけな。

 いつものアイツなら、歴史上の人物だろうと皮肉交じりに評価するのに。

 

 俺は興味ないのでこれといった先入観もないが、ヴァルランド王国国民の中では戦略家とか武人ってイメージを持たれているのは間違いないのかもしれない。

 そういう意味では、確かにイメージと違いすぎるかもな。

 

 今のルイス第一王子を見ると――その姿からは、とてもじゃないが武人や猛将って言葉は連想できない。

 華奢で線が細く、ましてや車椅子に座っていることもあって、触れれば壊れてしまいそうな儚い雰囲気さえある。

 

「残念なことに、生まれ直したこの身体は羸弱(るいじゃく)でね……。ドウエル・ヴァルランドを屈強な武人と思っている者が今の僕を見れば、きっと酷くがっかりしてしまうだろう」

 

「い、いや、別にそんなことは……」

 

「もっとも近年では歴史が研究し直されて、僕の評価も変わりつつあると聞いている。僕としてはむしろ、そちらの方が納まりがいい」

 

「? というと……?」

 

「第一次ゼネバトス会戦で真の救国者足り得たのはドウエル・ヴァルランドではなく、ジオール・ド・クラオンの方――という評価だよ。……これは真実なんだ」

 

 ルイス第一王子はどこか物憂げに、やや目を伏せながら語る。

 

「……彼こそがまさに救国の主であり、後世まで語り継がれなければならない名君だった」

 

「クラオンって……もしかしてユーグ・ド・クラオン閣下の……」

 

「ああ。彼の先祖であり、僕の親友だった男さ。第一次ゼネバトス会戦の際に、彼が王国騎士団を旗揚げした。もっとも最初はたった七人の騎士しかいない、騎士団とは名ばかりの存在だったけれどね。でも……彼らがいなければ、今のヴァルランド王国はなかったに違いない」

 

 どこか懐かしそうに語るルイス第一王子。

 同時に何故か彼の口元から微笑が消え、

 

「本当に……僕など(・・・)より、ジオールが転生していれば……」

 

 とてもとても小さな声で、そんなことを呟いた。

 それを聞いたアルベール国王が、僅かに身を乗り出す。

 

「ちょっと、お兄様――」

 

「すまない、つい独り言を言ってしまった」

 

 ルイス第一王子は「とにかく」と話題を戻し、

 

「僕やジオールは五百年前に周辺諸国相手に戦った。けれど――それは表の歴史(・・・・)でしかない」

 

「表の歴史……?」

 

「僕らはあの時――歴史の裏側で〝外なる神々〟に操られた国々と戦っていたんだ」

 

「――――!? なん……だって……ッ!?」

 

「〝外なる神々〟が周辺諸国の王たちを操っていたのさ。僕らが戦った〝外なる神々〟は全ての国の王を傀儡とすることで、この世界を陰から支配しようとしていた」

 

 この世界を、陰から支配する――?

 それを聞いて、俺の脳裏にアイツの言葉が思い起こされる。

 

 

『〝世界の救済〟』

『迷える子羊たちを諭し導き、そして世界に平穏をもたらす。それが『薔薇色の黄昏(ローゼン・トワイライト)』の目的なのです』

 

 

 何度身体を斬り刻んでも死ななかった、あの執事姿の化物野郎――。

 アンブローズとか名乗ったあの男は、そんなことを言っていた。

 

 所詮はくだらん戯言だと一蹴してやったが……まさかアイツらは、五百年前も前から同じこと(・・・・)を考えてやがったとでも……?

 

「ジオールたちが〝外なる神々〟を直接倒したお陰で……僕らはかろうじて第一次ゼネバトス会戦を制することができたんだ」

 

「……〝外なる神々〟とヴァルランド王国が、五百年前に戦ってたなんて聞いたこともない。そもそもの話、俺は奴らと戦って初めてその存在を知ったくらいだ。確かに俺は学がないかもしれないが……それでも〝外なる神々〟ってのは知られてなさすぎる気がする」

 

「当然さ。〝外なる神々〟は大いなる力を持つ人智を超えた存在。故にその存在を知るだけで人類は彼らに接触を図ろうとし、この世界へ招き入れようとする。ならば――」

 

「国家ぐるみで情報を隠蔽して歴史からも抹消して、誰も〝外なる神々〟を知らないようにしちゃいましょう――ってのを、ここ五百年間アタシたち王家はやってきたってコト。そうせざるを得ないくらい、第一次ゼネバトス会戦ってのは凄惨な戦いだったのよ……」

 

 ルイス第一王子の言葉に、アルベール国王が付け足すように言う。

 

 ははぁ……なるほどね。

 誰もが〝外なる神々〟の存在を知るようになれば、それこそ司祭ゼイラムみたいな奴がいつでも現れることになる。

 だからそもそも〝誰も知らない〟って状態にしてしまえば、誰も〝外なる神々〟に接触を図ろうとしなくなる、と。

 

 良くも悪くも、国家の情報統制を上手いこと活用してたんだな。

 道理で全く知らないワケだ。

 

 ルイス第一王子は言葉を続け、

 

「〝外なる神々〟の実在を知る者は王家の人間と、神智学(テオソフィ―)を専門に研究していたごく一握りの魔法省の人間くらいだろう。今まではそれで問題なかったが……」

 

「五百年経った今……この国の中で五百年前と同じこと(・・・・)が起ころうとしている、ってワケなのよ」

 

 再びルイス第一王子に続いて、アルベール国王が言う。

 その発言を聞いて、俺は沈黙以外の返答を見つけられなかった。

 




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