【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】 作:メソポ・たみあ
「………………レティシアを〝囮〟にする、だと……?」
聞き捨てならなかった。
断固として聞き捨てならなかった。
ふざけんな。許せない。そんなの認められない。
絶対に絶対に絶対に、認めない。
「俺の最愛の妻を……敵を誘き出す
いつでもそのか細い首を斬り落とせるよう、ありったけの殺意を露わにする俺。
そんな俺に対し――アルベール国王は壁に飾ってあった剣を手に取り、ホラントともう一人の騎士は腰の剣を抜き取る。
そして三人同時に、剣の切っ先を俺へと向けてきた。
「……アルバンちゃん、剣を下ろしなさいな」
「へぇ、剣術の覚えがあったんですね、アルベール国王」
「冗談言う場面じゃないわよ。あなた、自分がなにやってるかわかってるの?」
「国王の仰る通りだぞ、オードラン男爵」
アルベール国王に続いて、今までずっと沈黙を貫いていたホラントが口を開く。
「一体誰に剣を向けていると思っている。貴殿のやっている行為は、明確な王家への叛逆だ」
「――だから?」
「……っ」
「先に俺を敵に回そうとしたのはお前らだろうが。それにな、やろうと思えばお前らなんざ、全員一瞬で皆殺しにできるんだぞ」
なにが
真っ赤に煮え滾るマグマのような、ドロドロとした灼熱の覇気を。
そんな俺を見て、アルベール国王たち三人の表情が露骨に強張り始め、額から冷や汗を流し始める。
「お前らだけじゃない。この城にいる奴ら、この国にいる奴ら、この世界にいる奴ら――俺からレティシアを奪おうとするなら、一人残らず、一切合切皆殺しにしてやる。……
俺に向けられた三振りの剣が、カタカタと震え始める。
状況は三対一。
数の上では向こうが有利のはずなのに、三人共猛獣に睨まれたネズミのように震え上がり、青ざめている。
そんなに俺が怖いか?
そんなに俺が恐ろしいか?
でもな――俺からすれば、最愛の妻を奪おうとしてくるお前らの方が、ずっとずっと恐ろしい。
俺の生きる意味を、俺のたった一つの愛を、俺が命がけで守りたいと思う女性を奪おうとしてくるお前らの方が――俺にはまるで悪魔に見えるよ。
「俺はな……
「「「……」」」
「四肢が斬り落とされ、両目を焼き潰されようが、俺は妻を守る。妻の敵を殲滅する。相手が王だろうが国だろうが、たとえ神だろうが、全て滅ぼす。一切の例外なく、
「アルバンちゃん……」
「レティシアを〝囮〟にするなんて許さない。レティシアを餌にするなんて許さない。もしそれでも俺の妻を危険に晒そうってんなら……今この瞬間から、お前ら全員俺の
――今にも千切れそうなほど張り詰められた、緊張の糸。
執務室の中はまさに一触即発の状態となり、次に誰がなんの言葉を口にするかで死人が出るか否か決まる――というのは、誰の目から見ても明白だった。
さあ……どうなんだ?
お前らは俺の――レティシアの敵か?
それとも――
「……わかった」
短く息を吐き、ルイス第一王子が声を発する。
アルベール国王たちとは違い、彼は冷や汗一滴流さず俺の方を見てくる。
「すまなかった、発言を撤回しよう。キミの妻を〝囮〟にするような真似はしない。これでいいかい?」
「
「いいだろう。金輪際、キミの妻を〝囮〟にするような真似は絶対にしない。どうかな?」
「……」
――俺はルイス第一王子の首筋から剣を引き、同時に殺気も収める。
その瞬間、張り詰めていた空気が大きく和らいだ。
アルベール国王やホラントたちも緊張から解放されたことが表情から伺え、三人共ゆっくりと剣を下ろす。
「忘れるなよ。俺がアンタらに協力するのは、あくまで利害の一致だ。俺はレティシアを守りたいだけだからな」
「そのようだ。本当に、キミの奥方はいい夫を持ったと思うよ」
「……不愉快だ。今日はもう帰る」
剣を腰の鞘へとしまい、俺は執務室を後にする。
これ以上ここにいると……腹の虫がおさまりそうにないと、そう思って。
▲ ▲ ▲
「ハァ……心臓が止まるかと思ったわ……」
アルバンが執務室を去った後、アルベール国王は心の底から安堵のため息を漏らす。
彼は極度の緊張から解放されどっと疲れが出て、肩が軽くなる感覚を覚える。
同じようにホラントともう一人の騎士も深く息を吐き、改めて自分がまだ生きていることを実感する。
「もう生きた心地がしなかったわよ……。怪我はない、お兄様?」
「大丈夫だ。心配をかけてしまったね、アルベール」
未だ冷や汗が止まらないアルベール国王とは逆に、ルイス第一王子は涼し気な顔。
彼だって決して怖くないワケではなかったが、五百年前の動乱を経た〝転生者〟からすれば、これくらいの命の危機は既に何度か経験済みだった。
「それにしても、彼の愛妻家っぷりは大したものだね。噂に聞く通りだよ、アハハ」
「笑ってる場合……? だからこの話を切り出すなら、せめてレティシアちゃんを同伴させたタイミングにしましょうって言ったのに……」
「だがそれでは、オードラン男爵に対して
あくまで落ち着いた声色でルイス第一王子は言う。
その言葉を聞いて、グッと黙らせられるアルベール国王。
「言ったはずだ、僕は彼に
「お兄様……」
「レティシア・オードランをこの場に呼び、本人の同意を得られたなら、確かにオードラン男爵も首を縦に振ったかもしれない。だがそれは、彼の最愛の人を人質に取ったも同じになってしまう」
「……そんなの言い方の問題よ。誠実で最悪の結果を得るくらいなら、不誠実に最善の結果を得た方がずっとマシだわ」
「フフ、かもしれない。やはりキミは
クスッと微笑し、弟のことを賞賛するルイス第一王子。
しかし同時に、
「対して僕は……五百年経っても
僅かに、ルイス第一王子の顔が俯く。
その時初めて、彼の表情に陰りが出る。
「五百年前もそうだった。僕はなんの才もないお飾りの王で、ヴァルランド王国のために決死の思いで戦ったのはジオールだった。本当の英霊として讃えられるべきは、彼の方だったのに」
「――お兄様、やめて」
「僕は所詮、誠実さだけが取り柄の愚物であり
「……っ! お兄様は
アルベール国王は声を荒げる。
その姿には普段のおどけた様子は微塵もなく、ただ正直な心情の吐露があるだけだった。
「それに、お兄様が自分の正体を打ち明けたくれたあの日から、アタシはちゃんとわかってる。お兄様はお兄様だからこそ、五百年前の動乱の時代を生き抜けたんだってことを……!」
「……」
「アタシにとって
信頼できる兄弟がいるって、いいことだよねʕ•͡ω•ʔ
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