【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】 作:メソポ・たみあ
「……ただいま」
学園の個別棟へと帰ってきた俺は、憂鬱とした気持ちのまま玄関ドアを開ける。
ただいま、と帰宅を告げる言葉を口にはするが、その声量はほとんど独り言に近い。
……レティシアは、もう帰ってきてるかな?
いや、たぶんまだシャノアの喫茶店にいることだろう。
彼女はあそこで過ごす時間を大事にしてるし、ケイとかいう摩訶不思議イレギュラーが加わったとなれば話に花も咲くはず。
対して俺は、王城からほとんど足早に出て行ったしな。
正直に言えば、一刻も早くレティシアに会いたい。そういう気分だ。
だから直接シャノアの喫茶店へと戻ってもよかったのだが……楽しいひと時を送っているであろう妻の邪魔をしたくない、そんな気持ちも胸の内にあった。
流石にルイス第一王子たちも、言ったことを即座に反故にしてレティシアを捕まえるような真似はしないだろう。
ルイス第一王子が「絶対にしない」と言った時の
アルベール国王だって俺を敵に回したらどうなるかくらい、よくわかってるはずだろうし。
だからすぐレティシアに危害が及ぶことにはならないはず。
妻の姿を見たいのは山々だが、もうしばらく憩いの時間を楽しんでいてもらおう。
もっとも……不安がないと言えば嘘になるが。
などと思いつつ、
「レティシア、いるか?」
念のため、一応彼女の名を呼んでみる。
まあいませんよね、と心の中で苦笑しながら。
しかし――すぐに奥の方から〝トタトタトタ〟っという軽い足音が聞こえてくる。
そして、
「――おかえりなさい、アルバン」
今一番会いたかった、
「レティ……シア……?」
俺は一瞬呆気に取られて、呆然としてしまう。
てっきり、彼女はまだシャノアの喫茶店にいるだろうと思い込んでいたから。
「早かったのね。もう少し遅くなると思っていたのだけれど」
「キ、キミこそどうして……? てっきりまだ喫茶店にいるモンだと……」
「シャノアがね、早くケイに仕事を教えたいって張り切り出しちゃって。私がいたら邪魔になりそうだったから、早めに切り上げてきたの」
ちょっとだけ残念そうに肩を竦めるレティシア。
どうやら彼女もシャノアたちに気を遣った結果、俺と同じように家に帰ってきてしまっていたらしい。
「それで、アルベール国王からのお話はどうだったかしら? あまりお説教されていないと――」
彼女が言葉を言い終えるのを、俺は待てなかった。
早足で彼女の傍へと向かう。
そして――俺は最愛の妻を、思い切り抱き締めた。
「――ア……アル……バン……?」
「ごめん、レティシア。どうしても今、キミを抱きしめたいんだ」
今確かに、レティシアが目の前にいる。
今間違いなく、レティシアが俺の腕の中にいる。
その温かな実感だけが、俺の不安をかき消してくれた。
レティシアは最初困惑した様子だったが――すぐになにかを察したように、俺を抱き返してくれる。
「……なにがあったのか、聞かない方がいい?」
「ちょっと……色々あって……」
「もしかして、
「……」
俺は沈黙で答える。
レティシアに嘘は吐きたくない。
でも彼女を不安にさせたくもない。
そんな想いがない交ぜになって、返事することができなかった。
もっとも……賢いレティシアには、全部見抜かれちゃってるんじゃないかと思うけど。
俺が
「大丈夫よアルバン。大丈夫」
穏やかな声で、なだめるように彼女は言う。
そしてその軽い身体を、なんの抵抗もなく俺へと預けてくれる。
「私はどこへも行ったりしない。私はここに――あなたの傍にいるわ」
「ああ…………わかってる」
▲ ▲ ▲
王城でルイス第一王子と会った翌日――。
俺はレティシアと共に、シャノアの喫茶店へと向かっていた。
シャノアには〝薔薇教団〟のことを詳しく話していないから、ケイのことを監視する意味合いも込めて今後も足繫く通う予定、とはレティシアの談。
それは俺も賛成だ。
アイツの正体が何者であるかわからん内は、見張っておくに越したことはない。
それに喫茶店へはこれまでだって充分に足繫く通っていたからな。
シャノアの奴だってそこまで怪しむまい。
「……」
城下町の中をレティシアと並んで歩く。
その最中、俺は周囲への警戒を怠らない。
……ルイス第一王子が俺たち夫婦に尾行や監視の目を付けていても、なんらおかしくない。
というより、レティシアを誘拐しようと画策していても不思議はない。
昨日のルイス第一王子は一旦諦めた様子だったが、彼女が〝外なる神々〟への〝囮〟として活用できるなどと判断した以上、いつまた手のひらを返すかわかったモンじゃない。
それにアルベール国王の胸の内まではわからんからな。
あの謀略大好き人間が単独でレティシアを狙うって可能性もゼロじゃない。
とはいえ、今のところ見られているって気配を感じない。
どうやら尾行や監視の類は付いてきていないらしい。
もっとも、警戒しておくに越したことは――
「アルバン、怖い顔をしていてよ」
俺の左隣を歩くレティシアが、やや呆れた様子で言う。
「え、そう?」
「まるで、誰かに尾行されていないか警戒しているみたいだわ」
見透かすようにサラリと言ってくる我が妻。
対して、そんな一言にギクリとさせられる夫の俺。
「うっ……! べ、別にそんなことは……」
「昨日なにがあったのか、深くは聞かないけれど――そんなに気を張り詰めないで?」
こちらにリラックスを促すように、クスッと笑って見せるレティシア。
その笑みは、本当の本当に可愛い。
「私だって周囲に気を配りながら歩くことくらいできるわ。勿論、あなたほど鋭くはないけれど……夫の手を煩わせないくらいには用心しているつもりよ」
「いや、煩わせるって……俺は別にそんなつもりで――」
「あら? それじゃあ妻の私を信用してくれていないのかしら?」
「そ、そういうことじゃなくてだなぁ……! ああもう、レティシアには敵わないよ……」
伝わらぬ夫心……。
いや、伝わった上で敢えて彼女は煙に巻いているんだろう。
俺の緊張を解すために。
そんな妻の優しさが身に染みるよ。
――なんて、そんなやり取りをしている内に俺たち二人はシャノアの喫茶店へと到着。
俺は入り口ドアへと手を掛け、〝カランカラン〟という鈴の音と共に入店。
「シャノア~、来たぞ~」
まったくもって普段の通り、顔見知りの店に来た感を出しつつ店内へと入った俺――だったのだが――
〝ガッシャーン!〟
「サメ~ッ!」
「あ~ッ! ダメですケイさん! お皿はもっと慎重に運んでください~ッ!」
〝ジュ~~~プスプスプス……〟
「シャ、シャ~クッ!」
「あ~ッ! いけませんケイさん! 調理中に火の元から離れて他の作業をしないで~ッ!」
〝ジュワジュワ……ボンッ!!!〟
「シャークサメ~ッ!?」
「んあ~ッ!? やめてくださいケイさん! 揚げ物の最中に鍋に水を入れちゃダメ~ッ!」
…………喫茶店の中は、さながら戦場の如く大わらわとなっていた。
特に厨房の辺りが。
どうもシャノアがケイに仕事を教えている最中のようだが……あんまり上手くいっていないらしい。
っていうかなんか爆発して油っぽいのが飛び散ってたけど。
火事になるぞマジで。
レティシアもそんな店内の様子に困惑を隠せない様子。
「え~っと……シャノア……?」
「――はっ!? い、いらしゃいませレティシア夫人、オードラン男爵! 気が付かなくてすみません……!」
「い、いえ、いいのよ。それよりなんだか大変そう……ね……?」
「ア、アハハ……」
なんだかやつれた表情のシャノア。
……どうもケイの教育に苦労してるっぽいな?
シャノアは厨房で作業をしていたケイの方へと振り向き、
「ケイさん、少し休憩にしましょうか。奥で休んできていいですよ」
「あ、ありがとう、ございます……サメぇ……」
シャノアに言われ、疲れ切った顔をしながら目をグルグルと回して店の奥へと消えていくケイ。
立派な尻尾もなんかへにゃってるし。
向こうも向こうで疲労困憊って感じだな……。
シャノア・グレイン、苦労人気質(´·ω·`)
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