【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

273 / 273
第273話 温かな実感

 

「……ただいま」

 

 学園の個別棟へと帰ってきた俺は、憂鬱とした気持ちのまま玄関ドアを開ける。

 ただいま、と帰宅を告げる言葉を口にはするが、その声量はほとんど独り言に近い。

 

 ……レティシアは、もう帰ってきてるかな?

 いや、たぶんまだシャノアの喫茶店にいることだろう。

 彼女はあそこで過ごす時間を大事にしてるし、ケイとかいう摩訶不思議イレギュラーが加わったとなれば話に花も咲くはず。

 対して俺は、王城からほとんど足早に出て行ったしな。

 

 正直に言えば、一刻も早くレティシアに会いたい。そういう気分だ。

 だから直接シャノアの喫茶店へと戻ってもよかったのだが……楽しいひと時を送っているであろう妻の邪魔をしたくない、そんな気持ちも胸の内にあった。

 

 流石にルイス第一王子たちも、言ったことを即座に反故にしてレティシアを捕まえるような真似はしないだろう。

 ルイス第一王子が「絶対にしない」と言った時の目(・)は、嘘を言っているようには見えなかった。

 アルベール国王だって俺を敵に回したらどうなるかくらい、よくわかってるはずだろうし。

 

 だからすぐレティシアに危害が及ぶことにはならないはず。

 妻の姿を見たいのは山々だが、もうしばらく憩いの時間を楽しんでいてもらおう。

 もっとも……不安がないと言えば嘘になるが。

 

 などと思いつつ、

 

「レティシア、いるか?」

 

 念のため、一応彼女の名を呼んでみる。

 まあいませんよね、と心の中で苦笑しながら。

 

 しかし――すぐに奥の方から〝トタトタトタ〟っという軽い足音が聞こえてくる。

 そして、

 

「――おかえりなさい、アルバン」

 

 今一番会いたかった、世界で一番好きな人(レティシア)が――俺の目の前に現れてくれた。

 

「レティ……シア……?」

 

 俺は一瞬呆気に取られて、呆然としてしまう。

 てっきり、彼女はまだシャノアの喫茶店にいるだろうと思い込んでいたから。

 

「早かったのね。もう少し遅くなると思っていたのだけれど」

 

「キ、キミこそどうして……? てっきりまだ喫茶店にいるモンだと……」

 

「シャノアがね、早くケイに仕事を教えたいって張り切り出しちゃって。私がいたら邪魔になりそうだったから、早めに切り上げてきたの」

 

 ちょっとだけ残念そうに肩を竦めるレティシア。

 どうやら彼女もシャノアたちに気を遣った結果、俺と同じように家に帰ってきてしまっていたらしい。

 

「それで、アルベール国王からのお話はどうだったかしら? あまりお説教されていないと――」

 

 彼女が言葉を言い終えるのを、俺は待てなかった。

 

 早足で彼女の傍へと向かう。

 そして――俺は最愛の妻を、思い切り抱き締めた。

 

「――ア……アル……バン……?」

 

「ごめん、レティシア。どうしても今、キミを抱きしめたいんだ」

 

 今確かに、レティシアが目の前にいる。

 今間違いなく、レティシアが俺の腕の中にいる。

 その温かな実感だけが、俺の不安をかき消してくれた。

 

 レティシアは最初困惑した様子だったが――すぐになにかを察したように、俺を抱き返してくれる。

 

「……なにがあったのか、聞かない方がいい?」

 

「ちょっと……色々あって……」

 

「もしかして、私のこと(・・・)?」

 

「……」

 

 俺は沈黙で答える。

 

 レティシアに嘘は吐きたくない。

 でも彼女を不安にさせたくもない。

 そんな想いがない交ぜになって、返事することができなかった。

 

 もっとも……賢いレティシアには、全部見抜かれちゃってるんじゃないかと思うけど。

 俺がこんな表情(・・・・・)するのなんて――レティシアが関わった時だけだから。

 

「大丈夫よアルバン。大丈夫」

 

 穏やかな声で、なだめるように彼女は言う。

 そしてその軽い身体を、なんの抵抗もなく俺へと預けてくれる。

 

「私はどこへも行ったりしない。私はここに――あなたの傍にいるわ」

 

「ああ…………わかってる」

 

 

 

 ▲ ▲ ▲

 

 

 

 王城でルイス第一王子と会った翌日――。

 俺はレティシアと共に、シャノアの喫茶店へと向かっていた。

 

 シャノアには〝薔薇教団〟のことを詳しく話していないから、ケイのことを監視する意味合いも込めて今後も足繫く通う予定、とはレティシアの談。

 

 それは俺も賛成だ。

 アイツの正体が何者であるかわからん内は、見張っておくに越したことはない。

 

 それに喫茶店へはこれまでだって充分に足繫く通っていたからな。

 シャノアの奴だってそこまで怪しむまい。

 

「……」

 

 城下町の中をレティシアと並んで歩く。

 その最中、俺は周囲への警戒を怠らない。

 

 ……ルイス第一王子が俺たち夫婦に尾行や監視の目を付けていても、なんらおかしくない。

 というより、レティシアを誘拐しようと画策していても不思議はない。

 

 昨日のルイス第一王子は一旦諦めた様子だったが、彼女が〝外なる神々〟への〝囮〟として活用できるなどと判断した以上、いつまた手のひらを返すかわかったモンじゃない。

 

 それにアルベール国王の胸の内まではわからんからな。

 あの謀略大好き人間が単独でレティシアを狙うって可能性もゼロじゃない。

 

 とはいえ、今のところ見られているって気配を感じない。

 どうやら尾行や監視の類は付いてきていないらしい。

 もっとも、警戒しておくに越したことは――

 

「アルバン、怖い顔をしていてよ」

 

 俺の左隣を歩くレティシアが、やや呆れた様子で言う。

 

「え、そう?」

 

「まるで、誰かに尾行されていないか警戒しているみたいだわ」

 

 見透かすようにサラリと言ってくる我が妻。

 対して、そんな一言にギクリとさせられる夫の俺。

 

「うっ……! べ、別にそんなことは……」

 

「昨日なにがあったのか、深くは聞かないけれど――そんなに気を張り詰めないで?」

 

 こちらにリラックスを促すように、クスッと笑って見せるレティシア。

 その笑みは、本当の本当に可愛い。

 

「私だって周囲に気を配りながら歩くことくらいできるわ。勿論、あなたほど鋭くはないけれど……夫の手を煩わせないくらいには用心しているつもりよ」

 

「いや、煩わせるって……俺は別にそんなつもりで――」

 

「あら? それじゃあ妻の私を信用してくれていないのかしら?」

 

「そ、そういうことじゃなくてだなぁ……! ああもう、レティシアには敵わないよ……」

 

 伝わらぬ夫心……。

 いや、伝わった上で敢えて彼女は煙に巻いているんだろう。

 俺の緊張を解すために。

 そんな妻の優しさが身に染みるよ。

 

 ――なんて、そんなやり取りをしている内に俺たち二人はシャノアの喫茶店へと到着。

 俺は入り口ドアへと手を掛け、〝カランカラン〟という鈴の音と共に入店。

 

「シャノア~、来たぞ~」

 

 まったくもって普段の通り、顔見知りの店に来た感を出しつつ店内へと入った俺――だったのだが――

 

〝ガッシャーン!〟

 

「サメ~ッ!」

 

「あ~ッ! ダメですケイさん! お皿はもっと慎重に運んでください~ッ!」

 

〝ジュ~~~プスプスプス……〟

 

「シャ、シャ~クッ!」

 

「あ~ッ! いけませんケイさん! 調理中に火の元から離れて他の作業をしないで~ッ!」

 

〝ジュワジュワ……ボンッ!!!〟

 

「シャークサメ~ッ!?」

 

「んあ~ッ!? やめてくださいケイさん! 揚げ物の最中に鍋に水を入れちゃダメ~ッ!」

 

 …………喫茶店の中は、さながら戦場の如く大わらわとなっていた。

 特に厨房の辺りが。

 

 どうもシャノアがケイに仕事を教えている最中のようだが……あんまり上手くいっていないらしい。

 っていうかなんか爆発して油っぽいのが飛び散ってたけど。

 火事になるぞマジで。

 

 レティシアもそんな店内の様子に困惑を隠せない様子。

 

「え~っと……シャノア……?」

 

「――はっ!? い、いらしゃいませレティシア夫人、オードラン男爵! 気が付かなくてすみません……!」

 

「い、いえ、いいのよ。それよりなんだか大変そう……ね……?」

 

「ア、アハハ……」

 

 なんだかやつれた表情のシャノア。

 ……どうもケイの教育に苦労してるっぽいな?

 

 シャノアは厨房で作業をしていたケイの方へと振り向き、

 

「ケイさん、少し休憩にしましょうか。奥で休んできていいですよ」

 

「あ、ありがとう、ございます……サメぇ……」

 

 シャノアに言われ、疲れ切った顔をしながら目をグルグルと回して店の奥へと消えていくケイ。

 立派な尻尾もなんかへにゃってるし。

 向こうも向こうで疲労困憊って感じだな……。

 




シャノア・グレイン、苦労人気質(´·ω·`)

※新刊宣伝!
『最凶夫婦』書籍第6巻&コミックス第3巻が発売中!!!
Amazon様など各サイト様でご購入頂けます!

☟ストアページ一覧☟
書籍版第6巻
【TOブックス様ストアページ】⇒ https://www.tobooks.jp/contents/22262
【Amazon様】⇒ https://x.gd/P0oTV
コミックス第3巻
【TOブックス様ストアページ】⇒ https://www.tobooks.jp/contents/22256
【Amazon様】⇒ https://x.gd/tG19B
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【完結】ハーマイオニーと天才の魔法式(作者:藍多)(原作:ハリー・ポッター)

ありとあらゆる魔法を数式のように読み取る少年 レナード・テイラー▼魔法に魅せられ、その研究に全力な少年が魔法界の常識を覆す。▼彼の研究がハリーや闇の陣営にどのように影響するかは誰にも分からない。▼※タイトルを「ハリー・ポッターと天才の魔法式」から「ハーマイオニーと天才の魔法式」に変更しました。▼※必須タグの神様転生は番外編のみ適用となります。▼※本編完結


総合評価:17161/評価:7.82/完結:96話/更新日時:2018年12月23日(日) 00:00 小説情報

お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む(作者:にせラビア)(原作:BLEACH)

 転生した主人公がささやかな幸せを『掴む』ために死神になって頑張る――という、とてもとてもよくある捻りもへったくれも何も無いお話。▼ 各人物との『触れ合い』をしたり、救うために『手を出す』などをします。▼ 基本的には主人公の一人称視点で描写。時々三人称視点。▼ スローテンポ進行。▼ また、こんなタイトルですが某藍染さんとは、ほぼ絡みません。▼ (劇中の時系列…


総合評価:21064/評価:8.47/完結:433話/更新日時:2026年09月11日(金) 19:00 小説情報

世界の為に推しとの恋愛を諦めようとしたらヤンデレ化された件(作者:赤坂緑語)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

この世界が前世でプレイしていた悪魔とエクソシストの殺し合いで年中ヒャッハーしている鬱エロゲームの世界であると気が付いたその日、僕は恋人になってくれた彼女に告げた。▼「ごめん……別れて欲しい」▼ 彼女はこの世界を主人公と共に救うメインヒロインだと知ってしまったから。あとは主人公と一緒に何とか世界を救ってほしいと願っていたんだが――▼「逃がさないよ。絶対に、絶対…


総合評価:19864/評価:8.73/連載:104話/更新日時:2026年10月11日(日) 22:00 小説情報

受肉転生 ~宿儺と一緒に本気出す~(作者:てとらとりす)(原作:無職転生)

オリ主が宿儺と一緒に無職転生の世界で精一杯人生を生きていくという二次創作です。▼ヒロインはアイシャです。▼戦闘はありますが今の所無双系ではないです。▼作者は小説自体書くのが初めてなのでルールなどやったほうがいいことがあったら教えてほしいです。▼思い付きで始めた小説で自分の妄想を書き起こしただけです。▼原作とは時間のズレが多々見られると思います(特に転移後)▼…


総合評価:11168/評価:7.65/連載:93話/更新日時:2026年07月09日(木) 22:00 小説情報

転生したので、欲望の為に突っ走る(作者:やがみ0821)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

▼TS転生最強チート系主人公が自分の欲望の為に突っ走っていく話。▼原作改変・性格改変・捏造設定・独自設定・ハーレムその他色々てんこ盛り。▼タグは随時増えたりします。▼※20巻で色々と設定が開示されましたが、設定を反映できないことがあります。▼今後も新刊の度にそうなると思いますので、ご了承ください。▼主人公のイメージをAI生成したよ!▼素人にはこれが限界だった…


総合評価:14911/評価:8.49/連載:154話/更新日時:2026年10月05日(月) 13:02 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>