【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】 作:メソポ・たみあ
《シャノア・グレイン
――ケイさんが我が家に来て、かれこれ一週間。
まだまだ彼女に教えなきゃいけないことはたくさんありますし、お仕事だっておぼつかないけれど……それでも、ちょっとずつ日常に馴染んできてくれています。
本人曰くお給仕をやっていたらしいのもあって、
とても頑張ってくれていて、毎日ヘトヘトになって新しいことを覚えようとしてくれています。
ケイさんは本当に
だけど……彼女の〝お父さん〟は、まだ見つかりません……。
時間を見繕ってはケイさんと一緒に城下町の中を探して回っているのですが、手掛かりすらなくって……。
ケイさん自身にも記憶がないのでどこを探せばいいのか目星をつけることもできず、街の人たちにケイさんとその〝お父さん〟について尋ねても、返ってくる答えは「見たこともない」という返事だけ……。
正直、〝お父さん〟探しについては暗唱に乗り上げている状態です。
でも無理もありません、私だってケイさんと会うまで〝亜人〟の方を見たこともなかったんですから……。
もう私だけじゃ厳しいと思い、レティシア夫人を始めラキさんやエステルさん、そしてカーラさんに頭を下げて〝お父さん〟探しを手伝ってくださいとお願いしたのが、つい昨日のお話。
皆様は快く承諾してくださって……本当にお優しいです。
改めてお願いしたレティシア夫人は勿論のこと、ラキさんやエステルさんはお家がお家なだけに独自の情報網をお持ちとのことですし、カーラさんに至っては「王都内での人探しなら任せて……」と私を励ましてくださいました。
皆様に手伝ってもらえたなら、百人力どころか千人力です。
きっとすぐに見つかるはず――と思いたいのですが……私にはどうも、不可思議でなりません。
ケイさんの〝お父さん〟となれば、きっとケイさんと同じように大きな尻尾を持っていらっしゃるはず。
仮に尻尾がなくとも、なにかしら亜人の要素を持った外観をしていらっしゃると思うんです。
なのに――それほど目立つ外観の人を誰も〝見たことがない〟なんて、そんなことあり得るのでしょうか……?
ちょっと――ううん、だいぶ
「――ふぅ、お客さんも捌けましたね。ちょっと休憩しましょうか、ケイさん」
「はいサメ。今日も疲れますシャーク……」
今日もてんやわんやになりながら働いてくれているケイさんは、お疲れの様子で椅子に腰かけます。
生憎と本日の天気は雨。
お店の外を見ると、ザァザァと音を立てて雨粒が降りしきっています。
なのでお客さんの入りも少な目で、長居されていた常連さんもつい数分前にご退店。
しばらくは新しいお客さん来なさそうです。
「どうですかケイさん? お仕事には少し慣れましたか?」
「う~ん……まだ難しいことだらけですサメ……。大変ですサメ……」
はふ~、と疲れた表情で言うケイさん。
けれど彼女は「でも」と姿勢を正し、
「シャノアお姉ちゃんが優しいから、サメは頑張れますシャーク! シャノアお姉ちゃん、大好きですサメ!」
ニコッと明るい笑顔を作って、私に向かって笑いかけてくれます。
~~~~~可愛い~ッ!!!
可愛すぎます、あまりにも可愛すぎます!
それに聞きましたか!?
シャノア
お姉ちゃんですよ!?
私一人っ子だから、そんな呼ばれ方されるとキュンとしちゃいますっ……!
なんだか本当の妹ができたみたいです……!
思わずときめいてしまう私。
ケイさんが初めてこのお店に来たときはずっと無表情でしたけど、今ではこうして明るい笑顔を見せてくれます。
その笑顔がとっても可愛らしくて……それだけ今の環境に慣れてくれたんだと思います。
とはいえ……いつまでもこんな日常を続けるワケにもいきません。
ケイさんにとって、一番の幸せは〝お父さん〟と一緒にいることのはずなんですから。
だから――あまりにもこの日々が続いてしまうと、別れるのがツラくなってしまいそうで――
「? シャノアお姉ちゃん、大丈夫ですかサメ?」
「ふぇ? あっ、だ、大丈夫です! ちょっとボーッとしちゃいました……! 私も少し休もうかな……!」
誤魔化すように答え、私も手を止めてケイさんと一緒に休憩に入ります。
「……ケイさんの〝お父さん〟、早く見つかるといいですね」
「…………はいサメ」
「やっぱり、早く〝お父さん〟に会いたいですか?」
「勿論ですサメ! サメにとって、〝お父さん〟はたった一人の〝お父さん〟ですシ
ャーク」
私に聞かれて即答するケイさん。
けれどハキハキと答えたかと思うと、すぐにしゅんとした表情になり、
「サメは……寂しいですサメ……。〝お父さん〟に会いたいですサメ……」
俯き気味になって、彼女はポツリと言います。
ケイさん……本当の本当に〝お父さん〟に会いたくて仕方ないんですね……。
でもわかる気がします。
私だってもしお母さんと離ればなれになったら同じことを思うはずですし、もう会えないとわかっているお父さんに対しても、時々同じように「会いたいな」と思っちゃいますから。
だからケイさんの寂しさは……痛いくらい理解できるんです。
「……大丈夫です。絶対会えますよ、〝お父さん〟に」
「サメ……?」
「私が――〝お姉ちゃん〟が約束してあげます。だから心配しないでください」
……こんなことを言っても慰めにしかならないかもしれません。
でも私はケイさんに寂しいままでいてほしくない。
ひとりぼっちだなんて、思ってほしくないんです。
「〝お父さん〟が見つかるまで、シャノアお姉ちゃんがずっと一緒にいてあげますから。ね?」
「! はいサメ……!」
私が明るい笑顔を作って言うと、ケイさんも喜んでくれた様子でニパッと笑ってくれます。
やっぱり本当の妹ができたみたい。
私たち
『――失礼しやがります』
お客さんのご来店を告げる〝カランカラン〟という鈴の音。
同時に
「あ、フランさん。いらっしゃいませ、今日も
『肯定。紅茶の茶葉を仕入れさせに来てやりました。恐縮でございますが、極上の葉っぱをお売りやがりください』
私たちは慣れた感じで挨拶を交わします。
喫茶店にお越しになられたのは、王立学園一年のフラン・ドールさんでした。
フランさんは以前から度々私のお店にお越しになっていて、学園内で使うための紅茶の茶葉を仕入れてくれるご贔屓さん。つまり私は彼女に茶葉を卸売りしていることになります。
フランさん曰く『どうせ他に売って頂けるところなんざ知らねーし、シャノア様のお店の茶葉は悔しいけど美味い、でございます』とのことで、ウチをお得様にしてくれています。ちょっと嬉しくなっちゃいますね……!
「今日は雨なのに、お疲れ様です」
『一年の〝
と言いつつ差していた笠を閉じて、丁寧に水滴を払うフランさん。
なんだかんだ言いつつ、やっぱり濡れるのは嫌なんですね……。
「それで、仕入れるのはいつも通りダージリンで大丈夫ですか?」
『否定。本日は別の――』
そう答えている最中――フランさんの視線が、ふと別の方向へと流れます。
その視線の先にあるのは――椅子の上で休憩し、尻尾をユラユラと揺らすケイさんの姿。
そして、お二人の目がはたと合います。
「サメ?」
『…………――――』
ケイさんの姿を見て、どこか驚いた様子で立ち尽くすフランさん。
最初は「ケイさんの尻尾が珍しいのかな?」と思った私でしたが……どうもフランさんの様子がおかしいような……。
『あなた……は……』
半ば呆然とし、ゆっくりと――まるで吸い寄せられるみたいに、フランさんはケイさんへと近付いていきます。
――向かい合う二人の
そしてフランさんはケイさんの目の前に立って、球体関節の両手で顔に触れます。
「サ、サメ……? しゃメ……シャ、シャ~クっ……???」
フランさんはケイさんの顔を触り、揉み、引っ張り――まるで柔らかなお餅を弄ぶみたいにして、ペタペタグニグニとケイさんを弄り回します。
その様子は一見ふざけているようにも見えましたが――フランさんの〝目〟は真剣そのもので、彼女の手は〝なにかを確かめている〟みたいにも見えました。
『…………嘘、でございます……。そんなことって……』
「んむぅ~~~っ、一体なんですかサメ!? サメの顔になにか付いてますかサメ!?」
フランさんに弄り回され、流石にプンプンと怒って顔を触る手を振り払うケイさん。
一方フランさんは、変わらず――いいえ、むしろさっきよりも驚いているかのように両目を見開いて、立ち尽くします。
『……………………
ポツリ、ととても小さな声で言うフランさん。
その姿はなんだか――酷く
『……失礼、急用を思い出しちまいました、でございます』
フランさんは突然踵を返し、お店の中から出て行こうとします。
「え? フ、フランさん!? 紅茶の葉っぱは――!?」
『後日再び伺います。それと――』
彼女は退店の直前私の傍に寄り、顔を近付けてきます。
そして一言だけ呟くと、足早にお店から出て行ってしまわれました。
フランさんが言い残したその一言を――私は咄嗟に理解することができませんでした。
彼女が私に伝えていった一言とは――
『――〝あの子にはご注意くださいませ〟』
たぶんこの辺りが章の折り返し地点( ¯·ω·¯ )
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