【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】 作:メソポ・たみあ
「……司祭ゼイラムの居場所が、見つかったですって?」
――その報せは、突如アルベール国王の下に届いた。
報せを受けたアルベール国王は思わず目を丸くする。
「本当なの、それ……?」
「はっ、〝王家特別親衛隊〟の騎士が城下町にて不審な人物を発見。後を追跡したところ、〝薔薇教団〟の隠れ家らしき場所で司祭ゼイラムと思しき人物と合流するのを確認致しました。こちら現在も隠密に監視を続けております」
騎士は床へ片膝を突き、淡々と報告。
彼の様子から、少なくとも精査をしていない適当な情報を伝えているのではない、ということがアルベール国王には見て取れた。
「……」
――
アルベール国王の胸中に最初に浮かび上がった言葉はそれだった。
〝薔薇教団〟の
あれ以降、司祭ゼイラムは完全に姿を晦ませていたというのに――。
そんなに都合よく隠れ家と一緒に見つかってくれるものかしら……?
いや、〝王家特別親衛隊〟の地道な捜査が実を結んだということ?
あるいは向こうの油断?
でも、それにしたってイヤにあっさりと尻尾を……。
喜びよりも先に疑念が湧いて出るアルベール国王。
騎士は報告を続け、
「それと情報によれば、詳細は不明ながら隠れ家の中で物資を運び出すような動きも見られるとのこと。もしかすると司祭ゼイラムは、隠れ家を捨て去って別の場所に逃亡を図ろうとしているのやもしれません」
そんな報せをアルベール国王と共に聞いていたルイス第一王子は、車椅子の上で微笑を浮かべる。
「これは吉報か凶報か……いずれにせよ、動かないワケにはいかないね」
ルイス第一王子は報せを届けた騎士を見て、
「手練れの騎士たちを用意しておくれ。今晩中にも隠れ家へ突入、司祭ゼイラムを捕縛する」
「は……はッ!」
「――!? お、お兄様、本気!? いくらなんでも今晩中だなんて……! せめてアルバンちゃんに声をかけてから――ッ!」
「ああ、彼にも声をかけておいてくれ。だが……そもそも以前あれだけ怒らせてしまったというのに、快く彼が協力してくれるかは怪しいかもしれないね」
落ち着いた静かな声色で、苦笑交じりにルイス第一王子は答える。
「時は一刻を争う。彼の参加が無理そうならば、僕たちだけでやる。今こうしている間にも、奴らはこの国を少しずつ侵食しているんだ」
「それは……わかってるけど……」
「このチャンスを不意にすれば、また司祭ゼイラムを取り逃がす可能性は高い。ならば
断固として語るルイス第一王子に、アルベール国王は言い返す言葉を失う。
事実、隠れ家が見つかったことに司祭ゼイラムが気付いていないとすれば、これは千載一遇の好機。
逆に〝王家特別親衛隊〟の動きを察知されれば、また逃げられてしまう確率は極めて高い。
ルイス第一王子の言っていることは、アルベール国王からしても間違いだとは思えなかった。
それでも――アルベール国王は、一抹の
「人数が揃い次第、急襲を仕掛ける。なんとしても……ジオールたちが遺してくれたこの国を守るんだ」
▲ ▲ ▲
アルベール国王とルイス第一王子の下に「司祭ゼイラムの隠れ家発見せり」という情報がもたらされた、その日の晩。
彼らは予定通り〝王家特別親衛隊〟の中でも手練れの騎士たちを集め、目標地点である隠れ家のすぐ近くで身を潜めていた。
隠れ家は王都からやや離れた森の中にある、小さな洞穴だった。
周囲には家屋どころか人工物の一つすらもなく、他に目立つ物も特にないため、ここに人がいるなどとは外観からはまず気付けないであろう。
それほど上手く、かつ自然に偽装がなされていた。
「……アルバンちゃんは、まだ来ないの?」
「は、はっ……確かにオードラン男爵の下へ伝令を向かわせたのですが、その者が未だ帰還せず……。一時間ほど前に新たな伝令も向かわせたのですが……」
苛立ちを隠せず、月夜の下で腕組みをしながら言うアルベール国王。
そんな国王に対し、申し訳なさそうに頭を垂れるホラント。
ホラントもまた手練れの騎士の一人として、今回の作戦に参加していた。
ルイス第一王子は小さくため息を吐き、
「もうすぐ作戦開始の予定時刻……。仕方ない、やはり僕たちだけでやるしかないね」
「お兄様……やっぱり襲撃の日を改めるべきだわ。それが無理でも、せめてお兄様が陣頭指揮を執るのを避けるべきよ」
「そういうワケにはいかないよ。言っただろう、このチャンスは二度とないかもしれないと。それにもし〝外なる神々〟が出てきたら、奴らへの対抗策を講じられるのは僕だけだ」
兄の身を案ずる弟に対し、安心させるかのように穏やかに言うルイス第一王子。
ルイス第一王子は今回の作戦において自ら現場に立ち、陣頭指揮を執ることを名乗り出ていた。
無論、虚弱体質で車椅子に乗る彼を戦いの場へ赴かせることにアルベール国王やホラントたち騎士は大反対。
だが「五百年前の経験があるのは僕しかいない」と、当人は頑なに譲ろうとはしなかった。
「司祭ゼイラムに与している〝外なる神々〟が一体だけとは限らない。どんな相手が出てくるのかわからない以上、僕はすぐに指示を出せる場所にいるべきだ」
「それは……そうかもだけど……」
「ハハ、兄想いの弟を持てて僕は幸せだね。でもそれを言うなら、一国の王であるキミこそ現場にいるべきではないのではないかな?」
「フ~ンだ、オネェを舐めないで頂戴。お兄様が現場に立つならアタシも現場に立つわよ。どっちみちお兄様に死なれちゃったら、この国は終わりなんですもの」
「苦労をかけるね、アルベール」
「ホント、敬愛する兄を持つと大変よ」
小さく笑い合う兄と弟。
そしてルイス第一王子はスゥッと息を吸い、
「――行こうか。騎士たちよ」
〝王家特別親衛隊〟の騎士たちに号令を下す。
この場に集まる騎士の数は総勢二十。ホラントを始め誰も彼も腕に覚えのある、要人警護・鎮圧・制圧を得意とするエリートたち。
身動きの取りやすい軽装甲冑に身を包んだ彼らは、ルイス第一王子の命を聞くなり鞘から剣を抜き取る。
同時に胸元に備えた金鷲勲章が月光に照らされ、鈍く光る。
「国王とルイス第一王子の護衛に三名残れ。残るはこのホラントに続け」
そんなエリート騎士たちを統率するホラントは、隠れ家へ剣の切っ先を向ける。
「総員――突撃!」
武装した騎士たちが、一斉に洞穴の中へと雪崩れ込んでいく。
統率が取られながら敵の拠点へと斬り込んでいく様は高い練度を思わせ、それでいて非常にスマート。
騎士たちが少数精鋭で動く特殊な作戦に従事する者たちであることが、動きひとつからでも如実に見て取れる。
彼らが突入する光景を見守っていたアルベール国王とルイス第一王子は、すぐに中から戦闘の音が聞こえてくるモノと想像していたが――
「……なんだか、やけに静かね?」
洞穴の中からは、戦闘を思わせる騒がしい音は一切聞こえてこない。
そうしてものの十分もすると、ホラントが洞穴の中から出てくる。
なんとも晴れない表情をしながら。
「アルベール国王、ルイス第一王子……隠れ家の制圧が完了致しました」
「え? もう?」
「隅から隅まで隠れ家の中を捜索致しましたが……司祭ゼイラムの姿は見当たりませんでした」
「なんですって……!?」
「それどころか人影ひとつなく……中は
ホラントからの報告を聞いて、思わず目を見開いて驚くアルベール国王。
対してルイス第一王子は冷静を保ったまま、考えるように口元に指先を当てる。
「……人がいた痕跡は?」
「様々な資材や生活の跡が見受けられることから、直前まで何者かがいたのは間違いないかと。部下たちが捜索を続けておりますが、正直重要そうな物がある気配は……」
「ふむ……。よし、僕も中へ入ろう。この目で直接確かめたい。護衛を頼む」
「かしこまりました」
ホラントを含めた騎士たちに厳重に護衛されながら、洞穴の中へと入っていくルイス第一王子。
車椅子の兄だけ行かせられないと、アルベール国王も続く。
洞穴は入り口の見掛けに反して中は広く、入るとすぐに長い通路となっていた。
そして通路を進むと開けた空間へと繋がっており、そこには机や椅子、その他にも木箱など様々な物資が置かれていた。
その空間は明らかに部屋として使われた生活感があり、ここで人間が生活していたであろうことは誰の目にも一目でわかる。
しかし同時に、〝薔薇教団〟に関係がありそうな物はこれといって見受けられない。
怪しい物が遺されていないか騎士たちが物色を続ける中、ルイス第一王子は護衛の騎士に車椅子を押されて部屋の中央まで移動する。
「ここが〝薔薇教団〟の隠れ家……? おかしい、奴らの拠点にしては殺風景すぎる……」
本当にこの場所に司祭ゼイラムがいたのだろうか、と違和感を覚えるルイス第一王子。
すると――まさにその時だった。
「……〝いあ いあ しゅぶ=にぐらーと〟――」
〝王家特別親衛隊〟の騎士の一人が、ポツリと呟くように言う。
同時にその騎士は、酷く歪んだ笑みを口元に浮かべた。
フラグ①:重要な作戦に主人公不参加(_Д_)
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