【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第277話 無駄な抵抗

 

「〝しゅぶ=にぐらーと おんぐ だくた にゃる〟――」

 

 あまりにも不気味な呪文を詠唱。

 直後――部屋の中に紫色に燃える壁(・・・・・・・)が突如として立ちはだかり、ルイス第一王子とアルベール国王の居場所を分け隔てる。

 

「――!? これはッ……!?」

 

 驚駭(きょうがい)し、目を見開くルイス第一王子。

 現場に居合わせた他の騎士たちも同様に分かたれ、隊が二分される形となる。

 

「こ、これは……!? ご安心くださいルイス第一王子、すぐに除去を――」

 

 一人の騎士が慌てて紫の壁に手を触れる。

 刹那――その騎士の全身が、紫色の火炎に包まれた。

 

「――ぎゃああああああああああッ!!!」

 

 苦しみのたうち回り、絶叫しながら地面へと倒れる騎士。

 炎はあっという間に彼の肉体を燃やし尽くし、直前まで人間だったモノを真っ黒な灰へと変えてしまった。

 

「「「……ッ!」」」

 

 ルイス第一王子もアルベール国王も他の騎士たちも、そんな光景に絶句。

 同時に全員が理解する。この壁に触れれば死ぬということを。

 

 そして――ルイス第一王子を始め約半数の騎士たちが、部屋の中に閉じ込められてしまったということを。

 

 洞穴の中に作られた部屋は、出入口が一つしかない完全な一方通行。

 部屋を仕切るように接触不可能な壁を作られては、ルイス第一王子たちに脱出の術はない。

 

「なんてこと……! 罠(・)だわッ!」

 

 自分たちは罠に嵌められた――アルベール国王が気付いた時には、もはや手遅れだった。

 

『――ご明察。あなた方は罠にかかったネズミ(・・・)ですわ』

 

 部屋の中に女の声が響き渡る。

 しかしアルベール国王たちが周囲を見回してみても、声の主の姿は確認できない。

 

「司祭ゼイラム様! ご命令の通り、ルイス第一王子をお連れ致しましたァ(・・・・・・・・・)ッ!」

 

 先程不気味な呪文を唱えた一人の騎士が、天を仰いで叫ぶ。

 

 彼もルイス第一王子と同じく部屋の中に閉じ込められた側の人間だが、その表情に焦りはない。

 それどころか目は焦点が合っておらず、笑ってすらいる。

 

 そんな正気を失ったとすら見える仲間に対し、仲間の騎士が胸倉を掴み上げる。

 

「おい、貴様なにを言って……ッ!?」

 

「どうか、どうかお褒めください司祭ゼイラムよッ!」

 

『ご苦労。あなたには福音がもたらされることでしょう』

 

 また声が聞こえたかと思うと――部屋の最奥に、突如真っ赤なローブを羽織った女が姿を現す。

 なにもない空間に忽然と浮かび上がるその様は、瞬間移動の類か、でなければ透明化し姿を隠していたのを解除したのかと思えるほど唐突な現出だった。

 

「フフフ、思いもよらなかったでしょう? 自分たち直属の親衛隊に、『薔薇色の黄昏(ローゼン・トワイライト)』の信徒が入り込んでいるだなんて」

 

 真っ赤なローブを羽織り、ハッキリとわかるほど口元に笑みを浮かべて見せる長髪の女。

 

 ――司祭ゼイラム。

 この者こそが〝薔薇教団〟の教祖であり、自分たちが追っている邪教の頭領であると、この場にいた全員が即座に理解した。

 

「……司祭ゼイラム、ようやく僕の前に姿を現したね」

 

 鋭い視線で怨敵を睨み付けるルイス第一王子。

 そんな彼を嘲笑うかのように、司祭ゼイラムはゆっくりと歩き出す。

 

「もっと嬉しそうな顔をなさって? ずぅっと私のことを付け狙ってらっしゃったのでしょう?」

 

「ああ、キミのことを追っていた。この国をキミの――キミたち(・・・・)の好きにさせるワケにはいかないからね」

 

〝王家特別親衛隊〟の騎士たちが剣を構え、切っ先を司祭ゼイラムという一点へと向ける。

 紫炎の壁によって約半数ずつに分断されたとはいえ、十名近い猛者がルイス第一王子の側にいる。

 対して司祭ゼイラムは護衛もなく、完全に独り。

 数の上ではルイス第一王子たちが圧倒的に優勢である。

 

 しかし司祭ゼイラムは、殺気立つ騎士たちを見てクスッと嘲笑う。

 

「フフ、せいぜい無駄な抵抗をなさい。犬死にもまた、騎士の本望でしょう?」

 

「「「――ッ!!!」」」

 

 騎士たちが一斉に司祭ゼイラムへと斬りかかる。

 緻密に連携の取られた、無駄のない動きで。

 

 閉鎖空間の中にあって一息で間合いを詰めるなど、国王直属の騎士にとっては造作もない。

 彼らの刃はすぐさま司祭ゼイラムの首へと届く――はずだった。

 

「……〝しゅぶ=にぐらーと〟」

 

 司祭ゼイラムが着る真っ赤なローブ。

 その裾から、ヌルリと触手(・・)が飛び出す。それも何本も。

 

「〝おんぐ だくた にゃる〟……」

 

 粘つく粘膜をまとったその触手は先端を鋭利に尖らせ、放たれた弓矢のように四方へと伸び――斬りかかる騎士たちの身体を貫いた。

 

 ――一瞬の出来事だった。

 瞬きをするほどの刹那の間に、司祭ゼイラムの首を刎ねようとした騎士たちが全滅する。

 

 触手は死体と化した騎士たちを、まるで見せ付けるように宙へと掲げる。

 ルイス第一王子の眼前に広がったその光景はあまりに残酷で、あまりに冒涜的だった。

 

「〝しゅぶ=にぐらーと おんぐ だくた にゃる〟――〝おんぐ だくた にゃる〟――」

 

 司祭ゼイラムの声に合わせ、蠢く触手は絶命した騎士たちを投げ飛ばす。

 死体から触手が引き抜かれ、彼らの身体が床や壁へと叩き付けられる。

 同時に、凄まじい量の血しぶきが一挙に飛び交って辺り一面が深紅に染まり、ルイス第一王子の顔にもベチャッと血が飛び散った。

 

 ――凄惨な光景だった。

 そこにはもう、赤色と死しかなかった。

 

 紫炎の壁の内側で生き残っているのはルイス第一王子と、彼を護衛するために残った騎士、そして裏切り者の騎士のみとなる。

 

「ヒ、ヒィ……ッ!」

 

 ルイス第一王子を護衛する騎士は、恐怖のあまり腰を抜かして戦意を喪失。

 司祭ゼイラムは彼の頭部へと触手を伸ばし、

 

「無駄な抵抗をなさい、と言ったでしょう」

 

 頭に触手を巻き付けて、思い切り捻る。

〝ゴキャッ〟という鈍い音と共に顔が背中へと向き、騎士はそのまま絶命した。

 

 裏切り者の騎士は嬉々とした表情で、司祭ゼイラムへと近付く。

 

「司祭ゼイラム様! 私はやりました! ぜひ、ぜひ私めにも〝外なる神々〟のご加護をッ!」

 

 地面に両手を突いて懇願する裏切り者の騎士。

 司祭ゼイラムは彼に対しゆっくりと片手を伸ばし、

 

「ええ、恵み与えましょう。――〔ウィンド・インパクト〕」

 

 風属性の魔法を発動。

 瞬間、裏切り者の騎士の頭部が風の衝撃波によって弾け飛ぶ。

 

 首なしとなった身体は死してなお自分になにが起きたのか理解できないかのように、グラリと揺れて地面へと倒れた。

 

「あなたももう用済み(・・・)ですわ。……さて」

 

 紫炎の壁の内側に残る生存者は、司祭ゼイラムを除けば既にルイス第一王子のみ。

 司祭ゼイラムはルイス第一王子の眼前に立ち、

 

「改めまして……お初にお目にかかりますわ、ルイス・ヴァルランド第一王子。いえ、こうお呼びするべきかしら? ――〝ドウエル・ヴァルランド初代国王〟」

 

「…………驚いたな、そこまで知っているのか」

 

「フフ、私に知らぬことはなにもありませんもの」

 

「〝外なる神々〟の叡智があるから、かい?」

 

「……さあどうでしょう。ああ、それとアルバン・オードラン男爵は助けに来なくてよ。彼の下へ向かった伝令は処分(・・)しておきましたから」

 

「……」

 

「〝外なる神々〟の力は絶対……。ですがあなたの持つ知識(・・)は、私たちにとって少々厄介なのもまた事実。生かしてはおけませんが……」

 

 司祭ゼイラムは細い指先でルイス第一王子の顎に触れ、クイッと持ち上げる。

 

「五百年前よりの転生者――その〝魂〟もその肉体も、実に興味深い。ぜひ私の実験材料(・・・・)になってくださいな」

 

 彼女はとても、とても楽しそうな笑みを浮かべる。

 まるで実験に使うモルモットを手に入れたかのような、そんな笑顔を。

 

 紫炎の壁の向こうでその様子を目の当たりにしていたアルベール国王はギリッと歯軋りを奏で、

 

「――お兄様に触るなッ!!!」

 

 憤怒で目を血走らせる。

 壁に阻まれていなかれば今すぐにでも斬りかかっていたであろうほど、殺意を滾らせて。

 

「お兄様になにかしてみなさいッ! アンタ、絶対に許さないッ! ただじゃおかないからッ!」

 

「……アルベール国王、あなた様にもお会いできて光栄ですが――これでも私、この国と王家には少しばかり恨み(・・)がございまして」

 

 一転してつまらなそうに言った司祭ゼイラムは、〝パチンッ〟と指を鳴らす。

 するとアルベール国王たちの近くの空間が歪み、その中からモンスター(・・・・・)が這い出てくる。

 

 大きな一対の羽を生やし、身体はヒグマのように大きく、まるで鳥や昆虫や爬虫類など複数の種を無理やり組み合わせたかのようにグロテスクな、そんなモンスターが。

 

 一体、また一体とモンスターたちは数を増やし――

 

「〝ビヤーキー〟たちよ、その者らを食べてしまいなさい。肉ひと欠片(かけら)残さぬように」

 

『ギイイイィィィッ!』

 

 空間の歪みから飛び出した一体が、アルベール国王へと襲い掛かる。

 そして猛烈な勢いの突進を受けたアルベール国王は、血を吐き出しながら吹っ飛ばされた。

 

「ぐ――ぅ――ッ!?」

 

「アルベールッ!!! 皆の者、弟(・)を守れ! 彼を連れて脱出するんだッ!」

 

 その光景を目の当たりにしたルイス第一王子が初めて血相を変え、声を大にして叫ぶ。

 それを聞いたホラントを始めとする生き残りの騎士たちは、即座に臨戦態勢へと入った。

 

「クッ……血路を開けッ! 国王を外にお連れするぞッ!!!」

 

 ホラントたち〝王家特別親衛隊〟はダメージを受けたアルベール国王を連れ、洞穴の外へと向かう。

 

 紫炎の壁の外側に残っていた彼らには退路こそあったが、〝ビヤーキー〟たちの猛襲によって一人、また一人と命を落としていく。

 それでもホラントたちは洞穴入り口まで吶喊し、やがてルイス第一王子の視界から消えていった。

 

「あらあら、美しい兄弟愛ですこと」

 

 ようやく目の色を変えたルイス第一王子を見て、嘲笑って言う司祭ゼイラム。

 そんな彼女をルイス第一王子は怒りに満ちた目で睨み返す。

 

「貴様っ……!」

 

「フフフ。さあ、あなたを使って――どんな実験を始めましょうか」

 




アルベール国王、何気に初ダメージ╭(°A°`)╮

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