【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第38話 レティシアは最高だ

 

「――」

 

 俺が抱き締めた瞬間、ナイフを握るレティシアの手の力が、徐々に弱まる。

 

 そして彼女はナイフから手を離すと――ゆっくりと俺を抱擁してくれた。

 

 抱き締め合う俺たち夫婦。

 

 だが次の瞬間、全てが消失した。

 燃え盛る屋敷もレティシアも消え、同時に俺の五感まで失われる。

 

 視界がブラックアウトし、どこかへと落ちる感覚。

 

 そしてハッとした時には、俺の目にはバロウ邸の廊下とオリヴィアが映っていた。

 

「……どこで気付いたの?」

 

 少しだけ驚いたような表情でオリヴィアは尋ねてくる。

 

「やっぱり、”幻術魔法”だったんですね」

 

 俺は未だに収まらない動悸を隠し、深く深呼吸する。

 

 ――”幻術魔法”。

 対象を錯乱状態にすることで幻覚を見せる、Sランク魔法の一種だ。

 

 その効果は、対象が恐ろしいと感じる光景を眼に映し出す。

 

 実際に食らったのは初めてだが、これは堪らんね……。

 こんな悪趣味な魔法だとは思ってなかったよ。

 

「気付いたのは、レティシアが俺にナイフを刺した時ですよ。その時に確信しました」

 

「私の幻術魔法は五感を支配し、現実と寸分たがわぬ感触を与えるはずなのだけど……。どうして確信できたのかしら?」

 

「簡単です。レティシアがあんなことをするはずないからです」

 

 敢えて不敵な笑みを浮かべ、余裕を見せつける。

 せめてもの意趣返しとして、な。

 

「俺はレティシアを絶対不幸にしないし、レティシアは俺を絶対裏切ったりしない。だから、あの光景は絶対ありえない」

 

「……」

 

「それがわかっているから、”ああ、悪夢を見てるだけなんだな”ってすぐに気付けたんです」

 

 所詮は悪い夢だ。

 寝苦しい夜に見る悪魔の悪戯だ。

 

 だがそういう悪夢ってのは、得てして現実になったりなどしない。

 

 少なくとも、俺がレティシアを不幸にすることも、レティシアが俺を殺そうとすることも、未来永劫ないだろう。

 

「――負けたわ、完敗」

 

 お手上げ、とばかりに両手を上げるオリヴィア。

 

「私の幻術魔法は王国一なんて言われたりもしてるのに、これでは形無しね。本当に凄いわ、あなた」

 

「そりゃどうも。で、なんで俺に幻術魔法をかけたんですか? 返答によっては……」

 

 いくらレティシアの姉でも、容赦しない。

 俺とレティシアを引き裂こうとする敵対者と見做す。

 

 俺はいつでも戦闘に入れるよう構えるが、

 

「そんなの、あなたが妹の夫に相応しいか試したかったからに決まっているじゃない」

 

 さも当然だとばかりに、彼女は言った。

 

「可愛い可愛い妹の嫁ぎ先が、かつて”最低最悪の男爵”と呼ばれた男の下だったのよ? 姉として確かめたくなるのは当たり前です」

 

「え……? そ、そうなの……?」

 

「いいこと? レティシアは聡明で勇敢で凛々しくて、この王国で一番の美少女なの。本当ならどこにも嫁がせず、私の下に一生いさせたいくらいなのに!」

 

「は、はあ……」

 

 あれ……?

 なんか段々、話の方向がおかしく……?

 

「レティシアは小さい頃から本当に可愛くて可愛くて、目に入れても痛くないほどだったわ……! この世にあの子を超える理想の妹なんていないと思えるほどに!」

 

「まあ……俺にとってもレティシアは理想の嫁だな……」

 

「! わかる!? わかってくれるの!? そうよ、あの子は理想なの! 天才なの! 天使なの! 世界で一番なの!」

 

「わ、わかる……! レティシアは世界で一番ですよね! 彼女を超える天使なんていませんよ!」

 

「そうよ! あの子は大天使レティシエルなのよ! いずれこの国の救世主になる存在なのよ!」

 

 声高に叫んだオリヴィアは「ふぅ」と息を漏らし、

 

「あの子は昔から賢くて優しかったから、どんな問題も一人で抱え込みがちで……」

 

「わかります……」

 

「マウロ公爵に嫁いでからは手紙を送ってもあまり返してくれなくなって、一人でなにか問題を抱えてるのかもと心配していたけれど……婚約破棄されたと聞いた時は、憎悪で頭がおかしくなるかと思ったわ……!」

 

「わかります……!」

 

「そうよ! レティシアに仇なす者なんて、皆地獄に落ちればいいのよ!」

 

「わかります!!!」

 

 激しく同調し合う俺とオリヴィア。

 彼女は荒げた息を落ち着かせると、

 

「ハァ……ハァ……あの頃はどんな風にマウロへ報復してやろうかと思っていたけど――あなたが全て解決してくれたのよね」

 

 どこか嬉しそうに、けれど少し寂しそうにオリヴィアは言う。

 

「バロウ家がレティシアを庇い切れなくなって、仕方なく”最低最悪の男爵”に嫁がせてから……その後一度だけ手紙が届いたの。”私は今幸せに暮らしています”って」

 

「……」

 

「最初は信じられなかった。だけどマウロの一件があって、色んな噂を聞くようになって……いつか絶対あなたを試さなきゃって、そう思うようになっていたの」

 

「それが今日だった、と?」

 

「ええ、デリカシーに欠ける真似をしたのは謝らせて頂くわ。ごめんなさい」

 

 ――なるほどな。

 姉であるオリヴィアは、妹のレティシアをそんなに心配していたのか。

 

「……でもそれほど心配してるなら、どうして彼女に会ってあげないんです?」

 

「禁止されているからよ、お父様にね。極力妹には関わるな、お前まで家名に泥を塗るような真似はするな――って」

 

 チッと舌打ちするオリヴィア。

 

 ……なるほど、バロウ家内の関係図も中々ややこしいことになってそうだな。

 

 しかし家長の命令のせいで大事な妹と会えないってのは、なんだか気の毒だよな……。

 

「ウフフ……でもいいの。どうせいずれはお父様が隠居して私がバロウ家の権力を掌握するのだし、その時は改めてレティシアを迎え入れてあげるわ……!」

 

「それは――俺とレティシアを引き裂くって意味ですか?」

 

「いいえ、それは違う」

 

 オリヴィアはそう言うと、スッと手を差し出してくる。

 

「アルバン・オードラン、どうやらあなたとは気が合いそう。これからも妹の幸福を願う同志でいてくれる限り――私はあなたの味方よ」

 

「! そんなの、勿論じゃないですか」

 

 俺はガシッと彼女の手を取る。

 

 奇遇だな。

 俺もあなたとは気が合うと思ったよ。

 

 ”レティシアは最高だ!”と思う者同士、仲良くやれそうだな、うんうん。

 

 ――しかし、これで陰ながらバロウ公爵家との繋がりも深められたってワケだ。

 

 レティシアに味方がいるってのも、知れてよかったし。

 

 加えてオリヴィアは魔法省の重役。

 繋がりを作っておいて損はないだろう。

 なんて思っていると、

 

「それと、私からあなたにお願いもあるの」

 

「お願い?」

 

「もし……レティシアに危害を加えようとするような輩がまた現れたら……」

 

「殲滅します。徹底的に」

 

「素晴らしいわ。素敵」

 

「他ならぬレティシアのためですから」

 

「そうね、他ならぬレティシアために」

 

「ククク……やはりオリヴィアさんとは気が合いそうですね」

 

「ウフフ……そうね」

 

 互いに不敵な笑みを浮かべる俺たち。

 なんだか俺は心の友を得たような気分だった。 

 

「私の力が必要になったら、いつでも言いなさい。可愛い妹のためならば、いくらでも力を貸してあげる」

 

「それはありがたいお話ですね。では機会があれば、遠慮なく頼らせてもらいます」

 

 俺は気さくに答える。

 まあ一種の社交辞令だと思って。

 

 

 

 

 だが――この時はまだ、想像もしていなかったのである。

 

 この少し後、本当に彼女の力を借りる機会が訪れることになるとは――。

 

 




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