【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第42話 私たちは私たちの関係であればいい

 

 オリヴィア特別講師による魔法指導は順調に進んでいた。

 

 授業は滞りなく進み、休憩時間に入った時のことである。

 

「――オードランご夫妻、ちょっとよろしいかしら?」

 

「ん?」

 

 俺とレティシアは。とある二人組の生徒に声を掛けられる。

 

 見るとDクラスの生徒で、男女のペアだった。

 

 女の方はセミロングの黒髪と紫色の口紅が特徴で、男の方は前髪を切り揃えた金髪ボブカットが特徴。

 

 雰囲気からして、見るからにどちらも貴族出身という感じ。

 

 二人はニヤニヤと笑みを浮かべながら近付いて来ると、先に女の方が口を開く。

 

「ご挨拶がまだ済んでいなかったと思ってね。私はDクラスのエミリーヌ・ガーニ、こっちは私の恋人でクラスの”(キング)”バス・カシミール。どうぞ以後お見知りおきを」

 

「はぁ……」

 

「おいおいエミリーヌ、僕を”(キング)”と呼ぶならキミも王妃と名乗るべきだろう?」

 

「やだわバスったら、王妃だなんて!」

 

「アハハ」

 

「ウフフ」

 

 ……俺たちは、一体なにを見せられているのかな?

 

 なんかいきなり目の前でイチャイチャし始めたんだが?

 

 いやまあ、愛する人とイチャつきたい気持ちはわからんではない。

 俺だってレティシアとイチャイチャするの大好きだし。

 

 でもわざわざ目の前に来てやるなよ……。

 っていうか絶対ワザと見せつけてるだろ、コイツら。

 嫌味かって。

 

 レティシアもため息を漏らしつつ、

 

「それで、私たちになんのご用かしら?」

 

「ご挨拶だと言ったでしょう? あなたたちも恋人同士だと聞いたものですから、とても興味があったの」

 

「だが……こうして直に会ってみると、やはり確信してしまうな」

 

「ふぅん、なにを?」

 

「決まっているじゃない。私たちの方が――カップルとして上だってことよ!」

 

「「…………はあ?」」

 

 俺とレティシアの声が、思わずハモる。

 

 エミリーヌとバスはお互いを抱き寄せ、

 

「恋愛というのは、如何に他者より幸せな関係を築けるかを競うものよ!」

 

「その通り! どれだけ素敵なパートナーを見つけ、どれだけ愛されているかを見せつけるものなのだよ!」

 

「そういうこと! ご覧なさいな、私の素晴らしいバスの姿を! カシミール侯爵家出身で容姿端麗、剣も魔法も右に出る者がおらず、貴族としての品格も備えてる! 完璧よ!」

 

「いやぁそれほどでも、アハハ」

 

「……つまりあなたは、アルバンよりも自分の恋人の方が優れていると自慢しに来た、ということかしら?」

 

「それだけじゃなくてよ? あなたたちなんかより、私たちの方がずっとお互いを愛し合ってるもの!」

 

 ああ……要するにマウントを取りに来たと。

 実に貴族らしいというか、なんというか。

 

 婚約者、妻、夫――自分のパートナーがどれだけ優れているかを誇示するのは、貴族社会ではよくある光景だ。

 

 でもなぁ、悪いけど俺たちだって立派に相思相愛な関係なんだぞ?

 

 それにパートナー自慢なら、レティシアは絶対世界で一番の嫁だから。

 お前なんかより一億倍は最高だから。

 

 ここは少しばかり言い返して――

 

「……くだらない」

 

 ポツリとレティシアが言う。

 すると彼女はエミリーヌたちに背を向け、

 

「行きましょうアルバン。こんなおままごとに付き合っていられないわ」

 

「なっ……お、おままごとですって!?」

 

「ええ、くだらないおままごとね」

 

 ハッキリとそう言い捨て、つまらなそうな目をエミリーヌたちへと向けるレティシア。

 

「だってあなたたちは、他者と比較しないと自分のパートナーを肯定もできないのでしょう?」

 

「うっ……!?」

 

「私とアルバンの"愛"は、他人と比べるようなモノではないわ。私たちは私たちの関係であればいい。比べることでしか自尊心を満たせないなんて……あなたたちは不幸な人ね」

 

 流し目でそう言い残し、彼女は俺を連れてその場を去る。

 

 去り際に、彼女たちがもの凄い形相で睨んできた気がするが……気にしないでおくか。

 

 

 

 ▲ ▲ ▲

 

 

 

「――皆さん魔法の技術が上がったことですし、せっかくなのでクラスで魔法対決をしましょうか!」

 

 それは突然のことだった。

 思い付いたかのようにパウラ先生がそんなことを言い出したのだ。

 

 俺は白い目で彼女を見て、

 

「いや、なにがせっかくなんですかね……」

 

「技術が上がったなら競い合うべきですから!」

 

 相変わらずニコニコなパウラ先生。

 その横でライモンド先生はパチパチと拍手し、

 

「それもそうですね。オリヴィア特別講師に対決の様子を見てもらえるのは、いい刺激になるはずです」

 

 いやアンタもノリノリかよ。

 

 まあもっとも、言ってること自体は間違ってないかもしれんけど……。

 

 でも正直気乗りはしないなぁ。

 ただでさえ以前Eクラスのミケなんとかを叩きのめしたばかりだし。

 

 などと俺が思っていると――

 

「……面白そうね、ぜひやりましょう」

 

 Dクラス中からそんな声が上がった。

 声の主は、さっきのエミリーヌである。

 

 ――お?

 意外だな。

 

 ”(キング)”のバスじゃなくて、彼女の方が名乗り出てくるとは。

 

「ところで、対決の相手は指名してもよろしいかしら?」

 

「ええ、ご希望があれば!」

 

「では……お相手はFクラスのレティシア・バロウを」

 

 実に嫌悪を感じる苛立った声で、エミリーヌはレティシアの名を口にした。

 

 ――ザワッとどよめく生徒たち。

 俺はすかさず、

 

「駄目だ」

 

「……アルバン」

 

「レティシアがやるくらいなら俺がやる」

 

「それは、対決を拒否するということでしょうか? それだとFクラスからポイントを引くことになりますね!」

 

「そんなの全然構わ――」

 

「アルバン、私なら大丈夫だから」

 

 レティシアは、俺を諫めて前へと出る。

 あくまで冷静な様子で。

 

「ちょっ、レティシア……!」

 

「あの事件以降、私が練習(・・)していたのは知っているでしょう?」

 

「だ、だけどなぁ……」

 

「心配してくれてありがとう。でも、守られてばかりではいられないもの。だから……見ていて頂戴」

 

 微笑を浮かべてそう言うと、レティシアはエミリーヌと相対する。

 

 二人は教師や生徒たちに見守られる中、

 

「……よくもさっきはコケにしてくれたわね。タダじゃおかないから」

 

「あら、先にマウントを取ろうとしてきたのはそちらでしょう? 逆恨みなんて、余計にみっともないのではなくって?」

 

「ッ! 黙らっしゃい!」

 

 憤怒したエミリーヌは、バッと腕を上へと突き上げる。

 そして手の平に魔力を集中させ、

 

「――〔アイシクル・レイン〕!」

 

 魔法を発動。

 直後、途方もない数の氷の槍が彼女の頭上に生成される。

 

「――!?」

 

 それを見た俺は驚きを隠せなかった。

 

 ――おかしい。

 明らかに、魔法の出力が魔力量に釣り合っていない。

 

 個人が持ち得る魔力量というのは、魔法を発動する直前にはおおよそわかる。

 どうしても体外に魔力が漏出してしまうからだ。

 

 〔アイシクル・レイン〕は氷属性のAランク魔法。

 

 十分な魔力を有していなければ発動できないはずだが、エミリーヌにそんな魔力があるようには見えない。

 

 なのにどうやって――?

 

 いや、今はそんなことよりも――!

 

「食らいなさい!」

 

 エミリーヌは氷の槍の弾幕を、レティシア目掛けて一斉に発射。

 

 あんなものを受けたら、生身の人間などひとたまりもない。

 

 俺は反射的に身体が動く。

 すぐに彼女を助けに入ろうとする。

 

 反則だと言われようがポイントがどうだと言われようが関係ない。

 

 このままじゃレティシアが殺される――そう思ったからだ。

 

 しかし、

 

「あら、氷の魔法を使えるのね。でも――」

 

 レティシアは手を掲げ、魔力を集中。

 そして、

 

「――〔フリージング・フィールド〕」

 

 魔法を発動した。

 

 刹那――彼女の周囲に”霜”が舞い始める。

 

 霜はさながら絶対零度のバリアとなって、飛翔する氷の槍たちをさらに凍らせ固めて、動きを止める。

 

 それはまるで、氷の槍の時間(・・)を凍らせてしまったかのよう。

 

 膨大な数だった氷の槍の弾幕はその全てが空中で停止。

 

 最後にレティシアがパチンと指を鳴らすと、氷の槍の弾幕は一斉に砕け散った。

 

 ――〔フリージング・フィールド〕。

 レティシアが誘拐事件を経て、護身のために習得した防御特化の魔法。

 それも氷属性のSランク魔法である。

 

 粉々になってサラサラと風に流されていく氷の槍の弾幕を見たエミリーヌは、唖然。

 

「は……あ……?」

 

「残念ね。氷の魔法が得意なのは、あなただけじゃないのよ」

 

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