【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第44話 剣に迷いあり

 

《レオニール・ハイラント視点(Side)

 

 ――夜。

 

 夕食後の空いた時間、オレはローエンと共にコテージの外に出て、武術の鍛錬をしていた。

 

 剣の道は一日にしてならず。

 一日だって柄を握らない日があってはならない。

 

 武人肌であるローエンも同様の考えを持っているらしく、最近は空いた時間に彼を誘って稽古に勤しんでいる。

 

「ふぅ……今日はこのくらいにしておこうか、ローエン」

 

「うむ。しかし、やはり俺は武器を振るっている方が性に合うな……。魔法の訓練は、どうも頭を使い過ぎる……」

 

 戦斧を肩に担ぎ、やや疲れた様子でローエンが言う。

 

 以前からその気はあったが、彼は想像力を求められる魔法の授業をあまり得意としていないらしい。

 

 どちらかと言えば、武術のように身体を動かす方が性に合ってるんだろうな。

 

 もっとも、それはオレも同じだが。

 魔法が嫌いとは言わないが、剣を振るっていた方が気持ちがいい。

 

「……なあレオニール、少し思ったことを聞いてもいいか?」

 

 不意に、ローエンが尋ねてくる。

 

「ん? なんだ?」

 

「お前はどこで剣を習ったのだ? お前の腕前は実に見事だが、流派がわからん」

 

「流派なんて大したものはないよ。地元の師範から少し手ほどきを受けて、後は幼い頃から遊び道具代わりに剣を振ってただけさ。ほとんど我流と言ってもいい」

 

「ううむ、我流でそこまで腕を磨けるとは半ば信じ難いが……」

 

「そういうローエンこそ、どこで武術を? それにキミは、なんというか、その……」

 

「あまり貴族らしさを感じない、か? 当然だ。俺は貴族などではなく”職業騎士”の家に生まれたのだからな」

 

 フン、と鼻を鳴らして言うローエン。

 

 そうか、”職業騎士”の――。

 

 一般的に位の高い騎士は貴族出身の者が就くことが多く、特に指揮官クラスともなるとそれが顕著となる。

 

 だが一言で騎士と言っても、その役割は様々。

 当然、武器を携えて戦場の最前線へ斬り込んでいく者も求められる。

 

 しかし貴族出身者をおいそれと前線に放り込むワケにもいかない。

 

 そこで活躍するのが”職業騎士”だ。

 

 彼らは戦いを生業とする正真正銘の戦士。

 基本的に爵位こそ持たないが、家柄によっては貴族に次ぐ権力を持つ場合もある。

 

 また戦場で武勲を上げることを重んじており、国のために命を捧げることを善しとする思想があるため、血気盛んで士気も高い。

 

 そんな者たちだからか、王国騎士団・最高名誉騎士団長であるユーグ・ド・クラオン閣下なんかは”職業騎士”たちを重用することで知られていた。

 

 そんな”職業騎士”は腕自慢の平民出身者が召し抱えられる場合も多く、貴族よりかは平民に近い存在なのも特徴だ。

 

「……なるほど、どうりでオレが平民であることをあまり気にしていなかったワケだ」

 

「騎士は国を守り、民を守るのが務め。その民を蔑んでなんとする」

 

「立派な心掛けだね。オレも見習わないと」

 

「ハッハッハ、もしよければレオニールも”職業騎士”になるか? お前ほどの腕ならば、すぐに成り上がれるだろうな」

 

「いや、少なくとも今は遠慮しておくよ。オレにはオードラン男爵が――うん?」

 

「? どうした?」

 

「あれ……」

 

 ふと、オレは人影に気が付いた。

 一人の……男?がこちらを見つめている。

 

 日が落ちているため、最初はよく顔が見えなかったのだが――

 

「……ミケラルド? Eクラスのミケラルドか?」

 

「ク……ククク……」

 

 そこに立っていたのはEクラスの”(キング)”、ミケラルド・カファロだった。

 

 彼は両腕をだらりと下げ、小さく笑っている。

 

 ローエンも容姿を判別できたらしく、彼の下へと近付いていくと、

 

「こんなところでなにをしている? 貴様、昼間の授業は――」

 

「クク……――〔シャドウ・エッジ〕!」

 

 ローエンが声をかけた瞬間であった。

 

 突然ミケラルドが魔法を発動。

 闇属性の斬撃が、ローエンの身体を斬り裂く。

 

「が――あ――ッ!?」

 

「ローエン!? このッ!」

 

 オレは反射的に剣を取り、ミケラルドへと斬りかかる。

 

 やらねばやられる――。

 直感的に、そう判断して。

 

 しかし、

 

「クヒヒ! ――〔アクア・ブレイズ・ショット〕!」

 

 ミケラルドは続け様に魔法を発動。

 しかもそれは、水属性と炎属性を掛け合わせた”混合魔法”であった。

 

「っ!? ”混合魔法”!? どうして――!」

 

 ”混合魔法”は極めて扱いの難しい上級魔法。

 少なくとも、オレはオードラン男爵以外に扱える人物を知らない。

 

 以前オードラン男爵とミケラルドが魔法で勝負をした時には、彼は”混合魔法”なんて使えなかったはずなのに――!

 

「くッ……!」

 

 迫り来る炎と水の魔弾。

 今のオレでは、二つの属性へ同時に対処することなどできない。

 

 ならば――

 オレは全神経を目へ集中。

 そして炎と水の魔弾が直撃する寸前、身体を反らしてギリギリで回避。

 

 身体能力だけなら、あのオードラン男爵だって認めてくれているんだ。

 

 魔弾くらい避けられなきゃ、我が”王”に笑われてしまう。

 

 そのまま地面を蹴り飛ばし、一気にミケラルドへと間合いを詰める。

 剣を振るい、首を刎ねようとしたが――

 

「――」

 

「う……っ!?」

 

 虚ろな奴の目を見て、迷いが生じた。

 

 初めて人を斬る――それに抵抗を覚えてしまったのだ。

 

「このっ――!」

 

「クヒヒ……」

 

 それでも!と剣を振るい切るオレ。

 

 だが、まるでこちらの迷いを読み取ったかのようにミケラルドはヒラリと斬撃を回避。

 

 続けて空高くへと跳躍すると、そのまま逃げ去ってしまう。

 

 ――逃がしてしまった。

 オレがほんの一瞬迷ったせいで。

 

 オードラン男爵なら、絶対迷わなかったはずなのに。

 

「くそっ……オレはどうして……! そうだ、ローエン! 大丈夫か、しっかりしろ!」

 

 オレは負傷したローエンを抱え、オードラン男爵たちの下へと急いだのだった。

 

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