【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第5話 あなたはどうして

 存分に絶景を堪能してくれたレティシア。

 

 そろそろ足を休めてもらおうと、俺は次に山中の滝スポットへと案内していた。

 

 小さな滝と浅い滝壺がある、綺麗な空気と清涼感で満ち溢れた場所だ。

 

「この水……冷たくて気持ちいい」

 

 裸足になった彼女はスカートをたくし上げ、滝壺の水へ足を鎮める。

 

 深さはせいぜい膝下までしかないから、溺れたりはしないだろう。

 

「それに空気がとっても澄んでる。息をするのが、こんなに美味しいなんて……」

 

「田舎でしか味わえない感覚だろ?」

 

「あら、シティガールにマウントを取れてそんなに嬉しい?」

 

「そんなつもりで言ったんじゃないが」

 

「冗談よ」

 

 クスッと笑ってくれるレティシア。

 

 おお……遂に小粋なジョークまで飛ばしてくれるようになったか。

 

 ちょっと心の距離が近付いた気分。

 

 ホント、無理矢理デートに誘ってよかったなぁ。

 

「なぁレティシア、この機会に自己紹介でもしないか?」

 

「自己紹介?」

 

「俺たちはまだ、お互いのことをなにも知らない。せめて好きな食べ物とか趣味くらいは知ってもいいと思うんだ」

 

「私は……別に興味ないけれど」

 

「俺は興味あるなぁ」

 

「ハァ、わかったわ」

 

 レティシアは観念した様子で、

 

「私はレティシア・バロウ。好きな食べ物は紅茶とスコーン。趣味は……強いて言うなら子供と遊ぶことかしら」

 

「へえ、子供が好きなのか」

 

「少なくとも嫌いではないわ」

 

「いい趣味だ。素敵だよ」

 

「フン……あなたの番よ」

 

 レティシアは俺にバトンタッチ。

 今度は俺が自己紹介する番だ。

 

「俺はアルバン・オードラン。好きな食べ物は上等なステーキだけど、減量のために控えてる。趣味は剣の稽古と、とにかくダラダラすること」

 

「努力家なのか怠け者なのか、よくわからない人ですこと」

 

「自分でもそう思う。でもブヨブヨだった身体をここまで引き絞った事実だけは、努力家だと自負してる」

 

「あら、私も見習わないとかしら」

 

「俺は今のレティシアくらいが好きだけどな~」

 

「それ、セクハラ発言ですわね」

 

「あ、ゴメン」

 

 クスクスと笑い合う俺たち。

 なんか楽しいな、こういうの。

 

 そんな感じで、俺たちが他愛無い話でいい具合に盛り上がっていた――その時である。

 

『グルル……!』

 

 どこからか獣の唸り声が聞こえた。

 

 そしてズシンズシンという重たげな足音と共に、一体の黒い巨体が姿を現す。

 

「! モンスター……!?」

 

「おぉ、キラーベアーだ」

 

 現れたのは黒い毛と大きな身体を持つ、キラーベアーというモンスター。

 

 並の刃物では傷も付かない分厚い皮に、人間など簡単に引き裂ける鋭い爪を持つ。

 

 性格も極めて獰猛で、人を見つけるとすぐに襲い掛かって来る習性がある。

 

「この森の熊さん、時々出没するんだよ。農作物を荒らすから困ってるんだよなぁ」

 

「な、なにを呑気なことを言っているの!? 急いで逃げなきゃ……!」

 

『グルルァ!』

 

 キラーベアーは一気に駆け出し、レティシアへ襲い掛かろうとする。

 

 ま、彼女の方が美味しそうに見えるのは否定しないが、

 

「害獣風情が」

 

 俺は、腰の剣に手を掛ける。

 

「レティシアに近付くな」

 

 そして瞬時にキラーベアーへ間合いを詰め、鞘から剣を抜き放った。

 

『グギャア……!』

 

 一刀両断。

 キラーベアーは巨体を真っ二つに斬り裂かれて、即死。

 

 滝壺を血の色に染めた。

 

「あ~もう、せっかく綺麗な水を堪能してたのに。立てるか、レティシア」

 

 俺は滝壺の中で腰を抜かした彼女に、手を差し伸べる。

 

「あ、あなた……あんな大きなモンスターを一太刀で……!」

 

「言ったろ、剣の稽古が趣味だって」

 

 再びレティシアを抱きかかえ、彼女を陸へと上げる。

 

 そしてさっきまで俺が座っていた岩の上に腰掛けさせた。

 

「どこか怪我はないか?」

 

「だ、大丈夫……」

 

 まだ少し放心状態のレティシア。

 

 まあモンスターを襲われるなんて、公爵令嬢にとって初めての経験だったろうな。

 

「怪我がないなら、なによりだ」

 

 ニコッと笑って見せる俺。

 

 こういう時は少しでも安心感を与えた方がいいよな、うん。

 

「……ありがとう、助けてくれて」

 

「どういたしまして」

 

「ねえ、アルバン……」

 

「なんだ?」

 

「あなたはどうして、私に優しくしてくれるの?」

 

 その時、ふとレティシアがそんなことを尋ねてきた。

 

「……どうしてって――」

 

「あなたは無理に私と結婚させられた、政略結婚の被害者なのよ?」

 

「自覚してる」

 

「なら、尚更わからないわ」

 

 レティシアはまだ少しだけ手を震わせ、俯く。

 

 その表情はどこか虚ろとしていた。

 

「バロウ家から支援だけ取り付けて、私なんて放っておけばいいのに。一体どうして?」

 

「それは勿論、可愛いお嫁さんとイチャイチャしたいから! ……ってのは建前だけど」

 

「本音を教えて」

 

「言っても怒らない?」

 

「怒らないから!」

 

 それなら、と俺は切り出し――

 

「本音を言えば、キミが"なにをして誰の恨みを買ったのか"を知りたいからだ」

 

「……」

 

「なにも知らぬ存ぜぬでは、いざ(・・)って時後手に回って面倒になるからな」

 

「知らない方が身のためよ」

 

「そうはいかん。どっちにしたって、俺はもう無関係じゃないんだ」

 

 過程はどうあれ、俺はバロウ家のお家事情に巻き込まれてしまった。

 

 好む好まざるに関わらず、既に政争の渦中に身を投じているのだ。

 

「いいえ、まだ無関係でいられる。だから興味を持たないで」

 

「まるで、キミに関わっちゃいけないような口ぶりだな」

 

「……ええ、その通りよ。あなたは私に関わるべきじゃない」

 

 そう言った直後、彼女は改めて俺の目を見つめる。

 

「あなたの紳士的な態度に免じて忠告してあげる。……オードラン家を守りたければ、私を迫害なさい」

 

「――なんだって?」

 

「徹底して不仲を演じるの。そうした方が身のためよ」

 

「……」

 

 俺、ビックリ。

 

 これはまあ、凄い一言が飛び出したぞ?

 

 私を迫害なさい、だって?

 一体どんな境遇に身を置けば、そんな言葉が口から出るんだ?

 

 これは思った以上に色々と抱えてそうな感じだな。

 

 でも……一つハッキリした。

 

「……そうか、わかった」

 

「それでいいの。あなたが妾を取るのは止めないから、お好きに――」

 

「キミは決して悪女なんかじゃないと、よくわかった」

 

「――は?」

 

「税を横領して淫靡にふけるとか、婚約相手の資産にまで手を出す浪費家だとか聞いたけど、ありゃ全部嘘だな。キミがそんなことするワケない」

 

 レティシアが悪行三昧の放蕩娘だって?

 

 冗談じゃない。

 彼女は優しさと聡明さを併せ持った才女だ。

 悪行なんてしようものか。

 

「キミを迫害するなんて断る。俺には理由が見当たらない」

 

「あなた……! 忠告だと言ったのが聞こえなかった!?」

 

「なら説明してくれよ。キミは一体なにをした?」

 

「…………言えないわ」

 

「だったら忠告なんて聞けないね」

 

 俺は彼女に背を向け、肩をすくめる。

 

「ま、教えてくれなくても別に構わない。どうせ全部こっちで調べる」

 

「……後悔するわよ」

 

「後悔なんてしないさ。面倒くさいからな」

 

 ……ぶっちゃけ、大方の予想はついてる。

 

 おそらく――いや間違いなく、彼女は何者かに陥れられたんだ。

 そして結果的に、バロウ家とベルトーリ家を追われることとなった。

 

 だが、ウチに送ったのは間違いだったな。

 

「そうだ、一つ”賭け”をしよう」

 

「賭け……?」

 

「俺はキミのことを調べ上げる。なにがあったかを詳しく知る。その上で俺が本当に後悔しなかったら、仲良くしてくれ」

 

「……後悔したら?」

 

「慰めてほしいかな?」

 

「なにそれ、賭けになってないじゃないの」

 

「そりゃあね。八百長は悪党の専売特許ですから」

 

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