【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第58話 恋敵②

 

「……俺が愛するほど、レティシアが不幸になるだと?」

 

「そうだ、キミは彼女を不幸にしている」

 

 極めて確信めいた、ハッキリとした口調で言い切るヨシュア。

 

 ――ふざけんな。

 

 俺は腹の底から、そう叫ぼうとした。

 しかし、

 

「……ふざけないで」

 

 俺よりも先に、俺が思ったのと全く同じ言葉を、レティシアが口にする。

 

「アルバンのせいで、私が不幸になっているですって? あなたが一体なにを知っているというのかしら……?」

 

 背筋が凍るような剣幕で、彼女はヨシュアを睨み付ける。

 

 その姿に俺まで一瞬ギョッとしてしまう。

 

 こ、これはめちゃめちゃ怒ってるな……。

 こんなにキレてるのを見るのも久しぶりかも……?

 

 怒ると本気で怖いんだよな、レティシアって……。

 しかも基本静かにキレるタイプだから余計にさ……。

 

「じ、事実は事実だ。今度は僕の話を聞いてもらおうか」

 

 怒るレティシアを見て流石にヨシュアも若干たじろぐが、すぐに話を再開。

 

「本来であれば、キミたちに打ち明けるべきではないとウィレーム公爵から口止めされていたのだが……オードラン男爵を高潔な貴人と認めた上で、僕の知っていることを話そう」

 

「お父様が……?」

 

 驚くレティシア。

 

 ――ウィレーム、ウィレーム・バロウ。

 名前は勿論知ってるよ。

 レティシアの親父さんで、バロウ公爵家の現当主だな。

 

 離縁だの婚約だのという話が出た以上、そりゃ絶対に関わってるだろうなとは思ってたけど……。

 

「考えたことはないか? どうしてバロウ家は、遥か下の階級であるオードラン男爵家にレティシア嬢を嫁がせたのか」

 

「それは、マウロに婚約破棄されたせいでレティシアが行き場をなくしてしまったから……」

 

「いいや、それはきっかけに過ぎない。そもそも――マウロは焚き付けられたのだ。新しい女を宛がわれ、婚約破棄をするようにと」

 

「なに――!?」

 

「もっとも本人に自覚はないだろうがな。奴は利用されたに過ぎない」

 

 そこまで言って、ヨシュアはレティシアを見つめ――

 

「……レティシア・バロウ、キミは命を狙われているのだよ。貴いお方(・・・・)から恨みを買っているのだ」

 

「私……が……?」

 

「身に覚えがあるだろう? ここ最近、立て続けに起きている事件の数々……。明らかに裏で手引きしている者がいる」

 

 ここ最近の事件――。

 レティシア誘拐事件もライモンドの一件も、すぐ傍には〝串刺し公(スキュア)〟の姿があった。

 

 だけどアイツは言っていたな。

 〝小生は()にご報告をせねばなりませんので〟みたいなことを。

 

 つまり真の首謀者は別にいる、と。

 

 それに以前、ファウスト学園長も言ってたよな。

 〝王家の一部が関わっているやもしれぬ〟って。

 

 ……このことをレティシアは知らない。

 ファウスト学園長ですらも詳細は把握し切れていない様子だった。

 

 だがおそらく、ウィレーム公爵はなにか掴んだのだろう。

 

 だから行動に移した。

 そんなところか?

 

「レティシア嬢は〝最低最悪の男爵〟に嫁ぐ必要があったのだ。そして不幸で憐れな公爵令嬢となれば、本当の意味での破滅を回避できたかもしれないからね」

 

「……」

 

 レティシアは黙って話を聞き続ける。

 ヨシュアも話を続け、

 

「だからウィレーム公爵はキミをオードラン男爵家へと送った。だが……想定外のことが起きた」

 

「俺がレティシアを溺愛し始めた、か」

 

「そうだ。そしてマウロの悪行が暴かれたことで、キミたちが仲睦まじく暮らしていると貴いお方の耳に入った」

 

「その貴いお方(・・・・)っていうのは、一体誰のことなんだ……?」

 

「名前は僕も知らない。ウィレーム公爵は知らない方がいいと言っていた。……つまり名前を知るだけで身に危険が及ぶ立場のお方、ということだろう」

 

 そこまで語ったヨシュアは「とにかくだ」と話を仕切り直し、

 

「今後もキミたちが仲睦まじい夫婦でいる限り、レティシア嬢は狙われ続ける。貴いお方は、レティシア・バロウが幸せそうにしているのが心底許せないようだからね」

 

「それじゃなにか? お前の下に嫁げばレティシアは狙われないってのか?」

 

「少なくとも、キミの下にいるよりは遥かに安全だ」

 

 ハッキリと言い切るヨシュア。

 

 ……リュドアン侯爵家は良くも悪くも貴族の中では浮いており、独自の地位と派閥を持っている。

 

 民衆からの指示も厚く、王国騎士団だってバックに付いている。

 

 そんなリュドアン家に守られるとなれば、仮に王族の人間だとしても迂闊に手は出せなくなるだろう。

 絶対に政治が絡んできてしまうからな。

 

 地方のしがない男爵を相手にするよりも、桁外れに厄介にはなるはずだ。

 

 マウロに婚約破棄された当時は無理だっただろうが、巷での悪評が減って来た今のレティシアならリュドアン侯爵家も迎え入れられる。

 

 リュドアン侯爵家もバロウ公爵家と繋がることで政の世界への足掛かりになるから、双方にとって好都合。

 

 ――大方、ウィレーム公爵はそんな風に考えてるんだろうな。

 

 ……あれ?

 でも待てよ、それって――

 

「改めて、僕はキミたちの離縁を所望する。それがキミたちのためだからだ」

 

「……」

 

「このヨシュア・リュドアンが、レティシア・バロウを不幸から救うと約束しよう。身を引きたまえ、オードラン男爵」

 

 改まって催促してくるヨシュア。

 

 だが――俺はビシッと手の平を奴へと向ける。

 ストップ!と言わんばかりに。

 

「待った、俺は()だ」

 

「なに?」

 

「俺の答えはもう決まってる。でも、俺より先にレティシアの考えを聞くべきじゃないのか?」

 

 ……どうしても気に入らねぇんだよなぁ。

 

 なんでどいつもこいつも、レティシアの心を無視しようとするんだよ。

 まず彼女の気持ちを聞くべきなんじゃないのか?

 

 離縁だろうが新しい婚約だろうが、レティシアだって当事者なんだぞ?

 

 向き合うべきだろって。

 それができてこそ、彼女を愛してる(・・・・)って言えるんじゃないのかって。

 

 俺は――レティシアの口から、レティシアの気持ちを聞きたい。

 

「私……私は……」

 

 レティシアは少しだけ俯き、思考を巡らすように言い淀む。

 

 だがすぐに顔を上げ、真っ直ぐ前を向くと――

 

「私は……アルバンと一緒にいたい!」

 

「! レティシア嬢……」

 

「ヨシュア、あなたが私を案じてくれるのは嬉しいわ。でも私の生涯の伴侶はアルバン・オードランただ一人と、そう決めたの」

 

「……それがキミの答えなのか?」

 

「ええ」

 

「俺も同じ気持ちだ。俺の妻はレティシアだけだってな」

 

 俺はそっと彼女の肩を抱き寄せる。

 

 そんな俺たち二人を見て、ヨシュアはスッと瞼を伏せた。

 

「……残念だ、説得できると思ったのだがな」

 

「交渉は決裂か?」

 

「ああ、どうやら悪者(・・)は僕の方らしい」

 

 苦笑するヨシュア。

 だが目を開いて俺を見るや、

 

「だが僕もウィレーム公爵から頼まれた身だ。どうせ悪者となったからには、最後までそれらしく振る舞わせてもらおうか」

 

「へえ……じゃあどうする?」

 

「おっと、ここで事を荒立てる気はない。クラオン閣下との約束もあるからね。……そういえば、学園の中間試験が控えていたな」

 

 ニヤリと頬を吊り上げ、ヨシュアはこちらに背中を向ける。

 

「既に知っているかもしれないが、僕はCクラスの〝(キング)〟を務めている。そこでこうしよう。中間試験でFクラスがCクラスの成績を上回れたら、僕は婚約破棄をウィレーム公爵に伝える。大人しく身を引くと約束しよう」

 

「……逆にCクラスが勝ったら?」

 

「その時は――僕がレティシア嬢を頂く、ということでどうかな?」

 

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