【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第62話 レティシアの作戦

 

「……うん、よし。皆よく聞いて頂戴。今から作戦を説明するわ」

 

 ――中間試験〝防衛ゲーム(フラッグ・ディフェンス)〟の開始前。

 レティシアがダンジョンの地図を広げ、皆に見せる。

 

 ちなみに、この地図は試験の直前にようやく渡されたものだ。

 おそらくCクラスも同じだろう。

 

 つまり試験を受ける俺たち生徒は、このダンジョンについてほとんどなにも知らない。

 

 学園側としては、不慣れな場所で起きる突発的な戦いにどう対処するかを見たい――ってとこか?

 

 でも残念だったな。

 こういう状況、レティシアは凄く得意なんだよ。

 

 だから中間試験の作戦立案は、基本的に彼女に任せてある。

 

 さっそくとばかりにレティシアはFクラスのメンバーに話し始め、

 

「私たちFクラスは防衛側(ディフェンス)――旗を守る側だけれど、旗の近くで固まっていては駄目。積極的に打って出ましょう」

 

「あら、何故ですの? 旗の周りを皆で警戒して、寄り付いてきた相手を順番にタコ殴りにしていけばいいじゃありませんか」

 

 至極真っ当な意見を述べるエステル。

 ま、そう思うのも無理ないわな。

 

 〝旗の防衛〟を〝拠点の防衛〟という言葉に置き換えるとわかりやすいが、拠点攻略戦は一般的に防衛側が有利とよく言われる。

 

 強固に守られた陣地を攻めるには、攻撃側は防衛側の数倍の戦力を用意する必要がある、と。

 

 だったら旗の守りを固めて、そこから動かなければいいじゃん――?

 向かってくる奴をFクラス全員で適宜ぶっ飛ばしていけば、こっちの勝ちでしょ――?

 

 ――なんて考えてしまいそうなもんだが、聡明なレティシアはよくわかっているのだ。

 

 それは愚策であるってな。

 

「いえ、それは難しいと思う。旗が設置される古代集落跡エリアはやや広めの市街地となっているから、死角が多く混戦になる危険性がある。こちらの連携を乱した上で陽動をかけられたりすれば、あっという間に隙を突いて旗を奪われるわ」

 

「ええっと……つまり、どういうことですの???」

 

「十人という少人数では、籠城する方がリスクが大きいと言っているんだ」

 

 いまいち理解の追い付かないエステルへ補足を入れるイヴァン。

 

 こっちはレティシアの言いたいことをすんなり汲み取ったらしい。

 

「それに僕らは土地勘でも優位性がないし、前以って防衛の準備ができているワケでもない。ならばできるだけ市街地での戦闘は避けるべき。だろうレティシア夫人?」

 

「ええ、イヴァンの言う通り。そこで旗の防衛は一人だけにして、残り九人で迎撃に動くべきだと思う。――これを見て」

 

 レティシアは地図に描かれた古代集落跡エリア周辺を指差し、

 

「このダンジョンは一見すると複雑に入り組んでいるように見えるけれど、中央の古代集落跡エリアへ入るためのルートは全部で四つだけ。内一つは正面の開けたルートで、ここは陽動以外に使われないはず」

 

「えー、なんでそう思うのぉ?☆ ヨシュアのおバカが、Cクラスを率いて真っ直ぐ突っ込んでくるかもしんないじゃん♣」

 

 不思議そうに尋ねるラキ。

 レティシアはスッと地図から手を離し、

 

「……彼がそんな力押しみたいな真似をするとは思えない。彼は誰が見ても美しいと思うような、完璧な形での勝利に固執するはずよ」

 

「ふぅん、なんでぇ?♦」

 

「私に――いいえ、お父様(ウィレーム・バロウ)に絶対的な勝利を捧げてみせると……そう考えているはずだから」

 

 ――その言葉に、一同はシンとする。

 

 これ以上ない説得力だな。

 というか絶対に考えてるだろう。

 あのプライドの高いヨシュアのことだ。

 

 まあ……相手を完璧に叩き潰すと思ってるのは、俺も一緒だけどさ。

 

「ヨシュアはスマートに勝つために、必ずダンジョンを迂回して旗を狙ってくる。そこで私の作戦は――」

 

 地図を指差しながら、淡々と作戦内容を皆に伝えていくレティシア。

 そして全て説明し終えると、

 

「――これが一番上手くいくと思うのだけれど、どうかしらアルバン?」

 

「なに言ってるんだよレティシア、改まって聞くまでもないだろ? ――最高だ」

 

 

 

 ▲ ▲ ▲

 

 

 

《ヨシュア・リュドアン視点(Side)

 

『アンソニー・ジェロマンくん死亡! Cクラス残り八名です!』

 

 ――ダンジョン全域に響き渡るパウラ先生の声。

 

 どうやらアンソニーがやられたらしい。

 

 Cクラスは僕が〝(キング)〟になる時に一名退学者を出しているから、メンバーは全部で九名。

 が、たった今一人欠けて八名となった。

 

 誰一人欠けることなく〝(キング)〟を選出したFクラスとは、これで二名の人数差が出たことになる。

 

 数の上ではこちらが不利。

 もっとも――

 

「予定通り、って(ツラ)してんなぁヨシュアよ」

 

 傍らにいたマルタンが微笑を浮かべながら話しかけてくる。

 今回の中間試験では、彼が僕の副官役だ。

 

「ああ、アンソニーには悪いが早々に退場してもらった」

 

「アイツ言うこと聞かねぇし、阿呆のくせしてFクラスを舐め切ってたからな。味方に居ても邪魔なだけだし捨て駒(・・・)にしたのは正解だわ」

 

陽動(・・)と言ってくれないかな。実際、彼のお陰でFクラスの動きが多少わかった」

 

 僕はダンジョンの地図を俯瞰する。

 

 今、攻撃側(オフェンス)の開始地点に残っているのは僕とマルタンの二人だけ。

 残り六名は既に行動を開始している。

 

 防御側(ディフェンス)十名に対して、攻撃側(オフェンス)六名。

 ほとんど倍の人数を相手にしなければならないが、それでも六人で十分と僕は判断した。

 

 決してFクラスを舐めているつもりはないが――この試験を視察しているウィレーム・バロウ公爵に、完璧な勝利をご覧に入れる。

 

 そう決めたのでね。

 

「ああ、アンソニーを瞬殺できる腕前ってなると限られるな。集めた情報によればレオニールって奴が強いらしいし、おそらく――」

 

「いや」

 

 僕は地図を見つめたまま、マルタンの言葉を遮る。

 

「……アンソニーを倒したのはオードラン男爵だ。彼が動いている」

 

「は、はぁ? オードラン男爵ってFクラスの〝(キング)〟じゃねーか。普通は旗の傍に陣取って動かないんじゃ……」

 

「これは僕の推測に過ぎないが……Fクラスは旗を守っていない」

 

「なに……!?」

 

「いや、正確には一人を旗の守りに残し、あとはこちらの迎撃に動いているはずだ。古代集落跡エリアで防衛線をやるより、そちらの方がリスクが少ないと気付いたのだろうな」

 

「……マジか? Fクラスにそこまでの戦術を考えられる奴がいるなんて……」

 

「フッ、いるさ。少なくとも一人(・・)はね」

 

 いや……もしかしたら二人かもしれないな。

 

 お互いを信頼し合っているからこそ、オードラン男爵は前線へと出られたのかもしれない。

 

 正直、羨ましいよ。

 それだけ信じ合える関係だなんて。

 

 だが……その関係性だからこそ、こちらがわかることも多いんだ。

 

「それともう一つ……オードラン男爵が迎撃に動いているということは、逆に旗を守っている一名も予想がつく」

 

 僕は地図をクルクルと丸め、

 

「彼が最も傷つけたくない人物であり、同時にFクラスの司令塔としても機能しているであろう人物――レティシア・バロウだ」

 

 

 

 ▲ ▲ ▲

 

 

 

「ったくヨォ……ウチの旦那はマジで人使いが〝荒すぎる(クソハード)〟ってなァ」

 

 ダンジョンの中を大きく迂回し、古代集落跡エリアへと向かう男の姿。

 

 リーゼントヘアと目元の大きな傷跡、そして殺人犯にしか見えないほど凶悪な人相がトレードマークのキャロル・パルインス。

 

 彼もCクラスメンバーの一人だ。

 キャロルは口先ではグチグチ言いながらも、ヨシュアの指示をキッチリと果たそうとしていた。

 

「ま、俺ぁアンソニーのハナタレとは違うからよォ。さっさとFクラスの横腹に〝特攻(ブッコミ)〟かまして、旗もぎ取ってきてやんよォ!」

 

「――あら、そう簡単に〝お特攻(おブッコミ)〟なんてさせるとお思い?」

 

「あン……!?」

 

 全速力で駆け抜けていたキャロルは足を止める。

 そして――彼の前に姿を見せる、グルグルの金髪縦ロール。

 

「残念ですわね。ここから先は、このエステル・アップルバリが一歩も進ませねぇんですわ」

 

 優雅に扇子を広げて口元を隠し、挑発的な眼差しを送るお嬢様――。

 

 Fクラスが誇る浪花の喧嘩師、エステルがキャロルの前に立ち塞がったのである。

 

「……オイ、オイオイオイオイオイオイオイオイオイ、よりにもよって〝(レディ)〟かよォ」

 

 キャロルは「血ッ(チッ)!」と舌打ちし、

 

「俺は〝(レディ)〟とは〝戦争(ケンカ)〟しねぇし殴らねぇって決めてんだヨ。見逃してやるからとっと失せろやコラ!」

 

「こちとら〝クラスメイト(マブダチ)〟の夫婦生活がかかっているんですの。ここで退いたら〝乙女が廃る〟ってヤツなんよ……ですわ」

 

 エステルはパシッと扇子を畳むと、不敵な笑みをキャロルへと向ける。

 

「……そんなに〝戦争(おケンカ)〟したくないなら、絶対に〝闘り(ヤリ)〟たい気分にして差し上げましょうか」

 

「ンだとォ……?」

 

「ご存知かしら? 〝ぶっ潰し合い(おタイマン)〟が弱い奴ほど、喧嘩の前によく吼える……って」

 

 ビキッ!

 

 エステルに言われた瞬間、キャロルの額に青筋が浮かぶ。

 

「〝脅す(コカす)〟だけなら〝お子様(ガキ)〟でもできてよ。ビビッてねーで、さっさとかかってらっしゃいな――臆病者の〝クソ雑魚〟さん」

 

「ブ…………〝ブッ殺〟す!!!」

 

「ウフフ、〝対よろ〟ですわ」

 

 

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