【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第78話 例の小説

 

 ――女子生徒が口にした言葉を理解できず、俺の意識は一瞬だけ宇宙へと飛ぶ。

 

 サイン……さいん?

 

 なんで俺たちが、見ず知らずの女子からサインを求められるんだ?

 

 どういうこと?

 こんなこと初めてなんだが?

 

 思わずポカーンとする俺。

 

 ――ハッ!? いや、待てよ?

 もしかすると俺は勘違いをしてるかもしれない。

 

 この場合の〝サイン〟とは、〝査印〟あるいは〝左院〟の可能性がある?

 

 または三角比の解を求めようとしていて、サイン・コサイン・タンジェントの話をしているのか?

 

 サインの求め方はsinθ=高さ/斜辺だから、まずはθ(角度)の値に対して高さbと斜辺aを代入して――

 

「……アルバン、この子の言っている〝サイン〟は査印でも左院でもサイン・コサイン・タンジェントでもないと思うわ」

 

「えっ、そうなの?」

 

「見ず知らずの女の子が、突然私たちに三角比の話なんてしてくるワケないでしょう?」

 

「いやぁ、あり得なくもないかなって。学園に入ってから色々とあり過ぎて、突然三角比の解を求められるなんてもう普通なのかもって思ってさ」

 

「…………私たちは、ちょっと特殊な環境に身を置き過ぎたのかもしれないわね……」

 

 ふぅ、とレティシアは頭を抱えてため息を漏らす。

 そんな物憂げなキミも可愛いよ。

 

「あ、あのぉ~……」

 

 俺たちの夫婦漫才?を見ていた女子生徒は、ソワソワとした様子で再び話しかけてくる。

 

「ああ、ごめんなさい。えっと……まずはあなたのお名前を伺ってもよろしくて?」

 

「あっ、す、すみません! ご挨拶が遅れました、私はエイプリル・スチュアートといいます! 初めまして!」

 

 バッと頭を下げ、大きくお辞儀する女子生徒エイプリル。

 

 身長はおよそ160センチ。

 髪は明るいブラウンのセミロングで、なんというかとても純朴な雰囲気のある少女だ。

 

 美人と言えば美人だが、どこか垢抜けないというか。

 お年頃感があると言うべきか、等身大の少女感が凄いと言うべきか……。

 

 一言でまとめると、〝学園というシチュエーションが猛烈に似合う〟――そんな印象を持つ女子なのだ。

 

 だが平民っぽいかと聞かれると、それも違う気がする。

 

 たぶん男爵家~子爵家出身の次女、三女かもしれない。

 でなければ、そこそこ裕福な商家の子か。

 

 スチュアート家、スチュアート家……。

 うーん、名前に聞き覚えはないけど。

 

 ま、とりあえず敵意がないのはハッキリしてるな。

 

 立ち姿ですぐにわかる。

 戦闘――少なくとも接近戦に関しては完全な素人。

 

 怪しい気配は皆無だし、こちらを騙そうって魂胆も感じない。

 

 〝串刺し公(スキュア)〟みたいに誰かが送り込んだ刺客だったら、俺はすぐに気付ける。

 どうやったって殺気の類を隠し切れないからな。

 

 警戒しなくて大丈夫そうだし、なによりエイプリルの方が警戒していない。

 

 ――まあそれは、〝戦い合う〟という意味での警戒だが。

 

「お、お、お二人には、凄く憧れていて……が、我慢できずに話しかけちゃいました……! ご、ごめんなさい!」

 

 カチコチに緊張した様子のエイプリル。

 警戒はしていないが、緊張は凄い。

 

 ……こんな様子じゃ、戦いなんて無理だわな。

 

「私たちに憧れて、って……どういうことなの?」

 

「コ、コレです!」

 

 そう言って、華奢な腕に抱えていた一冊の本を俺たちに見せつけてくる。

 

「なになに……『アル×レティ 甘イチャな二人の幸せ結婚学生生活/激闘!恋のライバル編』………なんだこりゃ?」

 

 それは、なんとも乙女チックな花柄の装丁の小説だった。

 

 表紙には堂々とタイトルが書かれ、異常なまでに美化された男女のイラストも添えられている。

 

 たぶん恋愛をテーマにした小説なのだろう。

 描かれた男女は目がキラキラ光っていて、書かれてもいないのに〝青春〟の二文字が目に映る。

 

 これはなんともド派手な……。

 

 あ、でも表紙に描かれた少女はなんとなくレティシアに似てるかな?

 かなり可愛らしくて、個人的には好印象。

 

 ちなみに著者は〝陰羽カラス丸〟と端っこの方に書かれてある。

 

 なるほど、レティシア似のキャラを描くとはいいセンスだ。

 

 っていうかタイトルからして『アル×レティ』なんだが、これってもしかして――

 

「これ…………は…………」

 

 本を見た途端、レティシアは頭を抱えてフラフラと立ち眩みを起こした。

 

 俺はそんな彼女を慌てて抱え、

 

「大丈夫かレティシア!? 一体どうした!?」

 

「だ、大丈夫よ……。そういえば許可(・・)を出していたわねって、思い出しただけ……」

 

 頭痛が痛いとばかりに激しく悩ましそうな表情をするレティシア。

 

 どうやら彼女は、この小説に心当たりがあるらしい。

 

「ちゅ、中間試験が終わった後、カラス丸先生がすぐに新作を出してくれて……! 読んだらもうすっっっっっごく素敵で! もう居ても立っても居られなくて、お二人にお声がけしちゃったんです……!」

 

「……なあ、もしかしてその表紙に乗ってる男女のキャラって――」

 

「はい! アルバン様とレティシア様です! ……って、あれ? ご存知なかったのですか……? 私、てっきり……」

 

「……聞かせてほしいのだけれど、その小説って学園中に広まっているのかしら……?」

 

「そ、そうですね。元々は少数の女子が陰でコッソリ読んでいましたけど、近頃はかなりの部数が女子寮で出回っているかと」

 

 ――【緊急速報】

 王立学園の中で、当人の知らぬ間に俺とレティシアの恋愛小説が広まっている模様。

 

 え? なんで?

 なんで俺たち夫婦の恋愛小説が、学園中の女子生徒に読まれてるの?

 

 俺たちって元々嫌われ者だったはずでは?

 それなのに、どうしていつの間にかキラキラなキャラとして描かれちゃってるの?

 

 ヤバい、謎過ぎる。

 

 やだ、怖い……。

 なんなら過去一恐怖を感じてるよ、俺。

 

 一番最初にレオニールと会った時か、それ以上に怖いと感じるわ。

 

 レティシアも深くため息を吐き、

 

「はぁ……後で彼女(・・)に色々とお話をしなきゃね、これは」

 

「す、すみません! やっぱりご迷惑でしたでしょうか……!?」

 

「いえ、構わないわ。陰口を叩かれるより、こうして好意を持って話しかけに来てくれる方がずっといいもの」

 

「! あ、ありがとうございます!」

 

 再びバッと大きく頭を下げるエイプリル。

 

 うーん、やはり悪い奴ではなさそうなんだよな。

 

「それで、その本にサインをすればいいの?」

 

「はい! そ、それから、その、できれば少しお話を伺いたくって……」

 

「? お話って?」

 

「ほ、本当は、推しに直接話しかけるのは御法度なんですけど……どうしてもお聞きしたいことがあるんです……!」

 

 僅かに口や手を震わせてエイプリルは言う。

 

 どうやら、かなり勇気を振り絞って俺たちに会いに来たようだ。

 

 彼女はスゥッと大きく息を吸い、

 

「ど――どうすれば、お二人のような〝素敵な恋〟ができるのでしょうかっ!? ぜひ教えてくださいっ!!!」

 

 

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