【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第92話 まるで向日葵のような

 

『……うん、こんなものかしらね』

 

『あ、あのぉ……私がこんな煌びやかな……似合わないのではないでしょうかぁ……』

 

『そんなことないわ。さ、恥ずかしがらずマティアスに見せてあげなさいな』

 

 ドアの向こうから、微かにそんな声が聞こえる。

 

 そしてレティシアとエイプリル以外のFクラスメンバーが待つ部屋――そのドアがカチャリと静かに開けられた。

 

 途端、「おおー!」と上がる歓声。

 

「うぅ……私には似合わないと思うのですがぁ……」

 

 姿を現したのは――煌びやかなドレスを身にまとったエイプリルだった。

 

 黄色を基調として橙色・白色の生地が組み合わされ、まるで向日葵(ヒマワリ)のように明るい印象を見る者に与えてくれる。

 

 貴族衣装らしく煌びやかだが、それでいて快活さや若々しさやがちゃんと内包されている。

 

 まさにエイプリルにピッタリのドレスと言えるだろう。

 

 そんな向日葵(ヒマワリ)のようなドレス姿のエイプリルに、

 

「お……おぉ……」

 

 マティアスの奴は、思いっ切り視線を奪われる。

 

「どうかしらマティアス? このお屋敷にあったドレスの中から、彼女に似合いそうなモノを見繕ってみたのだけれど」

 

「えっ……あ、その……いいん、じゃねぇか……?」

 

「あぁ~★ マっちんてば見惚れてる~♣ らしくないリアクション可愛い~♪」

 

「う、うっせぇぞラキ! 俺は別に見惚れてねぇ!」

 

 からかうラキに対し、露骨に耳を赤くしながら怒鳴るマティアス。

 

 いや見惚れてただろ。

 今の反応はどう見ても。

 

 でもまぁ、確かによく似合ってるからな。

 よくこんなおあつらえ向きのドレスがあったもんだ。

 

 つってもウルフ侯爵家なんて掃いて捨てるほど金はあるワケだし、これまでこの家に在籍していた女性のドレスが大量に残っていたっておかしくはない。

 

 もしかしたら、マティアスの母親のドレスって可能性もあるかもな。

 

 だとしても、ここまで似合ってる一着があったのは驚きだが。

 

 レティシアも満足そうに両肘を持ち、

 

「エイプリルのイメージと体型にできるだけ合うドレスを探してみたのだけど、あまりにもピッタリな一着があって驚いたわ。マティアスも喜んでくれたようでなによりね」

 

「う……うぅ……」

 

 ニコニコと笑うレティシアに対し、気恥ずかしそうに頬を赤らめるエイプリル。

 それでもマティアスに見てもらえたのが嬉しかったのか、満更でもなさそうだ。

 

「うんうん、マティアス派貴族たちへの顔合わせは、このままで大丈夫そう」

 

「ふぇ!? こ、この格好で他の貴族たちと会うんですか……!?」

 

「当たり前よ。いくらナルシス派の貴族たちを取り込んだとは言っても、肝心の〝花嫁〟が分不相応と思われてはいけないわ」

 

 レティシアはそう言うと――ほんの少しだけ、口元から笑みを消す。

 

「それに……そういう場にあっては、〝エイプリル・スチュアート〟という女性が少しでも着飾って見栄を張らないといけないのは、たぶんあなた自身もよくわかっているのではなくて?」

 

「! それ、は……」

 

 ……?

 なんだ?

 なんかレティシアの言い回しが、ヤケに含みがある気が……。

 普段の彼女らしくないというか……。

 

 前にシャノアの喫茶店で女子会を開いていた時だって、ありのままのエイプリルをマティアスに受け入れさせることに注力していたのに……。

 

 ――いや、考えすぎか。

 レティシアが〝そうすべき〟と判断したなら、俺はそれでいい。

 俺は夫として、妻を肯定するだけだ。

 

 などと俺が雑念を振り払っていると、

 

「……なあオードラン男爵よ、彼女をどう思う?」

 

 不意に、イヴァンが小声で尋ねてくる。

 

「え? ああ、似合うと思うぞ。でも俺はレティシアがあのドレスを着た姿も見てみたかったなぁ」

 

 レティシアのイメージカラーとはだいぶ違うけど。

 でも彼女ならなんでも着こなすし、なんでも似合うだろう。

 うーん、やっぱり見てみたい……。

 

「そういうことを聞いてるんじゃない。まったく、キミは本当に妻のことしか頭にないのか?」

 

「ない。それ以外のことなんざ、考えずに済むなら考えたくねーわ。面倒だし」

 

「……キミに聞いた僕が愚かだった。聞き方を変えよう」

 

 イヴァンは呆れたようにクイッと眼鏡を動かし、

 

「彼女――〝エイプリル・スチュアート〟という女性は、何者なのだろうな?」

 

「はぁ? 何者って、王立学園の生徒だろうが」

 

「ああ、そうだな。だがキミは、スチュアートという姓に聞き覚えはあるか?」

 

「…………いや」

 

「僕も彼女の身辺調査をしたワケではないのでわからないが、少なくとも貴族姓ではない。ならばローエンのような〝職業騎士〟の家系や、エステルのような新興の豪商家系である可能性もあるが……」

 

「エイプリルから、そういう家系出身者の雰囲気を感じない――ってか?」

 

「……ああ。生い立ちというのは、必ずその者の身振りに影響を与えるからな。だがレオニールやシャノアのように平民出身という雰囲気ともまた違う。そう考えると、彼女はまるで――」

 

「イヴァン、そこまでだ」

 

 イヴァンの言葉の()が予想できた俺は、力強い口調で遮った。

 

「それ以上考えるのはやめとけ。もしその先を言うなら、エイプリルを助けようとするレティシアへの批判とも見做すぞ」

 

「オードラン男爵……」

 

「それに、マティアスのためにもならん。お前がアイツを友だと思うなら……余計な詮索はしないことだ」

 

 俺がそんなことを言っていると、レティシアがパンパンッと手を叩く。

 

「よし、それじゃあ元の服装に着替えてお勉強会を始めましょう。ウルフ侯爵家の〝花嫁〟に相応しいだけの学問を、できるだけ短期間で納めないと」

 

「え、えっと……相応しい学問って……?」

 

 恐る恐る聞き返すエイプリル。

 するとレティシアはクルッとマティアスの方を見て、

 

「主に、莫大な資産を前提とした財務……それと経理・会計だと思うのだけれど、あなたはなにが必要だと思われるかしら、マティアス?」

 

「え? あぁ……確かにそれができりゃ、ウルフ侯爵家としては大助かりだが……」

 

「決まりね。他の貴族たちに揚げ足を取られないだけの知識を頭に入れなきゃ。ほんの少しだけスパルタで行くから、覚悟して頂戴エイプリル」

 

 クスッと悪っぽく笑うレティシア。

 

 それに対し、エイプリルは「うぅ……が、頑張りますぅ……!」とガッツポーズで答えるのだった。

 

 

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