【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第97話 舞踏会は絶好のタイミング④

 

「わ、私は……十年前、領民を殺戮した最悪の領主の……娘です……」

 

「何故、俺に黙っていた?」

 

「か、隠すつもりなんてなかったんです……。いつかは、い、言わなきゃって……でも怖くて……言い出せなくて……っ」

 

 エイプリルの足元に、ポタリと雫が落ちる。

 その小さな雫は、彼女の目尻から流れ落ちたモノだった。

 

「……最初はただ……気持ちを伝えたかっただけなんです……! あなたが好きだって……! でもFクラスの皆さんが協力してくれて……マティアス様の状況も知って……とても言い出せなくて……っ!」

 

「……」

 

「本当に……本当にごめんなさい……! やっぱり私なんかが……マティアス様を愛する資格なんてなかった……! 最悪の貴族の娘である、私なんかが……!」

 

 酷く後悔した様子を見せるエイプリル。

 

 両手で顔を覆うが、今の彼女がどんな表情をしているかなんて誰の目にも明らかだった。

 

 ――マティアスは、しばし沈黙する。

 そして、

 

「――関係ねぇだろ」

 

「え……?」

 

「領民を虐殺したのはお前の父親であって、お前じゃねぇ。お前は無関係なのに、なんで謝ってんだよ」

 

 やれやれ、とため息を吐くマティアス。

 同時にフッと笑ってナルシスを見る。

 

「兄貴よぉ、ご親切に教えてくれてありがとな。だが……そりゃ悪手(・・)だわ」

 

「なに……?」

 

「いいか、よく見ときな」

 

 不敵にそう言うと――マティアスはバッとエイプリルの肩を抱き、彼女を強く抱き寄せた。

 

「舞踏会にお越しの貴族共よ、聞きやがれ! 正直に言って、俺はエイプリルがメディシス家の娘とは知らなかった! だが――彼女に俺の〝花嫁〟をやめてもらうつもりはない!」

 

 ――高らかに宣言するマティアス。

 それを聞かされた貴族たちには、先程にも増してより一層どよめきが走る。

 

「なんだと……!? 正気かねマティアスくん!」

 

「没落貴族の……それもメディシス家の娘を〝花嫁〟にするなんて……!」

 

「そんなことをすればウルフ侯爵家は……!」

 

 マティアスの発言に動揺を隠せない貴族たち。

 だが彼は余裕を崩そうともせず、

 

「俺は正気さ。アンタらも見ただろう? エイプリルの立ち振る舞い、聡明さ、舞踏……パーフェクトだ。コイツ以上にウルフ侯爵家に相応しい女はいない」

 

「し、しかし……」

 

「それによ、俺はどこまで行っても損得勘定でしか考えられない男でな。どれほど社会的地位のある奴だろうが、〝ウルフ侯爵家に利益をもたらさない〟と判断したら関わらねぇのよ」

 

 そう言って、今度はマティアスが演説をするように片腕を大きく掲げて見せた。

 

「故に、断言する! エイプリル・メディシス――いいや、エイプリル・スチュアートがウルフ家の当主夫人となった暁には、我が侯爵家の財産はさらに膨れ上がるだろう! 彼女の持つ聡明さと知識は、必ずやウルフ侯爵家とその協力者に富をもたらしてくれる!」

 

「マ、マティアス様……!?」

 

 慌てふためくエイプリル。

 しかしマティアスは止まらない。

 

「嘘だと思うか? ならこの場にいる者たち全員に約束しよう! 依然マティアス派として俺とエイプリルを支持してくれるならば、思い切り稼げるようにしてやる! いずれはお前らの持つ資産を、今の倍にしてやるぞ!」

 

 ――マティアスは一切臆することなく、この場の主人公は俺だという顔をして、高らかに宣言する。

 

 その直後、舞踏会の会場は今日一番のざわめきを見せた。

 

 どよめきの大きさは、さっきナルシスがエイプリルの正体を看破した時とは比べ物にもならない。

 

「倍……!? 我々の資産を倍にすると、そう言ったかね!?」

 

「ああ、言った。しかも〝支払う〟って意味じゃねぇ。永続的に〝稼げる〟ようになるって意味だ。俺は元々、金を稼ぐのが大好きだからな」

 

 マティアスは笑う。

 

 この笑顔は……夕暮れの教室で、俺とレティシアに〝一枚の金貨とリンゴ〟の話をした時と同じ笑顔だ。

 

「俺とエイプリルの二人なら、倍なんて大したことねぇ。なんたってコイツは、俺が認めた最高の〝花嫁〟なんだからな」

 

 ギュッと、彼はエイプリルを抱き締める。

 もう手放さない――そう行動で示しているかのように。

 

 マティアスの奴……こりゃまた大見栄を切ったモンだ。

 

 この場にいる金の亡者共の資産を倍にするだって?

 そんなの完全なハッタリだ。

 

 けど――案外やってのけるかもしれない、と思わせてくれる。

 いや、できるだろうと。

 今のマティアスには、その覇気がある。

 

 わかるよ。

 愛する人を共にいられれば、不可能なんてない――。

 そう言いたいんだよな、マティアス。

 

「どうだ? これでもエイプリルを認められないか? 兄貴に付いた方が得だと思えるか?」

 

 改めて、マティアスは貴族たちに問う。

 そしてその答えは、すぐに帰ってきた。

 

「ワ、ワシは変わらずマティアス殿とエイプリル殿を支持する! 疑ってすまなかった!」

 

「私もよ! 変わらずマティアス派に居させて頂きます!」

 

「ナルシス派に戻るなんて冗談じゃない! 〝花嫁〟がメディシス家の人間であろうと、関係あるものか!」

 

 我先にと声を上げ、立場を表明していく貴族たち。

 

 相変わらず現金というべきか、会場の全員がより一層マティアス派への支持を強くする結果となった。

 

 ナルシスはエイプリルの正体を看破してマティアスたちを貶めるつもりが――逆に利用され、敵の結束を固めてしまったのだ。

 まったく、ざまぁない。

 

 レティシアも上手いコト切り返したマティアスに対し、パチパチと小さく拍手を送る。

 ここはまぁ、よくやったと俺も褒めておこうか。

 

 場の主導権を完全に消失したナルシスはさっきまでのエイプリルと立場が逆転し、今度はこっちの顔面が蒼白となる。

 

「な、なんだ、正気かよお前ら!? クソッ、どうしてだぁ!? こんなはずじゃ……!」

 

「諦めな、兄貴。――アンタの負けだ」

 

 

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