エルフ育ちのゴブリン紳士とゴブリン一家のじゃじゃ馬エルフ   作:東雲佑

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幕間
夜のVIPルーム


 プラード・アカデミーの誇る学生大食堂(レストランホール)

 そこには一般利用客はおろか生徒にすら存在を伏せられている、秘密の部屋が存在する。

 

 その秘密のVIPルームに、とある日、とある夜、二人の人物の姿があった。

 双方ともにエルフである。片方は立派な身なりをした中年男性で、もう片方は一目で在校生とわかる制服姿の少年。

 

「レノックス製薬からの我が校への寄付、確かに入金を確認したよ。お父様にくれぐれもよろしく伝えてくれたまえ」

「承りました、グリーンバーグ教頭」

 

 今年度から教頭職に就いたグリーンバーグ氏に、一年A組学級委員長ディミトリ・レノックスは口元だけのスマートな笑みで応じた。

 

 扉が開き、トレイを手にした給仕が登場した。

 今夜のメインディッシュはドラゴンと鯨、海陸幻想生物のステーキ二種盛り合わせだった。

 保護活動家が卒倒しかねない一皿を、二人とも眉一つ動かさずに迎え入れる。

 

「おかげさまで、学内での私の発言力も向上したよ。レノックス製薬本社には足を向けて眠れないな」

「お気になさらず。我々が属する社会は持ちつ持たれつですよ、教頭」

「まさに、まさに。ああ、もちろん、レノックス製薬のご厚意には学校側も最大限に応えさせていただくよ。具体的には、そう……『名誉紳士』」

 

 その単語が合図ででもあったかのように、二人同時に、揃ってほくそ笑む。

 

「だがまぁ、こちらが便宜など計らずとも、現一年生世代の称号獲得者はすでに君に決まっているようなものだ。伝統と格式の名誉といえど、所詮名誉はただ名誉でしかないからな。この時代、使い道のない名誉など欲しがる若者は滅多にいない」

「そうですね。使い道がなければ。……たとえば、将来的に継承する企業の看板に利用するつもりだとか、そこを足がかりにさらなる飛躍を望んでいる……とかでもなければ」

 

 再び二人、同時にほくそ笑む。

 親子ほどの年齢差がありながら、この二人の間にはなにか共犯関係のような空気が漂っていた。

 

「とにかく、ライバルはいないのさ。一発アウトの不祥事でも起こさない限り、二年後には称号は自動的に君の手の中だよ。飲酒喫煙、薬物乱用、不純異性交遊に暴力沙汰……」

 

 そういうのはバレないようにやりなさい。

 冗談めかしてそう言って、教頭は自分の発言に自分で笑った。

 

「しかし、羨ましい限りだよ。ゴージャスな家柄にスラッと高い身長、おまけに一等賞の魔力。なろうとすれば大統領にだってなれそうなスペックだ。……ん? どうした?」

「……いえ、なんでもありません」

 

『一等賞の魔力』という言葉に、少しだけ表情を固くしたディミトリ。

 しかしすぐに取り直して、さっと話題を変える。

 

「そういえば教頭。先ほどの話ですがね、一人だけいるんですよ」

「ん? なにがだね?」

「使い道のない名誉を本気で欲しがっているらしいバカが、です」

 

 しかも下等なゴブリンの分際で。

 差別主義的なニュアンスを隠そうともせずに言って、ディミトリはこの場にいない誰かを嘲るように声を出さずに笑った。

 

 教頭は笑わなかった。

 

「ゴブリンだと? それはあれか、我が校初のゴブリン生とかいう」

 

 笑うどころか、教頭はなぜだかひどく鋭い表情になっていた。

 

「……まさかとは思うが、そのゴブリンの生徒、ファミリーネームはハートフィールドじゃあるまいな?」

「え、ええ。仰るとおり、まさにハートフィールドですが……」

 

 一変した教頭の雰囲気に圧されながら、ディミトリが肯定する。

 その答えを受けて、教頭は重苦しい声で「そうか……」と呟く。

 

 それから言った。

 

「……レノックス君、私も可能な限りバックアップする。だから、『名誉紳士』の称号は絶対に君のものにするのだ。……絶対に、ゴブリンになど渡すな」

「はい、言われずともそうするつも――」

 

「絶対に渡すな! ()らせるな……! リチャード・ハートフィールドの息子になど、絶対に……!」

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