エルフ育ちのゴブリン紳士とゴブリン一家のじゃじゃ馬エルフ   作:東雲佑

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ep10.サンダンス国立自然公園

 ニューヤンク州の最西端、自然州境の役割も果たすキャシディ山脈の東側に広がるサンダンス国立公園は、中西部のイエローマニトゥ国立公園に次いで合衆国第二位の人気を誇る国立自然公園(ナショナルパーク)である。

 総面積はニューヤンクシティを十倍したよりもさらに広く、その広大なフィールド内にありとあらゆる自然環境を内包している。

 生息する野生動物は二百種以上ともいわれ、ここにはグリフォンや双頭蛇(アンフェスバエナ)などの魔獣も含まれている(未確認ではあるがドラゴンの目撃証言も有り)。

 

 週末に少しだけぐずついた天気も、月曜日には全州にわたって快晴だった。

 二時間のバス移動のあとで、プラードの一年生たちは雄大な自然の景色の中に降り立った。

 

「ええ、では皆さん、ここからは班別行動になります」

 

 引率教員を代表して、グリーンバーグ教頭が生徒たちに向けて言った。

 

「各班にはそれぞれ専属のパークレンジャーが同行してくれます。先生たちはビジターセンターで待機していますので、今日一日は自班のレンジャーさんを先生だと思って、しっかり指示に従うように。皆さんの一日が有意義な学びに溢れたものになるよう願っております。

 ……それでは、自然活動(アクティビティ)、スタート!」

 

 教頭先生の宣言と共に、生徒たちが待ってましたとばかりに散りはじめる。

 

 班のメンバーと合流する前に、ウィリアムは一度だけ先生たちの方を見た。

 具体的にはその中心にいる、取るに足らない一年生の遠足にわざわざついてきた教頭を。

 

 良くない予感がすると、そう言ったティーチ先生の言葉が耳に蘇る。

 

「おいウィル! なにやってんだよ! さっさと集まれよ!」

 

 その時、ビアンカが大声で彼を呼んだ。相棒の声はひどく苛立っていた。

 

「ああ、ごめん! すぐ行くよ!」

 

 慌てて思考を振り切って、ウィリアムは駆け足で声のした方に移動する。

 先生の予感も気になるけど、こっちはこっちで波乱の予感が満ち満ちているのだ。

 

「A組C班のみんなたち、こんにちは! サンダンス・パークにようこそ! お姉さんが今日みんなたちの案内役を務めるロデオお姉さんだよ!」

 

 ウィリアムたちの班を担当してくれるレンジャーは若い女性セントールだった。

 上半身は標準的な人類で下半身は四足の馬脚、人馬(セントール)という種族と実際に出会うのは初めてだったけれど、ウィリアムは第一印象からミズ・ロデオに好感を抱いた。

 若草色の制服もバッジのついたハットも、それに自然保護官(パークレンジャー)という職業のイメージも、このお姉さんには全部が似合っている気がする。腰から下げたライフルは別として。

 

「よろしくお願いします」

 ウィリアムは丁寧なお辞儀で挨拶を返した。

 

「……よろしくっす」

 ビアンカは若干ぶっきらぼうにぺこりと頭を下げた。

 

「……よろしく、です」

 ヘミングウェイはぼそぼそとした小声で言った。

 

「はじめましてミス・レンジャー! いや、もしかしてミセスかな? 失礼、お若いからといって決めつけてはいけませんな! 申し遅れましたが私がこのC班のリーダー、見ての通りの高身長に加えてレノックス製薬御曹司という太い家柄のディミ――」

 

 頼んでもいないのにはじまったおなじみの長広舌に、ビアンカがもう朝から何度目かの「くたばれ(ガッデム)」「最悪(デッドアス)」「四文字言葉(Fからはじまるやつ)」の三段コンボとともに舌打ちをした。

 

 ウィリアムたちC班の最後の一人、いつの間にか当然のようにグループリーダーを名乗っている彼こそが、ビアンカのイライラの原因だった。

 

 ディミトリ・レノックスとビアンカ・バルボア。

 犬猫の仲どころか昔話のエルフとドワーフ並に相性最悪なこの二人を同じ班にすることが、グリーンバーグ教頭からティーチ先生に下された命令なのだそうだ。

 どうして教頭が日帰り遠足の班決めに口を出すのか、ティーチ先生の教師の勘はその得体の知れなさをこそ不審がっていた。

 

「くそ、くそ、くそ……! よりによって、なんでこんなケツの穴の王様と……!」

 

 だがとにもかくにも、命令の意図は不明なれど、それによってもたらされる混乱はすでに目に見えている。

 それが災害級のスケールであろうことも。

 

「ちきしょう……! 楽しい遠足が一転して罰ゲームじゃねえか……!」

「まぁまぁ、ヘミングウェイと一緒っていう僕たちの希望も通ったわけだし、ね?」

 

 いつものように相棒を宥めながら、ウィリアムは班員の残り一人に目をやる。

 吸血鬼の同級生の様子は金曜日に別れたときとほとんど変わらなかった。俯いて無口で、総じて萎縮した雰囲気を漂わせている。

 その印象は晴れの日用の遮光フード(コウモリ女のあだ名の由来でもあろうそれ)のせいでいっそう強調されている気がした。

 

 彼女がこれ以上沈まないようケアしつつ、ビアンカがディミトリを殴り殺さないよう見張ること。

 それが本日ウィリアムが果たすべきミッションの大枠だ。

 

 ……本当に何事もなくただいまを言えるのか、紳士は早くも不安になってきた。

 

「ほらほらみんなたち! 急いで急いで(ハリーハリー)急ぎすぎるほど急いで(ハリーアップ)!」

 

 まとまりのないC班一同に向かって、レンジャーのお姉さんが手を叩いて言った。

 

「ハッキリ言ってサンダンスの一日は短いわよ! だって見所が多すぎるんだもん! 動物園では見られない野生の姿を観察できるバッファロー・ウォッチング、グリフォンに出会えるかも知れないハイキング&トレッキング、空中を滑走するジップライン・アドベンチャー! 他にも釣りに乗馬に洞窟体験……ああ、枚挙に暇がなさすぎる!」

 

 まるで自分が遊びに行くみたいにテンション高く列挙するお姉さん。話しているうちに下半身部の右前肢が地面を掻くスピードもあがっている。

 

「さぁ、ご注文はお決まりかな? お望み通りにどこへでも連れてってあげるよ!」

 

 言って、お姉さんはハットのツバをあげながら、にやっと笑って。

 

「ロデオお姉さんご自慢の、『お姉さんモービル』でね!」

 

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