黒の魔法少女   作:雨天 蛍

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新人賞一次通過記念兼二次落ち供養


プロローグ 中二病の魔法少女

 

 後悔先に立たず。私は偉大な先人たちの言葉を反すうしていた。

 子供の頃、自分ならなんでもできるという万能感に包まれていた事はなかっただろうか? しかし、当人の意識とは裏腹に現実はいたって無力。その差を自覚しないからこそ、人々は妄想に明け暮れて、それを現実に示し、シグナルを出してしまうのだ。

 そのシグナルを拾ったナニカが、自分の現実を変えてくれると信じて。

 当時は、私もそんな状態の真っ只中だった。今よりも世界情勢は不安定であり、治安も乱れていた。日々の不安もあって、力が欲しかった私は、願うように、逃げるように妄想に浸っていた。

 そして、それは叶えられた。

 まるで創作のような理から外れた力の発現。だが、確かにそれは存在して、そして同時に私と同じ力を持つ人が認知されていた。

 

 ──魔法。かつて十年前にその存在が確認されてから今に至るまで、同じ名称で呼ばれ続ける存在に、私はなったのだ。

 そして、妄想に浸っていた私は、それが当然のように自分の手元に転がり込んで来たせいで、勘違いを加速させてしまった。

 それが勘違いのまま身の程を知らされる結果に終われば、まだ良かっただろう。私は、自らの妄想を、魔法を扱う者。すなわち、魔法少女としての力に投影し、そして今日まで生き延びてしまった。

 現在は魔法少女と敵──いわゆる怪人と呼ばれる化け物だ──の戦いも一段落つき、魔法少女は一種のファッションとかステータスのような一面を持つようになっている。

 私自身も自ら発信した訳じゃないのだが、当時は希望の存在であった魔法少女の一人として、メディアが勝手に私を広めていた。

 

 そして、時は流れて、私は絶望した。今では私の存在はある種の伝説になっており、本物のレッテルを貼られてしまっていたのだ。

 妄想の名は《中二病》そう、私は中二病系魔法少女として、一生消えない名声を手に入れてしまっていた!

 魔法少女名すらも言いたくない。旅人を意味するライゼンターだなんて! どうして魔法少女は一度決めた名称を全て変更できないのだろうか! 次に名乗るのなら、捻りを加えてストレイドと名乗るのに!

 おかげで現在人生がピンチである。たまに風呂場で昔を思い出してうめき声をあげてしまう。消えぬ病を抱えて一生を過ごさねばならないのだろうか。ろくにインターネットを見ることもできない。

 

 ──と、とりとめのない事を考えていた私の近くに大きな石が跳ねた。

 街頭の明かりすらない暗闇。ひび割れたアスファルトはいまだに舗装されておらず、かつての争いの傷跡を残したまま。

 周囲にある住宅街も、窓は割れて、壁の一部が崩れている。人の気配なんて一つもない場所。街全体が死に絶えた地方の田舎。

 見た目には先程までとは何も変わりはない。魔法少女が推奨される戦闘区域そのものだ。人が避難してから一切復興の目処が立っていない帰宅困難区域。人払いが済んでいるため、可能な限り誘導して安全な場所で戦うよう努力義務があるのだ。

 

 生物の気配すらなかった空間が、いつの間にか殺気に包まれている。囲まれていたようだ。

 今回の敵はそこそこ強い。数が多く、それでいて個体そのものも、魔法少女を相手取れるのに、集団で行動し、かつ奇襲を得意としている。厄介な相手だ。情報では、長い時間を生き延びた怪人だといわれている。

 ここは滅びたとはいえ住宅街の中。武器を振り回して戦うには十分な広さであろうが、私が本気で戦うには狭すぎる。

 相手が準備を終えたようで、一人が姿を表す。

 

「衰えたとは言われていたが、確かにその通りみてえだなぁ! 魔法少女ライゼンター!」

 

 やめろ。その名を呼ぶな。

 

 巷では魔法少女は長年続けていると力が弱くなるという噂がある。私の先輩など、知っている範囲でも何人も引退している。それが加齢なのかは、原因不明とされているが。

 調べようにも数が少ないし、本人たちは加齢じゃないと、決して魔法少女の弱体化を認めないのだ。引退した先輩たちの様子を見ている限りでは、力が弱くなったというよりは変身して戦うメンタルが折れた説を提唱したい。魔法少女には成長も衰えもありゃしないのだから。

 

 まあ、引退するには都合のいい噂なので、訂正する気はない。

 

 現れた怪人は、いかにも雑魚モブですよと言わんばかりの人間型のボディに正体を隠すような画一的な黒の衣装。それもボディスーツのようにぴっちりと全身を包むものを装備している。唯一色が違うのは口元だけで、そこは人間のようなうすだいだい色だ。手には片刃の斧が握られている。

 戦隊ヒーローモノの改造人間っぽく見えるが、こんなナリでも人間ではないのである。怪人も学習するので、最初期は犬とかアメーバ状として誕生するが、成長すると人間型になるのが基本だ。最大の敵にして学習対象が人間だったのでそうなったとのこと。

 

 怪人がゲラゲラと笑う。どうやら、人間に近しい姿に擬態することに長けた存在らしい。街のあらゆる方向から、私に向けて魔術の照準が合わせられている。

 

「既に囲まれているってのにも関わらず、随分遅くまで気付く事はなかったからなぁ!」

 

 まあ、確かに気付いていなかった。中学生に上がると同時に目覚めたこの力と妄想が、高校生になって牙を剥いている現状に毎日悶えているのだから。

 昨日も風呂場で思い出して呻いている。過去の傷が疼くのだ……。苦しくなるのは胸じゃなくて右腕が良かった。

 

「過去の時代──戦争期を生き抜いた魔法少女を殺して、今一度怪人たちの勢力を盛り返させて貰うぜ! と、言いたいところだが」

 

 相手の言葉が変わる。おや? と思いながらも続きを待ってみた。

 

「正直なところ、あの時代の最強に挑むには例え衰えていようとも今の戦力では無理があると思っている。しかも相手は《本物》と言われた魔法少女だ」

 

 おい馬鹿やめろ。私はその本物という言葉が嫌いだ。その言葉にかかっているのは魔法少女という意味ではなく中二病なんだ。

 私は魔法少女としての名前から武器、基本技に必殺技の全てにそれっぽい名前を付けている。そして、その名前は開発者に倣うようになっているせいで私の魔法は後進の魔法少女たちに不人気なのだ。

 

 わかるか? 先駆者たちは基本的な属性技とかに無難なファイヤーとか名前付けたのに、その先の技術にウルフズベインとかナイトメアとか名付けたせいで、魔法少女たちの技は私の流派から枝分かれしたんだ。中二病流魔術と、現代の魔術は効果も名前も違うようになったんだ。今のファイヤーから先は、火炎弾とか和名が主流になってしまったのだ。

 

 まあ、私の開発した魔法が使いにくいのもあるのだろう。名前じゃない。効果もだ。それに、今は自分オリジナルの技を作る流れだってある。きっとそうなんだ。

 

「今の魔法少女は弱い。だが勢いがある。それは何故か? そう、伝説の魔法少女がいるからだ。世界に本物と言わしめた魔法少女が、今なお現役で居続けるからだ。だが、それでも古い魔法少女。時代の流れには逆らえない。そうだろう?」

 

 そうだ。私は今は活動を控えて、中二病魔法少女の名前を、消し去ろうとしているのだ。平和な時代。魔法少女たちは、自らの活動を配信するアイドル部門へと道を切り替えているのだ。私は絶対に配信しない。そして、新時代の魔法少女に未来を託すつもりなのだ。

 目指すのは、かつてライゼンターという魔法少女がいたらしい。活動とか何も知らないけど。というレベルまでだ。華々しい活躍をする新時代の裏で、私は強力な闇と戦っていく。

 

「だからこそ、今一度魔法少女ライゼンターの名を広げるべきさ! 俺たち怪人は忘れていない! 手を組んで世界を支配しねえか?」

 

 とんでもない事を言い出した。私は忘れられたいのだ。悪名を轟かせるだなんて冗談じゃない。

 

「返事は早い方がいいぜ。例え俺たちが勝てなかろうと、衰えた魔法少女相手に傷を付けられない訳が無いんだからな」

 

 焦っているのか、多弁に語る男。

 私は今の今まで一切喋っていない。できれば戦いたくないし、口もあまり開きたくないのだ。

 

 腐っても最強の世代。そしてそんな時代の伝説様だ。無言で佇むだけでも相当なプレッシャーを感じるのだろう。今でもネット掲示板で一番有名な魔法少女だからな。同時に玩具だけどさ。当時の若さは、怪人とネット住民に多大なダメージを与えたものだ。

 今となっては忌々しい過去と力だが、身を守るためには使わねばならない。だが、できるなら使いたくない。

 なぜなら魔術の行使には、その名を言う必要があるからだ。

 組織的に活動しているにしては大きな害意を持たない怪人に対して、説得を試みる。

 

「断わる。その上で言う。引け。この街から消えて滅亡区域に戻れ」

「なんだと?」

「…………私にこの力を振るわせるな」

 

 魔法少女として変身している身体を見る。夜空を思わせる深い黒のロングヘアー。当時の幼さをそのまま閉じ込めたような小さな背丈に、平坦な胸。飾り気の無い黒いノースリーブワンピース。そして、衛星のように周囲を回る黒い盾《ヴァイスシルト》に、手に持った実用一辺倒の、突き刺す事を目的とした先端部分がとても鋭い両刃の白い短剣《シュバルツドルヒ》これが私の魔法少女としての基本形態だ。名前を言わずに振るえる力である。

 だが、正直に言うとこの数を相手に一切の魔術禁止縛りにすると、倒すまでに時間がかかってしまう。活躍が報じられる危険性や、同じ魔法少女と遭遇しない、その他諸々の理由のためにも、ここは素早く倒しておきたいところでもある。

 

「舐めるなぁ! 例え伝説であろうが、俺たち怪人にもプライドがある! 下手に出て付け上がるようなら、せめて一矢報いるってのが怪人の矜持だ! やるぞお前ら!」

 

 プライドを傷付けられた男が吠える。私対策で黒い衣装なのだろうそれが口元まで覆い隠し、肉眼では見えにくくなる。この程度で激昂するあたり、怪人そのものの成長はそこまで大した事なさそうだ。

 闇に紛れれば、確かに発見は難しくなるだろう。

 

「私の力は知っているんだろう? 私自身すらも傷付ける力を。この力を使わせて後悔するなよ!」

 

 私は後悔する! 絶対に寝る前と風呂場で悶え苦しむことになる!

 だがな、私は今まで一切衰えてなんかいないし、絶賛成長中の魔法少女だ。そこらの魔法少女にしか並べない羽虫なんぞ、囲まれていようが存在そのものを認知する必要すら無いんだよ!

 

 散開する敵を尻目に、私はシュヴァルツドルヒを地面に突き立てて詠唱する。

 

「終焉を導け。かの敵を追放しろ! 《アルカディア・カタストロフィ》!!!」

 

 ぬわー! 黒歴史が心に染みる! 絶対後で笑われるんだ!

 

 私が発動した魔術が地面を割り、捲れ、光を湧かせる。莫大な魔法力が周囲一帯を破滅へと導いた。

 

 

 

 

 

 そして、後日私の活躍は週刊誌に報じられることとなった。

 

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