黒の魔法少女   作:雨天 蛍

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エピローグ 魔法は願いを叶えない

 太平洋は、その名の通り穏やかな海をしていた。

 真夏のような日差しが容赦無く降り注ぐ。海に当たったそれは綺麗に透き通り、揺れ動く波に光を反射させている。

 

 太平洋側にある宮城県の島の一つ。かつては観光地として栄えたそうだが、今では無人島に成り果てている。

 

 浜辺に降り立つ。そこに、消えかけた怪人が天を仰いで横たわっていた。

 

「……終わったか」

 

 今回の出来事を引き起こした不良男子の怪人だ。今は姿が変わり、金髪の少女とも少年ともつかない顔立ちになっている。元々の災厄たる魔法少女と混ざり合わさった結果だろう。

 

「どうやって我を見付けた?」

 

 怪人の質問に、横に体育座りをして答える。

 

「僕の魔法の能力で。君、半分以上が元の魔法少女のものになってるからね」

「…………」

 

 訝しげな目で見る怪人に、膝に頬を乗せて微笑む。

 

「今、死にたいって願ってるでしょ?」

 

 怪人の、いや魔法少女の瞳が驚愕で開かれる。

 

「魔法少女ライゼンターは、中二病の魔法少女ではなかったのか?」

「ん? それは合ってるよ。僕は、実は魔法研究の実験体で、魔法少女の胎により生み出された二世の子供──

 

 

っていうのが、設定ね」

 

 懐かしくもなんともない。ただの想像上のロールプレイの設定だ。

 

「ただ、怪人災害によって親をなくして、虐められてた僕の現実逃避の設定。そうなりたいって本気で願っただけ」

「……そうか」

「大事なのはここからだよ。魔法っていうのは、裏に宿る真意もある程度汲んでくれる便利な願望器。だからこそ、僕は生まれたんだ」

 

 足に波がかかる。

 

「僕の願いは自殺だったんだ。正確に言えば転生かな? 生まれ変わって、別の存在になりたかったんだ。でも、怖くて自分じゃできなかった」

「まさか、お前は……」

「魔法少女ライゼンター。その正体は、自分を殺してくれる迷惑をかけない存在を願った怪人さ。だからこそ、僕は自らの死を覚悟したり、自死を願った人を感知して、その人の元へ行けるんだ」

 

 そして、同時に、この特性が魔法にとって最も相性が良かった。

 

 簡素な黒のワンピースは、実験体としての無垢や喪服をイメージしている。身を守るだけの黒い盾は、心の防御。自動で干渉を拒絶する心理の現れ。白い短剣は、護身ではなく自決用。

 

 皮肉にも死神と呼ばれる僕は、死者の元へと現れる存在なのだ。

 

「…………まあ、最初に僕を生んだ人は、僕の手で殺せず、結局高い所から飛び降りちゃったんだけどね」

 

 死の直前。しかも自殺だからだろうか。彼は最期の最期に現れた僕を見て、想いを託した。

 

 みんなの想いを乗せて戦うヒーローとしての願望を。

 認めてほしかったという感情を。

 

「僕は、死を覚悟した時にだけ現れる絶対の死神さ。君も良ければ話を聞くよ?」

 

 純粋な想いを託されてしまった僕は、その後も怪人として活動することはできず、でも魔法少女というわけでもなかったので、山奥に隠れていた。

 

 次に、同じような想いを抱いた魔法少女と出会って、その死を見届けるまでは。彼女は僕を怪人だと見抜いたけれど、一度話してみたかったと言われて、会話することができた。

 

 その後は、僕に魔法少女としての願いも想いも託して逝った。その時から、僕は魔法少女になったんだ。

 

「喰わずとも、想いを託される怪人か……」

「君、というか、魔法少女ザ・ヒーローの声はずっと聞こえていたからね。それでも終わらせ方が分からなくて、かなり待たせちゃったけど」

「最期か……」

 

 怪人が、空を見上げた。

 

「我の願いは、未来だ。魔法の存続。新しい秩序。革命。変動の先にある人類と魔法の存続を願っていた」

「うん」

「みんな、そうだった。最初はみんな未来を案じていた。でも、今に余裕ができてしまったら、今に対する不満だけが爆発しちゃって……」

 

 怪人が腕で目元を隠した。横から一筋、光が伝う。

 

「ヒーローになりたかったなぁ……」

 

 そこにいたのは、一人の魔法少女だった。

 

「最後に怪人になっちゃったけど、さ。それでも、繋げられるんでしょ?」

「……ん」

 

 腕を上げた彼女が、こちらを見る。私は、そっと手を出した。

 小さな手が乗せられる。

 

「私たちの願いも想いも、任せたよ……本物の、魔法……少女…………」

 

 大きな波が、足元を浚う。引いた後には、私一人が座っていた。魔法は死んでも残る。彼女たちの魔法は、引き継がれている。

 

 砂を払いながら立ち上がる。

 

「私は偽物なんだけどな」

 

 本物の魔法少女という呼び名が嫌いだった。私は偽物であって、怪人なのだから。

 だからこそ、皆に望まれて生まれた魔法少女だった彼女に憧れていたところもある。

 

「…………置いていかれてばっかり」

 

 自分の原初の願いは、死んで生まれ変わることだ。結局、それを叶えることができずに、皆から想いを託されてばかりいる。抱え込んで生きている。

 

 望めば、魔法を渡してあちらが生き残ることだってできるのに。

 

 結局、私は自分の願いも、託された願いも叶えられていない。そうあれと望まれて生まれた魔法の癖に。

 

「ライゼンターさーん!」

 

 名前を呼ばれる。本島から魔法少女たちが飛んできていた。声をあげたのは炎華のようで、大きく手を振っている。

 

 彼女たちは、島に降り立つと一斉に私を取り囲んだ。

 

「よがっだ! 生ぎでだよぅ!」

「え、ちょ。死んだと思ってたの?」

「自爆技だって聞いてたから……」

 

 号泣する炎華が抱き着いてくる。すんすんと鼻を鳴らす彼女に触発されたのか、氷理まで涙ぐんでいる。

 

「当時は、多くの犠牲を払って機能停止にしか追い込めないと聞けば、自分の命と引き換えにしたのではと思うわ……」

「まあ、こうやって生き残る辺り、立派な魔法少女だよな」

 

 魔法少女断頭が、周りから少し離れたところで呟いた。取り囲む魔法少女の波を割って、エンハンサーが歩いてくる。

 

「エインヘリアルとレンは本部で待ってる。とりあえず事態の終息を報告して避難警告も解除している最中だ」

 

 エンハンサーが難しい顔をしていたが、私の頭を撫でると、肩を抱いた。

 

「それはそれとしてだ。よくやった。怪人と魔法少女の戦力に関してはだが、大きくこちらに傾いただろう。これで心配事も減った事だし、大きく動けるようになる」

 

 いつでも冷静なエンハンサーだが、ここでついに相好を崩した。

 

「今夜は宴だ! 今一度犠牲なく困難を乗り越えた魔法少女に、称賛しなくてはな!」

 

 浜辺が沸いた。手荒い祝福とともに、魔術が花火のように打ち上げられる。

 

「お墓も作らないと」

「ああ! 魔法少女協会本部とアメリカに彫りに行こう。協会幹部全員でな。墓の前で、沢山の土産話をしてやりたいんだ」

 

 憑き物が落ちた顔で頷くエンハンサーに、ようやく終わったということを実感した。

 

 ほっと息を吐く。

 

 どこからか、魔法少女の歓声があがった。

 

「見て! アレ!」

 

 彼女が指をさした方向は、西の方角だ。遠くの空が重たそうな色をした雲に覆われている。今晩にでも一雨どころか、雷雨が来そうだ。

 

「珍しいねぇ!」

 

 炎華が声をあげる。同じ方向を見ているのに、何か別のものが見えている気がした。虹でも掛かっているのかと探してみたが、見当たらない。

 

「修学旅行、あるといいな」

 

 なんだそれ。と思わず笑ってしまう。今の日本は街の中と主要な国道しか整備されていない。しかも、街と街を繋ぐ道路は寸断されたままだ。電車も新幹線も、動くにはまだまだ時間がかかるだろう。

 

 流れ星でも見えたのだろうか。少し上を見上げてみた。誰かが小さく呟いた。

 

「最強の怪人を倒して、最強の魔法少女が誕生したんだから、きっと大丈夫だよ。怪人と魔法少女の均衡は、やっとこっちに傾いたんだから!」

 

 西の空を、一筋の白い雲が南北に境界線を引くように横断している。

 




これにて本作品「黒の魔法少女」の新人賞応募部分は終了となります。
活動報告にて、当作品の評価シートの内容からの反省点と執筆感想の方を公開する予定です。ライトノベルの新人賞へ応募を考えている方、その他作家の方が参考になればと思います。

今後の執筆スケジュールですが、一度完結にした上で、続編が章毎に完結した時点で逐次投稿するようにいたします。

お付き合いいただきありがとうございました。
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