黒の魔法少女   作:雨天 蛍

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 怪人と戦っていて、最も救われていたのは富裕者だ。次に魔法少女。最後に一般人。
 社会秩序の限界が訪れようとした時に、魔法少女が現れて、続いて怪人が登場した。魔法少女は社会に何の影響も及ぼさなかった。彼女たちは、平和な時代ではどこまでも自分本位であり、社会に関与せず、空を飛んで光や幸せを撒き散らした。
 それを疎んだのが、一般人だった。自分たちが辛いと思う時、目に見える場所に幸せそうな存在がいて、心に願った。自らの幸せではなく、彼女の不幸を。
 そうして魔法少女を殺した後、怪人は暴れ出した。怒りを原動力に。全てを滅ぼさんと。
 怪人によって、弱者から死んでいった。綺麗事だけでは回らなくなっていた世界に、都合のよい処刑装置が現れた事で、上に立つ人たちは歓喜した。
 魔法少女たちは、唯一対抗できる存在として、彼らに対抗した。彼女たちの願いは、平和な世界でこそ叶うことばかりだから。
 彼女たちの尽力により、世界に再び平和が訪れようとしていた。
 そして、彼女たちは思い知ることになる。人類の敵、倒すべき悪がいなくなった後の世界の事を。
 人間の敵は、怪人ではなく人間なのだということを。



魔法と関わる者たち
-1-


 晴天の下を飛んでいる。機械も何も着けずに悠々と。

 水中で泳ぐように体を水平にして、ただ風に吹かれるままに浮かんでいる。空は晴れ上がり雲一つない碧空を見せて、地上は鮮やかな緑が生い茂る山がある。

 

 魔法少女は例外なく全員が空を飛ぶことができる。魔術ではなく基本技能として搭載されており、各々のイメージで空気中を漂うことが可能だ。人によっては、空気中に足場をイメージして、空を飛ぶというよりも立った状態になるが、魔法というものはどんなものでも空を飛ぶことができるのだ。私のような魔術主体で戦うなら、浮くような挙動をするが、魔法武器や肉体で戦う魔法少女は、空中に立つように浮く人が多い。

 

 久しぶりの飛行なので、思わず声が漏れる。

 

「ふわー、気持ちいいなー」

 

 魔法が元々空を飛べるので、怪人も姿形関係なく空を飛ぶ。原初の魔法少女が与えた影響なのか、好きに飛んでいると、精神が非常に幼くなる気がする。

 

 人類が怪人の存在を観測してから、最初に失ったのが航空戦力や飛行機である。まるでおこがましいと言われているかのように、あっさりと人類は空を失ったのだ。

 

 現在までそれは続いており、今のところ、海の中で怪人は発生しないということもあって、現在の輸送は海運が主流となっている。陸路は荒れやすく、都会であるほど車両を執拗に狙う怪人が現れるので復興は遅れがちだ。飛行機を飛ばすための滑走路すら作れていない。

 

 よって、現在の空は魔法の独壇場となっているのだ。

 

「ええっと、会場はここで、範囲内をゆっくり飛ぶこと。か」

 

 新人研修の最終日。魔法で再現された地球環境で、私は今自由に空を飛んでいる。

 実際の地球では目撃情報が出たりするので、そこまで自由に飛ぶことはない。現場への急行など、必要がない限り控えるように協会側でお願いが出ている。

 

『目標が作戦地域に到達。全魔法少女は攻撃準備』

 

 私は空を飛ぶのが大好きだ。怪人に観測されるのもあって、好きに飛ぶには窮屈過ぎるが、それでもちょっと高い所からゆっくり飛び降りたりするくらいには空中にいるという事が好きである。

 これが模擬戦でなければ、思う存分風を感じて飛びまくるのだが。

 

『発射まで、さん……にい……いち……今っ!』

 

 山の中から魔法力が急激に高まるのを感知する。次の瞬間、色とりどりの魔術が射出された。それは、次々に私の体へと着弾し、干渉しあい、視界を妨げる煙となる。

 

『着弾観測!』

『やった!』

『……いや、まだだ!』

 

 軽く風を巻き起こし、煙を散らせる。もちろん私は一切のダメージを受けていない。基礎の魔法力に差がありすぎて、攻撃を受けてもダメージにならないのだ。

 

 新人研修最終日。研修内容は模擬戦。四方数十キロの作戦範囲内。新人たちは全員で事前に作戦を練って準備をしていい。

 そして、勝利条件は私を倒すか、生きて作戦範囲から脱出するかである。

 

『嘘でしょ……? 私たちの最大火力をぶつけたんだよ?』

『これが本物の魔法少女……!』

 

 私は模擬戦にあたりレンからいくつかハンデを課せられている。攻撃型魔術以外の魔術使用禁止。新人たちの作戦行動の初撃を潰さないこと。その他様々。

 仮想敵は怪人なのだから、魔法少女らしい戦術を使うなということだ。

 その上で、絶望を見せてやれとの指示だ。

 

「吹き荒れろ、嵐を前に立ち向かうことの愚かさを戦士に刻め《スクラップカーテン》」

 

 魔法力を空に打ち上げる。同時に、複数の魔法少女が地上から飛び出してきた。

 

 先頭を駆けるのは断頭だ。みすぼらしい貫頭衣が風にはためく。手に持った武器は錆び付いて刃こぼれした大きな包丁。切るよりも、肉をズタズタにするのが目的としか思えない武器。

 肩に担ぐように振りかぶる。

 

「てめえの罪を裁く《断手》!」

 

 威勢良くこちらに体当たりを交えた魔術を放ってくる。武器攻撃に動作補助と威力強化を交えた基本的な攻撃魔術。ただ、速さはないようだ。

 

 名前の通り腕を狙って縦に振るわれた一撃をヴァイスシルトで防ぐ。攻撃を止めたら空いている脇腹を蹴り飛ばして彼女を引き剥がす。

 続く武器攻撃を得意とした魔法少女たちが魔術で強化しながら攻撃を入れてくる。

 

「借りるよ……《エアロブレイク》!」

 

 かつての仲間の魔術を使って魔法少女たちとの間に突風を発生させる。攻撃型魔術というよりも便利なクッションみたいな魔術だが、制作者が攻撃型魔術だとしていたのでノーカンだ。

 

 風に吹かれた魔法少女たちは、すぐには立て直せず、何人かはそのまま落下していく。

 

 やはり新人は基礎ができていない。魔術を使って強い技を当てる練習をする子が多い。魔法少女の基本技能を十全に使いこなせてから磨けばいいだろうに。

 

「飛行訓練、行くよ!」

「くっはやい!?」

 

 空中機動で相手を翻弄し、シュバルツドルヒをすれ違いざまに叩き込んでいく。全く付いてこれず、こちらを見失っては無防備に攻撃を受けて悲鳴をあげる魔法少女たち。トドメは刺しておらず、ただ空から落とす事だけを狙う。

 

 魔法少女は物理法則を無視できる存在だ。ただ、人間として生きた感覚が長いせいで慣れていないだけで、習熟すれば戦闘機以上の速度で慣性を無視した動きができる。肉体だって変身中は魔法なので重力に苛まれることはないのだ。

 魔法少女として最初に鍛えるべきはこの機動力だと私は考えている。速さへの慣れ、空中機動への習熟。変身中の感覚の把握。これがあれば、逃げ回るのも追いすがるのもうまくなるのだから。

 

 魔法少女の主戦場は空中である。高速で飛び交い、魔術を撃ち合うのが魔法少女の能力を完全に活かした戦法だ。

 

 先の戦争期。私たち魔法少女が怪人に勝てたのは、人間の守護を放棄したところにある。人間への被害を無視して戦う事を良しとしたのだ。

 怪人は、人間の願いが生み出す存在だ。必然的に彼らは街中などの人がいる場所に多く発生する。そして人間を襲う。魔法少女は、人間とその生活を守りながら戦っていた。それを放棄したら、二年で魔法少女は怪人を大きく減らすことに成功している。

 大西洋反撃作戦や、地中海怪人掃討作戦。私たちの数は怪人よりも遥かに少なかった。倍どころの差ではない開きがあった。それでも勝った。それはなぜか?

 

「私たちには技術がある。積み上げてきた魔術がある」

 

 魔法への理解。人間が魔法を取り扱った姿であるからこその理解と発展。成長によって圧倒してきたからだ。

 怪人の根底は他力本願にある。つまり、努力を嫌う傾向があるのだ。それに対して、魔法少女は自分自身の変化や向上を求めた結果魔法を手にしている。そこに差が生まれたのだ。

 

 ある程度魔法少女を撃ち落としたので、高度を上げていく。魔法少女は変身中は呼吸を必要としない。寒さも無視さえすればなんの影響もない。追い縋ろうとする魔法少女たちが一人また一人と、高度を下げていく。寒さや気圧差を感じてしまっているのだ。もしくは、上昇飛行中に重力を感じてしまっているか。

 打ち上げた《スクラップカーテン》が私の横をすれ違い、落ちていく。大きな魔法力の塊を避けて魔法少女たちが離れる。しかし、甘い。

 

 魔術が地面へと着弾し、魔法力が爆発した。

 

 高度二千メートル以下の半径数キロメートルに金属片を発生させて、その範囲に複雑な激しい気流を生み出す。金属片の嵐で敵を倒す大規模攻撃魔術である。

 

 細かい金属片が光を反射する事で、効果範囲内がキラキラと輝く。一応魔法力による攻撃なので、中にいると怪人であろうが魔法少女であろうが無事では済まない。

 先に挙げた大西洋反撃作戦。魔法少女協会の最初の活動にして怪人との大規模な集団戦闘で、この魔術は使用された。複数人の同時発動で、幾多の怪人を塵へと変えたこの魔術は、前線で戦う実力のない魔法少女が撃っている。数千から数万の怪人を単騎で倒せない程度の実力しかない魔法少女がだ。魔法力で言えば、数万s程度の実力の中堅魔法少女が。

 

 これが中堅魔法少女の使う本気の魔術であるとすれば、前線で戦える魔法少女はどれくらいの力があるか? その結果が、西洋がいまだに残り続け、日本は怪人の脅威に怯えずに過ごせる日常だ。

 これだけの力を発揮できるのに怪人に負けていたのは、やはり人間が足を引っ張っていたという事である。そして、都市破壊が解禁された私たちは、世界中の都市や自然。数々の遺産などの価値あるものと引き換えに勝利を手に入れた。

 

 この魔術も、都市で使えば被害はとんでもないことになるだろう。現に、魔術効果がなくなって地上が見えるようになっているが、ひどい有り様になっていた。

 

 緑一色と言えそうな山の斜面は土砂崩れが起きたかのように痛々しい地面を晒している。細切れになった植物がいまだに舞い散っており、魔術の金属片が摩擦で引き起こした熱で、巨大な炎と化して空を燃やしている。

 忘れていたが、戦闘不能判定の魔法少女は道場へ飛ばされるので、死傷者は出ていない。ここは魔術によって作られた異空間なのでそこら辺も設定可能なのだ。

 

「うおおおおお!!! やってやるぞぉ!」

 

 燃え盛る山に、生き残れた魔法少女はいるのだろうかと眺めていると、炎をまとってより力強さを感じさせるようになっている炎華が立っていた。彼女の腕には、守られていたのか、ダメージを負っているが擦り傷程度の様子の氷理までいる。炎華の方はダメージが大きいのか、衣装もズタズタで、ところどころから魔法力を流している。

 

「調べていたので分かってたわよ……! この魔術は地下ならそこまで脅威ではないと!」

「やっぱりきちんと対策取られると弱いね。この魔術は」

 

 氷理の言葉の通り、山に隠れていた魔法少女の多くが瓦礫の中から立ち上がってくる。この様子だと、空中で戦闘を仕掛けてきた魔法少女たち以外はほとんど無事だろう。

 まあ、有象無象の怪人とかを減らすための魔術だし、そんなもんかと思い直す。攻撃性が高過ぎるので、対策を取られたり、魔法力で負けていると途端に無力になるのがこの魔術だ。新人はひとたまりもないだろうが、私が食らっても、金属片の嵐の中で空中戦を続行できるのだ。

 私個人の好みで言えば、単純な破壊よりも金属片を空中に展開してレーザー系の魔術を反射させまくる布石にしたいものだ。

 

「まだまだ戦いは始まったばかり! みんな、気合い入れて行くぞー!」

 

 炎華の号令で、魔法少女たちが空を飛んでこちらへ向かってくる。

 

「……いや、逃げなよ」

 

 ぽつりとそう呟いてしまった。

 これだけの差を見せつけたのに、なぜ生きて作戦範囲外へ逃げる方を選ばないのだろう。

 

「はぁ……。闇の底に眠る古き力より、邪悪な魂を呼び醒ませ。黒き炎により燃え上がり、灰となって我に還るが良い」

 

 時間をかけてゆっくりと詠唱を開始する。魔法力が練り上げられ、異質なほどの圧力を彼女たちへ浴びせかけた。

 幾人かは足を止めて震えあがり、気を失い地へ真っ逆さまに落ちていく。恐慌状態に陥った魔法少女がなりふり構わず逃げていく。

 

「命ある者よ、その力を与えよ。絶望に呑まれし者たちよ、我が呼び声に応えよ。世界を隠す漆黒の霧、暗黒に翳りし時全ては凍てつかん」

「だああああ!!! 覆え《銀朱》!」

 

 炎華が歯を食いしばって突撃する。拳に炎を宿して、爆速で捻り込んでくる。

 

「絶望を崇拝し……望み任せるといい」

「なんでっ……!」

 

 彼女の必殺技は、黒い盾を前に立ち止まった。

 

「《フェアエンダルグ》」

 

 魔術を開放する。その瞬間、全ては枯れ果てた。

 

 

 

 後片付けを済ませて道場に戻ると、模擬戦で戦った魔法少女全員が車座になって反省会を開いていた。

 レンもそこに混ざっていたが、こちらに気付くと、立ち上がり近寄ってきた。

 

「ただいま」

「やり過ぎじゃ! アホ!」

 

 手の届く範囲に入るなり頭を叩いてくる。

 

「しっかりハンデは守っている」

「大技数発で手も足も出ない雑魚を蹴散らしただけなのじゃ! もっと魔術の撃ち合いで技量差を見せたり、飛行技術で翻弄するとかしてほしかったのじゃ!」

「そういうのはレンがやった」

「妾は接近戦のみじゃろうが!」

 

 私の模擬戦は後半戦だった。前半で普段活動しているメンバーだけで、魔法少女レンとの戦闘をやって、後半は総力戦で私と戦うという試合形式だった。

 

 レンの模擬戦の試合範囲はかなり狭く、小さな街一つ分程度。私は山から数十キロ範囲で戦っている。

 レンとの模擬戦では、実戦を想定して奇襲したり街中を逃げ回ったり、正面から戦ったりと、戦闘方法や技術に関する事を熱心に教えていた。

 

 対する私との戦いは、戦争期の時の戦い方だ。数を集めて一斉攻撃。倒せるならそれでよし。無理なら作戦範囲外へ逃げ切ること。

 

「勝てない敵と戦った時の逃げ方だけなら、レンと同じ条件で、ただし時間いっぱいまで逃げ切れるようにすればよかったと思う」

「仮想敵がそもそも違うのじゃ! ほとんどの怪人は大規模魔術なんぞ使わんじゃろう!?」

「災厄級とか、上級は使ってくる。今回の模擬戦の条件は上級相手でしょ?」

「じゃあ最後の魔術はなんなのじゃ? アレが上級怪人に使えると?」

「懲りずに立ち向かってきたのが悪い。総力戦の初動で最大火力をぶつけて、全くの無傷だとわかっていたなら、一斉に四方八方に散れば良かった」

 

 そうしたら、通信で捕まえた魔法少女の悲鳴を聞かせるという戦法に出たのだが。そこで反転せず逃げれば良し。立ち向かうにしても良しという模擬戦だったろうに。

 

「ライゼンターさん! さっきの模擬戦の反省点を教えてください!」

 

 レンと言い争いをしていると、炎華がこちらへ近付いてきた。他の魔法少女もこちらを見つめている。みんなも疲れているだろうから、手短に話そうと考え口を開く。

 

「まず、協会の誓いは絶対に守ること。勝てそうにないと判断したら即座に反転し撤退するのもあり。今回の模擬戦は絶対に勝てない敵が相手だった。最初に使った《スクラップカーテン》は上級怪人なら頻繁に使ってくる程度の破壊攻撃。対処方法さえ分かれば、魔法少女なら無傷でやり過ごせる程度のもの。最初の一斉攻撃は良かった。当てたらすぐに動けるように準備をしておけば満点。連続で撃ち続けていれば追加点を出すレベル。悪かったのは、基礎が疎かで、引かなかったところ。魔術ばっかり鍛えたり調べるよりも、まずは飛行能力の強化や魔法少女の体に慣れること。魔法少女は呼吸も圧力も重力も関係ない。やろうと思えば深海や宇宙で活動できる。逆に、そういうところに意識が向いていないと、ただの火薬式銃に体を撃ち抜かれることもある」

 

 魔法少女は人間の意識があるので、そこが難しいところだ。魔法力の伴わない現象はほとんど無視できるのだが、心持ち次第で影響を受けてしまう。

 だからこそ、常に変身しておくくらいに魔法少女に慣れている方が良い。普段から海中で活動する怪人はいないので、いざという時は海や水中、地中に逃げ込むのが安全だ。宇宙空間でも可。空は稀に怪人が飛んでいるので駄目だ。

 

「勝てないなら素直に逃げる。戦えるならその場に縛り付けてもいい。自分が倒せなくても私たちが倒すから」

 

 とりあえず生き延びれば良い。仲間はいるのだから。

 

「それを、忘れないでほしい」

「……はいっ! わかりました!」

 

 炎華がパッと笑って頷いた。

 

「それでは、各々反省点もあるじゃろうが、ここまでで新人研修を終了する! お互いに連絡先とかは、聞いたかの? 同期の仲間というのは大切じゃぞ! 妾もこのライゼンターと同期なのじゃからな!」

 

 レンが明るく締めくくると、魔法少女たちは「ありがとうございました!」と礼を言って、ひとり、またひとりと帰っていった。

 

「あ、そうじゃった。ライゼンター。断頭。炎華と氷理よ。少し待つが良い」

 

 レンが帰ろうとしていた私たちを引き止める。振り返ると、レンが懐から手紙を取り出した。

 

 宛先は魔法少女協会から。

 

「明日、新大阪防衛省へ行くのじゃが、お主らも来るか? あ、ライゼンターは参加強制なのじゃ」

「……内容は?」

 

 自然と声が低くなる。政府とか国とか、人間側の組織というのは、私たちの味方ではない。

 

「詳しくは書かれとらん。ただ、エンハンサーとエインヘリアルが出るそうじゃ」

 

 レンの口から出てきた名前は、私たち戦争期の世代でも、いまだに現役で活動している魔法少女の名前だ。

 そして、魔法少女協会の創始者にして魔法少女を率いる絶対的なリーダーでもある。

 

「わざわざドイツから日本に? なんでこのメンバー?」

「あやつらの魔法に距離は関係ないのじゃ。どちらも直接的な攻撃は得意じゃないしの。メンバーに関しては、成績優秀者の断頭と炎華。そのコンビだからで氷理にしただけなのじゃ」

「くっ……」

 

 氷理が悔しそうに呻く。彼女は座学こそ優秀だが、立ち回りが相方のサポート主体なのもあって、そこまで活躍できていないから仕方がない。

 炎華はメンタルが優秀で、積極性もある。コミュニケーション能力もひときわ高く、あっという間に周囲と仲良くなっていた。断頭は先頭に立って行動するカリスマ性と強さへの貪欲な姿勢が評価されている。

 チームにするなら前衛二人に中衛一人で少し歪だが、能力的には優秀だろう。対怪人なら問題ない。

 魔法少女協会結成後の私のチームなど、前衛一人、中衛二人後衛一人なのだ。私が後衛で、前衛のレンが自分より後ろに攻撃を通さない守り役。中衛のエンハンサーとエインヘリアルがサポートといったところだ。

 私たちが現役魔法少女として全員生き残っているのは、これが隙のない編成だったからである。

 

「だからこそ。他の協会役員では危険な可能性があるということ。数をほしがるのもそういうことでしょ?」

 

 エンハンサーは直接的な戦闘力をあまり持たない。エインヘリアルも同じだが、彼女はやりようがあるタイプだ。二人が揃って活動するのは、それが最も効率良くなるから。

 

「政府に魔法少女が関わること自体が不穏過ぎる」

「わかっておる。官僚共は生意気にも今回の件についてインターネットを使用しておらんからの。推測はできるが、確実なことは言えない。その上で招待が来ているとのことじゃ」

 

 炎華が希望を口にした。

 

「そ、それって、復興支援とかそういうのじゃ……?」

「だといいのだけどね」

 

 氷理はあまり期待していないらしい。まあ、これまでの日本のやってきたことを考えればそうだろう。関係修復のための謝罪ならまだいい方。ひどければ再び魔法少女は日本と縁を切ることになる。

 

「……俺は絶対に行く。これまでだって、インターネットで公開されていない何かがあるとしか思えないから。政府と魔法少女に何があったのか、見るだけでもいいから知りたいんだ。それに、本部と繋がりを持てるなら早いほうがいい」

 

 断頭が強く言い放つ。彼女にとっては、悲劇の引き金を引いた相手だから気になるのだろう。

 

「氷理ちゃん。私たちはどうしよっか?」

「……今のところ、行く理由は薄いものね。私は行ってみるけど」

「えっ!? なんで?」

「今後のキャリア形成とかを考えたら、魔法少女をどこまで続けるかとか、協会本部入りできないかとか考えられるでしょう? 私は炎華みたいに魔法少女になった後のビジョンがないのだから」

「あー、そっか。じゃあ私も付いて行く!」

「決まったようじゃの。では、明日午前十時までにまたここに来るのじゃ」

「はーい! じゃあお疲れさまでした!」

「失礼します」

「……ありがとうございました」

 

 三人が挨拶をして道場から出ていった。

 二人きりになると、レンが険しい顔をして隣に座り込んできた。

 

「まあ座るのじゃ」

「……私は最近変身してなかった。魔術こそ発動しているけど、観測は協会に任せていた。何があった?」

「自衛隊基地で魔法の観測じゃ」

「まさか……魔導兵器?」

「それはユーラシア大陸と共に封印処理してあるはずじゃ。絶対とは言い切れんが、可能性は低い」

「じゃあ、魔法少女?」

 

 重々しく頷くレン。横目でこちらを見ながら、小さく呟いた。

 

「非所属の魔法少女を作った疑いがある。ライゼンター。場合によっては、現行政府と自衛隊、そして魔法少女の処理を頼むことになる。偶然発生したのならいいのじゃが」

 

 憂うような表情。彼女は古い家の出身だから、国や国民などに愛着があるのだろう。

 

「了解した。何もなければいいのにね」

「本当にのう……」

 

 戦争を生み出し、地獄を押し付けるのは、いつだってそれを知らない者だ。避けられない大きな傷は、隔離と処分という形で忘れさせることにしたが、その時の痛みすらも忘れていない事を願うばかりだ。

 

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