ドロシーたちへ朝食を作り、洗い物を済ませたギョクソウはめずらしく退屈だったようでロドス艦内を適当に歩いていた。
「(ドロシーちゃんに桃のケーキも渡せたし、また昼の時に行きましょうかね。外食でもいいけど...)」
「(今の近くにあるの...シラクーザだしなぁ...絶対なんかに巻き込まれるわよ、あんな法律ガバガバなところ...)」
「(そういえば、シラクーザ出身の子たちが少し前に入ったらしいけど...挨拶してたっけ...えーっと...)」
「...え?」
『...』トコトコトコトコ
思案していたギョクソウの目の前に、曲がり角からからシャチのような頭を持った四足の獣がゆっくりと飛び出してきた。
「クヒツムちゃん...どうしてここに...!?」
『...?』
クヒツムは少し首を傾げたあと、再び歩き始めた。
「待って!」
『...』トコトコ
「なんか速くない!?」
『...』クルッ
「あ...こんにちわ...?」
『...』スタスタスタスタ
「さっきより速くねぇ!?もう音が違うんだけど!」
先程よりも遥かに歩く速度が上がったクヒツムをギョクソウはひたすらに追いかけ続ける。
もはや歩くと言うよりも走っているという方が適切であろう。
しかも、クヒツムは物が散らばっている部屋の中を突っ切ったり、人混みの中を走り抜けたりと、急いでいるのかギョクソウをまこうとしているのかわからないが、追いかけるのに苦労するようなところばかりを通っていた。
「ぜぇ...はぁ...!」
息も絶え絶えなギョクソウだったが、あらかじめ少し先回りしておくことを繰り返すことで距離を少しづつ縮め、ようやく捕まえることが出来た。
「もう...へぁ...なん、はぁ...そんな速いのよ...」
『...!...!』ジタバタジタバタ
「うわっ、随分暴れるなぁ...!?」
「取って食うわけじゃないからさ?落ち着きなさいな。」
『...?』
「よく見るとあなた可愛いわねぇ...じゃなかった。なんでそんなに急いでる(?)のかしら。」
『...?』コテン
「違う...?どこかに行こうとしてたんじゃないの?」
『...』コクン
「(急いでるわけじゃないけど行きたい場所はある、と...?もしかして、急いでるんじゃなくてこの子が特別せっかちなだけなのかしら。)」
「なんか気になるし、私もついてっていいかしら。」
『...!』コクコクコクコクコク
「ファッ!?あなたもしかしてキツツキだったりする!?」
『...!...!』ブンブンブンブン
「わかった!わかったって!あー、はい。行きましょう?」
『...』コクン
その時のクヒツムは先程よりもかなり落ち着いた状態で歩き始めた。
そこから数分程度がたったあたりで、クヒツムは停止した。
「ここ、なにもないけど...」
戸惑うギョクソウを無視してクヒツムは壁の前に行くと、その中へと入っていった。
「...え?」
「...えぇ!?ここ入れるの!」
驚くギョクソウだったが、クヒツムのあとを追いかけてすぐさま壁に入っていった。
景色が変わる。
「...あえ!?落ちてる、落ちてる!」
浮遊感を覚えたギョクソウはすぐさま近くのものに手を伸ばし、その子らだを引き寄せる。
「あっすごいちょうどいい所にちょうどよく、ちょうどいいつかみ心地の木がある!」
安定したギョクソウは当たりを見回し、その現世離れした光景を見ることになった。
雲海に覆われた空、浮遊している無数の小島とそれらを繋ぐ橋、そして空へと落ちていく滝と空へと伸びる草木。
「...はえ?」
ギョクソウは逆さの木に座りながら間の抜けた声を発した。
「いや...え?」
『...!』ピョンピョン
「これどういうこと!?ていうか、あなた逆さなんだけど!?」
『...』ブンブン
「いや、私が反転しているのか...うん、連れていきたいところがあるんでしょう?」
『...』コクコク
「じゃあ、お願い。あ、そうだ。」
「...ほいっと。」
『ギャンッ!?』
炎狐がまっすぐ土に落ちる。
「...あら、あなたは普通なのね。」
『グルルル...グゥ...?』
「こっち見て固まんな。私も不思議なんだから。じゃあ、あそこのクヒツムちゃんについてってくれるかしら。私、はぐれたらもう終わりになりそうだし...」
『キャンッ!』
「いい子ね。」
炎狐は返事をするとクヒツムの後ろをついて行った。
「さて、私も...これどうしよう。あ、そうだ。」
ギヨクソウは高くジャンプし、地面の縁を掴む。そして、掴んだまま体を押し上げて、浮島の裏に立った。
「うっわ酔いそう...あー、あの子たちは...あそこね。」
二匹を追いかけて、それぞれの浮島にかかっている橋の裏を歩いていく。
「(私が下に降りてるってことは、あの子たちは上に行ってる...ってことでいいのよね。というか、なんでこんなことに...)」
「(まず第一に、なんで私だけこんなことに...ま、下を見たら雲と太陽があるって中々貴重な経験だとは思うけど。)」
「(おぉ、あの山すごい綺麗。水も日光を反射するぐらい透き通っていて綺麗だし、なんかもう凄いしか語彙力なくなるわ。)」
またしばらく歩き続けていると少し広い場所に着いたところで不意に二匹の動きが止まった。
「あら?」
『...』ヒョコッ
「うわビックリした!なに?ついたのかしら。」
『...』コクン
「えっと、どこかにいい感じの木...ないかしら。」
『...!』ピョンピョン
「あ、あった。...ヨイショっと。」
表を覗くとこれまたいい所に木を見つけたため、木の裏に降りる。
「はぁ...」
『...!』ピョンピョン
「はいはい、どうし...た、の...!?」
クヒツムがアピールした方を向くと、一人の女性が透き通るような湖を前にして絵を描いていた。
ニェンと同じような尻尾と角を持っていることから、彼女と関係があるのだろう。
しかし、絵を描いていると言っても、キャンパスなどの紙はなく、空中に絵を描き、描き終わった絵は一人でに飛び出し、湖を自由に泳いでいた。
「...あらぁ...やっぱり。クヒツムちゃん、あの子を呼んでくることってお願い出来る?」
『...』コクコクコクコク
『グルゥ...!?』
「なんか愉快なことになってるわね。羨ましいわ。」
激しく頷いたクヒツムは女性のそばに行くと、その服をぐいぐいと引っ張り始めた。
『...』グイッグイッ
「やめなさい。」
『...!』グイグイ
「今は手が離せないの。」
『...!!』グイグイグイグイ
「一体どうしたっていうのよ!?」
『...!』
「はぁ?そんなの見てなんに...」
クヒツムが何かを訴えかけると女性はギョクソウの座っている木の方へと振り向く。
「あ、こんにちわ。」
「...え?」
「あなたのお名前は?」
「...シー。」
「あぁ、シーさん。突然なんだけどさ、降ろしてくれない?」
「...はぁ、何かと思ったら...」
「えーと...」
どうすればいいのか分からず困っているギョクソウにシーはその手を差し出す。
「掴まりなさい。」
「え?、あーうん。」
シーはギョクソウの腕をがっしりと掴むと地面に引きずり出そうとする。
「えっ!?待って!落ちる落ちる!空に落ちる!」
「地面にたちなさいよ。」
「いや立てなベチンッ!あふんっ!から、お願いして...
「はい、これで立った。」
先程までのは何だったのかと聞きたくなるほどに、一度地面に打ち付けられたギョクソウはそれ以降、ピッタリと地面の上に立っていた。
「え?あー、ありがとう。シーさんや。」
「...随分他人行儀なのね。」
「あはは...待って今なんと?」
「シーさんだなんて、シーちゃん呼びはどうしたのよ。」
シーの発言にギョクソウはいつもの軽い雰囲気が無くなる。
「え、私の事...覚えてるの...?」
「私が初めて物を与えた人を忘れるような薄情な人物だと思ってたの?」
「あぁ...そう、なのね...」
「あなたもロドスに居たのね。気づかなかったわ。」
「な、名前も...お、覚えているの?」
自然とギョクソウの両目の端に液体が溜まり始める。
「当たり前だからその泣きそうな顔をやめなさい。久しぶりね。」
「
シー...ニェンを懲らしめるためにわざと逆さまな絵を描いてたら、なんか違うやつが引っかかってた。
本人曰く、「落ちても、そこら辺の山から落ちた時と同じ衝撃とともに追い出されるだけだからいいでしょ」とのこと。
あなたたちと体の作りを一緒にしないでください。死んでしまいます。
クヒツム...割と感情豊か。最近作者はしっかりとクヒツムを見たら、四足なことに気付いた。
てっきり二足だと...