特化3に出来てないからまだ完全体じゃないってマ?今ですらめちゃくちゃ強いんですけど。
「疲れてんの?」
恐ろしいまでに自分の世界に入り込んでいたパゼオンカを呼び戻すと恥ずかしかったのか耳が垂れる。
「...そうかもしれません、わらわの自室に戻らせて頂きますわ...」
そうしてトボトボと帰っていくパゼオンカを見送りつつ、尻尾をぶんぶんと振りながらこちらに駆け寄ってくるレッドを出迎えた。
「かえしてきた。」
「そう。良い子ね。」
「えへへ...」
頭を撫でてやると心底気持ちよさそうに目を瞑る。
「それにしても、どうしてこんなことをしたの?」
「...ギョク姉が笑ってると、なんかぽかぽかする。だから、元気になってもらおうと。」
「なんか申し訳ないんだけど...ただの二日酔いよ...?」
「そうなの?」
「うん。」
「じゃあどこも体は悪くない?」
「えぇ。強いて言えば肝臓が悲鳴上げてるけど。」
「そう、だったんだ。」
「ところでレッドちゃん。その手に持ってる袋は...?」
「これ?お見舞い。」
そう言って袋から取り出したものはさっきも見たものだった。
「パイナップル。」
「わぁ...ありがとう...」
「どうしたの?」
「なんでもない...」
「購買でおすすめされたから、買ってきた。」
「...誰から?」
「クロージャ。」
「(あのブラッドブルート...!今度会ったらアイツの肌にパイナップル擦り付けてやる。トゲトゲで地獄の苦しみを味わうがいいわ。)」
「ギョク姉?」
「なんでもないわ。」
「そうなの。じゃあレッドはもう行くね。」
「うん、ありがとうね。」
レッドを見送り、部屋に戻ったギョクソウは独りごちる。
「...みんな暇なの?特に酒持ってきた子。」
そのままベッドに倒れ込んでから特に何ともなしに天井を見続ける。
手持ち無沙汰なのを誤魔化すように炎狐を出して、尻尾に顔を埋める。
そうしているとふと、今までの出来事や友人たちが思い浮かんでくる。
「(...このままの方が良いような...悪いような...)」
「(良いに決まってるか...世の中知らない方が良いこともあるし。)」
「ってなんで私こんなにナーバスになってるのかしら...」
コンコンコン
逡巡していると扉をノックする音がした。自室のノックでは初めて聞くような優しいような、遠慮しているような音だった。
「...」
緩慢な動きで扉を開けに行くギョクソウ。
実の所悪い予感がしていた。
虫の知らせのような。本当になんとなく。
それでも、その予感を押し殺して扉を開けた。
「はーい、どちらさま...あら珍しい。」
「やぁ、ギョクソウ。」
「こんにちわ、ギョクソウさん。」
扉の前にはドクターとアーミヤが立っていた。
「どうしたの?」
「まぁ、大事なお話...だね。うん。」
「はい。執務室でお話したいのですが...今よろしかったでしょうか?」
「...えぇ。」
いつもドクターが作業をしている執務室でドクターとアーミヤ、ギョクソウで向かい合っていた。
「それで大事な...話って?」
「まずその、ごめんなさい!」
「え?」
「今日起こしいただいたのは全て私のアーツ制御が甘かったからなんです!」
「アーツ...?ドクター、説明してくれるかしら。」
「...アーミヤのアーツは他者の感情を読み取ることもできるんだよ。他にもいろいろできるけど、ね。」
「そういうこと...アーミヤちゃん、どうだった。」
「...強い罪悪感と悲しみ...あ、あと...スズランちゃんを大事にしてる思いですね!」
少し和ませようと思っての発言だったがギョクソウは微塵も表情を変えず、覚悟を決めたような諦めたような顔をしていた。
「気になるのはそれだけじゃなかったでしょ。」
「えっと...その...」
淡々と質問するギョクソウにアーミヤは少し萎縮してしまうがドクターが助け舟を出す。
「私が話そうか。ギョクソウとアーミヤが触れ合っている中でアーミヤは君の感情を読んでしまった。そうして、さっきの読み取っての情報だった。」
「......」
「それだけなら珍しいことでもなかった。ただ問題だったのは
「...ギョクソウさんの記憶もありました。ですが、ど、どうして、それ以上に...貴方だけじゃない記憶もあったのですか...?」
「幾多にも私の頭に流れ込んできました。絶望、恐怖、怒り、無気力、憎悪、悲哀...それも、全て貴方に向けられた...」
話していくうちにその時のことを思い出したのか、アーミヤの瞳が震え始め、焦点が定まらなくなってきていた。
それをドクターが呼び止めることでアーミヤは落ち着いた。
「落ち着いた?...さて、長々と話してしまったけど、結局ここに呼んだ理由は何があったのかを話して欲しいんだ。君の過去に何があったのかを。」
ドクターがジッとギョクソウを見つめる。
その雰囲気にはいつものようなふざけているドクターは消え失せ、一組織のトップに相応しいカリスマとも言えるものを纏っていた。
「...わかったわ。長くなるわよ?」
「あぁ、ありがとう。」
「但し、一つだけ条件...いやお願いがあるの。最後のね。」
「もちろん口外はしないさ。それは私もアーミヤも「違うわ。」...え?」
「全て話し終わったら私、ロドスから出ていくわ。リサには...そうね、長期遠征に出向いた結果もう帰ることは無かったってことにしておいて。」
「...スズランちゃんが悲しむとは思わないのですか。」
「私を知ってる方が悲しむわ。今となっては、あの子には...私のことを忘れて穏やかに暮らした方がいいわ。絶対に」
「...わかった。」
「ドクター!?」
「それでも、戻ってきたくなったらいつでも戻っておいで。」
「はは、『戻っておいで』ねぇ...」
「どうしたんだ?」
「なんでもない。はぁ、じゃあ子供の頃から話していきましょうか。」
そうしてギョクソウはまるで昨日の事のようにすらすらと話し始めた。
執務室の扉に一人の少女がピッタリと耳をくっつけ、執務室内の会話を聞いていた。
「私、ロドスから出ていくわ。」
「え...?」
少女...スズランは耳を離し呆然として立ち尽くしていた。
「(なんで?私がワガママ言ったから?私が悪い子だから?)」
視界が歪み、自分が立っているのか座っているのか、倒れているのかすらも分からなくなってくる。
「(やだよ...もう居なくならないでよ...!)」
湾曲している廊下で倒れてしまわないよう、壁伝いに座り込む。
しばらく壁の一点を光の無い目でボーッと眺めていたが、やがて瞳に光が戻り、自身のへたりこんで動かない足に力を込めて立ち上がると、おぼつかない足取りで走り始めた。
「(誰か!誰か探して、お姉ちゃんを...!)」
いつもは少し歩けば人と会うはずなのに、今は何故か一人として見当たらず、スズランの靴が硬い地面に反響する音だけだった。
「はぁ、はぁ、はぁっ...!」
走り始めてどれほどだったのだろう。
1分のような気もするし、10分の気もする。もしかしたら1時間たったのかもしれない。
口は風で乾燥し、喉からはひゅーひゅーとかすれた音が出てくる。
汗で濡れた体と服がピッタリと張り付くのが不快で、いつもは自慢の尻尾もこの時ばかりは邪魔でしょうがなかった。
走り続け、酸欠気味だったのか視界が徐々に暗くなっていく。
「(やだやだやだやだ!)」
視界がさらに歪み、汗にまみれた顔から水滴がこぼれ落ちる。
視界のほとんどが潰れている状態で走り続けていると、曲がり角からやって来た一人のオペレーターと衝突する。
「「きゃっ!?」」
「あなた、しっかり前を見て...スズランさん?どうされたのですかそのお顔は!」
ぐしゃぐしゃの顔をしているスズランを見たパゼオンカはすぐさまハンカチを出して顔を優しく拭い始める。
「(こ、このひとは、おねえちゃんの、おともだちの...!)」
安心したのか、緊張が解けたのだろう。
「うぅ...うぇぇぇん!」
「!?え、ど、どどどどうされましたの!?」
「ひくっ...うぅ、うっ、おっおねえちゃんがぁっ!おねえちゃんがっ!」
「ギョクソウさんがどうされましたの!?まさか喧嘩!?」
尋ねるパゼオンカの質問に答えることはなく、スズランはただしゃくりあげながら叫んだ。
「おねえちゃんが、いっ、いなくなっちゃうよぉっ!!や、やだよ!やだよっ!」
狼狽するパゼオンカだったが、まずは話を聞くためにスズランを優しく抱き上げる。
「...落ち着いて。わらわが必ず力になりますわ。」
「うぐっ、ひぁっ...ほ、んとう...?」
「えぇ、ですので、ゆっくりと何があったのか教えてくださるかしら。」
ドクター...なんとかギョクソウをロドスに留められないか模索中。
アーミヤ...読んだ情報量が多すぎて吐くかと思った。
パゼオンカ...親友を止めるために奔走中。
あなたがいなくなったら、誰とドゥリンの話をすればいいんですの!?
スズラン...愛姉を止めるために奔走中。
もういなくならないでよ...!
ギョクソウ...平穏は二度燃ゆ