どきなさい!私は「お姉ちゃん」よッ!!   作:とろねぎ

28 / 61
真面目な文章書くのしんど...でも丁寧に書かないと...あぁ、早くふざけたい...

ちなみに極東に関しては妄想10割でお送りします。


悲哀を喰らふは誰そ
同物同治


まだ蝋燭で闇を照らしていた頃。極東の山奥に大きくは無い...かと言って小さい訳でもない屋敷がぽつんと建っていた。

 

そこで生まれたのが私だった。

 

いや、私だけではなかった。そこでは私以外にもたくさんの子供たちがいた。

 

当時の当主が私たちに口酸っぱく口癖のように言っていたことは、「よりよい人間になれ」だった。

 

優しい絵に描いたような、好々爺な当主が大好きだった子供たちはそれを素直に聞き入れたが、よりよい人間が何なのか、というものに頭を悩まされた。

 

どうしても自分なりの答えを見つけられない子供たちが当主本人に聞くのは当然の流れだったのだろう。

 

真面目な顔をして聞いてくる私たちが面白かったのだろう。当主は笑いながら「元気でいることだよ」と言った。

 

そこから子供たちは日々の座学や運動だけでなく、健康にも気を使うようになった。

 

馬鹿らしい。

 

 

 

数年経ったある日、いつもとは違う食事を面をつけたいつもと同じ使用人に出された。

 

魚と漬物が載っているはずの皿には滅多に見た事のない肉が載っていた。

 

これも聞いていたことだった。「いつもと違うことがあれば、それは大事な儀式」なのだと。

 

それが食事なのだろうかと誰もが疑問に思った。

 

それでもそれが本当に儀式ならやらないといけない、乗り越えないといけないと大好きなご当主サマの期待に応える為に子供たちは素直にソレを食した。

 

それは私も例外ではなかった。

 

特段まずいわけでもなくだからといって美味でもなかった。

 

ただ少し筋肉質なのか、かみ切るのに苦労したのは覚えている。それと取りたての野菜のような青臭さもあった。

 

どうという訳でもなかった。私たちにとっては。

 

突然、食べていた2,3人の子供たちが胸の辺りを抑えて食事を床にばらまくのもお構い無しに倒れ始めた。

 

痙攣している子供たちを私たちは不安げに見ていると、使用人たちがやってきて、その子供たちを運んで行った。

 

齢10あるかないかの子供たちの食事風景としては異質すぎる空気の中、食事を終えた。

 

その二時間ほど後、私たちは一人ずつ当主に呼ばれた。さきに呼ばれた子供たちに何をしていたのか聞いても、わからないという返事しか返ってこなかった。

 

いよいよ私の番が来た。

 

部屋に入るといつもの好々爺面をした当主が座っていた。

 

「ここに、座りなさい。」

 

示されるまま座布団の上に座ると少しの雑談の後、話を切り出された。

 

「どうだい。何か変わったところはあるかな?」

 

質問の意図がよく分からなかったが、変化を感じていない私は何も無い旨を伝えた。

 

「そうか...よし。もう行ってもいいよ。ありがとう。」

 

何が何だか分からぬうちに終わった。それでも当主のあの優しさと落胆の入り交じった顔は当時の私には色濃く残った。

 

悲しさを紛らわせるように私は理解者(・・・)の元に歩き出した。

 

誤解しないで欲しいのが、私にも数名の友人はいた。ただ理解はされていない。それだけだった。

 

中庭に向かい、理解者を見つける。

 

私が呼ぶと、彼は尻尾を振ってこっちにのそのそと歩み寄ってくる。

 

「きゃおん!」

 

彼は、私が当主に連れられて人里に降りた際にそこら辺の行商人がなんとか売ろうとしているのを見つけたものだった。

 

曰く、「汚ぇが洗えば綺麗な毛皮になる。」曰く、「大人しいから皮を剥ぐのにも苦労もしねぇ。」

 

それでも私は筋金入りの動物好きだったのか、彼を愛玩動物として飼いたいと言ってしまった。

 

元々大した物欲を見せなかった私が初めて我儘を言った事に当主は驚いていたが、すぐにいつもの顔に戻り

 

「あぁいいとも。その代わりしっかりお世話するんだよ?」

 

とだけ言ってすぐさま購入した。

 

最初こそ、威嚇されるわ噛みつかれるわで散々ではあったのだが、根気強く世話をしていくうちに心を許してくれたのか、今となっては呼べば愛嬌のある顔で迎えてくれるようにもなった。

 

こうして現在では定期的に訪れ、私が一方的にだが最近私たちの周りで起きていることなど、愚痴を言うようになった。

 

言葉は通じていないはずなのに、話していると相槌のように首を動かしたり、私の語気が弱まると、慰めるように顔を舐めてくれる。

 

私の辛さを全て共有し受け止めてくれる最高の理解者だった。

 

 

 

それでもやはり、私たちとは生きている時間が違うのだから別れは訪れた。

 

また数年経ったある日、寝床から起床すると当主に呼び出された。

 

重たいまぶたを擦りながら聞いた話によれば、彼は天寿をまっとうし眠りについたとのこと。

 

そして、私が起きるのを待っていたら腐敗してしまうため夜中に埋めてしまったとも聞いた。

 

それを聞いて、死に目に立ち会えなかったことやもっと良くしてやれなかったのかという後悔が押し寄せてきた私は一人部屋で泣きじゃくっていた。

 

そうしていると使用人がやってきて食事の準備が出来た旨を伝えてきた。

 

食事場に出向けば、そこは数年前の子供たちでごった返していたことを一切想起させない、ただ広いだけの部屋が私を迎える。

 

あれから食事の度に子供たちはいなくなっていった。唯一友人と呼べるものたちも心身に変化が訪れてからはこことは別の屋敷で育つことになったらしい。

 

そこで出た食事はまたもや肉であった。

 

少し前に食べた魚が心寂しく思いつつも頬張れば、たいそう美味であった。

 

思わず何の肉なのかを聞くと、よく歳をとった獣の肉だそう。

 

数年前の食事からは決まって、大抵なにかの獣の肉が出るようになっていたのを知っていた私は特になんとも思わず、「またか」とだけ思った。

 

それでもあそこまで食指が進んだのはあの肉が初めてだった。

 

そういえばあの初めての食事での肉は「川辺に生息している獣の肉」だったか。

 

そうして終えた食事だったが、ある変化が私に起きた。

 

立ち上がろうと床に着いた手から炎が溢れ出した。

 

普通は焦るはずなのに、なぜか私はこれといった起伏もなくただ無意識で炎を消した。

 

自分のやったことに気づいたのはその後だった。

 

一度念じれば炎が湧き上がり、さらに念じれば形を歪めることも出来た。

 

それをいい事に好きなものを作って遊んでいた私だったが、「がしゃん」と何かを床に落とす音で我に返った。

 

そこには使用人がおり、面をつけていて分かりにくいがかなり動揺しているようで動きが忙しない。

 

あっけに取られている私を抱えあげるとそのまま当主の部屋に連れていかれた。

 

「おや、どうしたんだい。そんなに慌てて。」

 

「...!...!」

 

使用人が身振り手振りで伝えようとする。傍から見れば滑稽そのものだったが当主はカッと目を見開いた。伝わったらしい。

 

「そうか...!ようやくか...どれ、このじいに見せてくれないか?」

 

と言われ、自慢するように私は見せた。自慢なのだからもちろん炎の形を動かしながら。

 

そうしていると当主は今までに見た事のないような笑顔をしていた。

 

「おぉ、おぉ...!これは初代当主様と同じ...!」

 

何が何だか分からずにいるとにっこりと私に語りかけてくる。

 

「お前は、今日から『玉藻』じゃ。」

 

突然の命名に困惑する私を他所に当主は話し続ける。

 

「まさかお前がこれほどとは...じいは嬉しいぞ...!」

 

よく分からなかったが、これからも努力するように、ということやよく食べるように等、私に話を続け...

 

数十分たった頃にようやく解放された。

 

その日からだったか。

 

食事に出る肉が増えたのは。

 

それもたいそう美味かった。柔らかく、それでいて脂が乗っており、口に入れた時には溶けている。そんな肉だった。

 

何の肉なのかは気になったが、どうせ同じような答えが返ってくるだけだろうと聞くことすらしなかった。

 

私は天狗になっていたんだろう。

 

 

 

さらに数日たったある日、起床すると屋敷に一人もいなかった。

 

不安に思って当主の部屋を覗いた私は誰も居ないことに落胆したが置き手紙と食事があることに気がついた。

 

読んでみると、友人の一人が屋敷を出て行ってしまい探すために出ている。昼頃には帰るから良い子で待っていなさい、ということが書いてあった。

 

素直に食事をし、終えた私は残った食器をどうすればいいのかが分からず、最終的には厨房に返しに行けばいいということに気がついた。

 

しかし私は厨房がどこにあるのかすら分からなかった。

 

それでも私は力を使って、形の不安定な四足の獣を作り、厨房へと案内させた。

 

無事に厨房へつき、流し場へ食器を置き水を貯めておくと後ろの方で何かがぶつかる音がしていた。

 

振り返ると、作った獣がどういう訳か調味料の乗った小さな棚に体当たりを続けていた。

 

急いで止めようとするが一足遅く、棚がゆっくりと倒れ、けたたましい音と共に数々の小さな瓶が無数の欠片になった。

 

顔面蒼白で固まる私とは反対に獣はその形がよく分からない尻尾を振り回していた。

 

どう言い訳をしようかと考えていると、不意にカチッと音がし、その後棚があった場所の石が一つずつずれ始め、やがて地下に続いている階段ができた。

 

獣は迷うことなく一直線に階段をおりていく。それを追うように私も降りていった。

 

少し降りると屋敷内の木製の扉とは明らかに違う材質の扉が着いていた。

 

それを必死に開けようとする獣をつい手伝ってしまい、その扉を開く。

 

獣に続いて中に入ると、血と腐敗臭が鼻を刺す。

 

今までの人生で一切関わりのない刺激臭に耐えかねず、胃の中が逆流しそうになる。

 

それでもやがて臭いに慣れてきた私は先へ進んでいく。

 

進んでいくと一つの机の上に書類が置いてあった。この場所の狂気と好奇心に魅了された私は迷うこと無く書類を読み始める。

 

中身は日記のようで、適当に開いたページの日付はごく最近のものだった。

 

『○月○日』

アレらは体に石が生えているのところが気がかりだったが、これといった影響はなく、おかげで順調に力を宿し始めている。

 

『○月✕日』

今日はついにアレが力を宿した。それも初代当主と同じようなものをだ。出来る範囲のものでは不可能だった失敗作と思っていたものだったが、中々どうして盲点だった。

そうなると、ある程度の規則性を見つけることが出来るだろう。

 

『○月△日』

少し手間どったが、片方の処理には成功した。性質の反転はやはり厄介だった。いくらか死んだが致し方ない犠牲だ。

 

『○月□日』

順調な程にアレは育っている。これほどまでに無知とはな...これでは少し不安の種であろう。どこかで矯正させれないものか...

 

ここで終わっており、またページを捲っていくととあるページで止まった。気になることが書いてあった。

 

河童...腕△(廃棄済み)

猫又...脚△(廃棄済み)

鵺...部位ごとに△(廃棄済み)

失敗作...全て△(廃棄済み)

件...目玉△(廃棄済み)

鎌鼬...腕△(廃棄済み)

人魚...尾びれ△(廃棄済み)

失敗作...全て△(廃棄済み)

天邪鬼...心臓△(廃棄済み)

天狗...全て△(廃棄済み)

岩虫...全て△(廃棄済み)

失敗作...全て△(廃棄済み)

槌の子...全て△(廃棄済み)

妖狐...全て◎

天下...全て(途中)○

 

なにやら初めて見るなにかの名前の数々、ただその中に一つ、友人の名前があった。

 

天下は確か二人の友人のうちのひとりの名前、胸騒ぎがした私は獣の吠える声でハッとして、その不安を拭うように声の方に走り始めた。

 

さらに奥深く、獣はなにかにひたすら吠えていた。

 

何に吠えているのかが気になった私はその先を見てしまった。

 

吊り下げられた下半身のない友人を、赤黒い染みが出来ている台の上に投げ捨てられている理解者でもあった彼の頭を。

 

そんなはずは無いのに、二つと目が合う。それと同時にさっきの意味のわからない日記の内容を理解してしまった。

 

消えた子供たち、友人の名前、失敗作という三文字

 

今まで自分が...たべていたもの

 

それを考えてしまい、気が触れてしまった。

 

口に指を突っ込むとそのまま喉の奥を押し込んで刺激し始める。

 

少しして、私は嘔吐した。

 

今までのものを元に戻すかのように吐いて、吐き気が収まればまた指を突っ込み嘔吐する。

 

しばらく吐き続けていると、何も出なくなり口から白と黄色の間ぐらいの色の液体が糸を引いて地面に垂れるだけになった。

 

それでもお構い無しに吐き出そうとすると、やがて赤い液体が口からぼたぼたと垂れ落ちる。

 

吐き続け、上等な服が自らの血と汚物で染まり異臭を放ち始める。それでも止まらない。

 

『ギャウ!』

 

聞き覚えのある声と共に髪がなにかに引っ張られ、仰向けに倒れる。

 

そうして口元を真っ赤に染めて小刻みに痙攣している私を彼は見下ろしていた。

 

あの時のように顔を舐めると、いつもの愛嬌のある顔をして尻尾を振っていた。

 

それを見た私は正気を取り戻して、起き上がる。それと同時に彼は電池の切れた機械のように動かなくなってしまった。

 

いくら触っても動かない彼に「動いてよ!」と言うと、ぺたんとお座りの姿勢をとった。

 

自分が想像したように動く。目の前のこれは彼では無い。

 

それは今一度気が触れるのに十分だったが、さっきより良くなった私はなんとか踏みとどまり、このままだと殺されると思った私は屋敷から脱出することを決意した。

 

見るのも苦痛だった私は彼の炎を消し、薄暗い地下から脱出した。

 

再び厨房に戻ってきた。まずは荷物をまとめるため自室に戻ろうとすると、扉の向こうから私を探すように指示する当主の声と大人数の足音がかすかに聞こえてきた。

 

少しずつ足音は減っていき、こちらに向かってくるのは一つだけになった。

 

近くにあった包丁を持って物陰に隠れて待っていると、使用人が一人厨房に入ってきた。

 

倒れている棚に気づいた使用人は近づき、かがんで何かを調べていた。

 

私は足音を殺して使用人に近づき、その後頭部に包丁を勢いよく突き刺した。

 

面白いように体が一瞬だけ跳ね、ピクリともしなくなった。

 

包丁を引き抜くと脳漿がこべりつき、すえた臭いを放っていた。私は初めて殺人をした焦燥感と自分を正当化しようとする思いでいっぱいだった。

 

ここから離れようと廊下に出るとまた一人使用人が横切って行った。

 

もう一人の友人を抱えながら。

 

友人が目を閉じたまま力無く運ばれているのを見た途端に私の意識は途切れた。

 

 

 

意識を取り戻したきっかけは、むせ返るほどの血の臭いだった。

 

私は赤一色に染まった食事場にぽつんと立っていた。

 

文字通り足の踏み場が無いほどの死体の数々。たじろぐ度に足元からは、ぬちょ、めきょ、と生々しい音がする。

 

それでもなぜか冷静でいられた。いや、興奮していた。

 

自分の力に、悪を捌いたという幼稚な正義感に、生きているという喜びに。

 

ふと床を見ると、頭の一部が欠けている当主だったものと目が合った。濁り切ったその目は薄汚い欲望の色をしていた。

 

あぁ、疲れた。

 

空腹だ。

 

喉も乾いた。

 

 

 

 

 

 

 

いただきます

 

 

 


 

 

当主の日記...その日の出来事が書き記してあるだけでなく、妖と呼ばれる生物の生息場所・仕留め方・可食部位・調理法などが事細かに記されていた。

最近の研究だと、昔の極東では感染生物のことを『妖』と呼んでいた、という説が唱えられた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。