どきなさい!私は「お姉ちゃん」よッ!!   作:とろねぎ

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可愛すぎか?

「...」

 

カーテンで薄められた光が部屋を照らす。

 

薄水色に浸された部屋に足をつけて立ち上がる。

 

...立ち上がったのはいいんだけど、足元が覚束無いし頭がんがんするしで、死体みたいな青白い顔してるし...

 

「あたまいたい...」

 

あと、頭痛いし。

 

...あれ、これさっき言ったっけ...?

 

あぁもうまじむり。

 

「みず...で、おさまるぅ...?」

 

揺れる世界の中、壁伝いに洗面所まで行って水を飲み顔を洗う。

 

定期的にある程度の清掃はしているからか、溜まっていた水も蛇口を止めればすぐに水位が下がっていく。

 

ぐるぐると渦を巻いて流れていく水。

 

その渦の真ん中をただ無心に見つめていた。

 

水に映る自分の顔が、歪んで、回って、小さな道になだれ込んで行った。

 

「...少しはマシになったわ。」

 

顔を上げると今度は鏡に自分の顔が映る。

 

少し顔色が悪いことを除けばいつもの顔。いつもの自分。

 

いつもに比べて素晴らしいほどに無愛想な顔をしているけど、流石に今は勘弁して欲しいわ。

 

そんなくだらない独り言に笑ってからやっと身だしなみを整え始めた。

 

髪を整えて、いつもの服を着て台所に立つ。

 

別に自分の朝食を作ろうってわけじゃない。むしろ、何を作ろうかと自分の記憶から料理本を取り出して読み漁っているところだ。

 

「...チョコクッキー作るか。」

 

あ、勘違いしないでよ?私が朝から菓子を食べるような不健康な人間じゃないからね?

 

これから作るのはリサへのクリスマスプレゼント。

 

前のはサンタクロースからのプレゼントだから...うん。

 

あの子を甘やかす言い訳をしたところで作りましょうか。不安だからとりあえずは冷蔵庫で材料の確認...

 

「...え?なにこれ...」

 

冷蔵庫を開くと、既に小袋に包装されたクッキーが入っていた。

 

デフォルメされた狐のクッキーとそれと一緒に入っているそれぞれ形が違う九つの尻尾型のクッキー。

 

透明な袋の口をピンクのリボンで包装された黄色...クリーム色?で、ご丁寧に紙まで張りつけてある。

 

「『バタークリームクッキー』...通りで...」

 

あの子を思い出す色をしてるわけだ。

 

というか、この筆跡見覚えあるわね...

 

「んー...?あっ...アヴドーチャ!」

 

いつの間にこんなもの作ってたのよアイツ。しかもご丁寧に狐のクッキー...?

 

...アイツ、お菓子作ってたことあったっけ...?

 

...クッキーぐらいなら簡単だと思ったし、狐のクッキー自体なら難しくはなさそう。だけど...尻尾...難しくない?

 

アヴドーチャって案外こんなことも出来るのね。

 

「...私も同じの作るか。ホワイトチョコにして...あ、購買部走るか...」

 

チョコレートならあるけど、ホワイトは無かったわ。せっかくリサみたいな色合いのクッキーを作ってくれたんだから、私の色も作っちゃお。

 

別に対抗心燃やしたわけじゃないわよ?

 

...本当だからね?

 

何はともあれ購買部に走りましょうか。

 

 


 

 

「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はあ...」

 

つ、疲れた...行ったら行ったでクロージャちゃんに引かれたし...早起きしただけで老人扱い...四時に起きてたって良いでしょうよ...!

 

というかそれなら貴方だって早起きじゃないのよ!

 

自分のこと棚に上げまくりね。

 

っと、そんなことはどうでもいいわね。早く作らないとリサが起きる時間に間に合わないわ。

 

 

 

 

 

「か、完成...!尻尾難しっ...!」

 

そこから一、二時間後にようやく完成。アヴドーチャに出来て私にできないことがあるもんですか!ッシャオラァ!

 

さすが全部を完璧に真似ることは出来なかったけどそれもそれで味になるでしょうね。

 

まあ模倣したところで何かある訳でもないから良いんだけどさ。

 

...後でアヴドーチャには感謝しておかないと。

 

そういうわけで、上手くできたものを同じ袋に入れて...リサの居そうなところ...食堂かしら。食堂に行きましょう。

 

慣れ親しんだ扉を開けて再び廊下に...

 

「...朝食っ朝食〜...あら、おはようございますわ。」

 

...見なかったことにしよう。

 

「え、あら、ちょっと!?どうして早歩きですの!?いや、ちょっ...速ぁ!競歩の選手だったりしますの!?」

 

やっぱりいい反応するわねコイツ。こっちもふざけがいがあるってものよ。

 

アヴドーチャも食堂に行くところっぽいから、まあ、一緒に行ってあげても良いけど。

 

「あさ、からっ...!走らせないで、いただけます...!?」

 

「ははっ、ごめんごめん。あなたもこれから食堂に行くの?一緒に行きましょうか。」

 

「急に優しい!?しかもわらわの移動先まで把握しておりますの...!?」

 

「足止めてまで驚いてんのなら置いてくわよ。」

 

「あ、お、お待ちくださいー!」

 

デカイのがこっち駆け寄ってくるの中々怖いわね...格好も相まって変態に追いかけられているように錯覚してしまいそう。...さすがにないと思うけど。

 

それにしても...

 

「?」

 

「あなた、意外にお菓子作り得意なのね。」

 

「??」

 

「今度一緒に、なにか作りましょ。」

 

「???」

 

誰かと一緒に何か作るって初めてだから少し楽しみねぇ。同じもの作るか、別々のもの作ってみるか...

 

「...あ、あの...「着いたわよ。入りましょう。」

 

「あぅ...」

 

「?...どしたんアヴドーチャ。」

 

「い、いえ、なんでもありませんわ。」

 

???

 

変なの。アヴドーチャが変なのっていつも通りな気もするけど...今日はなんか違う感じ。

 

なにはともあれ、当初の目的のリサを探して...いた。尻尾目立っとこういう時楽よね。

 

...そういえば前、龍門でリサと待ち合わせしてた時、私を待ち合わせ場所にしてるカップルいたわね...女の子の方が『うん、うん、あの...し、尻尾が大きい人の隣!』って...彼氏の方なんか合流した時にボソッと『うおっ、尻尾デカ...』なんて言いおったし...

 

しかもなんか私の周り人いっぱい寄ってきたし...あのカップル以外にも私を目印にしてた人たちがいたんだろうね。そのせいでリサが人波にさらわれてったわねぇ...

 

「...くすっ...」

 

「うわぁ...」

 

思い出し笑いしたら引かれた...いや引くか。私もアヴドーチャがいきなり笑い出したら軽蔑するわ。

 

「あなた時々わらわに容赦ありませんわよね。」

 

「いつも容赦してないわよ。」

 

「ゑ?」

 

アホみたいな声を出したアヴドーチャは放置してリサの方に近寄る。今日は珍しく一人だから、話しかけるのは容易だった。うん、本当に珍しいわね、一人でご飯なんて。

 

「リ〜サ。」

 

「ひょわっ!?」

 

すごい驚かれた。

 

後ろからほっぺムニムニしただけなのに...もしかして、手が冷たかったのかしら...

 

「お姉ちゃん...?び、びっくりしたぁ...!」

 

「いい触り心地だったわ。ふふっ」

 

「前...座る...?」

 

「うん。ならお言葉に甘えて。」

 

リサからのお誘いを受けて向かい合った席に座る。

 

もしゃもしゃと朝食であろうパンを頬張るリサを眺めていると、リサの普段身に付けているポシェットから見覚えのある物が二つ飛び出ているのに目を奪われた。

 

「リサ、それって...」

 

私が尋ねたタイミングとリサが食べ終わるタイミングが重なり、リサが食器を少し端に寄せるとそれらを取りだした。

 

「ムグムグ...ゴクッ......あのね!これねっ!朝起きたらあったの!」

 

どうやら、私が来た時からずっと話したかったみたいで、堰を切ったように言葉が溢れ出す。

 

「私のぬいぐるみと...お姉ちゃんのぬいぐるみっ!ふわふわでとっても可愛いの!」

 

あー可愛い。本当に苦労した甲斐があったわ。なにかに使えるかもしれないと取っておいた抜け毛が、まさかこんな形で役に立つとは...長生きはするものね。

 

「サンタさんが来てくれたのかな!?えへへぇ...あっ...」

 

顔が陰った...!?

 

「どうしたの?あんまり嬉しくなかった?」

 

「う、ううんっ!すごく嬉しいよ。でも......あっ!お姉ちゃんっ!お姉ちゃんは何か貰った!?」

 

よかった。喜んでくれていた。

 

「私?私は...そうねぇ...あなたがぬいぐるみ抱きしめているのを見れたからそれがプレゼントってことに...ならない?」

 

「...何も貰ってないってことじゃん。」

 

「うぐっ」

 

「お姉ちゃんの、所にはっ、サンタさん来なかったの...?」

 

「なんでそんな泣きそうな顔してるのよ。あなたが笑って、楽しそうにしてくれるのが一番のプレゼントなんだから。ということで...」

 

勿体ぶって注意を引き付けていると、視界の端からまたリサとは違う人の手が...

 

「ぷりーずぎぶみーとぅー、ですわ。」

 

「...アンタは味見してんでしょ。」

 

「味見?何をですの?」

 

「まさかしてないわけ?人に渡すものなのに?」

 

「だから!何をですの!?」

 

「クッキーよクッキー!これ!」

 

この期に及んでまだとぼける気のアヴドーチャに、証拠品を突き付けるように見せる。

 

「これ、あなたが作ったものでしょ?朝冷蔵庫に入ってたわよ。」

 

「クッキー...?」

 

「???」

 

リサが困惑してる。早いところこの話は終わらせましょうか。

 

「はい、リサ。私とアヴドーチャからのプレゼント。」

 

「わっ、クッキー...!いいの?」

 

「昨日はプレゼント渡せなかったからね。」

 

「ありがとうっ!」

 

袋を手渡すと、リサは目を輝かせて中のクッキーを見つめている。そんなに...珍しいものなのかしら...?そんなことを考えていたらアヴドーチャに肩を叩かれた。

 

「ま、待ってくださいギョクソウさん!それ、それは...!」

 

「...まさか、失敗作押し付けたとか言わな「わらわ、クッキーを焼いたことなど一度もありませんわ...!」

 

「...は?」

 

失敗作渡してきたよりもマズいぞそれは...

 

「作ってない?」

 

「はい。」

 

「...でも、この紙...あなたの筆跡じゃない。」

 

一緒に付いていた紙を見せるんだけど、なかなか反応は芳しくない。

 

...一つだけ、嫌な予想を立ててしまう。

 

「...どっかで敵作ったかなぁ...何もしてないはずなんだけど...」

 

「ギョクソウさんも心当たりは無い、と...?」

 

「朝冷蔵庫開けたらあったって言ったでしょ。」

 

「「うーん...」」

 

大人二人でわたわたしていると、明るい声で肩を跳ねさせた。

 

「あのっ、今少し食べちゃって良い...?」

 

「あー...ちょっと待って。どうすんのよこれ。」

 

「わらわに言っても仕方無いことでは?」

 

「...話は後で聞くから。とりあえず今は乗ってちょうだい。」

 

「な、なんだかよく分かりませんが...分かりましたわ。」

 

「リサ、良いんだけど...私も一枚貰っていい?なんかアヴドーチャが味見もしてなけりゃ自信もないって言ってるからさ。」

 

「ファッ!?」

 

あなたの名誉とリサの安全かなんて言われたら安全取るに決まってるでしょ。

 

「良いよ。元々そのつもりだったから良いけど...一枚だけでいいの?」

 

...さっきのくだり要らなかったわね。ごめん、アヴドーチャ。

 

「えぇ、それ私のじゃなくてリサのプレゼントだから。」

 

「ん、じゃあ...はいっ。」

 

袋口を開けて私に向けてくる。はにかんで、一言感謝を告げてからきつね色になった尻尾のクッキーを取り出して、口に入れた。

 

「ど、どうですの...?」

 

不安そうに聞くアヴドーチャを手で静止して味に集中する。

 

...

 

......

 

.........

 

至って普通のバタークッキーね。血の味もしなければ中から髪の毛が出てくる訳でもないし、毒の味もしない。

 

無味無臭だったら不味いけど、私の毒物耐性舐めんじゃないわよ。一週間後に出るような毒でもすぐ出てくるぐらい耐性ないんだから。

 

第一、毒を作るとなるとロドスじゃ、ソーンズくんかアズリウスちゃんぐらいで、二人とは悪い仲じゃない...はず...

 

...大丈夫なやつか。

 

「うん。美味しいわ。」

 

「ほっ...」

 

「ありがとうね。後は一人で食べちゃってもいいし、みんなで分けてもいいから。」

 

「アヴドーチャはここで食べてくのよね?」と聞いたら頷いた。

 

私はもう目的を果たしたわけだから別れて廊下に出た。

 

やることもやったし部屋に戻って...何か適当なものでも作ろうかしら。

 

「ま、待ってーっ!」

 

リサも走って着いてきた。そうだったわ、食べ終わってたものね。

 

「リサはこれからどこ行くの?私は部屋に戻るけど。」

 

「私も、お姉ちゃんのお部屋行って...いい?」

 

「いいよ。朝からなんて珍しいじゃない。」

 

不安げな顔をして遠慮がちに聞いてきたが断るわけが無いでしょ、なんて思って返事をして歩き出す。

 

それにぽてぽてと追従するリサだけど、横に並ばずずっと後ろを付いてくる。しかも無言で、何かを図っているような、伺っているような...?

 

「...リサ?」

 

「...っ!?な、なに...?えへっ...」

 

振り返ったらなんかふにゃっとした笑顔で誤魔化されるし。

 

...可愛いからいっか。

 

肩を揺らしてぽてぽて歩く様なんてまさに人畜無害な少女そのままじゃない。感じ取れる違和感を片っ端から気の所為と定義付けて歩いていると、すぐに自分の部屋に着いた。

 

中に入って、リサに座るよう勧めたんだけど...

 

「えっと...え、遠慮...しよっかな...」

 

無理に座らせるのもまた違うから、まあそういうこともあるかと思って背を向けたら、ごそごそと音がした後に、名前を呼ばれた。

 

何かをしようとしていたのはなんとなく察していたというか、予想が付いていたから、このタイミングでしてくるだろうとは思っていた。でも肝心の内容がわかってないから、少し予想してたんだけど...

 

そんなものは、目の前で咲いた花に掻き消された。

 

リサの紅潮した顔を塗りつぶすような真っ赤な薔薇が数本。まさかこの歳になって薔薇を突き出されることになるとは思わなかった。

 

「...なにこれ。どうしたの?」

 

「くっ、クリスマスプレゼント...お姉ちゃんは貰ってないんでしょ...?はいっどうぞ...!」

 

要するに、これは『おかえし』...?それで、赤い薔薇を?

 

「任務から帰る前に買ったんだけど...嬉しくなかった...?」

 

飼い主が出かける前の子犬みたいな顔で聞いてくるけど...

 

「...ふふつ、まさか。嬉しいに決まってるでしょう。素敵なお返しありがとうね。」

 

そりゃあ嬉しいわよ。

 

何が嬉しいって、リサが自分自身で選んで贈ってくれたっていうのが一番嬉しい。一昔前のリサからは考えられないほどの成長...

 

...記念すべき、よね。

 

貰った薔薇はどこか邪魔にならないところに置いて...と。

 

「さ、ココアでも入れましょうか。座ってて。」

 

「えっ?」

 

困惑するリサを置き去りにして手際よくココアを作る。

 

「その後はちょっと早いお昼寝しましょ〜」

 

「えっ??」

 

そして、コトリと湯気を出しているカップを置いてあげる。

 

まだ話が呑み込めてないみたいね。何も言ってないからそれもそうなんだけど。

 

「ほら、リサも大人になってきたわけだし、ここら辺でいっちょ悪いことしてみましょうか。あったかいものを飲んで、ポカポカしたままあったか布団で一緒に寝るのよ。」

 

「え...わ、悪いことはダメだよっ!」

 

「ふふん、たまにはご褒美があってもいいじゃない?それに、もう入れちゃったから...飲んでくれないと、勿体ないわねぇ〜...」

 

「っ...」

 

免罪符を手に入れたリサは、それはもう躊躇しなかった。

 

いきなりの事で多少の罪悪感もあるんでしょうけど、是非ともそれに慣れ切るのではなく、程よい罪悪感を持って欲しい。

 

後は、『魔が差した』なんて言葉があるように、自分の欲望を上手くコントロール出来るようになればもう一人前かしら。

 

リサに色々教えていく上で一番怖いのは堕落ね。今のリサならきっと落ちるところまで落ちるなんてことは無いはず。

 

こういうのは、たまに足を入れてすぐに怖くなってやめる、これぐらいが丁度いいのよ。まあもしもリサが怠け者とか、『わるいこ』になったら手段を選ばずに元に戻してあげる。

 

そんなことを布団の中、体の全面に人肌の温もりを感じながら思った。初めてで緊張しているのか、リサの胸が早鐘を打っているけれど...

 

「お昼の前には起こしてあげる。安心して。」

 

「...ん、うん...」

 

優しく声をかけてあげれば、段々と瞼が下がって...

 

「すぅ...すぅ...」

 

安らかな寝息に変わった。

 

これから起こるリサの成長に思いを馳せながら私も意識を手放した。

 

 

 


 

 

ギョクソウ...スズランの成長が超楽しみなお姉ちゃん。任務の体調に選ばれた日には部屋でプチパーティが始まる。もしスズランが反抗期に入ろうものなら一瞬で塵になるメンタルを持つ。貰った薔薇は今日・明日の間に、パフューマーを訪ねて保管の仕方を教えてもらった。

 

スズラン...姉の飴と鞭の使い分けが中々に上手いからか、現在も順調に、健康に、すくすく成長中。というか、もしスズランの健全な成長の妨げになるものは人知れずセコムが処理している。多分ギョクソウは忍者か何かだと思う。

 

クッキー...ギョクソウの部屋の冷蔵庫に気付いたら入っていた何の変哲もないクッキー。誰が作ったか分からないそれは、結果としてギョクソウが求めていた、スズランの笑顔を生み出す結果となった。

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