ズオ公子ィ...お前来すぎだよ...
その枠にお米姉ちゃん来てたらもう完凸してるよ...
あとあなたはあなたで天井して取った後に来まくるのやめてください...さっさと来てくれれば酒飲みニート交換して兄弟姉妹揃ってたのに...
彼女たち特有の、猫のような蜥蜴のような細い瞳孔が私を覗き込む。
「なに?そんなに私の顔が面白いのかしら。」
威嚇でもするように耳を引き絞って文句を言うけど、全く効いている様子はなく、むしろ楽しそうまであった。
「...うふふっ。」
そうして顔立ちの整った少女が、私を見つめ、破顔した。
「...はあ、シュウ姉、こいつ困ってんじゃねぇか。初対面の相手に顔面眺められた挙句笑われるとか失礼じゃねぇのか?」
そういう所は常識あるのね。
「初対面...そうね、自己紹介がまだだったわね。」
ニェンちゃんに呆れたように諌められた少女は、姿勢を戻して笑った。
「シュウ。12人のうち6番目のお姉ちゃんよ。」
やっぱりニェンちゃん達の関係者だったか。
そう他人事のような感想を持った直後、どうしても見過ごせない点があった。
「...真ん中なのにお姉ちゃん?」
「えぇそうよ。」
「...上に5人居るじゃない。」
「下には6人居るわよ?」
「......」
「でも第一、貴方だって上に何人もお兄ちゃんお姉ちゃんが居たじゃない。それなのに今はお姉ちゃんをして...「は?今なんつった。」
「シュウ姉!」
冗談交じりの歓談に混入した、当て付けのような言葉。
「アンタたちのそういう所が嫌いなのよ。人の過去に土足で踏み込んで、一方的に見て...一体何しに来たのよ。*解読不能なスラング*が...」
リサが膝で眠っている事も忘れて罵声を浴びせる。
「待って...ごめんなさい、そんなつもりじゃなかったの。ただ気になっただけで...本当よ?」
「......」
怒られた子供のような顔のせいで、僅かな毒気まで抜けてしまった。
「...ごめん、私もどうかしてた。なんでこんなにイライラしてるんだろう。」
「なあ...?やっぱりよ、また今度にしといた方が良いんじゃねぇのか?」
「いえ、生死を彷徨ったんだもの。外部からの刺激に敏感なのも当然よ。」
「え、無視か?」
「まあその、あんまり昔の事は言わないでくれるかしら。結構ヤンチャしてた時期とかあるから。」
「...?」
ニェンちゃんが訝しげな顔してる。
何よ。なんか文句ある?文句なら喜んで聞くわよ。
...ドクターが。
「それにしても...シュウ...ちゃん?うーん、年上の子にちゃん付けって、やっぱり違和感よね......ニェンさん?」
「うげっ」
魚の苦いところでも当たったような声を出して半身引いたニェンちゃん。
顔を青くさせて、肌をさすっている。
「き、きもちわりー...!大体私らの年、近いだろ。」
さらりと言ったけど...初耳。
「あらっ...そうなの?私たち?」
「そうだったの?だからそこまで仲がいいのね。シーもあなたには懐いてるって話だったし、何かと縁があるのね。」
「シュウ姉はともかく、なんでオメーまで知らなかったんだよ...あとアイツが人に懐くなんて想像出来るか?」
「でも他の人よりは心を開いているのでしょう?あなたに自分の絵を渡したって、聞いたわよ。」
一体いつの話をしているのかしら。
この子達特有の時間感覚に目眩を起こしていると、ニェンちゃんが居なくなっていることに気づいた。
「......どこ行ったの?」
「シーを呼んでくるんですって。」
「...」
顔を合わせる度に口喧嘩を始める二人が、いずれこの部屋に入ってくると考えたら少しだけ憂鬱な気分になった。
「そうだ。」
何か思いついたらしく、シュウちゃんが両手を小さく合わせた。
「お腹すいてない?」
「.........はい?いや、空いてないし...な、なんで?」
「元々はお見舞いとお礼で来たのよ。妹たちと仲良くしてくれているあなたの。」
「仲良くって...そこまで一緒に居るわけじゃないのだけど。どちらかと言うと、ニェンちゃんはリサ...妹と最近はよく話してるわ。何かシンパシーでもあるのかしらね。」
「じゃあその子にもお礼しないと。起きた後でも良い?」
私の膝で穏やかな寝息を立てるリサに、優しい目を下ろしながら問い掛ける。
「んむゅ...」
その声に反応したのか、耳をぴこぴこ動かして、よけいに私の体へと顔をめり込ませる。
「可愛らしいわね。稲穂みたいな髪を揺らして、お姉ちゃんの膝元でお昼寝なんて。」
「......ふふ、ふふふ...でしょお?」
さっきまで怒りをぶつけていたのも忘れて、誇らしさに胸を膨らます。
私の事じゃないけど、私の事のように嬉しい。
「あなたから見たら、妹も弟も、きっとみんな可愛く見えるのでしょうね。それと同じよ。」
「...そうね。」
明らかに顔が曇った。
「...もしかして、何人かとは上手くいってない?あ、答えなくてもいいのよ、十二人もいれば合わない子も出るから...」
「もしかして、慰めてくれてるの?」
「ひよっこが生意気だったかしら。」
「そんなことは無いし、そこまで気にしている事じゃないから。会って数分の相手なのに心配してくれているの?って言うこと。」
「なんて言えばいいか...お姉ちゃんとしてのシンパシーかしら。チョンユエさんはともかく、リィンちゃんは...えっと、怒らないでよ?だらしない感じがするから。」
「ふふっ。」
意外にもくすくすと頬を緩ませるシュウちゃん。
「兄弟姉妹が一堂に会する場ってもう随分長いこと無かったの?」
「...そうね。ニェンはあちこち歩き回っていたし、シーは山に籠って絵の練習。チョンユエ兄さんは辺境守護の任に就いていたし、リィン姉さんは酒瓶を抱いては寝てばかり。」
散々な言われ方をしている長女に苦笑していると、シュウちゃんが言葉を繋ぐ。
「一つ上の姉さんにはもう会えないし、つい最近会った弟も...」
「おっけーもうこの話やめましょう。」
もう会えない兄弟が居ると言うだけで良心が悲鳴を上げていたというのに、弟の話をしようとした時の、あのシュウちゃんの顔。
苦しかった思い出を振り返るような、なんとも言えない...微笑とも哀しみとも取れる顔で完全に折れた。
「シュウちゃんはこの後どうするの?もう用事は終わった...でしょ?」
「とりあえず...チョンユエ兄さんとリィン姉さんにも会ってこようかしら。」
「シュウ姉!わりわり、今日のシーちゃんったらよ、やけに強情だったせいで遅れちまった。」
「こんのっ...!の、脳味噌...唐辛子で沸騰してんじゃないの...!?」
ニェンちゃん?いくら何でも襟を掴んで引き摺るのはどうかと思うわよ...?
「暴れんなって。ほれ、お前の大好きなギョクソウが目を覚ましてるぞ〜?」
「は?別に好きとか無いんだけど?アンタだって、タマモの為にあっち行ってこっち行って...まるで鼠みたいね?」
ギョクソウよ...いや、もういいけどさ。私が悪いんだからいいんだけどさ...
でも皆がギョクソウって呼んでるのに一人だけあの名前はちょっと...毎回心臓跳ね上がるからやめて欲しいわ。
「はいはい、私が今日最初に声を掛けてから...三、四時間か。そんなもんの間、ただ白紙と睨めっこしてた画家先生の言うことは違ぇなぁやっぱり。」
「〜ッ!!」
歯を食いしばって、わずかに顔を赤くしたシーちゃんが、剣を抜き...
「シー?さっき、この子の事なんて呼んだのかしら?」
「えっ?」
「あ。」
「やっちまったかぁ〜、おつかれ。」とでも言いたげなニェンちゃんを他所に、穏やかな笑顔のシュウちゃんと目線を地面に向けて冷や汗を流すシーちゃん。
「うーん...聞こえなかったのかしら?じゃあもう一度聞くわ。この子の事、なんて名前で呼んだの?」
「.........タマモ、です。」
「ねえあなた、名前は?」
「え、あ、っと......ギョクソウ、です。」
その雰囲気に気圧されて、私まで額に脂汗を滲ませながら名前を述べた。
「シー?私、あなたの交友関係にとやかく口煩くしてきたつもりは無いし、これからもよ。でもさすがに、お世話になっている人の名前を覚える事は常識よ?」
「...シュウ姉、でも、前はこう名乗って...」
「私たちが知っているもので、変わらなかったものがあった?」
「......いいえ。」
被せられるように説き伏せられるシーちゃんが少し不憫に感じた。
...だから、
「私は気にしてないわよ。」
少しでもフォローしてあげれたら、と思う。
「どっちで呼んでもいいのよ。結局、私には変わりないから。見た目、名前が変わっても本質は変わらないって...よくあることでしょ?」
これがシーちゃんを助ける言葉になったのかは分からない。
けど、何か納得したみたいで残った兄と姉の居場所をニェンちゃんに聞いていたから、たぶん、何も言わないよりは良かったと思う。
「そうだ。さっきはお腹がすいてないって言っていたけど、これを渡しておくわ。体がしっかり目覚めたら、きっと腹の虫が音を立て始めるから。」
そう言って何かを包んだ竹皮を二つ、私に手渡した。
「おにぎり、妹さんの分もあるから仲良く食べるのよ。」
そう笑うシュウちゃんの手には、しっかりとシーちゃんの手首が握り込まれているのを見てなんとも言えない気分になった。
ただ、ニェンちゃんの、「悪いことにはならねぇと思う」と去り際の一言で、僅かに気が楽になった。
...気がする。
「...またこの、静けさか。」
無駄に活力の沸いている私にとって、そこそこの苦痛だった。
特にやることも無いせいで、リサの頭を撫でてやるぐらいしか無い。
「...んふふ〜っ...」
耳がひょこひょこ動いて、尻尾も揺れているのが本当に可愛い。
姉としての贔屓目抜きに見ても可愛すぎる。
「んふゅっ...」
...少しだけ震え出すリサに違和感を感じた。
感じていた。
何せ一瞬の出来事だったから、寒いのかな程度に思っていたんだけど。
「......くちゅっ!」
「...起きてるの?それとも、起きてたの?」
「......えへへ...」
イタズラが発覚した子供みたいな気まずそうな、へにょっとした笑顔。
ぺたりと畳まれた耳。
「.........お姉ちゃんって...お名前、二つあるの...?」
よりにもよってそこから聞いてたのね...
「...うん、話してなかったね。」
「私、お姉ちゃんの事なんにも知らない...秘密を教えて貰ったら、その度にまた秘密が増えるの...」
「...えぇ、ごめんなさい。あなたには隠し事をしてばかりよね。」
頭に触れた手を僅かに、左右に動かす。
「...いいよ。」
答えを求めていたわけじゃなかったのに、リサから許しの言葉が聞こえて耳を疑う。
「でも...いつか、私が大きくなったら...ちゃんと、話して欲しいな。」
遠慮しがちに、小指が突き出される。
「......えぇ。」
小さく頷いて、小指を折り合わせた。
ギョクソウ...過去の事は吹っ切れ気味だけどまだ足元にへばりついてる系お姉ちゃん。
今や黒歴史の感覚にまで落とし込めている。
スズラン...寝たフリ盗み聞き系妹。
ちゃっかりおにぎりも美味しくいただいた。
ニェン...今回は振り回され気味だった。突然の妹属性はやめてくれ、その動きは俺に効く。
シー...べっ、別にアンタの心配なんかしてないんだからねっ!と言いつつもまあまあ気にかけてた。
お米お姉ちゃんの説得によってギョク呼びに矯正された。
シュウ... これ見てください。お米の苗。これ、見てよ根っこですよこれ全部力強いよね~。台風が来たり大雨が来たりしてもこの根っこがあれば絶対負けないよね!そうだよ!この苗のようにお前も強い根っこを持て! 出来るよ!お米食べろ!!