ギョクソウはロドス艦内の廊下を一人ボヤきながら歩いていた。
「...なんか、思ったよりも簡単にロドス就職決まったなぁ。」
「本当にロドスって優秀だと思う人材なら多少ヤバいやつでも全然雇用するのね。あのテストやった日に『もう君明日からオペレーターね』とか言われた時は聞き間違えたかと思ったわ。」
誰に聞かせる訳でも無く淡々と話していく。
「自分でも聞いちゃったもの『私中々ヤバいですよ?』って、そしたら、『もっとヤバいのがいるから安心して』って返ってきたし、ドクターの声がいきなり死んだし...本当にリサに変なこと教えたりしてないでしょうね?」
「機械を触ったら必ず壊すヴイーヴルにしょっちゅう爆発するエーギル、医療ロボットを姉と慕うフィディアに下手な前衛オペレーターより強い医療のアダクリス...うん。私はまだマシね!」
「いや、でもリサがみんなに愛されてるのが分かるから細かいことはいいわね。私の紹介の時、控えめに言って地獄だったわよね。」
「リサの『私のお姉ちゃんです!』発言を聞いた途端に、会場が阿鼻叫喚の地獄に...フォリニックさん、だっけ。あの人なんか泡吹いて倒れてたわよ。私、姉は姉でも分家の方の...」
ただ自分が改めて情報を整理できるように話しているだけなのだろう。
しかし、ハプニングは突然に起こるものだ。
「オラァァァッ!見つけたぞぉ!ギョクソウ!」
「...おや!ガヴィルさん、ごきげんよう。何か御用でしょうか?」
嫌な顔を押しとどめ、笑顔で何気なく返す。
「御用しかないね!健・康・診・断!体力テストやらは受けるくせになんで頑なに健康診断からは逃げるんだよ!」
「レディの身長・体重を明かそうとするのは褒められたことではありませんわ!断固拒否します!身長・体重は『可変式』とでもお願いします!」
「アホ抜かせ!それに、それだけじゃねぇわ!鉱石病の検査!見たところ感染者じゃねぇみたいだけど、血液中源石密度やら調べとかねぇと...」
「おっと、もうこんな時間!リサのおやつを作っておかないと!」
ギョクソウは脱兎...いや、脱狐のように逃げ出す。
「嘘つけ!今日の子供たちのおやつは「マッターホルンのふんわりスイーツパンケーキ」って決まってんだよ!おいコラ待て!」
「えっなにそれ美味しそう!」
「ほいほいほーい!どいたどいた!あっぶなーいよー!」
何人かが行き来している廊下を全速力で爆走するヴァルポ。
「誰かソイツ捕まえろ!」
それを追いかけるアダクリス。傍から見てもかなり奇妙な光景だったが、それを見ている人達は「あぁ、またか。」とでも言いたそうだ。
笑いながら走っていたギョクソウだったが...
「あっはっは!私を捕まえるなんてことが出来るかしグエッ!?」
「えぇ、できるわ。」
かなりの速度を出していたにもかかわらず誰かに顔面を掴まれてアイアンクローのように持ち上げられてしまった。
「ハァ、ハァ...やっと捕まったか...ありがとな。
「別に、突っ込んできたからキャッチした、それだけよ。」
「そんなわけないでしょう!?あなたに当たるコースじゃイテテテテ!頭!頭かち割れる!」
「あー...すまないが、医務室までそいつを運んでくれないか?アタシだけだったら逃げられそうでさ。」
「(何言ってんだこの脳筋アダクリス!?)」
「えぇ、いいわよ。ちょうど暇してたの。」
「(お前も二つ返事で了承してんじゃねぇ!)」
「嫌だー!シニタクナーイ!シニタクナーイ!シニタクナァァァ...!」
「おいおい、めちゃくちゃ嫌がってんじゃねぇかソイツ。離してやったらどうだ?」
「(救世主!?一体誰が...あれ?)」
「
「ほぉ?今度は何をやる?そっちが決めていいぜ。」
「そうだな...今度は料理なんてどうだ?審査するヤツはお前が5人好きなヤツ選べば、八百長疑惑もある程度晴らせるだろう?」
「げぇ、料理かよ...」
「...もしかして、ニェンちゃんは自分ご自慢の激辛料理に自信がねぇのか?」
「あ゙ぁ゙!?」
「なんだ?図星か!?」
「「ギャーギャー!」」
「...ハァ。」
「...お疲れ様。」
「あなた...この状況で随分と呑気なことを言うのね。」
「えへへっそれほどでも。」
「少しも褒めてないわ。もう適当に縛って医務室に置いておくから、あとは頑張って。」
「ファッ!?ちょ、ちょっと待ってぇ!!」
「だって、もう面倒になってきたもの。」
「...ニェンちゃぁーん!」
「あぁ?私を呼んだのはどいつだ?」
「ニェンちゃん!良い映画のネタあるんだけど!!」
「...ほぉ?」
「なんと今なら!役者裏方なんでもござれのヴァルポがついてくる!」
「へぇ、誰かは知らんが...気に入った!」
「は!?おい、料理するんじゃないのか!」
「悪ぃな!こっちのが面白そうだ!ほら、目ぇ瞑ってろ!」
「(何されるのッ!?)」
「ほれ、もう開けてもいいぜ。」
「...うっわぁ。」
ギョクソウが目を開けると、目の前には広大なテラの大地が広がっていた。
「相変わらずすっごいねぇニェンちゃんは。ここ、ロドス艦の上?」
「そうだけどよ...だーっ!その『ニェンちゃん』ってのをまずやめろ!ムズムズすんだよ!」
「いやでもこっちの方が慣れてるしなぁ...」
「慣れてるって...大体、私とアンタは初対面だろうが、初対面の相手からいきなりちゃん呼びはキモチワリィよ。」
「えぇーっ?一緒に同じ火鍋をつついた仲じゃないの。」
「そんなやつ山ほどいるぞ?第一、一人一人覚えてられっかよ。」
「...そっか。」
「それよりもだ!!」
「おわっビックリした。」
「約束は守ってもらうぜ?」
「楽しそうだね。それでこそだよ。」
「そういうのはいいから!ほら!早く!」
「じゃあ、サメ映画ってのをご存知かな?」
「サメぇ?サメ映画っつーと...JA〇Sなら知ってるぜ。」
「そんなもんじゃない、もっとニェンちゃんに刺さるようなやつだよ!」
「(ちゃん呼びはやめねぇのな...)へぇ、例えば?」
「うーん...私のお気に入りを少し挙げると...『シャーク〇ード』、『温〇シャーク』に『ニン〇ャVSシャーク』とかかしら。」
「...待った。お前、出身はどこだ。」
「ふふん、聞いて驚きなさい。極東よ!」
「だからかぁーっ...!だから、そんなにバカみてぇなモンばっか知ってんのか!」
「なに、極東来たことあるの?」
「まぁ...色々すげー国だったな。私は嫌いじゃないぜ?」
「それはありがとう。...それで?サメ映画たちはお気に召したかしら。」
「あぁ?そんなモン...」
「あったりまえだろ!サメが竜巻に乗って飛んでくる!?温泉にサメ!?なんでニンジャとサメが戦ってるんだ!?」
「あ、ちなみに三つ目のやつはなんかゾンビも出るし、サメが怨霊的なものになってる作品もあるよ。」
「なんだよそれ...極東最高か?」
「自慢の故郷よ。」
「それで...なにか、いいアイデアは浮かんだかしら。」
「ちょっと待てよ...うーん。」
「アドバイスをするとサメ映画なんて、パニックホラーの皮を被ったお祭り映画よ。バイオレンスとチープなサメ、突飛なアイデア、たまーにパロディがあればいいものなのよ。」
「なるほどなぁ...?」
「(...よくよく考えたら、もしかして私、ラヴァちゃんを初めとした多数のオペレーターたちの迷惑になることやってるんじゃ...)」
「突飛...突飛ねぇ...それなら...いやまてよ...これこそ私の腕の魅せどころじゃねぇか...!?」
「(...ニェンちゃんがすっごい楽しそうだしいっか!)」
このヴァルポ、ただの刹那的な享楽主義者であった。
「決まった!」
「おっ。」
「龍の体にサメの頭!いつもは雲海を泳いでいるが、一つから七つの星が入ったボールを全部集めて呪文を唱えると現れ願いを叶えてくれる!」
「(なんか聞いたことある設定ね...でもサメ映画だし、これぐらいがいいのか!)」
誰かこの全肯定ヴァルポ止めてください。
「名付けて...『ドラゴン・シャーク』!」
「おぉ〜!」
「あとは、台本作成と撮影だが...おい、オメー編集って出来っか?」
「あー、ごめんなさい。出来ないわね。」
「んだよ。どうすっかなー、ダメ元でシーちゃんに...」
「代わりに、こんなことが出来るわよ。」
ギョクソウが指を鳴らすと、全長15cm程の先程ニェンが言ったようなドラゴン・シャークが現れた。
「お...おぉー!それってよ、でかく出来んのか!?」
「えぇ、もちろん。ドラゴン・シャークが一体だけなら...最大で50mぐらいはイケるわよ。」
「な、なぁ!人とか、他の動物も出せるか!?」
「えぇもちろん。300体ぐらいなら余裕で出せるわよ。ドラゴン・シャークと同時に動かすとなると50体ぐらいだけど。」
試しに、ドラゴン・シャークが人間を襲う様子を動かして見せる。
「オメー最高だな!十分だぜ十分!」
「でも、声はさすがに出せないのよね。」
「そりゃしゃーねー、撮った後で適当なフリーの音声拾って付けるか。」
「そのチープさめっちゃサメ映画じゃん!」
「えっそうかぁ?へへっ!」
「(あ、誰か助けて私この子好きになっちゃいそう。)」
「ってなると、あとは台本だな!参考に聞きてぇんだけど、サメ映画ってどんなストーリーしてんだ?」
「...大体雑な導入からのサメ大暴れが多いかしら。」
「雑な導入ねぇ...うっし、ちょっと待ってろ!」
「(暇ねぇ...)」
「(リサに会いたい...最近、忙しいみたいで...成長が嬉しいやら悲しいやら...)」
「(...リサを狐火で作れば良いのでは!?なんで今まで気づかなかったんだ!)」
「(リサが一人、リサが二人、リサが三人、リサが...うふへへへ...)」
「(あぁ、リサに囲まれてしまった!もうダメだぁ私はここで死ぬんだぁ!いやむしろここでなら死にたい。)」
「(もしこのリサたちが喋ったとしたら...)」
『『『『『ギョクお姉ちゃんっ!』』』』』
「(あ、死んだわこれ)...コヒュッ!コヒュッ!」
「よし!やーっと出来た!おい起きろー、いつまで寝て...おい!?どうしたんだ!?」
珍しく動揺しているニェンが原因不明(ただの尊死)の過呼吸に襲われているギョクソウの頬を叩き、意識を取り戻させる。
「...ッハ!?危ないとこだった...」
「...ったく脅かすなよな?」
「お?台本はできたの?」
「あぁバッチリだ!」
「見せてもらっても?」
「もちろん。」
「なになに...世界の破滅を企む『年』なる人物が七つ集まれば願いを叶えるという『シャークボール』を集め、世界の破滅を願った結果、空からドラゴン・シャークが現れ、人々を襲う...と。」
「どうだ?どうだ?」
「...最高。」
「あったりまえだ!」
ツッコミ不在の恐怖ってこの状況のことを指してると思うんだよ。
「じゃあ、早速撮影するのかしら?」
「おうともよ!テキトーなとこ借りてやんぞ!どうせどっかは空いてんだろ。」
「あ、そうだ。いつまでもオメーじゃ良かねぇな。名前は?」
「...ギョクソウよ。」
「ギョクソウ...ね。覚えた!ギョクソウのことは気に入ったし、これからはジャンッジャンネタとかあったら出して撮影も協力してもらうかんな!」
「ふふっ、光栄なことね。」
その後撮影した『ドラゴン・シャーク』は映画をあまり見ない者、ゴア表現が苦手な者たちには不評だったが、映画鑑賞が趣味の者、日々のストレスを発散したい者たちにはすこぶる好評だった。
「まさかここまでロドス内で有名になるとは...この前なんてリサから『ドラゴン・シャーク』を見たいって言ったのはちょっと...ごめん嘘ついた。死ぬほど驚いたわ、だって久しぶりに会えたと思ったらいきなり『ドラゴン・シャーク』の話をされたもの。」
「でも、実際はシャマレちゃんが面白いって言ってたから気になってただけみたいだったんだよね。いざ見始めたら、ドラゴン・シャークを呼び出した段階でリサは私の胸元に顔を埋めて『怖いです...ギョクお姉ちゃん...!』ってしてくれたからこれに至ってはもう、ニェンちゃんには感謝しかないよね。役得役得。」
「その後は映画を放映している中退室したわ。もちろん、顔を埋めるリサの耳を塞いで頭を撫でながらね。だからリサは大きなドラゴン・シャークを見ただけで、人が無惨にも食べられるシーンとか音は知らないからそこまで傷にはなってないよ。」
「てことでさ。」
「あ゙?」
「リサに『ドラゴン・シャーク』を見せたのはほんっとうに悪かったと思うし謝るからさ、そろそろ拘束といてくれないかなーって...フォリニック先生?」
「うるさい。」
「ヒッ!ごめんなさい!」
ニェン...通称陽キャニート。外交的で軽薄そうな感じなのに伝統やら歴史的なものは重んじるというギャップよ。ニェンちゃん可愛いよニェンちゃん。CV悠木碧がもうズルい
フォリニック...ゼロ距離で我らが光に脳を焼かれたタイプのフェリーン。最近はガチ姉のギョクソウが来たことで脳を破壊された。