シリアス?そんなわけないじゃない。
りぴーと あふたー みー
わたし、シリアス、書けない
「長期休暇?」
フードとバイザーという、一切顔の見えない不審者然とした装いのドクターはそのまま首を傾げた。
ドクターの手に掴まれた、二枚の書類を見ながら私も続ける。
「えぇ、今なら大したゴタゴタも無いし、帰省にはちょうどいいかと思って。」
「あー...うん、まあ確かに暇だけd待って今帰省って言った?」
「言ったわね。」
「そりゃまたっ...な、なんで?しかもこれ、もう片方はスズランの分の申請書じゃないか...」
「やっぱり私、リサと一緒にいるべきじゃないわ...だから、もう少し...ちゃんと、私というろくでなしを知って、嫌ってもらうための帰省よ。」
「いや、だから二人揃って出されてるのはわかったんだけど...なんでいきなり?なに?鬱持ってるの?躁鬱?良い病院紹介しよっか?」
人差し指でこめかみの当たりをトントン叩きながら、私の精神面を心配し始めた不審者を無視して続ける。
「あと今回は二人きりで行くから。どうせどっかから話を嗅ぎ付けたドゥリコンループスが申請に来ると思うけど弾いといて。あ、でも私に関係なさそうだったら通してあげてよ?さすがに可哀想。」
「なんかどんどん要求が増えていく...」
「まあ一人は置いておくから、緊急時はそっちに連絡させるわね。」
「極東から
「それで?良いの?駄目なの?」
「...そりゃ、いいよ。断れる理由もないからいいけどさあ...」
「でも文句はあるみたいね。」
「一つ聞きたいんだけど、スズランに嫌われるって...本気で言ってる?」
「えぇ。」
「通路ですれ違ってもスっと目をそらされるぐらい?」
「......えぇ。」
その瞬間、「あ、ダメだわコイツ」みたいな雰囲気を露骨に出していたけど、私は本気よ。
「...とりあえず、今日はちゃんと仕事終わらせておくから、快い返事待ってるわね。」
「いやそんなこと言わなくても承諾...話聞けぇ〜?」
理由なんてない。
朝起きた時、無性に焦りの感情が私を支配していただけ。
どうしてかしら?どうしてかしらね。
一緒に居たらいけないって、強く思ったの。
そんなの、今更なのにね。
結局、私の側に居るのは孤独だけで充分でしょう。
...なら、どうしてアヴドーチャが来れないよう言ったのかしら。
「......もう、私にも分からないわ。」
荷物を詰め込んだキャリーケースを閉じて、立ち上がる。
それと同時に、部屋の扉を小さな手がこんこん叩いた。
「準備出来た?」
扉を開けて、穏やかな声を努めて話し掛けると、目下の女の子はぱあっと笑った。
「うん!だってお姉ちゃんとの旅行、とっても楽しみで朝早く起きちゃったんだもん!」
ちゃんと目的は伝えてるはずなのに、不安なんて全く感じていないみたい。
私は別れを告げたくて、実際に私というイキモノを嫌って欲しいから極東に戻るだけなのに。
「ねっ!極東までは船で行くんだよね?」
...そう輝いた目で見ないで。
「えぇそうね。酔い止めは入れた?使わないに越したことはないけど。あとそれから着替えと、連絡用の携帯と、お財布。あとそれから...」
「全部大丈夫だよ!それより、遅れちゃったら大変だから早く行こうよっ!」
「......それもそうね...リサ?」
「どうしたの?」
くりくりの可愛い眼が二つ、即座に私を見る。
もう少しでこの眼もきっと見れなくなるんだ。
「......龍門の港、人が多いから離れないようにね。」
だったら、せめて、虚しい思い出としてでも残しておきたい。
「ここまで、まだ二時間も経ってないのよね...」
潮風を顔で受けながら、揺れる水平線を眺める。
そこそこの大きさなクルーズ船の上、手すりから若干身を乗り出して、水面に反射する白いヴァルポをなんとなしに眺める。
「......昔っから何も変わっていない。外も、中も。」
「あ!お姉ちゃん居たー!」
ぽてぽて走り寄ってきたリサが、私の隣に並ぶ。
「あら、もう探検はいいの?」
「広くて迷子になっちゃいそうだから、やめておいた!」
「...くすっ、なにそれ。」
「あ!やっと笑ったね!もう、朝から全然元気が無かったから、心配してたんだよ?」
私の漏れ出た吐息がよほど嬉しかったみたい。
...でも、確かに張り詰めていた心から少しガスが抜けた気がする。
「お姉ちゃんを嫌いになるなんてありえないんだから、そんなに緊張しなくていいのに...ただ、昔話をしてくれるだけ。そうでしょ?」
「昔話...そうね。そうかも。」
最後は、この子に選択してもらえばいいか。
私はその選択に必要な情報を渡すだけ。
そう考えると、また心が軽くなった。
「ね、ところでさ、どうして飛行機じゃなくて船なの?だって飛行機の方が、速いんじゃない?」
軽い談笑を交えていたら、至極真っ当な疑問を投げかけられた。
「理由なら色々あるわね。まず純粋に、極東への便が少ないのもあるし、この便が都合が良かったって言うのもあるし、それに...」
「?」
「感染者と同じ空間に居たくないって人、結構居るのよ。」
「...そうなんだ。」
「ごめんね。向こうだったら、そんなのも少ないはずだから。」
「そうなんだ。極東って、優しい人が多いの?」
「優しい...というか、人にあんまり興味が無い?うーん...良くも悪くも自分の領域を大事にするお国柄だから...」
前にまた訪れたのも二、三十年前だから、今がどうなってるか分からないのよね。
そうやって言い淀んでいたら、「でも、きっといい所だよね。」明るい声。
「うん?それはまた...どうして?」
「だって、優しいお姉ちゃんが居た場所なんだから、いい所に決まってる!」
「......マッテ、マジデムリ...シヌ...マブシイ...」
「お姉ちゃん大丈夫!?」
顔を覆って、膝から崩れそうになったけど...何とか耐えた。
ホント...良い子っ...!私と同じ血が流れてるとは思えないぐらい...!
「えぇ...大丈夫...ちょっと、立ちくらみがしただけ...!」
軽くリサの頭を撫でて、ふらふら立ち上がる。
「あぁ〜...私も、探検しようかしら...」
気晴らしを兼ねて、そんなことを考えている時だった。
「お!居た居たぁ!」
私の計画していたことが、悲痛な叫び声を上げて崩れ去っていくのは。
「...嘘でしょ...?」
聞きなれた声が近付いてくる。
「おっす!オメェなあ、黙って遊びに行くんじゃねぇよ。あ、そうだ、これ要るか?」
ニェンちゃんが、片手に大きな魚を持ってやってきた。
「...なにこれ。」
「マグロ。さっき釣れた。」
「いやそういう事じゃなくて...!」
当たり前のように同行者面をしている上位種に文句を垂れていると、次の瞬間には心臓が止まるかと思った。
「それともなんだ?今回の旅行について、エッセイでも一筆拵えてもらうか?」
「た、助けて...くださいまし...」
ニェンちゃんがマグロを持っている手とは反対の方で、ピンク色のこれまた酷く見覚えのあるループスを引っ張り出してきたから。
「......っはあー.........!」
「お姉ちゃん?どうしたの?」
とりあえずね。
ふざけるな、そう言いたい。
あとがき
ギャグとシリアスバランス良く書ける人すごいと思う。
ギョクソウ...『そうだ、京都行こう』のノリでスズランから離れようとしているアホ。たぶん躁鬱
スズラン...なんか不穏な事言っていたけど、大好きなお姉ちゃんと極東旅行だから満更でも無い。
ニェン...友達が面白そうなことしてたから来ちゃった♡
パゼオンカ...しばらく居ないことを知って確かに怒りましたが、だからと言って船上に拉致る許可は与えておりませんわ〜!!