急遽予定変更のためあのアンケートは忘れてください
完全に存在を忘れてました
「何があったか教えてくれるかな、パゼオンカ。」
「...はい。」
珍しく書類の積み上げられていない執務室で、ドクターと旅行から戻ってきたばかりのパゼオンカは向かい合う。
一緒に戻ってきたはずのスズランの姿が見えないが、どうやら疲労から眠ってしまったため、部屋に運んだらしい。
無理もない。
楽しい旅行のつもりでついて行ったそれが、まさか姉との死別になるとは思ってもいなかっただろう。
むしろ、本当に疲労で眠ったのなら御の字では無いか。
そう思考を回しながらもドクターは目の前の人物の話を耳に入れる。
どこへ行ったのか、どのような会話をしたのか...その時のギョクソウの顔はどうだったのか...
「端的に申し上げますと、あの方、ご自分の故郷でキャンプファイヤー致しましたの。」
「なんて?」
せめて覚えておこうと尋ねたそれら全てが吹っ飛んだ。
「故郷を火の海に...」
「...なにしてんの?」
「わっ、わらわに言われてもどうしようもありませんでしたのよ!ただこれしか方法が無かったと謝られてしまいましたし...ま、まさか!あの方が以前に話した
「遊びに行ったとかじゃなくて、本当に帰省しただけなの...?しかも故郷を焼き払いに...」
「そうなりますわね。」
「いつの間にロドスはあたおか集団になったのかな???放火魔は何人も要らないんだよ。」
「わらわに言わないでくださいまし!わらわだってまだ...整理が、追いついておりませんので...」
「あ......そうか。そうだよな。ごめん。ニェンに連れて行かれた君は特にだよな。」
ふといつもの様に捲し立ててすぐ、今の状況を思い出して小さく謝った。
それをパゼオンカも気にしてはいないようで、一度、浅く息を吸った。
「いえ...あの方の意外な一面を知れましたもの、最初は不満こそ溢れんばかりでしたが、今はそこまで気にはなりませんの。」
「意外な一面?」
「えぇ、わらわ、かなり長い付き合いと自負しておりましたが、初めて知ったのです。」
勿体ぶるように前置きをするパゼオンカを不思議そうにドクターは眺める。
「あの方、わらわが思っていたよりもずっと愉快な方ですのね。」
「...そんなに意外か?」
「えぇそれはもう。まさかキャラモノカチューシャを付けるとは全く予想外...」
まるで小学生が修学旅行の思い出を語るかのような顔で話すパゼオンカ。
「...は?え?なに?キャラモノカチューシャ?そんなテーマパークみたいなのいつ行ったの?」
...と、狼狽するドクター。
「燃やした後ですが...?」
「......は???『燃やした後ですが...?』じゃないよ。あれ?じゃあ何?アイツいつ死んだの?キャンプファイヤーで故郷と心中したとかそんなのじゃないの???」
自分の予想が音を立てて崩れ、更には認識し難い情報までいきなりぶち込まれたドクターは確かな頭痛を感じていた。
「死んだ...!?ど、どなたが...?」
「ギョクソウだよ!あのシスコンバカヴァルポ!ニェンからは死んだって聞かされたぞしかも戦利品かのように尻尾見せながら!!」
「...野蛮すぎませんこと?ってそれよりも...はあ、ニェンさんはまたくだらない事を言い回っておりますのね...実際に死体を見た訳でもありませんのに信じるだなんて、ドクターらしくもない...」
困惑した様子のパゼオンカに余計ドクターも混乱してくる。
そうしてよくよく考えてみると、普段のニェンの言動からして、こうしたジョークもやってくるようなやつだったと。
姉も妹も漏れなく手のかかるシュウに僅かに同情しながら話を続ける。
「じゃあ生きてるわけだ。」
「...あー...えっと...」
「ハッキリしないなぁさっきから。死にかけとか?いやそれなら医療部にもう運ばれてるか...?」
「...まあ、これは本人に聞くのが一番でしょう。スズランさんを部屋に運んだのもあの人ですし。」
説明を放棄した言葉と時を同じくして、扉がこつこつと音を立てた。
「ちょっと、ノックしたんだから返事ぐらいしなさいって。」
部屋に入ると、ドクターからの無遠慮な...珍生物でも発見したかのような目付きが気になった。
アヴドーチャも目が死んでるし。
「...もしかして、お邪魔しちゃったかしら。」
「.........」
「なんか言いなさいって。化けて出たみたいな顔もやめなさい。あと...電話鳴ってるわよ?」
うるさくなったドクターのポケットを指差すと、緩慢な動きで携帯を取りだして、通話を始めた。
『お、ドクターか?へへっ、サプラーイズ!』
「...ニェン...」
『さすがの私らだって、最低限の倫理と一般常識ぐらいあるに決まって「今からシュウを向かわせるね。」はあぁ!?それはおかしいだろおい待てドク』
あっ切られた。
...土に植えられるのかしら。
どこかは分からないけど、たぶん艦内の庭園よね?
見に行って思い切り笑ってやろ。
「......」
「んで?なんでそんな目で見つめるのかしら。」
「...イメチェン...?」
腑抜けた声で当たらずとも遠からずな言葉。
まあ確かに不便だった尻尾も減って、髪もバッサリいかれたけど。
「イメチェン...イメチェンねえ...ぷふっ...あっはは!当たらずとも遠からず?確かに変わりはしたけどどちらかと言うと生まれ変わって感じね!」
「...ねえ、こいつどうしたの?」
「ちょっとハイになっておりますの。ですがご安心を。明日にでもなれば顔を真っ赤にして忘れるよう懇願してくるはずでしてよ。」
何よ失礼ね。
「...あっ、
「なんだかとても不名誉な名で呼ばれた気がしなくもありませんが...なんですの?生憎、今はあなたの冗談に付き合ってる場合じゃ...」
「そういえばドゥリンちゃんがいい具合のお昼寝枕を探してた「もっとそれを早く言いなさいな!!わらわ!!枕になって参りますッ!!」
「そのまま帰ってこなくていいからね〜。......はあ、やっとやかましいのが居なくなった。」
二人きりになったところで、ため息をついてドクターの対面に座る。
わずかに体温が残ってるのがまたなんとも言えなかったけど、そこまで気にはならなかった。
「さて、一つずつ答えてあげる。質問どーぞ。」
足まで組んで、茶化すようにドクターと対話を始める。
「...じゃあまず...何があったの?別に話したくないところは言わなくてもいいから、今は出来るだけ簡単にお願い。」
「わかった。三行でまとめてあげる。
故郷帰省
祭り真っ最中
急遽キャンプファイヤー
...どう?」
「いや、どうじゃないが。全く分からなかったからな?簡単に話しすぎてむしろ分からなくなってるから...」
「注文の多いロドストップねぇ。因習の続く故郷を焼いてきただけよ。ご丁寧にでかい神社で私を祀りやがってあのクソ野郎共...」
「...最後のは聞こえなかったことにしよう。」
「お気遣いどうも。」
「...何があったかもいいけど、やっぱりこれからどうしたいか聞いてもいいか?」
「どうしたいか?どうしたいかなんてそりゃ.........」
至極当然のことを言うような素振りをして、固まった。
こんなことを言っていいものだろうか。
酷く馬鹿げたことじゃないのか。
そんな思考が回ったけど、結局、これしかないんだなって...そう、結論付けた。
「ただ生きてみたいわ。今の私は、どこにでも居るただの人間だもの。人並に生きて人並に死ぬわ。」
「...そうか。」
「とにかく、私はもうギョクソウじゃないわ。だから新しい名前を考えないとだけど、ちょっと年増フェリーンのところも行かないといけないし...」
「それケルシーの居るところで言わないようにね?」
「誰もケルシー先生のことだなんて言ってないじゃない。」
「......なんでケルシーのところに?」
「なんでって...」
見せた方が早いかと着ている物を一枚脱ぐ。
「うわ!?いきなり何してるの!?さ、刺される!助けてテンニンカ!!」
何を勘違いしてるのか知らないけど、少なくともあんたにそんな感情はないわよ。
「これがあるからよ。」
そうして、左肩に確かに露出している源石を見せた。
「リサとお揃いね。」
「......」
「何その顔?ただでさえ重装備で顔見えないんだから勘弁してちょうだい。」
「...(咽び泣く)」
「な、なにそれ?どうやってるの...?別に、ちょっと後で死ぬかだいぶ後で死ぬかの違いじゃない。」
「(咽び泣く)(咽び泣く)(咽び泣く)」
「......なんかキモいわね。」
珍しく...珍しく?感情を露わにしているドクターを放置して、医療部へ向かった。
■■■■■...早く名前決めないと呼び方困るわよねぇ〜。ぐらいにしか考えてない。
ドクター...ドクター、人生二度目の咽び泣き...
パゼオンカ...無事保護者の鬼二人にガードされた
シュウ...あなたを土に埋めるわ。