一区切り
「今私、名前探してるのよ。何かいい名前ない?出来ればほら、花の名前がいいんだけど...」
呆れた顔で私を見てくるニェンちゃんと目線を合わせて相談する。
けど、あんまりいい反応はかえってこなかった。
「さすがにそこまで世話焼く義理はねぇだろ。ましてや自分のことなら尚更な。」
「残念ね...出来れば白い花がいいんだけど...」
「おう話聞けぇ〜?」
懐から携帯を取り出して白い花の花言葉を検索していく私を、相も変わらず呆れた顔。
「...あー...ここから引っこ抜いてくれりゃ、何かいい案が思いつくかもしんねぇなぁ〜!」
首から下を花壇に埋められているニェンちゃんは私にあの手この手で助けて貰おうとするけど「さすがに無理ね。」
「なんでだよ!ちょーっと掘ってちょーっと引っ張るだけだろうが!」
「あなたを助けたって知られたら、今度は私がシュウちゃんに埋められちゃうわ。さすがに生き埋めは趣味じゃないの。ごめんね。それに、あれもこれもって言われたら堪らないもの。えっと...このことをなんて言ったかしら...」
「『隴を得て蜀を望む』?うるせぇな今はそれどころじゃねぇだろ!兄貴は反省しろとか言うし、シーのやつに至ってはわざわざ住処から出てきて私を笑ってったんだぞ?それに加えてお前もかよ...」
「『四面楚歌』ってこと?...あっ!前に教えてもらったこと活かせたわ!いぇーい...あ、ハイタッチできなかったわね。ごめんごめん。」
「......頼まれたアレ、作ってやんねーぞ。」
ニヤリと口の端を歪めて放ったその言葉...ほとんど脅しに近いそれを聞いた私は、即座に正座してニェンちゃんの目の前に頭を振り下ろした。
「本当にごめん。でも私には助けることが出来ないの本当にごめんなさい。」
「変わり身早すぎだろおい。わ、分かったよ。冗談だからその顔上げろ!こんなとこシュウ姉に見られでもしたら...!」
「『シュウ姉に見られでもしたら...』なに?」
「「あっ。」」
「ドクターやこの子のお友達に迷惑をかけたのに、随分楽しそうね?しかも、どうしてこの子が頭を下げているの?それならね、ニェン...お姉ちゃんに考えがあるの。」
「お、おい...?嘘だよな...?お、落ち着けって。たった一瞬の状況を見て判断すんのは良くねーって...な?」
冷や汗を流して訴えかけるニェンちゃんを放って、シュウちゃんは何処かからシャベルを持ってきた。
「あなたの好きな映画に倣って埋めてあげる。足は出してあげるから、心優しい人に助けてもらえるかもしれないわよ?」
「ち、ちなみになんだけどよ。その映画って...」
「犬〇家の一族。」
「犬神〇はやべーだろ!?おいマジで死ぬって!お、ちょっ...!姉貴ィ!!」
「...私、お花に詳しい子に聞いてくるわね。」
「おい逃げんなギョクソウ!」
「そんな死に損ない婆のことなんか知りませ〜ん!」
「(聞くに絶えない罵詈雑言)!!!!」
「ニェン?お友達になんて口を利くの?」
「あっ」
私は早速、この庭園を管理しているあの子を探すことにした。
「ま、待て!話せば分かるって!交渉を...!」
後ろの方でなんだか、とても情けない命乞いが聞こえる。
「これは全部誤解で...ぬわーっ!!!」
...まあ、生きてたら拾ってあげようかしら。
「...あ、見つけた。今少しいいかしら、ラナちゃん。」
呼びかけたラナちゃんは、耳をぴくぴく動かしてから私に気付いた。
さっきのニェンちゃんが生えてた花壇とは別の、大きな花壇の傍に屈んでガーデンエプロンと手袋を土で汚していた。
「あら、珍しいわね。あなたがここに来るなんて。今日はどうしたの?」
「オペレーター名を変えようと思って。最近流行ってるでしょ?ほら...うん。」
そんな流行りがあるなんて聞いたことないけど。
「それでせっかくだし、あの子に倣って花の名前にしようと思って。でも私、生憎蝶よ花よと育った訳じゃないから...あ、ごめんなさい。別にラナちゃんのことを腑抜けたボンボンとか言ってるわけじゃないのよ...!?」
「...なんだか変わったわね。以前リサちゃんの様子を見に来た時とはかなり違う気がする。」
「変かしら...」
「あぁ、誤解しないで。私は今のあなたの方が好きよ。」
「あー...ありがとう...?」
よくこの子はこんなに小っ恥ずかしいことを堂々と言えるわね...
少しばかり顔が熱い自覚をしながらもニェンちゃんに話したことと全く同じことを相談していくと、ラナちゃんはパンと手を合わせて何かを思いついたらしい。
「ちょっと待っててくれる?見せたいものがあるの。」
「え?あ、はい。」
待つこと数分
「...この紫の花可愛い。なんて名前かしら...」
ラナちゃんがしていたように花壇にかがみ込んで花を眺める。
触っても大丈夫なやつかしらと、恐る恐る指を伸ばして...
「それはスイートピーね。『永遠の喜び』って意味があるわ。」
「永遠は勘弁して欲しいわ...あ、おかえりなさい。」
「ごめんなさい。少し時間がかかっちゃった。」
「わざわざ時間を貰ってる私が文句なんて言えるわけないじゃない。それで...その植木鉢が、私に見せたい物?確かにリクエスト通りに白い花を持ってきてくれたけど...」
「これね、リサちゃんの植木鉢なの。育てているのは...クローバーの花って言ったら分かりやすいかしら?一昨日、ちょうど花を咲かせたところなの。」
「あー、クローバーね。それはそれは...なんであの子そんなの育ててるの?四つ葉のクローバー探しでもしてるの?」
「それもあるんだけど...この花を育てる理由、せっかくあなたがいるんですもの、あの子が言ったそのまま言ってあげる。んんっ...」
軽く咳払いをしたラナちゃんは、ぱっと笑顔の花を咲かせた。
やだ、あの子そっくり...!
「『私にとってお姉ちゃんは四つ葉のクローバーなんです!優しくてかっこいい自慢のお姉ちゃんに今までありがとう、って、プレゼントするんです!』...以上よ。」
「もうまぢむり.........今夜ご馳走作ろ...」
マジで腰抜かさせてやる。
一週間ぐらい何も作らなくていいぐらいめちゃくちゃに作ってやる。
「あら、あなたよりも先にリサちゃんがサプライズされちゃうのね。」
相談に乗ってくれた恩人は、花壇を避けるようにして崩れ落ちた私をくすくすと笑っていた。
「うん、決めたわ。忙しい時にありがとうね、ラナちゃん。何か困ってたら遠慮無く声をかけてちょうだい。ていうか今何かある?」
「私も楽しかったから良いのよ。あ...でも、それなら明日の朝、肥料を運ぶのを手伝ってくれないかしら?」
「肥料?まさか力仕事をお願いされるとは思ってなかったけど...えぇ、わかった。」
「良かった。何せ、エンカクくんも力持ちだけど、エンカクくんは一人だけだもの。この前、アヴドーチャさんを運んでたのを見たの。その時から手伝ってくれないかな〜って思ってたの。」
いつの事かは心当たりが多すぎて分からないけど、そんなところ見られてたのね。
みっともないところを見せちゃって恥ずかしい。
「分かったわ。何時からやるの?」
「朝の四時ね。」
「よっ......大丈夫...?ちゃんとご飯食べてる...?」
「自己管理は徹底してるのよ?」
長話をするのも良くないと思ってラナちゃんと別れた。
そして、ドクターの執務室に向かっている途中...
「...そういえば、花言葉って何かしら。」
廊下の壁にもたれかかって、携帯をつける。
某有名検索サイトを開いて、入力して、確認する。
「......へえ、気に入ったわ。ふふっ...」
確認して少し浮き足立った私は、そのまま歩みを進めて執務室の扉を叩いた。
間もなく「入っていいよ」と声をかけられ、入る。
「決まった?」
私の顔を見ればわかるだろうに、わざわざそうやって聞いてくるいやらしい不審者。
「えぇ。」
それに突っかかるのもどうかと思うものだから、素直に頷いた。
それから差し出されたいくつかの書類を受け取った。
「これからは、私の事は......」
もったいぶって話した割には、あまり驚かれなかった。