私は、お前のことを昔から、こんなにもこんなにも愛している。
【嗚呼、愛しのセバスチョン】
私は高貴なる悪魔、ミチャエル・ダテンスキー。
そして、私の横に常に付き従っているこのねちょねちょした塊こそ、私の最愛の執事であるスライムのセバスチョンだ。
私たちは小さな頃から主従関係を結び、私の横には常にセバスチョンがいてくれた。
それが当たり前のことだったのだ。
下級スライムは喋ることは出来ない。
今までは、思考することもほとんどないと言われてきたが、そんなのはセバスチョンたちを見ていれば嘘だとはっきりわかる。
ダテンスキー家に仕える下級スライムたちはその誰もが言葉を発することはできなかったが、最高のパートナーなのだ。
主である私たち悪魔のしたいこと・考えていることを理解し、瞬時に次に何をすればいいのか考えて行動することができる。
まさに最高のパートナーじゃないか。
下手に人型に変身し、声を発し、馴れ馴れしくしてくる上級スライムとは違う。
それが巷では雑魚だと言われる下級スライムだ。
「セバスチョン、いつまでも一緒にいてくれるか?」
昔、子供ながらにそんなことを聞いたことがある。
これは、私が悪魔のくせに羽がないとからかわれていた時だった。
羽がないとからかわれるのは慣れていたがそんな輩がいれば、いの一番に駆けつけてくれたのはセバスチョンだったのだ。
物言わぬその下級スライムは、誰よりも弱かったが…こと私が絡む輩に対しては強くあった。
私をからかってきた輩をばったばったとなぎ倒していくのは実に気持ちがいいと共に。
乙女心が大変くすぐられた。
ダテンスキー家に生まれた瞬間から仕える下級スライム。
私の側にいつまでも共にいてくれる下級スライム。
私がセバスチョンに恋心を抱かないわけがなかったのだ。
自分のことを常に考えてくれる執事。
私が一番だと、態度でいつも示してくれている。
なんて可愛いスライムなのだろう。
とある日のことだった。
私の偉大なる曾祖父メチャチョロン・ダテンスキー様が、私に「異世界に行き誰かを堕落させてこい」と命令を下した。
どうやら、これはダテンスキー家の子供が必ず受ける儀式のようなものらしい。
私の母も、その前もその前も、偉大なる曾祖父様も受けたのだという。
そして、そこで母から重大なことを聞かされたのだ。
「ミチャエル、これは婿探しの儀式なのです」
婿探し…だと!?
衝撃が走る。つまり、行った異世界で婿を探さねばならないのだ。
私にはセバスチョンがいるではないか!
私はセバスチョンが婿にならないならダテンスキー家を出ていく!
セバスチョンが行かないのなら、私はしぬーーー!!!
それぐらいの大騒ぎが三日三晩続いたところで、母から耳打ちをされる。
「セバスチョンを連れていきなさい。そして、異世界でセバスチョンを堕落させればいいのよ」
その時の母は、大変悪い顔をしていたという。
確かに偉大なる曽祖父様は、「異世界に行き、誰かを堕落させてこい」とご命令された。
つまるところ、誰かなのだ。それは誰でもない誰か。異世界の者でもよければ、異世界でない者でもよいのだ。
私はすぐさま、セバスチョンに異世界にいきたくないと伝えた。
案の定、そういうわけにはいかないとばかりに説得のため、足元にすり寄ってきたスライムに愛しさを感じながら、
「セバスチョンがいるのならば……」
と宣った。
するとどうだろう。
みるみるうちに支度は進んでいき、いつの間にかいつ異世界に行っても良いような準備が整った。
準備が整えば、後は異世界に行くだけ。
幸い、セバスチョンは、私の異世界行きに同行する手はずになっている。
みちゃ♡ちょん『もしかしてこれって……新婚旅行ってやつかな~~~~!!!』
魔界の友人たちと楽しむためにはじめたオンラインゲームで、異世界に行く前日に盛大に惚気て見せる。
しばらくはインできなるかもしれないと、友人たちに伝えるためにログインしたのだが…。
話はすっかり私の惚気話になっていた。
ぷぎ男『いや絶対に違うね』
★yuki★『向こうはみちゃ♡ちょんさんの執事なんでしょ?そういう対象に見られてるのかな…』
おしりを隠すマラリア『というか、下級スライムって恋愛対象があるものなの?』
ぷぎ男『おしマラさんも言ってる通り、下級スライムって基本的な生殖方法は分裂なんだろ?そこに恋愛対象っていらないよな』
おしりを隠すマラリア『おしマラ言うな』
なんでそんことを言うんだ!
倉庫整備とスキルの並び替えをしながら、話している友人たちに立腹だ!
私とセバスチョンは誰が見たって相思相愛じゃないか。
みんなのいうことに反論を返す。
みちゃ♡ちょん『いくら下級スライムの基本的な生殖方法は分裂だとしても、下級スライムの夫婦は存在している!』
( ゚Д゚)gggg『下級スライムと他の種族の夫婦が存在してないんだよね;;』
NYANこすたー『まあまあまあまあ!みちゃ♡ちょんは私らと友達なんだし、ここは一肌脱いであげようじゃないか』
一肌脱ぐ?NYANこすたーめ、どういうつもりだ?
『後のことはDMを送るよ』と一言言われ、明日はもう婿探しで異世界にいかねばならない。
NYANこすたーめ、本当にどういうつもりだ。
異世界。
この異世界に生きる人間という種族は大変下等劣等種のようだ。
朝から声をかけてやっているのに、見て見ぬふりをしていく。
足元にいるセバスチョンは私の姿を見て、わなわなと体を震わせている。
ふふふ、ここで一つウソ泣きでもしてみるか?
この劣等種たちは、きっとセバスチョンの強さに平伏し、崇め奉るだろうよ!
しばらく可愛い私のスライムを観察していたのだが、どうやらセバスチョンのほうが先に痺れを切らしたようだ。
駅前という場所にいたはずなのに、いつの間にか連れてこられた建物には…NYANこすたーがいた。
「…いっしゃいませ。会員にご登録はされておりますか?(やっほー!悪魔娘!大親友のNYANこすたーだぞ!)」
「な、なんだ人間…何の話をしているのだ!私は偉大なるミチャエル・ダテンスキー様だぞ!(何をしてるんだ!この猫又!)」
どうやらこの異世界は、この猫又女の故郷のようだ。
はて、DMなぞ送られてきただろうか。
しかし、奴がすでにいるのならば、致し方ない。用意はすでに整っているのだろう。
気が付いた時にはすでに、奴の用意した部屋へと通されていたのだった。
さあ、部屋で二人きりだと緊張してきたのもつかの間。
部屋の端末の画面が光る。
あいつ、今更DMしてきたのか。
私の荷物を運ぶセバスチョンを愛おしく見守りながら、端末に手を伸ばす。
『みちゃ♡ちょんへ
ネカフェの裏を黄泉とつなげておきました。
これで心置きなくスライムくんと海辺デートができるよ!
それから、7日後に異世界オフ会を企画してるよ。
★yuki★と私だけだろうから、スライムくんが驚くような水着を買いに行こうじゃないか!
NYANこすたー』
海辺デート!?
つまり、セバスチョンとデートができるわけか。
黄泉ならば、きっと誰にも邪魔はされないだろう。
何せ死んだものしかそこにいないのだから。
そう思っていたのはそのときだけだった。
私は失念していたのだ。
スライムが……海辺を歩いたらどうなってしまうのかを。
あのねちょねちょの粘液に多くの砂が入りこんでみろ。
セバスチョンがざらざらスライムになってみろ。
私は私を…ミチャエル・ダテンスキーを一生許さないだろう。
そして、7日後。
同じ部屋で生活をしているというのに、一向にセバスチョンは私とベッドを共にしてくれることはなかった。
それに加え、今までの生活も相まって、私の下着姿を見てもうんともすんとも反応している様子はないし、
スキンシップを多めにとってみても、セバスチョンは変わらずに私に接してくれているだけだ。
どうしたら、セバスチョンを堕落することができるのだろう。
しばらく泣き言のDMを送っていたら、猫又が気を利かせて『悪魔娘オンライン』をつないでくれていた。
みちゃ♡ちょん『同じ部屋で生活しているのに全然そういう雰囲気にならないよ;;』
ぷぎ男『みちゃ♡ちょん、恋愛経験値低いんじゃない?恋愛漫画でお勉強しな』
みちゃ♡ちょん『もう読んだぞ!』
『CHOラブる』は、複数の雌から求愛される雄の話だった。
確かにいろんな方法で雄にアピールするのは役に立ったように思う。
確かにかわいいだけの雌ではないからな。
私もこの雌たちのアピールを真似なければな!
『家具屋さんは儲かりたい』は、貴族の雌が貧民である雄に告白させたい話だった。
お互いが素直になれないのはよくないな。
私は反面教師にして、チャンスがあるならがっつりセバスチョンに告白したいのだ。
……ただ、どうしてもそのチャンスがこないのだ。
『あせとせっかん』は、自身の体臭を気にする雌とその体臭が好きな雄の話だった。
セバスチョンももしかしたらあのスライム特有の粘液を気にしているかもしれない。
いや、私は全然気にしないのだが…。
むしろ私はセバスチョンの粘液ならば喜んで全身に纏いたい。
『青山くんに登りたいからしにたい』は、雄が幽霊になったとしても雌がずっと愛しているという話だった。
種族が違う私にはキュンキュンきてしまったじゃないか。
しかし、確かにもしセバスチョンが死んでしまったりしたら、私もあれだけ泣いてしまうだろう。
泣くどころのはなしではないかもしれない。
と、ここまで文献をほとんど読み進めてきたが、どれも参考にはしようと思うものの実行には遷せそうにもなかった。
セバスチョンと暮らして7日もたったのに、セバスチョンは真面目で私想いでとても可愛い。
ドキドキする展開にもっていくこともできないし、時折何かを考えているのか動きが止まっている時がある。
私が悩みの種なのだろうが、セバスチョンの悩みの種がこのミチャエル・ダテンスキーであることもうれしくて仕方がない。
みちゃ♡ちょん『そういうわけでとても悩んでるのだ』
★yuki★『そりゃあ、かわいいお洋服を着たらいいじゃない』
NYANこすたー『かわいいって言ったらやっぱり夏は水着だよね!』
★yuki★『みちゃ♡ちょんさんのために選ぼっか!水着!』
ぷぎ男『え、このままオフ会やっちゃいます?俺、30分くらいでそっち行けますよ』
みちゃ♡ちょん『直接会ってくれるのか?それなら、作戦は今日仕掛けようと思っている』
NYANこすたー『ぷぎ男やらしい!私地元だからすぐだよ』
おしりを隠すマラリア『私遠いからパス~』
( ゚Д゚)gggg『俺予定あるからパス~;;』
なるほど。おそらく、前にDMをもらった時に言っていたオフ会のことなのだろう。
友人たちの申し出にすぐにDMで返信をし、別の端末で指定の場所を調べた。
なるほど、駅前ショッピングモールか。
場所さえわかればちょちょいのちょいだ。
瞬間移動でショッピングモールまでやってきた。
しかし、もう店の前にはNYANこすたーも★yuki★も待っていて、こちらに手を振っている。
「なんだ、もう来ていたのか」
「私の地元だからね、すぐわかるよそんなの」
「さー!水着かいにいこいこー!」
夏は水着なのだと二人は騒いでいる。
しかし、下着とはどう違うのだ?
いっておくがセバスチョンは下着では動揺もしてはくれなかったぞ?
「何言ってんの!下着のエロスと水着のエロスは違うよ!」
「チャームの力を持ってるくせに、なんでこういうことには疎いのよ!」
「な、なんで私が責められているんだ……」
雌が3人そろうと姦しいという。
まさにそのとおりだ。
水着の売っている店舗に一直線へと向かい、二人に背を押されたまま試着室へと収容された。
二人が次々と持ってくる水着に何度も何度も着替えさせられる。
目まぐるしい一人ファッションショーではないか!
いったい何着目だろう、とため息をつくほどの水着を手にした時だった。
あまりの布地の少ない水着だった。
なんだこれは!水着!?ほとんど裸じゃないか!
「こっこれは…!布地が少なすぎやしないか…?!」
思わず叫んでしまった。
二人ともけらけらと笑っていたが、それが一番刺激があるのではないかという。
いや、まさかそんな。
確かに。確かに、私はセバスチョンの前で裸になったことなどはない。
いや、下着姿ならあるが。
しかし、これをセバスチョンの前で着るというのか…?
考えれば考えるほど、顔が熱くなってくる。
いや。やめよう。無意識に着ていた水着を脱ごうとしたときだった。
べちゃ。べちゃべちゃべちゃんっ!
よく聞く水音が聞こえてきた。
それは、私の愛しい愛しいセバスチョン……スライムだった。
どうやら怒っている様子で、二人へ威嚇をしている。
だめだ。こんな店の真ん中で二人にスライムのたいあたりなど…!
急いで更衣室から顔を出す。
「セバスチョン!!!」
そこには、二人に今まさにたいあたりをしそうになっているセバスチョンがいた。
私を見るなり、そのスライムは何度も飛び跳ねている。
まったく…お前というやつは。
この胸にあふれる愛しいという感情をどうしたらいいのだろう。
私はこのねばねばぐちょぐちょしたスライムに恋心を抱いているのだ。
「少し、待っていろ」
急いで着たままの水着をそのまま購入し、曽祖父様からいただいたコートを羽織る。
一緒にきてくれた二人にお礼をいい、店舗を後にする。
店舗を出てから、足にすり寄るスライムが大変大変可愛らしい。
今なら…きっと私はお前に気持ちを伝えられると思うのだ。
部屋へと帰ってくる道中、今まで学んだ文献のことを思い出していた。
確か、『CHOラブる』ではベッドで愛を語っていたな…。
そう思いだし、部屋へと入った瞬間私はあの広いベッドへと足を進めた。
セバスチョンに変に思われただろうか。
ドキドキと高鳴る胸は、悪魔らしくない。
きっと曽祖父様たちがこのことを知ったら激怒するだろう。
いや、いいのだ。それでも構わない。
『私は、セバスチョンを堕落させ、婿にする…!!!』
そのためならば、どんな醜態をさらそうが構わない。
ベッドに座って横に来てほしいと隣を叩いたのにセバスチョンは遠慮しているのか足元にいるだけだ。
ええい、じれったい。
セバスチョンをベッドの上へと持ち上げたときだった。
ベッドがあまりにもふわふわだったのと、セバスチョンが以外にも重かったのが相まって
私はセバスチョンを組み敷いた状態になってしまった。
べちゃりとスライム特有の粘液がベッドシーツを濡らしていく。
そうだ、確かここで『家具屋さんは儲かりたい』は素直に自分の気持ちをいうべきだといっていた。
恋の駆け引きをしている場合ではないのである。
いや、恋の駆け引きなぞしたことはないが。
「お前が来てくれて、……嬉しかった。
なあセバスチョン。お前は本当に良くしてくれている」
そう伝えてから気が付いた。
このベッドは、どうやら吸水性がいいらしい。
セバスチョンがどんどんシーツにしみこんでいく。
ちょ、…待て!まだ……まだ好きと伝えていないのだ!
急いでセバスチョンに接近し、吸い込まれていく粘液をセバスチョンに集めなおす。
しかし、どんどんスライム特有の粘液はあふれ出るし、しまいにセバスチョンの形が崩れ始めてきた。
い、いけない!これではセバスチョンが、ベッドになってしまう!!!
いや待て、まだそういえば水着をみせていない!
悪魔も焦れば焦るほど、余計なことが頭を浮かぶようだ。
私はとろけてシーツに吸い込まれていくセバスチョンを見ながら、コートを脱ぎ、水着を見せる。
「見てくれ!お前のために、水着というものを買ったのだ。
お前を肌で感じたかった!!!」
そういいながら、再び粘液をかき集めていく。
スライムは吸収されてしまうとどうなるのだろう。
とりあえず、吸い出したりすれば、セバスチョン・シーツにはならないで済むだろうか?
どうしたものかと、考えていれば、スライムの形を模っている部分までもが布団に給水されそうになっている。
これはいけないと、しっかりセバスチョンを抱きかかえるが…もしセバスチョンが何かを考えていたらどうすればいいだろう。
セバスチョンの反応はベッドに入ってからはあまりなく、私がこうしている間も特に反応がないのだ。
もしかしたら、セバスチョン…お前は。
その先を考えたくなくて、セバスチョンへの言葉を綴った。
『あせとせっかん』でもそうしていたはずだ。
「お前がスライムでも構わない」
その言葉を言えたことが嬉しくて思わず涙が零れた。
やっと。やっとこの言葉を言えるのだ。
消えゆく相手への愛の告白は『青山くんに登りたいからしにたい』にもあった。
その時の雌も愛の告白の時は、泣いていた。
ああ、私は今、あれと同じ気持ちなのだ。
「…セバスチョン…………好き」
にこりと笑って告白したものの。
相変わらず、セバスチョンはベッドへと溶けていく。
どうしたらいいのか。
どうしたらセバスチョンは助かるのか。
………というか、お前は何か反応をしろ?
何も反応しないスライムの生体反応を確認しながら、ベッドシーツに溶けていくスライムを手で掬う。
いっそ私が体内にセバスチョンを取り込んでから、吐き出せばいいのだろうか。
それとも、氷の魔法で冷やしてみればいいのだろうか。
わからない。
一世一代のミチャエル・ダテンスキー様の告白なのに、どうしてこんなことになってしまったのか。
粘液の鳴る音ばかりが部屋に響く。
困った。どうしてもセバスチョンが固形に戻ってくれない。
もはや焦りすぎて、私の汗や涙も混ざってしまった。
告白の後悔はない。
だが、漫画のまねごとをしてベッドにセバスチョンを乗せたのは失敗だった。
途方に暮れ、セバスチョンをじっと見つめたまま、この最愛のスライムをどうしてやろうかと思案する。
さて、なんの案も思いつかない。
いっそ全部試してみればいいのだ。私とセバスチョンの時間は無限だ。
そして、私が告白を成功させたことにより、きっとセバスチョンも堕落したことだろう。
「共に堕ちよう……我が愛しの、セバスチョン。」
ぐちゅり。
『私の粘液の音と共に、ミチャエル様は私に口付ける。』
まずはこのスライムを掃除機で吸ってしまおう。
私はベッド脇にある掃除機に手を伸ばしたのだった。
【Fin】