ドS京ちゃんシリーズ・小説版   作:京ちゃんスキー

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被害者:原村和

 インターミドルチャンプ(原村和)は酷く動揺していた。

 親友である片岡優希と共に入部した麻雀部。

 生徒議会長を務める頼れる三年生・竹井久、

 広島弁で喋る麻雀経験豊富な二年生・染谷まこ、

 そして大親友・片岡優希。

 団体戦に出られない人数ではあるが、自分が全国の舞台に彼女達を連れて行くという強い信念が芽生えていた。

 

 ――そこに現れた金髪長身、そして……ゲスな笑みを見せる同級生・須賀京太郎……。

 

 彼は麻雀を齧ってるから、インターミドルである和の打ち筋を見たいと部室を訪ねてきた。

 久は和目当ての男子生徒だと思ったが、金髪長身、制服からでも見える鍛えられた体。雑用係程度の才能を見出す。

 自分達の実力に恐怖すればそこまで、恐怖しなくても和の調整に集中したいからと指導は二の次にする。そんな考え。

 

 ――それが地獄だった!

 

「ロン、七対子ドラドラ赤赤の跳満12000」

「そ、それ……染谷先輩から……」

「あ、そうだったの? でも、山越しだからロンできるよね♪」

 

 東一局から京太郎の執拗な和狙いは始まっていた。

 彼はインターミドルチャンプ(原村和)を壊す為にこの場所に来たのだ。

 中学生王者が唐突に現れた男に完膚なきまでに打ちのめされる。絶対にありえない光景、京太郎を雑用係にしようとしていた久に汗が流れる。

 ――このままだと和が壊されてしまう!

 

「ポンッ!」

 

 久は鳴き麻雀にシフトし、和がトバないように立ち回る。

 だが――現実は非情だ。

 和が決意を決めて叩く牌。

 

「リーチ!」

「――ロン、白・中・小三元・混全帯么九・ドラ3……倍満は16000」

 

 久方ぶりのトビ終了、ネット麻雀では長期的スパンで好成績を残す和が箱下終了、部内ではじめてトバされた。

 動揺が走る。

 自分の打ち方が間違っているのかという疑問、そして目の前の須賀京太郎という存在に対する興味。

 深呼吸をし、笑みを見せる。

 

「トビ終了は久しぶりです……お強いんですね……」

「久しぶりに打つからビギナーズラックが戻ってるのかもね? でも、褒められると照れるなぁー」

 

 部の全員が胸を撫で下ろす。

 京太郎という男は経験者ではあるが、長い間麻雀から離れていた。だからロンを見逃した。

 すべてはビギナーズラック、初心に戻れたから出来た奇跡、こんな奇跡は二度と起こらない――訳がないッ!

 須賀京太郎というのは生粋のサディスト(S)である。全員を絶望のどん底に引きずり落とすのが趣味のプロ級マニア、一度は納得する理由を与え、そして落とす!

 

「お、須賀がラス目だじぇ! のどちゃんがんばー!」

「ゆーき! そういうのは失礼ですよ」

「アハハ、ビギナーズラック終わっちゃったかなぁー」

「ワシらも長う打っとる、ビギナーズラックに負けてられんわ!」

「少し牌効率が甘いわね? 部室に指南書はいっぱいあるから読んでいいわよ♪」

 

 南四局、京太郎のラス親、誰も警戒なんてしていない。

 だからこそ、この男の毒牙が毒の濃さを増していく。

 この状況から捲ったらどんな顔をするのだろう?

 このダントツトップのインターミドルチャンプ(原村和)をラスに引きずり落としたらどんな顔をするのだろう?

 それを見たいという狂気じみた思考が彼の豪運を呼び起こす!

 

「ロン……国士無双ッ! 48000」

 

 六巡目、混全帯么九系を狙っているような打牌、そして自分には自風が暗刻で入っている。

 国士無双は無いだろうと考えていた。混全帯么九系は警戒していた。

 だが、薄い国士無双は見えていなかった。

 インターミドルチャンプ(原村和)が二度トバされる。前代未聞、あまりの光景。

 

 ――そして何よりも、前の対局とは異なり露骨さが無い。

 

 ラス目のラス親、連荘か高い手、それこそ国士無双が狙えるなら向かう可能性は否定できない。

 だが、ネット麻雀を得意とする和にはわからない、ネット麻雀なら親を大切に、そしてラスを回避する為に国士なんて狙わないのだ。

 毛色が違う打ち手、手の内が見えない。

 

「麻雀はこれがあるからやめられないなぁ!」ゲスマイル

 

 その後、京太郎は卓に座ることは無かった。

 額に手を当てて知恵熱が出てしまってと卓に座ることを拒否し続けたのだ。

 麻雀復帰勢、最初の一回は東二局で終了してしまったが、二回目は半荘の南四局まで縺れ込んだ。時間にして三十分と少し、その間は頭脳をフル回転させる必要がある。

 ネット麻雀に比べるとリアルの麻雀は考慮する要素が非常に多い。

 だからワザと卓に入らないとは口が裂けても言えない状況を作り出す。

 

 そして京太郎は確信する。

 

 ――原村和は須賀京太郎と麻雀を打ちたい。

 

 言ってしまえば興味、そして一欠片の負けず嫌い。

 京太郎に勝ちたい、その感情が揺れ動く。

 サディスト(S)の仕組んだ罠に落ちてしまったのだ……。

 

 

 麻雀部を訪れて2日後、京太郎は帰宅部をしていた。

 あの日、麻雀部に入るという行動はせず、ただ原村和という存在がどれくらい強いのか興味本位で訪れた一人という状況を作った。

 クラスが違うということを利用し、校内でも出来る限り視界に入らないような入念な手回しまで披露している。

 心の中では、まだかまだかと彼女が行動するのを待っているが、確かな手応えがあった。

 そして昼休み、カロリーブロックとミネラルウォーターで胃袋を満たしていたら――その姿がようやく現れた。

 

「――須賀くんはいますか?」

 

 彼がゲスの極み、そんな笑顔を見せる。

 狂喜乱舞しそうな心を必死に押し殺し、にこやかに手を振って見せる。

 

「原村さんどうしたの……俺に用事かな……?」

「……どうして? 麻雀部に来ないんですか」

「いや! 原村さんと麻雀を打ってみたいってだけで、あの日は興味本位だったんだ……アレだろ? 部の人達は本気で全国を目指してるのに、俺みたいな楽しむ為に打ちに来た存在が居ちゃ悪い気がして……」

 

 納得できる理由、肯定こそ出来るが否定は出来ない正論。

 原村和はインターハイを目指している。だが、須賀京太郎はインターハイなんて目指していない。

 麻雀が強い人が入学して、麻雀部に入っている。自分も麻雀が打てるから興味本位で手合わせをお願いした。

 そして、部員の熱量と自分の熱量を比べて自分が居てはいけないという雰囲気を感じた、そう演出をする。

 

「……須賀くんは麻雀に興味が無いんですか」

「い、いや! 興味というか……やっぱり、本気の人達の中に遊び感覚の人間が入ったらさ? なんというか、和を乱しそうで怖いんだ……」

「――なら! 須賀くんも本気で全国を目指せばいいでしょう!!」

「ちょ! 見られてるから……」

 

 京太郎は笑いを堪えるのに必死になる。

 ああ、やっぱり和は全力で自分を誘いに来たな、そして罠に嵌ったな、この光景に脳内の快楽物質がドバドバと溢れ出す。

 彼は計算していた。

 

 ――原村和は依存しやすいタイプだと。

 

 自分が麻雀部に入る、引け目を感じて部をサボる、和が自分を引き止めに来る。

 学校のアイドル的ポジションの少女が京太郎に振り回される。

 男共の僻みすら快楽に変換する生粋のサディスト(S)、この状況には脳内麻薬が駆け巡って絶頂の域に達してしまう。

 原村和、この高飛車で高嶺の花が須賀京太郎という存在、それの手の上でダンスするのは支配的な心を満たす。

 

「……今日は来てくださいね、負けたままは嫌いですから」

「わ、わかったよ! でも、交換条件……」

「なんですか?」

「名前で呼んでいいか? 和って……」

 

 和は少し考える。

 同い年の男子に名前で呼ばれる経験なんてない、だが、京太郎には麻雀部に入ってもらいたい。

 決意が決まったと頷く。

 

「いいですよ、ですけど……約束ですからね……」

「ありがとう――和!」

 

 教室にいる男子生徒達の視線が矢となり飛んでくる。

 それすら快楽に変換される。

 これから楽しくなりそうだという笑みが溢れる。

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