ドS京ちゃんシリーズ・小説版   作:京ちゃんスキー

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自滅者:竹井久

 須賀京太郎はドが付くサディスト(S)である。

 小学生が好きそうな言葉で表現するなら、超弩級のサディスト(S)である。

 そんな彼は麻雀部に所属しており、そこはかとなく強い、実力的には中堅クラス。

 

 ――だが、天敵が入部したことにより事態は一変する!

 

「またプラマイゼロだじぇ……」

「宮永さん……須賀くんが入ってないからって変な打ち方をしないでください……」

「う、うん……努力はしてるんだけど、家族で打ってた時の癖で……」

「複雑な家庭環境なんじゃな……」

 

 その時、京太郎は二連続で四角い世界の大魔王に心を大西洋まで吹っ飛ばされて戦意喪失。

 何度でも言う、サディストは打たれ弱い。

 部に顔を出すとなると、半分の時間はベランダで黄昏れている。

 須賀京太郎という男、理不尽を押し付けるのは好きだが、理不尽を押し付けられるのは大嫌いであった。

 

「んー……快眠快眠! あれ? 宮永さんはまたプラマイゼロ? 須賀くん呼ばないと」

「やめたれ、京太郎はよーやっとる」

「二連続トビ終了、それも東場! わたしだったら気絶もんだじぇ……」

「須賀くんの打ち方に問題はないのですが……」

 

 そう、デジタルの天使である和でさえ、京太郎の牌効率は認めている。

 鳴くべき時は鳴き、門前で仕上げる時は門前、相手が恐れるなら愚形でもリーチ、ネット麻雀で最も嫌なタイプの打ち手。

 素直に称賛の言葉を贈るレベル。

 

 ――だが、生徒議会長兼ね、麻雀部部長竹井久は空気が読めないタイプの人間であった!

 

「確かに負けることはショックかもしれないけど、それを乗り越えてこそ強い打ち手になるんじゃない?」

「否定は出来ませんが、適度な休憩も必要ですよ」

「須賀くんは男の子なんだから大丈夫よ! 説得してくるわ♪」

「……部長は気が回らん時があるからのぉ、大丈夫じゃろか?」

 

 久はベランダの扉を開いた。

 そこには生気のない瞳、ただただ山の緑を眺めている男子生徒が一人。

 少しばかり乱雑に扉を開けたのだが、その音に反応できないくらい気落ちしているらしい。

 

「須賀くん? 練習しないと強くなれないわよ」

「……ああ、部長ですか? 大自然の空気って美味しいですよ、これが無料で摂取できるなんて地球は優しいですね」

「須賀くん……確かに無理ラスは辛いけど、それを乗り越えないと強い打ち手にはなれないわよ」

「それはわかります。どんな理不尽な状況でも耐えるだけの精神力、麻雀において……それは重要ですよね……」

 

 久は顔をしかめた。

 ここまで具体的にラスを受け入れる心を持っているのに不貞腐れている京太郎に若干の苛立ちを見せる。

 理不尽を楽しめとまではいかないが、勝ちたいという気持ちは大切にしてもらいたい。

 だからこそ、この場で言ってはいけないことを告げてしまう。

 

「須賀くん、麻雀向いてないかもね」

「……そう、ですか」

「この程度の理不尽で気を落とすなら、これから先、ずっと苦労する」

「……確かにそうですね。俺は麻雀を打てるだけ、好きじゃないから向いてない……」

 

 京太郎は溜息を吐き出した。

 そう、彼は根本的には麻雀を好んではいない。

 勝ったら敗北者を煽れるという特殊な環境で麻雀を覚えた。

 だからこそ、スポーツとしての麻雀にイマイチ価値を見いだせない。

 

「……マネージャーにならない?」

「……マネージャー?」

「そう、うちって女子部員ばかりでしょ? 全国も無論目指してる訳だし、女子部員は全員麻雀に集中させたい」

「確かにそうですね、俺がマネージャーになって……みんなのアシストをした方がいいですよね……」ニヤッ

 

 京太郎、落ち込んでた心が一気に回復し、部長の最低の提案にゲスな笑みが復活する。

 何度でも表現するが、須賀京太郎という男は麻雀が打てるだけではなく普通に強い。部の中では中堅クラスだが、それは気楽に打っている時の数字。

 宮永咲という例外は存在しているが、基本的に天敵以外には好勝負を繰り広げている。

 

 ――結論、竹井久に勝ち越しているのだ。

 

 京太郎の脳内に色々なパターンが生まれ、最適解が生み出される。

 卓に入ることになったら部長を吹き飛ばそう、それこそ大西洋まで……!

 この男、どこまで行ってもサディストであった。

 

「でも、今日の今日だと決意が固まりません……今日一日じっくり考えて、明日返事をさせてください……」

「感謝するわ……須賀くん……」

 

 そして、久は自滅の道に突き進む。

 

『後日』

 

 京太郎が昼休みに久とコンタクトをとり、マネージャーになることを了承した。

 

「みんな! 須賀くんがマネージャーになることになりましたー」

「「「――はっ?」」」ハイライトオフ

「いやぁー、マネージャー欲しかったのよねぇー! 須賀くんなら力仕事も任せられるし、みんな麻雀に……」

「部長……それは流石にどうかと思います……」ハイライトオフ

「京太郎は犬だけど、色々と教わることも多いじぇ……それをマネージャーなんて……」ハイライトオフ

「染谷先輩が言っていました。もし、自分達が個人、団体で全国に行けなくても、確実に京ちゃんが連れて行ってくれるって……」ハイライトオフ

 

 竹井久、京太郎マネージャー計画は失敗だと実感する。

 だが、吐いた唾は飲めぬ! それでも強行する!!

 

「で、でも……須賀くんが了承してくれたのよ? 自分がマネージャーになって、みんなをアシストした方がいいって……」

「自分のことは自分で出来ます! 須賀くんを一人の雀士として見てください!!」

「部室の前から大声が聞こえると思ったら……喧嘩はダメだって、俺がマネージャーになってみんなを「馬鹿を言わないでください!!」うえっ?」

 

 京太郎困惑、マネージャーに負ける麻雀部部長というストーリーを思い浮かべていたが、一年生ガールズの猛反発が始まったらしい。

 遅かれ早かれ女子麻雀部になるだろうと踏んで部長をいじめる算段を付けたのだが、大誤算もいいところだ。

 そして、学園一の美少女が彼の胸の中で大粒の涙を流している。

 

「……こ、こういう場合? いや、こうだよな」ナデナデ

「……須賀くんは強いです。だから、一緒に全国に行きましょう」

「……指切り、するか?」

「お! それなら全員だじょ!!」

「いいね、染谷先輩は明日」

 

 一年生四人が唐突に指切りげんまんをはじめた。

 

「「「「指切りげんまん――全国に絶対いくぞー!!」」」」

 

 その光景を眺めることしかできなかった。

 

「じゃあ、部長? 一分前までマネージャー候補だった俺ですけど……心を大西洋まで吹き飛ばされる覚悟はできてますか……」ゲスマイル

「ぴえん」

 

 京太郎、怒涛の五連続トップ! 久、悲しみの五連続箱下終了!

 

 

 

『おまけ』

 

 須賀京太郎、今日マネージャーになりそこねたサディストである。

 普段なら咲と一緒に帰るのだが、流石は学園一の美少女原村和、ストーカー被害にあってることを対局の中で打ち明けてきた。

 須賀京太郎はサディストではあるが、他人が傷つく姿は好きではない。

 極論、可哀想な人を見ると興奮するのだ。

 

「須賀くんはプロ雀士に興味はありますか?」

「うーん……見てて面白いと思うプロはいるぞー」

 

 いかにストーカーと言えど、180cmを超える長身の男が標的の隣を歩いていたら手出しが出来ない。

 咲は家と学校が徒歩圏内という理由で清澄を選んでいる。歩いて五分程度、途中に交番があるので何かあっても最悪の事態は免れると思える。

 逆に和の家は少し離れている。優希と途中までは同じだが、その先で視線を感じることが多いらしい。

 

「男の子だから瑞原プロとかですかね……アイドルの一面も持っていますから……」

「いや、小鍛治健夜プロ! あの人のオドオドしながらも強い感じが好きだわ。独立リーグに行っちゃったけど」

 

 須賀京太郎の好物は人の困り顔である。

 常に困り顔のプロ雀士である小鍛治健夜はデビューしてからずっと栄養源にしてきた。

 オドオドとしながら相手を翻弄する独特の打ち方、それに負けて悔しがる対戦相手、最高のエンターテイメントだと思っている。

 

 ――見た目も行動もドMという最高にタイプな存在。

 

 ただ、少しだけ欲を言わせてもらうならおもちが少ないところだろう。

 流石に絶壁とまでは言わないが、どうにも幼児体型が過ぎる。精神的にはタイプだが、肉体的には微妙なところ。

 

「……須賀くんって不思議ですよね」

「どったの急に?」

「……色々な人に告白されてきました。ですが、みんな顔や体ばかり。でも、須賀くんは違います……心を見ているような……」

「俺、人間観察が趣味だからさ……人を見た目で判断したくないのさ……」

 

 和は優しい笑みを溢した。

 京太郎は普通の笑みを返した。

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