ドS京ちゃんシリーズ・小説版   作:京ちゃんスキー

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被害者:片岡優希

 須賀京太郎は超弩級のサディスト(S)である。

 人が困っている姿が好きな異常性癖の持ち主。

 そんな彼は今日も今日とて自分の性癖、性的嗜好に真っ直ぐ生きている。

 

「……今回は大西洋通り越してインド洋に着地したな」

 

 宮永咲は四角い世界の魔王である。

 須賀京太郎を吹き飛ばすことが得意な女子高生。

 そんな彼女は今日も今日とて好意を持つ男子高校生の精神をへし折っている。

 

「……俺を飛ばすことでモチベが上がるならマシか」

 

 京太郎、心を世界中の海に飛ばされる理由を見つける。

 この男、自分に降りかかる理不尽が嫌い、理由が存在しない理不尽が大嫌い。

 どこまでも自分勝手な人間である。

 

「京太郎……となりいいか……」

「あら、そっちはどこまで飛ばされた? 太平洋くらい」

「うーん、カリブ海で……」

「大西洋だねぇー」

 

 片岡優希が女の子がしてはいけない顔で山々を見つめる。

 京太郎、その表情に興奮……はしない。この表情はどちらかと言えば辛そうという表情、彼の好物から外れている。

 同じ大海原に心を吹き飛ばされる者同士、なんやかんやでシンパシーを感じる。

 互いに弱いわけじゃない、相手との相性が悪すぎる。

 

「……にしても、ここのメンバーは凄いよなー」

「うん、やばいじぇ……」

「俺、今までネット麻雀だけしか経験してないが……理不尽感じるぜ……」

「京太郎も十分やばいと思うじょ……」

 

 京太郎はキョトンとした表情で優希を見つめる。

 言うならば、何を言っているのだろうという表情、理解し難いとも表現できる。

 

「俺がヤバイと思うなら見当違いだ。俺は世間一般的な麻雀打ちと変わりない」

「何言ってるじょ……京太郎は部でもトップ率上位だし、咲ちゃん以外となら……」

「それが結構な間違いなんだよ。俺と和は基本的に理不尽な打ち方はしていない。理不尽の逆、合理性の塊みたいな麻雀だ」

「じぇ?」

 

 京太郎は部の中でも中堅クラスの打ち手、裏を返せば誰とでも好勝負を挑めると表現できるだろう。

 だが、それは蠱毒で鍛えた理詰めを超えた理詰め、理の中にさらなる理を求めている麻雀とも表現できる。

 どうすれば相手を一方的に殴れるか、

 どうすれば相手の戦意をへし折れるか、

 どうすれば相手の満貫をノーテンに変化させられるか、

 それを煮詰め、まだまだ改善の余地を残したサディスト麻雀。

 

「俺が咲に全戦全敗なのは……言ってしまえば自分で再現することができないからなんだ……」

「再現?」

「ああ、和のデジタル、優希の東場パワー、染谷先輩の染め手、部長の悪待ち、どれも再現しようと思えばできる。だが、咲の嶺上戦術だけは絶対無理、再現不可能! 再現できない、それによって対策することもできない」

「でも、最近は飛ばされることが減ってるじぇ?」

「それは勝負を放棄してるんだ。見ることによって対策することができるかどうかを見定めてる」

「難しいこと言われてわかんないじぇ……」

 

 暗い表情に変わる優希、ため息を吐き出して頭を撫でる。

 京太郎という男は超弩級のサディスト(S)だが、育ちがいいので人の痛みは結構わかる。

 だからこそ、サディストの階段を登ってしまったとも言えるのだが……。

 切り替えて、基本的に彼は良い奴、ナイスガイなのだ。だからこそ、年上だろうが、年下だろうが、基本的に兄貴肌を漂わせている。

 

「表現を変えようか……言うならば、羨ましい気持ちってのさ! 優希は他人を羨ましいと思ったことあるか? 些細なことでもいい」

「のどちゃんのおっぱい!」

「それはそれは……まあ、それでもいい。基本的に相手を羨むというのは原動力の塊、そして相手の良い部分を抽出し、自分の中に入れていくのが鍛錬」

「鍛錬?」

「ああ、相手の良い部分を吸収する。単刀直入に表現するなら軽い師弟関係、師から学ぶ状態。俺は麻雀部の全員を師匠だと思ってリスペクトしてる。だが、こと咲に限ってはそれができない……なぜなら、相手の技術を再現することが不可能だから」

 

 優希はハッとした表情で京太郎の言葉の意味を理解する。

 京太郎という男、基本的には和に近しいオーソドックスなデジタル打ちなのだが、時折見せる強引さ、それは自分の麻雀から抽出されているのではないか。

 時には強引に染めに行き、時には地獄単騎を平然と選択する。

 部の全員の打ち方を自分なりにアレンジしている瞬間を何度か目撃している。

 だが、宮永咲という少女が見せるカンを使用した麻雀は再現もリスペクトもできない。

 

「これが本当の理不尽、単一の人間にしか再現することのできない極地……本物の自己流……」

「京太郎も辛いな……」

「まあ、それも麻雀。対策さえ出来ればトップ率も回復するだろうさ……下手すると半年くらいかかりそうだが……」

「ふん! 犬は犬らしくご主人様のマネだけをするといいじぇ」

 

 京太郎、ここでそれならと優希を抱き上げる。

 唐突にでき上げられて困惑する優希だが、すぐにやめろという待てが出る。

 だが、この程度で怯んでいてはハードサディストではない。

 

「酷いワン! ご主人様と遊びたいワン!!」

「ちょ! 犬呼ばわり謝るからぁー」

 

 この時――電流走る!

 京太郎、片岡優希という少女は元気ハツラツで困らせようとしても辛そうな表情になるだけだと思っていた。

 だが! この瞬間、彼女が照れているような困り顔を見せているではないか!?

 この理由を彼は即座に理解する。灰色の脳細胞が活性化し、一つの結論に辿り着いた。

 

 ――片岡優希という少女は甘えられるのに慣れていない!

 

 京太郎誤算! 自分の精神的栄養源になれないと思っていた少女が、まさかまさかの咲と同等の栄養源になる素質!!

 ゲスな笑みが溢れ出す。

 

「わーったよ、流石に女子高生に高い高いはやり過ぎだわな」

「そ、そうだじょ! レディーにはそれ相応の……」モジモジ

「まあ、それなりには扱ってやるよ……ご主人様……」ゲスマイル

「ひゃうっ」顔真っ赤

 

 京太郎、気分転換が出来たと部室に入る。

 すると真っ白に燃え尽きた久が生気のない瞳でこちらを見つめている。

 卓の牌を見る限り、対局が終了し残りの部員達も休憩に入っていると言ったところだろう。

 

「……なにがあったの?」

「確率の偏りです」

「部長を京ちゃんと思ったら……えへへ……」

「こりゃ酷いのぉ……」

 

 何が起こったのか把握した。

 そして彼はフォローを入れることなく自分のカバンを手に取り。

 

「なんか親戚が死にそうだから帰りまーす! 絶対に帰ります!!」

 

 圧倒的逃げの一手! 五連続トビ終了でも顔を青くするだけの部長がへし折られている。この次点で流れは宮永咲という四角い世界の独裁者に握られている。そんな状況で戦いに挑む? 自殺は趣味じゃないと足早にドアノブに手をかける。

 だが、それを逃さないのが竹井久、清澄高校麻雀部部長である。

 右肩に置かれる震える手、圧倒的実力差をワンツーされたような状況、普段の京太郎が折れていないことに疑問が尽きない。

 

「す、すがくん? 麻雀ってたのしいわよー」アハハ

「いや、麻雀は楽しいですけど……あの卓に入るとか精神崩壊の切っ掛けでしょうが……」

「部長命令?」

「やめてくださいよね……元運動部に絶対厳守の言葉投げるの……」

 

 京太郎、部長命令という魔法の言葉に逆らえない。

 元々は運動部、それなりの強豪校のそれに所属していた彼には上級生、それも部長の命令というのは絶対。逆らえない言葉。

 だが、あそこに座るのはリスクが高すぎる。

 京太郎、この日は二連続で咲に心を大海に吹き飛ばされ、心の限界が来ている。

 これ以上の精神的負荷は今後のサディスト活動、略してサディ活に支障をきたす恐れすら存在する。

 

「京太郎! ご主人様の命令だー! 早く座れ」

「ったく……俺のことを何だと思ってんだか……」

 

 京太郎、この時、意外と素直。

 だが――タダで心をハリケーンされる気は微塵もない。この状況で許される最大の手段を選ぶのが彼という存在。

 ポンポンと北家、他の三人はもう捲り終わっている。それの椅子を叩く優希を膝の上に乗せ、四角い世界の魔王を嘲笑する。

 

「究極合体! 俺のデジタルと優希の東場パワーで最強の雀士が出来ちまったぜ!!」

「ちょ!? 京太郎! こ、これはやり過ぎだじぇ……」モジモジ

「……京ちゃん?」ゴゴゴゴッ!

「……ハレンチです」ムゥ‐

「あはは……これまた酷いのぉ……」

 

 この後、精神的に世界一周旅行をしたのは言うまでもない。




夏の暑さが消え、執筆の意欲が戻ってきました。
ですが、なぜかパソコンがフリーズ連発で泣きそうです。
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