ただでさえ生きるのが厳しい呪術世界なのにクズ一族に生まれて死相しか見えないんですが   作:楓/雪那

8 / 13
サブタイネタ分かる人1割もいない説


あと本作かなり自己解釈多めになると思うので感想欄で「私はこう思う」って返してくれるの結構助かる。


#8 こいつはすごいぜ!

「あなたが組屋鞣造?」

「あぁ?誰だてめぇ」

「禪院袴。いくらフリーの呪詛師でも御三家くらいは知ってるよね」

 

埼玉県郊外に存在する、個人が扱うには大きな工房(アトリエ)

その持ち主であるエプロンを着用したスキンヘッドの大男・組屋鞣造のもとに袴は訪れていた。

友好的な態度で工房に上がろうとする袴とは反対に組屋は禪院の名を聞いて壁にかけておいた斧を握る。

 

 

「警戒されるのは分かるけど、今の私はオフで来てるの。狩りに来たんじゃなくて、私個人があなたに話があるから一回下ろしてくれない?」

 

 

両手を挙げて敵対の意思がないことを表してはいるが、組屋を見る眼は有無を言わせない圧力を感じさせる。

渋々組屋は斧を下ろし、袴の話に耳を傾ける。

 

 

「話を聞く気になってくれて助かるよ。菓子折りも持って来たんだけどいる?」

「いらねぇよ。それで?御三家の術師が俺に何の用だ?」

「長話は嫌いそうだね、それなら端的に話そう。組屋、キミ私の専属武器職人にならない?」

 

 

唐突なスカウトに組屋は開いた口が塞がらなかった。

同業である呪詛師が徒党を組むことはある。

しかしそれは利害の一致による一時的なものがほとんどで、それが組織化まですると短命で終わる。

なぜなら高専側にマークされやすくなるからだ。

理由としては呪詛師の呪術に関する練度や知識は正式な術師よりも劣るからというのが特に大きい。

独学で自分の力を手探りで知らなければならない呪詛師ではどうしても専門的知識が欠け、仮に組織化しても正当な訓練を受けた術師相手には余程等級に差がある限りは勝てない。

 

そんな呪詛師が呪術界で長生きしたいのなら「ひっそりと活動する」か「高専などの専門機関の子飼いになる」かの選択肢くらいしかないが両方ともかなり難しいのが実際のところである。

前者はそもそもひっそり活動できるなら呪詛師にならないからだ。

一般社会では呪いによる犯罪を証明することが不可能であり、それ故に高い報酬を支払ってまで他人の呪殺を望む人間も少なくない。

その報酬に味を占めれば活動がより活発になり、いずれ高専に目を付けられるのがオチだ。

後者に関してはさらに困難である。

呪詛師の中では有益な術式を持つ者も多々いるが、それを差し置いて術師の性格や危険性から処刑が決まりかねない。

 

つまるところ、術師が呪詛師に堕ちることはあれど呪詛師が術師として改心することは極めて稀である。

組屋は袴の勧誘の真意を測りかねていた。

 

 

「分かんねぇな。俺でも御三家の存在くらいは知ってる。禪院なんて偉い家の人間がなぜ呪詛師の呪具製作者を雇おうとする?俺は自分の作品には誇りを持ってるけどよぉ、禪院ならもっといい感じのブツがあんじゃねぇの?」

「いいブツがあってもそれを常に持ち歩く許可が下りるわけじゃないよ。命がけの仕事なのに『許可が下りなかったせいで死にました』なんてやりきれないでしょ。それに私は呪具は使えるなら使うに限るって考えだし?」

 

 

御三家など呪術界でも上層部寄りの人間の中には「得物なしだと戦えないって言っているようなもの」という理由で呪具を好まない考えの者が結構いる。

自分の兄もそうなんだよねー、とめんどくさそうに袴は呟く。

 

 

「君の作品はどれも良い出来だと私は思ってるんだ。生きた人間を加工するっていう方法はあれだけど、その人間が術式持ちだった場合は術式も呪具に引き継がれるんだよね。その腕を見込んで私用の呪具を作ってほしい」

「好評なのは気分がいいけどよぉ、俺は俺の創作意欲に忠実でありてぇんだよ。御三家の専属ってことは決められたものを決められた素材だけで作れってことだろ。それで俺が満足できるって思ってんのか?」

「まぁ、出来ないだろうね。でもそれは家に専属の場合だ。私、禪院袴個人との契約ならできる限り君が満足できるような条件にできるよ。

 1つ、呪術高専や提携の術師から狙われないように話をつける、つまりは身の安全、これは大前提だね。

 2つ、私が関わった任務で手に入った遺体は可能な限り君に流す。

 3つ、希望されれば私の手足、または臓器は君にいくらでも差し出す。

 4つ、どうしても生け捕りしたい場合は私から手を出しても問題ない人間を見繕う。これには準備が必要になるけどね。

 この条件の対価として、キミには私の要求した呪具の作成、許可なく一般人に手をかけることの禁止を求める。質問はある?」

 

組屋はこの契約を悪くないと思っていた。

彼は自分の身の安全よりも「気の向くままいいものを作りたい」という欲求に従って動くタイプではあるが、眼前の中学生女子から向けられた威圧感で幾分か冷静に物事を考えられるようになっていた。

一つ目の安全確保と以降の素材提供は彼にとって望ましいものである。

無許可での殺人を禁じられるのは少々手痛いが、一応条件付きで生け捕りも許してくれるのはかなり喜ばしい。

しかし一つだけ疑問なのが――

 

 

「3つ目、お前のパーツを提供するっつーのはどういうことだ?自殺願望持ちってわけじゃねーだろ」

「まあそこはそう思うよね、でも言葉通りの意味だよ」

 

 

そう言うと袴は手刀で自分の左腕をいきなり切り落とした。

あまりに躊躇なく自分の腕を捨てる行為に驚愕する組屋は、落ちた腕を投げ渡されても上手くキャッチできなかった。

 

 

「私は反転術式を使える。手足の切断くらいなら自分で治せるからね。君がこの契約を受け入れてくれるなら手始めにそれで呪具を作ってほしい。あ、まだ足りないなら手足それぞれ一本ずつなら渡せるよ」

 

何事もないかのような笑みを見せる袴。

腕一本どころか二本失っても自分では勝てそうにない恐怖と渡された良質な腕でいい作品を産みだせそうという期待、二つの感情を抱きながら組屋鞣造は彼女と契約を結んだ。

 

 

 


 

 

 

『術式反転・曙』

 

 

袴の黒い瞳が赤黒く輝くと同じように改造人間たちの眼も光る。

同じ輝きを発していない夏油と手術服の呪霊以外は一斉に袴の方を向き、彼女に襲い掛かる。

 

『曙』は他者の視界への干渉。

『観る』還映呪法を反転させることで『観せる』効果に変えて相手の視界を乗っ取り自分へと注目を向けさせる術式。

 

視界をジャックしたまま霊安室から抜け出し、元人間たちを外へと誘導させる。

一階へと繋がる階段を駆け上り、ホールに上がると改めて武器を構え直す。

 

 

(あの親玉から距離を取らせれば呪力の供給は弱まればいいなって思ったけど…やっぱそう上手くはいかないよね。領域内部にいる限りは距離は関係ないか)

 

「さて、キミも初陣だよ」

 

 

『特級呪具・淵戟』

 

 

袴の左腕と左脚を素材として組屋鞣造が生み出した薙刀状の呪具。

その術式効果は「仮想怨霊の保存」

それだけ聞けば強力な効果と感じるが、仮想怨霊――実在しないものへの恐怖のイメージの具現化による呪霊――の中の、さらに「ホラー映画を根源とする」仮想怨霊のみ保存の対象にできる。

また調伏とは異なり保存であるため使役することができず、保存して呼び出した怨霊が持ち主を格下と見なしたら自身も被害を受けかねない危険な呪具だ。

 

しかし一級相当の実力を持つ袴であれば怨霊の暴走の危険性は極めて低く、さらに前世の知識からより等級が高くなるであろう怪人を保存できる。

 

 

「行くよ、『ジンラ號』」

 

 

呼び出されたのは人型の怨霊。

全身を薄汚れた銅色の全複合鋼鉄合金で覆い、腰には98式軍刀と一〇〇式短機関銃を携えたサイボーグ。

その名は『百二十四式特殊装甲兵ジンラ號』、かつて大日本帝国陸軍が秘密裏に開発していた報復兵器である。

 

召喚と同時に軍刀を抜いたジンラ號は地下から殺到する改造人間へと突撃していく。

ただ目についたものを無差別に殺そうとするジンラ號に知性はないが、素体となったのは軍人。

右手の軍刀で複腕の改造人間の腕を全て切り落とし、左手の機関銃で二身同体の改造人間を蜂の巣にする。

一騎当千の活躍をするジンラ號だが、それをただ見ているだけの袴ではない。

 

 

『術式順転・小夜』

 

 

漆黒、虚空、無の5秒。

袴が術式順転を発動し未来のフィルムの一部を千切った直後、彼女以外が知覚できないまま世界は5秒時間が進んだ。

たかが5秒、しかしその5秒が袴の出力となる。

『小夜』によって切り取られた5秒間の「存在しない時間」は破り捨てられたフィルムから圧縮された呪力の塊となり、『淵戟』の出力に継ぎ足され、筋肉の膨張した改造人間を含めた6体の改造人間を切り捨てた。

袴の手にかかった改造人間たちが倒れ伏し、次いでジンラ號が引き受けていた改造人間たちも2度目の死を迎える。

 

 

「まぁ、こんなものよね」

「お疲れ様、袴ちゃん」

 

 

ジンラ號を『淵戟』に戻していると呪霊で床を突き破って夏油が合流する。

左手には黒く淀んだ球体、すなわち取り込む前の呪霊を持っている。

 

 

「夏油さんの方も終わったんですね、お疲れ様です――それ、今から食べるんですか?」

「あぁ、これ自体の戦闘力は特別高いわけじゃないが術式持ちは貴重だからね」

「…不味いでしょ、呪霊の塊とか。ゲロまみれの雑巾みたいな味、とかですよね、きっと」

「ハハッ…すごいね、殆ど正解だよ。ほんとに食えたものじゃないが、これは私が呪術師として生きるために必要なことだからね」

 

 

乾いた笑みを浮かべて夏油は呪霊玉を飲み込む。

天井をしばらく見上げた後に袴に笑顔を向けるが、それが貼り付けたものであると彼女は見抜いていた。

 

 

「夏油さんの責任感は尊敬しますけど…やめた方がいいですよ」

「生憎、経口摂取以外のやり方で呪霊を取り込めるならやっているよ」

「方法の話じゃなくて動機の話です」

 

袴は眉をひそめてはっきりと言い放ち、夏油の笑みが固まる。

 

 

「夏油さんは何故高専に来て呪術師を続けてるんですか」

「呪術師になった理由か。それは弱者生存がこの世界のあるべき姿だからだ。そして弱者…非術師を守るためのこの力の使い方を知るべきと思ったから高専に来たよ」

「素敵ですね…羨ましいですよ、他人の為に自分が苦しんでもいいって思えるなんて」

「それは褒めてるのかい?それとも貶しているのかな?」

「心の底から褒めてますよ。もし私が夏油さんの立場だったらそんな心持ちで呪術師を続けるなんて出来ませんから」

「それなら袴ちゃんは何故呪術師を続けてるのかな」

「そんなの分かりきってますよ」

 

 

―――私自身が少しでも長生きするためです。

 

呪いの世界、禪院の名、未来を見る眼と未来への知識。

禪院袴を呪術界に縛る鎖は多くはないが脆くもない。

禪院から、高専から、そして呪術界から逃げることもできる。

 

しかし逃げた先には何もない、というのが彼女の考えだった。

渋谷事変に死滅回游、彼女の知るこの世界の未来に起こる大規模な事態。

この二つに呪術界から逃げ一般人となった彼女に生き残る術はないだろう。

いや、それどころか日常に潜む呪霊に、呪詛師に隠れて生き続けるのも難しい。

 

ならば襲い掛かる呪いを全て消し去るほど強くなった方が最終的には楽だ。

本筋に介入して脅威となる可能性を摘み取った方が楽だ。

禪院のお家改革も、今夏油に術師としての心持ちを説いているのも全て自己のためであり、相手を気遣うつもりなど微塵もない。

他人のためなんて信念は投げ捨て、ひたすら利己のために力を振るう。

それが禪院袴の心構えであり、指針である。

だからこそ、己のための所業で誰が救われようが彼女には興味がない。

ただその出来事が己の利となるが害となるかのみである。

 

 

「私は私のためだけに生きてます。その過程で大義がどうだなんて知ったこっちゃないんです。だってその方が最終的には生きやすいじゃないですか」

「それは……あまりにも自分勝手だろう」

「知ってます。私は自分勝手に生きたいのですから」

「じゃあ私にこの話をしたのも自分勝手だと?」

「もちろん。私は夏油さんに長生きしてほしいですから」

 

 

散々自分勝手を主張しておきながら唐突に他人の息災を願う袴に夏油は面食らう。

しかし袴からしたら当然の願いだ。

彼女の知る本来の未来では夏油は守るべきだと思っていた弱者の醜悪さに絶望し、非術師を皆殺しにして呪術師の楽園を作るために呪詛師に堕ちた。

結局彼の理想は叶わず親友である五条悟の手によって葬られた。

しかしその死体を生前の彼の目指した世界とは違う、混沌の世界を産みだそうとする人物に奪われ利用されてしまう。

 

故に袴は夏油の呪詛師堕ちを防ごうとする。

夏油の肉体が手に入らなくてもあの呪詛師は目的の為に動くだろうが、それでも原作のプランのようにはいかないだろう。

 

 

「夏油さんの信念は尊敬に値しますけど、それで呪術師続けてたらいつか壊れますよ。もし守るべきだと思ってた弱者に身近な大切な人が殺されても、あなたはその弱者を守る対象だと思えますか?」

「…っ、それは」

「ま、今すぐ考えを改めるのは難しいでしょうけど、見知らぬ他人に自分の心の芯を預けるのは不健康だと思います。だからもっと自己満足に生きましょう。あなたの親友なんて私以上に自分勝手でしょう?」

「…まぁ、確かにね」

「でもあの人はもっと周りに気を使うべきだと思いますけどね。戦闘の余波の被害とか考えなさすぎでしょ……思い返したらムカついてきたな、今度激辛料理作りましょうかね、夏油さんの好きな蕎麦で」

「はは、それはいいね。是非とも作ってもらいたい」

 

 

五条への嫌がらせの料理について悩む袴に笑いながら夏油は一緒に病院から脱出する。

その表情は貼り付けたものではなく自然なものだった。




◆術式順転・小夜

天理の瞳の未来視を応用した還映呪法の順転。
眼で観た未来をフィルムとして具現化、そして破り捨てることで未来を圧縮させる。
具現化できる未来は高専時代は最大10秒までで、発動後はインターバルを要する。

圧縮された時間は袴以外には存在していると認識させられるが、術者である袴にはこの時間の間に干渉できない。
故に攻撃が当たったと思っても実際には当たっておらず、前にいたと思ったら後ろにいるなど幻覚のようにも見える。

しかし『小夜』の真価は圧縮された時間内に存在した呪力も一緒に圧縮され袴の出力に還元されるという点。
例えば「呪力を纏ったパンチが当たる直前の」未来を10秒切り取ると、本来の未来の10倍の出力のパンチが命中することになる。
加えて厄介なのが、未来の行動を袴の身体能力や呪力操作で無理のない範囲で動きを組み立てられるため他の技術を併用できる。
五条の無下限ガードを破ったのもこれであり、11秒後の未来に領域展延を発動するように呪力操作をセットすることで無下限ガードに当たると同時に出力を引き上げたことで五条が無下限の出力を上げるよりも先に無限を突き破った、というのが真相である。

学生時代の袴との絡みが見たい相手

  • 五条悟
  • 夏油傑
  • 家入硝子
  • 七海建人
  • 灰原雄
  • 夜蛾正道
  • 庵歌姫
  • 冥冥
  • 伊地知潔高
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。