私が追放される悪役令嬢?ならばなって見せましょう、ラスボスに 作:あとらすR
それは兄がプレイしていたギャルゲーのワンシーンだった。
『ミシェル・フォン・アレイア、僕は君との婚約を解消する』
金髪の王子様が腰まで伸びた黒髪の少女にそう宣言した。その内容に女の子は膝から崩れ落ち、それを目立つ格好をした五人の少女や王様と思しき人物が見守っている。
『そんな……私は殿下のために今まで尽くしてまいりましたのに』
少女はそう悲嘆に暮れる。両手で顔を覆い、さめざめと涙を流すのだ。その心中の悲しみは如何程だろうか。
『そうだろうか。君は選ばれた五人の聖女に嫌がらせを繰り返し行ってきたそうじゃないか』
『それは殿下のためを思って!』
叫んだ彼女の声が王子に届くことはもうない。
『言い訳は聞きたくない。この国以外のどこへなりと消えてくれ』
王子は彼女を酷く冷たい目で見下ろしていた。まるで汚らわしい虫を見るかのような目だった。彼が合図をすると、兵士が黒髪の少女を立たせて部屋の外へと連れていく。
ばたりと無情に閉じられる扉。暗転。
次に映っていたのは、暗い暗い夜の森だった。
『殿下……あの女たちに洗脳されて……』
ぶつぶつと少女が呟きながら、森には似合わないドレス姿で歩いて行く。その目は木々に光を遮られた森のような闇を映している。
『私がやらなくちゃ……』
その言葉を最後に、少女は森の奥へと消えていった。
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「そんなのあんまりです!」
叫びながらがばりと飛び起きました。悪役が必ずひどい目にあうだなんて、趣味じゃありません。兄にこの令嬢が大逆転を引き起こすシナリオがないか問い詰めなけれ、ば……?
私は今なんと?ですわ?というか私?うち?は、え?何やらとてつもなく違和感を感じます。私、や丁寧な言葉を使わなければいけないような強迫観念が胸元にわだかまっているような感覚です。
そんなことを考える私の目の前をはらりと落ちていった物があり、落ちたそれを確認するとよく絞られた濡れタオルでした。誰が、何故これを?
そしてそれを持ちあげようとした私の手は自身の記憶にあるものよりも小さく、ぷにぷにと柔らかそうなものでした。
「んぅ……」
小さく可愛らしい寝ぼけた声がすぐ傍でしました。声のした方を見ればメイド服を着た綺麗なお姉さんがおり、椅子に座って少し俯いた状態で船を漕いでいるようです。
そしてぱちりとその目が見開かれ、のろのろと持ち上げられた視線が私の目と合いました。
二、三回の瞬き。そしてメイドさんが口を開きます。
「
え?なんて仰いました?
その後、医者を呼んでくると言い置いて部屋を出ていったメイドさんを見送って記憶を掘り返しました。この記憶、というのはこの体の持ち主である子どもと、今思考している私のどちらのものをも含んでいます。
それを整理するとどうやらこのようなことが起きていたようです。
一.三歳の子ども、高熱を出して寝込む
二.子ども、現代日本で生きていた私の記憶を得る
三.どちらも混ざりあった私が目覚める
そしてここに素晴らしいおまけとして、この子どもとは先ほどの夢という名の現代日本の記憶に現れた
つまり私はそう遠くない将来、夢で見た悲惨な結末を辿る可能性が高いということです。
まことに素晴らしいです。あまりの素晴らしさに思わず神様を呪う言葉の一つでも吐きたくなってしまいます。
しかしそのような言葉を口に出そうとすれば、とてつもない抵抗感がして喉の奥につっかえてしまいます。令嬢であるミシェルとしての私の意識がそれらを拒否してしまうようです。
ミシェル・フォン・アレイアはこの国でもほぼ最上位に位置するアレイア公爵家の令嬢。そんな言葉を口にするわけにはいきませんと。
ですから内心で思うだけにしておきます。ガッデム!
『清き世界のオラトリオ』。それはいわゆるギャルゲーと呼ばれる男性向け恋愛ゲームの一つです。中世風の魔法があるファンタジー世界で、主人公である王子はある日勇者として目覚め、神によって選ばれた五人の聖女とともに世界を脅かす魔軍と戦う……そんな物語です。
ちなみに全年齢です。そうでなければ兄ももう少しばれないようにプレイすることでしょう。
ミシェルは幼いころから決められた王子の婚約者として登場します。美貌も魔法の才能も血筋も持ち合わせた彼女は外面は取り繕っていたものの、傲慢な内面を持っていました。
勇者として王子が目覚めた時も、自分が彼を支える聖女の一人になるのだと疑うことはなく。そして半年後の聖女選定の日、彼女が聖女に選ばれることはありませんでした。
そこで歪んでしまった彼女は王子と徐々に仲良くなっていく聖女たちに嫌がらせを加えるようになり、物語の割と序盤で婚約を解消されて追放されてしまいます。
私はそれ以降のシナリオを知りません。彼女が追放されるシーンにあまりにも嫌気が差してしまったので。
このまま行けば迎える哀れな結末、それを知ってしまったミシェルとしての幼い意識が強く訴えます。そんな未来は認められないと。なぜ私がそんな目に合わなくてはならないのかと。
涙ながらの叫びに私は同感します。あまりにも王子たちに都合のいい舞台装置として使い捨てられる悪役令嬢など、死んでもお断りです。
ですが彼らに迎合して死なないように立ち回るような、情けない有様は公爵令嬢たる私に相応しくありません。
ならばいっそ鮮烈に、強烈に、凄絶に。決して折れず、屈せず、敗れない悪を。
そう、最強の
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