私が追放される悪役令嬢?ならばなって見せましょう、ラスボスに   作:あとらすR

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ラスボス十ヶ条!

 

 メイドさんに呼ばれた医者が私の部屋にやってきて、私の体を診察すると鷹揚に頷いて高熱が収まったことを報せます。

 見守っていた両親やメイドさんもほっと息をついて安心した様子です。

「私はもう元気ですから、心配なさらないでください」

 そういうと皆が一様に驚いた顔をし、母などは熱がないか私のおでこに手を当てて確認し始める始末です。どういうことかと尋ねれば、あまりにもおとなしい子になってしまったからとのこと。

 ミシェルとしての記憶を辿れば、我儘放題暴れ放題といった鼻持ちならない子どもだったようで。なるほど、現代日本を生きていた私の意識が混じったことで精神年齢にギャップが生じてしまい、それが周りにも見て取れたということでしょう。

「いえ、熱で苦しんでいる間に思ったのです。私はこれまで我儘ばかりだったのに、まだ恩を返せていません」

 ですからそのために行動を改めようと思いますと言えば、感動の余り口を顔で覆う母に少し涙ぐんでいる父。割と私に甘い両親のようです。対照的にメイドさんは少し疑わし気な目でこちらを見ていますね。どうにも傲慢なミシェルの性格はこのころから現われていたようで、失敗したメイドにきつく当たったりあまり興味のない分野の勉強をさぼっていたりしたようです。

 まあまだ三歳の子どもです。これからリカバリーはいくらでも効くでしょう。

 少し疲れたので一人にさせてくださいというと、皆部屋の外へと出ていきました。

 

 さて今の現状を少しずつ整理していきましょう。

 まず今の私はミシェルでもあり、現代日本を生きた成人したばかりの女性の記憶もあるといった難しい状態です。それでいて今の私の意識は幼い子どものそれではなく、記憶にある成人女性の物に近いです。割合でいえば二対八といったところでしょうか。

 記憶は人格形成に大きな影響を与えると聞いたことがあります。今の状態は三歳の物心ついたばかりの子どもの記憶の中に、急に成人女性の大量の記憶が入ってきた影響なのでしょう。

 自分の死の間際。目の前にトラック、衝撃、どくどくと暖かいものが体を流れて意識が徐々に薄れていく有様さえ覚えています。

 ただ一つ思い出せないものがあります。

「名前、なんでしたっけ」

 自分の名前が思い出せません。身近にいた人の名前も記憶にもやがかかったように出てきません。

 明らかにその部分だけ記憶に蓋をされていることに無理やり意味をつけるとすれば。

「私はもうミシェルとして生きるしかないのですね」

 既に死んだ人間の記憶と意識が物語の中の女の子に入り込んだだけ。悲しいと言えば悲しいですが、二度目の生を受けたと考えれば悪くはないでしょう。それにミシェルの魂を乗っ取るような状態であれば罪悪感に苛まれますが、そういうわけでもないようです。ミシェルは死んでいないし精神の根幹、行動原理や欲求は傲慢な令嬢のまま。

 その傲慢さが、敗北を嫌う精神があの未来に対して心の奥で怒りに震えるのです。そしてそれを避けるために彼らに(こうべ)を垂れることも拒みます。

 なぜなら誇り高きアレイア公爵家の令嬢だから。()()()()()のために命までと日本に生きた感性が思えば、この世界の記憶が強烈にそれを叩き潰します。

 誇りとは命より重いものなのだと。まるで武士のような言い分ですが、真実そうであるようです。貴族は誇りを汚されれば命を懸けた決闘も辞さず、むしろそれをしない方が異端であると。

 であるならば確かに命惜しさに彼らに迎合することはミシェルとしての生き方を曲げること、すなわち自ら誇りを汚すことに違いないでしょう。それは認められません。

 そしてミシェルを散々コケにしたかのようなあの物語にも納得がいきません。

 既に私はミシェルです。ならば私の誇りを踏みにじった物語にも命を賭して逆らうべきでしょう。

 ふつふつと沸く怒りをこれからの行動の原動力として心の火にくべていきます。

 私は悪役として作られた。けれど王子や聖女たちに勝る力も権力もなかった。だからあのように都合のいいように使われて、見捨てられる。

 ならば彼らに劣らぬ力を持った悪役令嬢(ラスボス)として君臨しましょう。最後に彼らを全力で叩き潰して、絶望に沈む彼らの前で高らかに笑うのです。

 幸いなことに娯楽に溢れた現代日本を生きた私は様々な物語を知っており、そのなかには悪役でありながら誰もが憧れるようなラスボスがいます。正義感に溢れた主人公よりも人々の記憶に残る、鮮やかな生き方をしたカリスマたちです。

 彼らを参考に私の行動指針を決めましょう。

 そしてしばし考えて、沈んだ太陽が再び顔を出す頃になってようやく導き出したのが次の哲学です。

 

 一.最強であれ

 二.全力は秘めるもの

 三.レスバで負けてはならない

 四.崇高な理想を掲げよ

 五.常に余裕を持った立ち居振る舞いをせよ

 六.口上は短く、鮮烈に

 七.相手の全力を受けたうえで叩き潰す

 八.人々を魅了するカリスマであれ

 九.主人公の行動も計算に入れた美しい計画を立てよ

 十.慢心を捨て全身全霊を注ぐこと

 

 名付けてラスボス十ヶ条です。これらをすべて達成できれば、記憶の中の彼らほどではなくともラスボスを名乗るに恥ずかしくない人物となれるでしょう。

 要約すれば、力、カリスマ、そして理想が必要ということです。

 力なき悪は罪です。カリスマなき悪はみじめです。理想なき悪は卑賎です。どれが欠けてもラスボスを名乗るには足りません。

 これらすべてを手に入れるのにどれほどの時間と努力が必要でしょうか。今の私には遠い理想にめまいがします。

 ですが必ず手に入れます。そのためならこの命すら燃やし尽くして見せましょう。物語というこの世界そのものを敵に回すのですから。

 まず今から磨くべきは力でしょう。私は聖女に選ばれない以上、神から特別な力を与えられるわけではありません。ですから自分自身の力を地道に鍛えていくしかありません。最も私をコケにした神から力を授かるなど死んでもごめんですが。

 幸いなことにミシェルは天性の魔法の才能を持ったキャラと言われていました。本人が傲慢だったために才能を磨くことを怠ったためあまり目立ちませんでしたが、素質自体はあるということです。

 そして魔法であれば三歳の子どもの身でも伸ばすことができるでしょう。体術などはまず体を作らなくてはなりませんが、それはどうしても体の成長を待たなくてはいけません。しかし魔法でものをいうのはセンスと魔力の量だと相場が決まっています。

 善は急げです。屋敷の中にある書架に魔導書を探しに行きましょう。そう考えてベッドから体を降ろしたところで、ふらりとよろけました。

 そういえば寝ていませんでしたね……。さっきのめまいは寝不足のせいですか……。

 そんなことを考えながら、私の意識はすぅっと遠のいていきました。

 

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