私が追放される悪役令嬢?ならばなって見せましょう、ラスボスに   作:あとらすR

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ラスボス魔法を習得!

 

「……うさま、おじょうさま、朝ですよ」

 ほんわかとした声がまどろんでいた脳内でゆっくりと像を結び、ぱちりと目を覚ましました。眼前では昨日と同じメイドのお姉さんがグラスに水を用意しています。

 名前は確か……。

「おはよう、イザベル」

「はい、おはようございますお嬢様。こちらをどうぞ」

 そうして手渡された水をくっと飲み干すと、冷たい中にレモンのようなすっぱい柑橘系のさわやかさが喉を通り抜けます。思わずくう~と唸ってしまいそうですが、令嬢的にアウトのようです。

 そうですね。最強の悪役令嬢を目指すと決めたのですから、振る舞いもそれ相応のものを身につけなければ。

 それにしても、と目の前のイザベルを見つめて不思議な感情に駆られます。

 年は十代前半ほどで、ポニーテールにまとめられた茶髪にやんわりとした雰囲気が特徴の私の専属侍女。恐らく私の記憶がないころからも私の面倒を見ていたのでしょう。私にとってその姿は両親と同じくらい自然に映ります。

 思い返せば、私の我儘(わがまま)に一番振り回されているのはこの子でした。前世の価値観でも子どもとしてはだいぶ無茶な我儘をそれとなく諫めたり、暴れっぷりに付き合ってくれたりしたこの子はそれを恨む様子もありません。多少は憎らしく思っていてもよさそうなものですが。

「イザベル、いつもありがとう」

「急にお礼なんて、どうかされましたか?」

「いえね、今まですごく私のわがままに付き合わせていたから申し訳なくて」

「ああ、そんなことだったんですね。てっきりまだ熱にうなされているのかと」

 私が目覚めた後のベッドメイクを手際よくしながら彼女は朗らかに笑います。本当に何も気にしていないということがわかる何の外連味もない笑顔でした。

「故郷に弟がいますから、わがままには慣れてるんです。それにお嬢様は可愛らしいですから、怒る気にもなれなくて」

 朝の陽ざしが彼女の笑顔に柔らかく差し込んで、温かく照らし出します。その光景は彼女の人となりを表しているようでした。

 そして彼女の言葉に内心迷惑かけてごめんなさい! と謝ると同時にこの子を味方につけたい、という思いが湧いてきます。

 ラスボスには部下が付き物です。その在り方は様々ですが、イザベルであれば私がどれだけの巨悪になろうともついてきてくれるように思います。私を見守る姉のような存在として。

 こんないい子を私の野望に付き合わせてしまうことへの葛藤は確かにあります。傷つけたくもありません。しかしそれ以上にこの子が欲しいと思うのです。

 部下第一号はこの子に決めました。

「イザベル」

「はい、なんでしょう」

「貴方を一生大事にするわ」

「……? なんだかプロポーズみたいですね」

 あははと笑う彼女の笑顔は心地のいいもので、私はそれに浮かされた気分のまま朝食へと向かうのでした。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 さて、最強の悪役令嬢を目指すためにまずは魔法を使えるようになるところから始めなくてはいけません。幸いミシェルの魔法の才能は原作で天性のものだと評されているので伸びしろは有り余るほどにあると言えるでしょう。そうなれば重要なのはこれからの努力です。

 朝食の席で魔法を学んでみたいと両親に頼んでみたところ、三歳ではまだ危険だからあと二年経ったらねと言われてしまいました。まあ言われてみればまだまだ小さい子どもに危険な技術をそうそう与えようとは思いませんよね。見たところアレイア公爵家は平和な土地で、余裕のある生活を送ることができていますから。

 ただ魔導書もある書斎に入る許可はいただけました。将来お父様の役に立つために今からでも勉強したいのですと言えば、父は男泣きしながら親指を立てていました。騙すような形になって少しだけ申し訳ないです。

 そしてイザベルとともに書斎なう、というわけですがここで問題に突き当たりました。

 はたして精神年齢が大人とはいえ三歳の子どもにいきなり文字が読めるでしょうか。答えはノーです。そう、文字が読めなかったのです。

 一応基礎的な貴族の教養として簡単な読み書きはすでに家庭教師から教えられているようですが、それだけでは魔法についての知識が書かれた書物、魔導書を読むに至りません。なぜなら魔導書は子ども向けに書かれていないからです。

 それではどうやって子どもは魔法を学ぶのかとイザベルに尋ねると、大体の場合は家庭教師や魔法が使える人に口伝(くでん)で教えてもらうのだそうです。そのため魔法が使える人の多くは彼らにお金を払うことができる貴族や裕福な商家の出なのだとか。そもそも魔法を扱える素質がある人間が少ないのに、そこからさらに独学で学ぶ人となれば本当に少数のようです。

 とっても格差が生まれそうな仕組みです。いえまあすでに貴族社会である以上格差社会と言われればそうですし、どちらかと言えば魔法が使えるから貴族という身分が生まれたと考える方が自然ではあるのですが。

 とはいえ座して待つわけにもいきません。午前は家庭教師による授業、午後は書斎にこもってカモフラージュ兼文字学習用の辞書と魔導書を相手に格闘するという生活を送ること一か月、三歳の脳は吸収が速いようである程度魔導書を読み進められるようになりました。

 ようやく読めた入門用の魔導書には、まず自身の中に流れる魔力を感じられるようになることが重要だと書いてあります。これができなければ魔法を扱う素質はないようです。

 座禅(ざぜん)を組み、自身の体へと意識を集中します。

(おへそから体中にぐるぐると流れている見えない力の流れ……これかな)

 それらしいものを感じ取り、今度はそれを指先に集めるように意識します。体の中を第二の血液が動いていくような感覚とともに、指先がほんのりと温かくなったような感触。

 次いで、詠唱。

光よ(ライト)

 その瞬間、指先に小さな豆電球のような光がぽうっと灯ります。おおっと初めての魔法に感動した瞬間、魔力から意識がそれてしまったためかふっと光は消えてしまいました。

「魔法だ……」

 前世では架空の存在だった魔法を今自らの力で唱えることができたのです。私の心はこれ以上ないほどの感動を味わっていました。

 一瞬で消えてしまうほどの小さな明かりでしたが、私の行く道を照らす大きな光明です。

 本来は魔力の増幅や魔法への変換を効率化するといった機能のある杖を使ったり、無詠唱という技術もあるそうなのですがそれはまだ先でよいでしょう。

 今はただこの感動のままに。

光よ(ライト)』『光よ(ライト)』『光よ(ライト)』『光よ(ライト)』『光よ(ライト)』『光よ(ライト)』……あれ、視界が真っ暗に。

 

 気が付けば自室のベッドの上でした。ベッドの傍には心配そうな顔で私を見る父の姿が。

 どうやら私は魔力の使い過ぎで気絶してしまったようです。あれ、もしかして私、行動が完全に新しいおもちゃを手にした子どもすぎ?

 傍で見ていたイザベルも私があまりに楽しそうだったので止めにくく、まさか私が気絶するほど魔法を使うとは思わなかったとのこと。

 おかしいです。私の精神年齢はとっくに子どもを通り越しているのに、と愕然としている横で父が嬉しさと驚きが混ざったような強張った笑みを浮かべていました。

「そこまで熱心なら、むしろ家庭教師をつけたほうが私たちも安心できるしよさそうだ。家庭教師が来るまでは勝手に魔法を使わないように」

 そう父は言い置いて部屋を出ていきます。なんということでしょう。一時的とはいえ、魔法禁止令が言い渡されてしまいました。

 本当に、なんということでしょう。

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