さて、王都まで残りわずかと言った所か?
途中虚がいる気配は無かった。霊圧の影も感じない。
もしかすると、ここの破面は霊圧を消すのが上手いのかもしれないな…実際王都が近付いて来ても何も感じない。
「どうかされました?」
「あ、いえちょっと考え事を」
「あ、見えました!あれが王都です!」
すると大きな門が窓から見え始めた。
門まであと1kmはありそうな距離からでも見えるほど大きな城と賑やかな人の声、そして出入りする人々の多さから王都がどれ程栄えているのかを物語っていた。
「へぇ、あそこが…」
「ええ、あれが王都レイルの街です」
さすが王都、とにかくデカイな。瀞霊廷と同じくらいか?いやそれ以上か?
しかし破面で知能まで高いとなるとそろそろ霊圧を感じてもおかしくない…やはり消し方が上手いな。
「とりあえず、お父様に挨拶しに行きましょう!お父様は王都の別荘にいらっしゃるので!」
「へ?」
と、間抜けな顔をしていたがそんな事はお構い無しに時間は進み…。
「ベリー!ようやく来たか!無事で何よりだ!」
「お父様!」
そう言ってベリーさんは父親に駆け寄った。
という事はあの人がラサール伯爵かな?
ベリーさんに似た綺麗な銀髪にキリッとした目元、身長も180は超えているだろう…この父親にしてこの子有りか。
つかここの城もでっかくない?王都の別荘とか言ってた気がするけど?
「報告を聞いた時はヒヤヒヤしたものだが…あの人が?」
そう言ってラサール伯爵が俺に視線を向ける。
「ええ、あの方が黒崎一輝さんです!」
俺はとりあえず膝を地面に付き、頭を下げた。
これであってるよね?
「おぉ、あなたが」
「お初にお目にかかりますラサール伯爵、先程ラズベリー嬢からご紹介預かりました、黒崎一輝と申します」
我ながら完璧な挨拶だ…礼儀だけはルキアさんに叩き込まれたからなぁ。
「いやいや、お顔を上げてくだされ!娘とその護衛の命の恩人だ。貴方の功績は伯爵としても…そして何より父親として大いに感謝しております」
そう言いながら伯爵は俺の手を握りそう言った。
おお、若ぇなこのお父様。毛穴どこにあんのよ?
「いえいえ、私は」
「そうかしこまった言葉遣いもいりませぬ、こちらが困ってしまいますぞ」
この親子とことんいい人達やな…ほら勝手なイメージだけど貴族って偉そうだなぁとか思ってたけど、こういう人達もいるんだな…。
「ではお言葉に甘えさせていただきます」
「おぉ、変わった気はせませぬが…とりあえず奥の部屋へ」
そう言って俺は応接室に案内された。
そこにはいかにもなシャンデリア、重厚感のある机、そして明らかに高そうなお茶菓子と紅茶。
ちなみにカップは現代の日本なら100均で買えそうなものだが、ここは時代の流れだろうな。
おお、椅子の座り心地やっべぇ。
「改めて、今回の事は誠にありがとうございます。娘の命を救って頂いただけでなく、兵士の弔いまで」
「いえ、こちらも運良く通りかかっただけですので…」
「とにかく、お礼を。セバス」
「はい、ただいま」
そう言うと後ろの執事の人が別室に移動し、直ぐに帰って来た。
え?なんか袋持ってるんですけど?
「こちら、娘の命を救って頂いたお礼と、その後の護衛費用です」
金属のトレーにその袋が置かれるとゴンッと言う明らかに中に重い金属いっぱい入ってるだろ?的な音が聞こえた。
「金貨2000枚です」
「…へ?」
金貨2000枚?物価は分からんが王都に来る途中見たのはせいぜい銀貨1枚…そしてそれで買えるものが高そうな武器って事は…銀貨だいたい1万円、そして銅貨が1000円と仮定しよう。
そして金貨が10万円と仮定するなら…。
2…億…?
「いえいえいえ!貰いすぎですよ!」
「いいえ、本来リザードマンとオークの群れともなればAランクの冒険者がパーティーで倒せるかどうか…そして今回オークジェネラルと強化種のリザードマンもいたとなるとそれはSランクの冒険者でも全ての討伐は難しい…つまりあなたはSランク冒険者でSSランクのクエストを引き受けたうえに、娘の護衛をして頂いた事になります。なので全てを合わせ相場はこのくらいかと」
「いやいや、俺は本当に通りかかっただけなので!」
「お願いします、これは貴族としても父親としても値下げする訳にはいかないのです」
えぇ…一護のじいちゃん…俺どうすれば。
「…分かりました、謹んでお受け取り致します」
ダメだ、色々考えたうえでこれを受け取らないとダメだった。
じいちゃん、俺金持ちになったよ?
「ありがとうございます!それでもう1つお話が…」
「はい?なんでしょう」
パーティーの事かな?
確かに男避けを頼まれたけど…これ報酬の上乗せとか無いよね?さすがにこれ以上お金持つと嫌でも目立つし…何より重い。
「娘と婚約して欲しいのです」
「ちょっと待ったぁあああ!」
何を真剣な顔して言い出すかと思ったら!
待てい!ちょぉっと待てい!落ち着けぇ!いや俺も落ち着けぇ…!
「なにかご不満が?」
「いやいや、今日初めて会った何処の馬の骨とも分からん奴に大事な令嬢を!」
「これは私と娘の希望なのです」
「なん…だと…!?」
ここに来てからほぼ「なん…だと…!?」しか言ってない気がする。
急に婚約って…しかもベリーさんから!?いつの間にそんな話してた!?
「娘は…その…おてんばなのもあるのですが…あの性格上婚約が難しく…」
え?そんな人だったの?ってか今まで何があったの?いや、男避けお願いされた時点で何となく察してはいたけども。
「それに、娘のあの様な顔を初めて見たものですから…お願いします」
「お願いします!」
「あんたどっから湧いて来たぁ!?」
知らぬ間にベリーさんが後ろに立っていた。
こやつ…俺に気配を悟らせないとは…やりおる。
「あなたしか居ないのです!」
「待ってください!心の準備が!」
「そんな…心の準備なんて…破廉恥ですわ」
「そうか!その手があったか!ベリーよ!既成事実を作ってしまいなさい!」
「1度考えさせていただきます!」
俺はこのままだと色々危なそうだったので、瞬歩で別荘の屋根に逃げた。
ふぅ…瞬歩って便利…。
「にしても婚約って…」
本当に漫画みたいだな…。
いや、ベリーさんに不満とかある訳じゃないけど…いくらなんでも相手を知らなさすぎる。
それにもし破面が襲って来たら必ず巻き込んでしまう…それは避けたい…。
それに…破面を倒したら…俺は…。
すると携帯が鳴った。
「あ、一輝さん?」
「なんすか浦原さん…俺今ちょっと色々忙しいんですけど」
「婚約の事ですかぁ?」
「おい、アンタどっから見てた?」
「……」
「おい!?」
1回尸魂界に帰ってあの人ぶった切ってからこっちの仕事してもいいですかね?いいですよね?
「あなたが望むなら、その世界に居たままでも大丈夫っすよ?」
「は?何言って…」
「今そっちの世界に、尸魂界らしきものが出来かかっているのが確認出来ました…つまり魂の循環自体が変化しているんすよ」
「何!?」
魂の循環が変化している?
まさか虚の出現がキッカケで?
「つきまして、そっちの番人を誰かにして欲しいんすよ…」
「……」
俺は直ぐには答えられなかった。
確かに一生仲間に会えない訳じゃない、父さんも母さんももう居ないし…俺は…。
「とにかく、どちらにせよあなたにはそっちの世界に居続ける権利がある。だから安心して決断してください」
「…分かったよ、ぶっちゃけこのチャンス逃したら後悔しそうだとは思ってたんだよ…」
「おや、意外と早い決心すね?」
そしてもう1つ、大事なことがある…俺にとって…黒崎一輝と言う人間の人生において切っても切り離せない事が。
「浦原さん、あんた知ってんだろ?」
「…気付いてましたか…」
浦原さんはその言葉を聞いて何時になく真剣にそう言った。
「…あぁ」
この世界に入った瞬間、昔感じてた父さんと母さんの霊圧を感じた…けどその霊圧は…。
「この世界にいる破面…父さんと母さんなんだろ?」
「…そうっす」
「…気付きたくはなかった」
5年前、突如として父さんと母さんは居なくなった。霊圧も感じないし、尸魂界にも来てはいない…それに父さんと母さんは俺を置いて消える様な人じゃない…つまり。
「そうっす、それが今回あなたに課せられた任務っす…それじゃ」
そう言って電話は切れた。
「…クソッタレめ」
俺は腕を額に乗っけて、そう吐き捨てた。